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第5章 ファイナイト
5-21 国は違えど
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クアルトで真実を聞かされた後、現実世界に戻り、シャワーを浴びてから僕は自身の傷の手当てをする。ドルティエさんにしてもらうのは少し恥ずかしいので、自分で手当てするのが1番だ。
少し休んでから、僕達3人はミルの部屋へと再び戻る。
しかし、そこに信じ難い光景が待っていた。なんと、メイドがもう1人増えていたのだ。
「ダーッハハハハッ! おまっ! ブハッ! ダハハハー! おい、どうしたんだよレグねぇ!? なんだその格好は!? ついにイカレちまったかー? ククッ!」
トロイが盛大に笑っていた。その通り。なんとレグネッタさんがメイド服を着ているのだ。
トロイにバカにされ、レグネッタさんは顔の筋肉をピクピクさせながら歯を軋ませている。
「おい……トロイ……お前、何バカにしてくれてんだぁ? 私がメイド服着ちゃいけないってのか? あぁコラァ!?」
レグネッタさんは立ち上がり、拳銃をトロイの顎に突き付けていた。
「レ、レグネッタさん! 落ち着いてください! 大丈夫です! とっても似合ってます! すごく可愛いです! ほんと、プッ、可愛い、ですっ」
「おい、想! 今笑ったな!? 墓場に置き去りにしてやろうか? なぁ!」
フォローしようと思ったが、つい我慢していた笑いが込み上げ、逆にレグネッタさんをさらに怒らせてしまった。
「申し訳ございません! お嬢様の服ではサイズが合わず、私の予備の服を着させてしまって」
ドルティエさんが慌てレグネッタさんに頭を下げている。
「いや、あんたは謝らなくていい。むしろ、私は助かっている。だがな! それをバカにするこいつらは許さん!」
気付けばドドも笑っていた。
「レグネッタさん、落ち着いてくださいませ! みんな驚いてしまっているのであって、バカにしている訳ではありませんわ! 想様も『可愛い』と言ってくださったではありませんか! 羨ましい!」
ミルが仲裁に入ってくれ、そこでようやくレグネッタさんが落ち着き始める。
「俺は夕飯の支度するからさ。時間もかかるし、みんなはゆっくりしててくれ」
そう言ってドドは髪を縛ってからキッチンに向かい、ドルティエさんもいそいそとそれに続く。
「さて、結局状況は変えられなかったが、これからどうする?」
レグネッタさんはソファに腰を落ち着かせて切り出す。メイドの格好でありながらも、腕を組み、脚も組んで、とても威厳がある。
「ファイナイトの坊主は、あの会社を潰した。日本はいまや大混乱だ。国が黙っちゃいねーだろ」
トロイは椅子に腰掛けてそう言う。先程もニュースをチェックしたが、どこもヴェグザ崩壊問題で持ち切りだ。
「ファイナイトを『早く逮捕しろ』『殺せ』という意見が上がる一方、あのファイナイトを『神だ』『救世主だ』と崇める信者のような人々も増えてきているようです。ヴェグザの事を嫌っていた人々も、多かれ少なかれいたという事ですわね」
テーブルを挟み、僕の向かいでクッションの上に座るミルは、10インチタブレットでリアルタイムの情報をチェックしながらそう教えてくれた。
シャワーを浴びた直後のミルは髪を縛っておらず、緩やかに波打つ紅い髪を下ろしている。服もいつものゴスロリワンピースではなく、部屋着に近い淡いピンクのロリータワンピースを着ている。
「ん? 想様、どうかなさいました?」
と、つい僕は見蕩れてしまい、それに気付いたミルが顔を上げる。
「いや、なんかミルいつもと違うからちょっと不思議でさ」
僕がそう言うと、ミルは目を見開いて固まり、タブレット端末でサッと顔を隠し始めた。
「あーわかるわかる。いつもツインテールだもんな! なんか別人かと思っちゃったよな」
と、トロイが声を上げて同意する。別人に見えた人と言えばもう1人いるなと思い、僕はソファに座るメイドさんを恐る恐る見ようとしたが、既にその怖いメイドさんは僕の方を向いており、「何か文句でもあるのか?」と言いたげにメガネの奥から睨んでいる。
「その……改めて言われると、恥ずかしいので、あまり見ないでくださいませ」
