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第5章 ファイナイト
5-19 オリジン
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レグネッタさんが白い拳銃から放った緑光の大きな弾丸は、ドライブ回転しながらあのファイナイトを飲み込んでいた。
「なんだこれ……これなら、いけるな!」
ドドが驚愕しながらも拳を握った。だが、あの緑光の球体が次第に力を失いながら小さくなっていく。
「我に、このオリジン・グラインド『ファイナイト』がある限り、敗れはせぬ」
ファイナイトの声が聞こえ、あの緑光の球体が消滅した。
「チッ。しぶといヤツめ」
レグネッタさんは透かさず銃を連射し、それと同時にシクスが走り出しながらサブマシンガンを両手で連射する。
「ファイナイト、あなたを止める」
シクスは更に戦車砲を両手で抱え、それを振り回して砲身でファイナイトを殴打する。
僕はそこで瓦礫の破片をいくつも飛ばす。僕の攻撃が絡む事により、やはりファイナイトは予知のリズムを狂わされているのか、レグネッタさんの弾丸も避けられずにいた。
そこへ、シクスがファイナイトの頭上から戦車砲を撃ち抜いた。激しい爆音と共に、爆炎が上がる。
「一気に畳み掛けるぜ!」
トロイが3人のドッペルと共にサイドワインダーを射出した。そこへミルが両手でナイフをいくつも投げ飛ばし、それを転移させファイナイトの斜め上から攻撃する。
レグネッタさんは再び白い拳銃からドライブ回転する緑光の弾丸を放った。
ファイナイトの予知を回避するために、僕は瓦礫を飛ばし続けながらも、ミルが投げたナイフを引き継いで飛ばし続ける。
「やかましい」
僕達の激しい猛攻のなか、ファイナイトの声が響いた。すると、奴を中心にして白い光の球体がいつくも浮かび上がり、それは円を描くようにファイナイトを中心にしてぐるぐると飛び始めた。
僕達の攻撃はその白い球体に掻き消され、更にそれは僕達それぞれに襲いかかる。
「うっぐぁっ!」
「きゃあっ!」
白い球体は熱を帯び、触れた瞬間に全身が痺れるような激痛を感じ、その衝撃によって皆は壁に激突させられた。
「はあぁっ!」
シクスはそれでも駆け出していた。白い球体を蹴りで弾き飛ばし、ファイナイトに向けて回転しながら、右足左足と、2発の蹴りを浴びせ、更にファイナイトに向けてカノン砲と戦車砲を同時に放った。
「くっ! ここまでやるか」
表情を歪めたファイナイトに向けて、シクスは更にその戦車砲の砲身をファイナイトに向けて振り下ろし、ファイナイトは瓦礫の固まりに打ち付けられた。
だが、その直後にシクスはすうっと消えてしまう。時間切れだ。消える直前に、シクスは僕をしっかり見ていた。「後は頼んだ」という事なのだろう。
「これでも、ダメだっつーのか」
ドドが呟きながらもファイナイトに殴りかかる。しかし、そのドドが触れる前にファイナイトの力によって吹き飛ばされてしまう。
「諦めよ。ぬしらヒトと我らオリジンは圧倒的に力が違うのだ」
ファイナイトは静かに降り立つ。
「なぜだ? なぜ、お前はそこまでして人間を滅ぼそうとする?」
僕は最もな疑問をぶつけた。
「人間は、腐り果てた。それを駆除する存在が我らなのだ。それが義務であり、仕事であり、摂理なのだ。故に、この地上を一掃する」
「確かに腐ってる奴らはいる。だが、そうじゃない人間だっているはずだ! 腐った奴だって変わるはずだ!」
先程吹き飛ばされたドドが立ち上がって腕を押さえながらも言う。
「ドドの言う通りですわ! 人間は変わります。わたくしだって、想様に会って、変わりました!」
ミルが目を潤ませながらも悲痛な声を発した。僕だって、自分の中で変わらないと思っていたものが変わっていったんだ。
「いや、変わらぬ。変わるのはほんの極一部のみ。ヒト全体が変わらなければ何の意味もない。我は、この100年、世界を渡り歩いた。どんなに呼びかけても、変わらなかった。我が幼い見た目をしているのをいい事に、ヒトは我を見下し、横暴をし続けた」
100年? そんなにも長い間この世界を見ていたのか?
「100年だと!? それじゃ、ガキじゃなくてジジィじゃねぇか! だがよ、それでも人類を滅ぼすのは違うだろ? そこまでしなくてもいいだろ!」
トロイでさえも、いつもとは違って真剣にそう言った。
「厳正に見極めてから判断した事だ。決めるのはぬしらではない。我だ。決定権は我にあるのだ」
ファイナイトが告げると、レグネッタさんがタバコに火を付けて一歩踏み出す。
「ふざけるな。貴様1人の判断で、70億もの人間が殺されるなんて、そんな馬鹿げた話があるか」
ファイナイトはそこで首を振る。
「ヒトよ、『人』ではない。『煌《こう》』だ。我らはオリジン。故に、その数え方は『1人』ではなく、『1煌』なり」
と、ファイナイトは言い、更に話を続ける。
「5煌目だ。この地球に裁審しに来たオリジンは、我で5煌目。つまり、我の前にも4煌のオリジンがいた」
ファイナイトの言葉に僕は絶句した。以前、レグネッタさんが文献を調べて、過去にもオリジンらしき者の襲来があったと聞いたが、それが今までに4度もあったという事か?
「我らオリジンの裁審は、唐突に執行される。1000年の間が空いた時もあれば、わずか50年後に行われた時もあった。前の裁審からは800年ほど空いたか」
「でも、こうして地球は残っている。つまり、過去の4度で人類は滅亡しなかった。なのに、今回はなぜ?」
僕の質問に対して、ファイナイトはまた首を振る。
「そうではない、弖寅衣 想よ。過去4度