ミルは顔の前に掲げたタブレットの上から目を覗かせ、そう言った。
「ったく。お前らほんとデリカシーないよな。これだから男はクズだ」
と、レグネッタさんは女性とは思えないような口調でそう言う。
「で、あのファイナイトの信者みたいな奴らが湧いてきてるって話だな? それはまずいな。悪霊とか、妖怪の類いなんかはそうなんだが、崇められる事によって力を増す奴がいるからな。ファイナイトがどうかは知らんが、その信者どもを利用されたら大変な事になる。暴動とかな」
真剣な口調でレグネッタさんは専門家の見解を述べてくれた。
「暴動ですか……そうですね。確かに、信者というものは怖いです。僕達も、以前あの宗教の信者達と戦いました」
僕がそう言うと、ミルも思い出しながら頷く。
「はい、今思えばあれは本当に怖かったです。あのような暴徒が日本中で出現したら、それはもうわたくし達にも手に負えなくなってしまうのではないでしょうか?」
ミルの言葉に思わずみんなは無言になる。
「そうなる前に止めよう。例え、そうなったとしても、ファイナイトを止めて、民衆を説得するしかないんだ」
僕はそう口にする。他に手段なんて思いつかない。
「おーい、お待たせー。メシできたぞー」
数分後、ドドとドルティエさんが食事を運んできてくれた。
本日のメニューはチゲ鍋、マルゲリータピッツァ、サーモンのマリネ、ブリ大根、そして牡蠣のバルサミコ酢ソテーだ。
「うっひょー! 百々丸の料理は今日も美味そうだな!」
トロイが椅子から離れ、テーブルの近くのクッションの上に座る。
「白米もたくさん炊いたのでみなさん遠慮せずに、お代わりは私に申し付けてください」
ドルティエさんは暖かな笑みを浮かべながら僕の左隣に座る。
「百々丸、ありがとう。私が食べた事ないものばかりだ。チゲ鍋というのもずっと食べたかったんだ」
レグネッタさんはソファから降りて僕の右隣に座った。ドドはビールとワインも持ってきてくれ、そのレグネッタさんの右隣に腰を下ろす。
「そいつぁ、よかった! 辛さは控え目にしてあるから安心してくれ」
ミルはあまり辛いものが好きではないらしく、ドドは気を利かせてくれたのだろう。
「それではみなさん、いただきましょうか!」
と、ドルティエさんが手を合わす。メイドの彼女が言い出すのは珍しく、本来のメイドにあるまじき発言なのかもしれないが、ドルティエさんも早くご馳走を口にしたいのだろう。
そんなわけで、みんなで口を揃えて「いただきます」と言い、それぞれ思い思いの物を食べていく。
「あ、あまり辛くないですわね! これならわたくしにも食べられますわ!」
ミルは安心してチゲ鍋を食べている。
「美味しい。牡蠣とバルサミコ酢って、最高の組み合わせだ。すごく相性がいい」
僕はもちろん牡蠣だ。ずっとこの牡蠣だけ食べていたいが、流石にみんなの分が無くなってしまうだろう。
「イタリアにも行ったことはありますが、堂島さんのピッツァは現地のものより美味しいです」
ドルティエさんが、頬を緩めてその味を噛み締めていた。
「んなことねぇって。俺もイタリアで勉強した事あるが、やっぱ本場の味には勝てねぇさ。お、それより今朝はバゲットサンドありがとうな! 美味しかった!」
ドドに礼を言われ、ドルティエさんは嬉しそうにしていた。
「あ、あの朝メシの!? 君が作ってくれたのか! Thanks! あれは最高だった。外で食べたから尚更な」
トロイもドドに続いてお礼を言っていた。
「日本の煮物は美味しいな。学生の頃はこっちに留学していたが、その時はあまり煮物を食べる機会がなかったんだ」
レグネッタさんはブリ大根を口にしながら微笑んでいた。
「レグネッタさんは留学していたのですね。私も日本の学校に通ってみたかった。たまに、道行く女子高生を見掛けますが、制服がとても可愛くて」
真面目そうなドルティエさんも、乙女らしい一面があるのだな。
「ドルティエさんは、日本に来て長いんですか? 何歳からルヴィエ家でお世話してるんですか?」
気になって僕は左隣の彼女に聞いてみる。
「私は、16歳になるまでフランスで過ごし、学校に通いながら仕事を学びました。その後日本に渡り、ミルティーユお嬢様のお世話をしてきました。なので、高校は行ってないのです。日本には9年いる事になりますね」
それなら尚更、女子高生の制服に憧れるだろう。
ちょっと待てよ。日本に来たのが16歳で、そこから9年日本にいるわけで、つまり今25歳で。
「つまり、僕と同い年!? あ、もっと上だと思ってました」
「あ、そうですね。ミモザお嬢様と私は同い年でした。そうでしたか。弖寅衣様も、同い年なのですね」
ドルティエさんは少し驚きながら、僕に親近感を持ってくれたようだ。だが、その時右の方から肩を叩かれた。メイドのレグネッタさんだ。
「こら想。『上だと思ってました』はないだろ? 女性に失礼だ。レンビーから教わらなかったか? あ、いやあいつはそういう事教えないな」
と、1人で納得してしまっていた。レグネッタさんはワインを飲んでいるからか、普段より凶暴になりつつある。
ふと考えてみたら、この場には色んな国の人がいる。日本人が2人、日本人とフランス人のハーフ、フランス人、アメリカ人、スウェーデン人。
人種が違う人間が、こうして食卓を囲んで交流しているのを見ると微笑ましくなってしまう。
「僕達は、違う国で生まれたけど、それでもこうして分かり合える。手を取って協力したり、同じ時間を共有できる」
僕はそう口にしてから、なんだか自分で恥ずかしくなる。
「その通りだ想! 国は違えど、同じ人間が力を合わせれば、それは最早無敵艦隊だ!」
トロイが天井を仰ぎ見るようにし、腕を広げてそう言った。
「国は違えど、悪の組織は悪だ! だが、今だけは協力してやる」
レグネッタさんは少し口篭りながらもそう言ってくれた。
「トロイさん、悪の組織の人なんですか!?」
と、ドルティエさんが驚いていた。
「大丈夫ですよ、ドルティエ! 今は味方ですから! 想様の仰った事、わたくしもわかります。わたくしはいろんな国の人を見てきましたが、こんなに他国の人同士で交流出来ることなんて、そうないですわ」
ミルがそう言ってみんなを見渡している。
「あぁ、そうなんだ。いろんな偶然が重なって、ここにいる俺達6人は出会った。それはもうそれだけで奇跡だ。国は違えど、俺達は仲間だ」
ドドの言葉に、誰もが静かに微笑みながら頷く。レグネッタさんでさえも。
「ここにいるみんながいてくれる限り、僕はどんな存在にも屈しない。例え、相手が人智を超越した存在でも」
そう言って、僕は再び牡蠣を食したのであった。
少し休んでから、僕達3人はミルの部屋へと再び戻る。
しかし、そこに信じ難い光景が待っていた。なんと、メイドがもう1人増えていたのだ。
「ダーッハハハハッ! おまっ! ブハッ! ダハハハー! おい、どうしたんだよレグねぇ!? なんだその格好は!? ついにイカレちまったかー? ククッ!」
トロイが盛大に笑っていた。その通り。なんとレグネッタさんがメイド服を着ているのだ。
トロイにバカにされ、レグネッタさんは顔の筋肉をピクピクさせながら歯を軋ませている。
「おい……トロイ……お前、何バカにしてくれてんだぁ? 私がメイド服着ちゃいけないってのか? あぁコラァ!?」
レグネッタさんは立ち上がり、拳銃をトロイの顎に突き付けていた。
「レ、レグネッタさん! 落ち着いてください! 大丈夫です! とっても似合ってます! すごく可愛いです! ほんと、プッ、可愛い、ですっ」
「おい、想! 今笑ったな!? 墓場に置き去りにしてやろうか? なぁ!」
フォローしようと思ったが、つい我慢していた笑いが込み上げ、逆にレグネッタさんをさらに怒らせてしまった。
「申し訳ございません! お嬢様の服ではサイズが合わず、私の予備の服を着させてしまって」
ドルティエさんが慌てレグネッタさんに頭を下げている。
「いや、あんたは謝らなくていい。むしろ、私は助かっている。だがな! それをバカにするこいつらは許さん!」
気付けばドドも笑っていた。
「レグネッタさん、落ち着いてくださいませ! みんな驚いてしまっているのであって、バカにしている訳ではありませんわ! 想様も『可愛い』と言ってくださったではありませんか! 羨ましい!」
ミルが仲裁に入ってくれ、そこでようやくレグネッタさんが落ち着き始める。
「俺は夕飯の支度するからさ。時間もかかるし、みんなはゆっくりしててくれ」
そう言ってドドは髪を縛ってからキッチンに向かい、ドルティエさんもいそいそとそれに続く。
「さて、結局状況は変えられなかったが、これからどうする?」
レグネッタさんはソファに腰を落ち着かせて切り出す。メイドの格好でありながらも、腕を組み、脚も組んで、とても威厳がある。
「ファイナイトの坊主は、あの会社を潰した。日本はいまや大混乱だ。国が黙っちゃいねーだろ」
トロイは椅子に腰掛けてそう言う。先程もニュースをチェックしたが、どこもヴェグザ崩壊問題で持ち切りだ。
「ファイナイトを『早く逮捕しろ』『殺せ』という意見が上がる一方、あのファイナイトを『神だ』『救世主だ』と崇める信者のような人々も増えてきているようです。ヴェグザの事を嫌っていた人々も、多かれ少なかれいたという事ですわね」
テーブルを挟み、僕の向かいでクッションの上に座るミルは、10インチタブレットでリアルタイムの情報をチェックしながらそう教えてくれた。
シャワーを浴びた直後のミルは髪を縛っておらず、緩やかに波打つ紅い髪を下ろしている。服もいつものゴスロリワンピースではなく、部屋着に近い淡いピンクのロリータワンピースを着ている。
「ん? 想様、どうかなさいました?」
と、つい僕は見蕩れてしまい、それに気付いたミルが顔を上げる。
「いや、なんかミルいつもと違うからちょっと不思議でさ」
僕がそう言うと、ミルは目を見開いて固まり、タブレット端末でサッと顔を隠し始めた。
「あーわかるわかる。いつもツインテールだもんな! なんか別人かと思っちゃったよな」
と、トロイが声を上げて同意する。別人に見えた人と言えばもう1人いるなと思い、僕はソファに座るメイドさんを恐る恐る見ようとしたが、既にその怖いメイドさんは僕の方を向いており、「何か文句でもあるのか?」と言いたげにメガネの奥から睨んでいる。
「その……改めて言われると、恥ずかしいので、あまり見ないでくださいませ」
ミルは顔の前に掲げたタブレットの上から目を覗かせ、そう言った。
「ったく。お前らほんとデリカシーないよな。これだから男はクズだ」
と、レグネッタさんは女性とは思えないような口調でそう言う。
「で、あのファイナイトの信者みたいな奴らが湧いてきてるって話だな? それはまずいな。悪霊とか、妖怪の類いなんかはそうなんだが、崇められる事によって力を増す奴がいるからな。ファイナイトがどうかは知らんが、その信者どもを利用されたら大変な事になる。暴動とかな」
真剣な口調でレグネッタさんは専門家の見解を述べてくれた。
「暴動ですか……そうですね。確かに、信者というものは怖いです。僕達も、以前あの宗教の信者達と戦いました」
僕がそう言うと、ミルも思い出しながら頷く。
「はい、今思えばあれは本当に怖かったです。あのような暴徒が日本中で出現したら、それはもうわたくし達にも手に負えなくなってしまうのではないでしょうか?」
ミルの言葉に思わずみんなは無言になる。
「そうなる前に止めよう。例え、そうなったとしても、ファイナイトを止めて、民衆を説得するしかないんだ」
僕はそう口にする。他に手段なんて思いつかない。
「おーい、お待たせー。メシできたぞー」
数分後、ドドとドルティエさんが食事を運んできてくれた。
本日のメニューはチゲ鍋、マルゲリータピッツァ、サーモンのマリネ、ブリ大根、そして牡蠣のバルサミコ酢ソテーだ。
「うっひょー! 百々丸の料理は今日も美味そうだな!」
トロイが椅子から離れ、テーブルの近くのクッションの上に座る。
「白米もたくさん炊いたのでみなさん遠慮せずに、お代わりは私に申し付けてください」
ドルティエさんは暖かな笑みを浮かべながら僕の左隣に座る。
「百々丸、ありがとう。私が食べた事ないものばかりだ。チゲ鍋というのもずっと食べたかったんだ」
レグネッタさんはソファから降りて僕の右隣に座った。ドドはビールとワインも持ってきてくれ、そのレグネッタさんの右隣に腰を下ろす。
「そいつぁ、よかった! 辛さは控え目にしてあるから安心してくれ」
ミルはあまり辛いものが好きではないらしく、ドドは気を利かせてくれたのだろう。
「それではみなさん、いただきましょうか!」
と、ドルティエさんが手を合わす。メイドの彼女が言い出すのは珍しく、本来のメイドにあるまじき発言なのかもしれないが、ドルティエさんも早くご馳走を口にしたいのだろう。
そんなわけで、みんなで口を揃えて「いただきます」と言い、それぞれ思い思いの物を食べていく。
「あ、あまり辛くないですわね! これならわたくしにも食べられますわ!」
ミルは安心してチゲ鍋を食べている。
「美味しい。牡蠣とバルサミコ酢って、最高の組み合わせだ。すごく相性がいい」
僕はもちろん牡蠣だ。ずっとこの牡蠣だけ食べていたいが、流石にみんなの分が無くなってしまうだろう。
「イタリアにも行ったことはありますが、堂島さんのピッツァは現地のものより美味しいです」
ドルティエさんが、頬を緩めてその味を噛み締めていた。
「んなことねぇって。俺もイタリアで勉強した事あるが、やっぱ本場の味には勝てねぇさ。お、それより今朝はバゲットサンドありがとうな! 美味しかった!」
ドドに礼を言われ、ドルティエさんは嬉しそうにしていた。
「あ、あの朝メシの!? 君が作ってくれたのか! Thanks! あれは最高だった。外で食べたから尚更な」
トロイもドドに続いてお礼を言っていた。
「日本の煮物は美味しいな。学生の頃はこっちに留学していたが、その時はあまり煮物を食べる機会がなかったんだ」
レグネッタさんはブリ大根を口にしながら微笑んでいた。
「レグネッタさんは留学していたのですね。私も日本の学校に通ってみたかった。たまに、道行く女子高生を見掛けますが、制服がとても可愛くて」
真面目そうなドルティエさんも、乙女らしい一面があるのだな。
「ドルティエさんは、日本に来て長いんですか? 何歳からルヴィエ家でお世話してるんですか?」
気になって僕は左隣の彼女に聞いてみる。
「私は、16歳になるまでフランスで過ごし、学校に通いながら仕事を学びました。その後日本に渡り、ミルティーユお嬢様のお世話をしてきました。なので、高校は行ってないのです。日本には9年いる事になりますね」
それなら尚更、女子高生の制服に憧れるだろう。
ちょっと待てよ。日本に来たのが16歳で、そこから9年日本にいるわけで、つまり今25歳で。
「つまり、僕と同い年!? あ、もっと上だと思ってました」
「あ、そうですね。ミモザお嬢様と私は同い年でした。そうでしたか。弖寅衣様も、同い年なのですね」
ドルティエさんは少し驚きながら、僕に親近感を持ってくれたようだ。だが、その時右の方から肩を叩かれた。メイドのレグネッタさんだ。
「こら想。『上だと思ってました』はないだろ? 女性に失礼だ。レンビーから教わらなかったか? あ、いやあいつはそういう事教えないな」
と、1人で納得してしまっていた。レグネッタさんはワインを飲んでいるからか、普段より凶暴になりつつある。
ふと考えてみたら、この場には色んな国の人がいる。日本人が2人、日本人とフランス人のハーフ、フランス人、アメリカ人、スウェーデン人。
人種が違う人間が、こうして食卓を囲んで交流しているのを見ると微笑ましくなってしまう。
「僕達は、違う国で生まれたけど、それでもこうして分かり合える。手を取って協力したり、同じ時間を共有できる」
僕はそう口にしてから、なんだか自分で恥ずかしくなる。
「その通りだ想! 国は違えど、同じ人間が力を合わせれば、それは最早無敵艦隊だ!」
トロイが天井を仰ぎ見るようにし、腕を広げてそう言った。
「国は違えど、悪の組織は悪だ! だが、今だけは協力してやる」
レグネッタさんは少し口篭りながらもそう言ってくれた。
「トロイさん、悪の組織の人なんですか!?」
と、ドルティエさんが驚いていた。
「大丈夫ですよ、ドルティエ! 今は味方ですから! 想様の仰った事、わたくしもわかります。わたくしはいろんな国の人を見てきましたが、こんなに他国の人同士で交流出来ることなんて、そうないですわ」
ミルがそう言ってみんなを見渡している。
「あぁ、そうなんだ。いろんな偶然が重なって、ここにいる俺達6人は出会った。それはもうそれだけで奇跡だ。国は違えど、俺達は仲間だ」
ドドの言葉に、誰もが静かに微笑みながら頷く。レグネッタさんでさえも。
「ここにいるみんながいてくれる限り、僕はどんな存在にも屈しない。例え、相手が人智を超越した存在でも」
そう言って、僕は再び牡蠣を食したのであった。
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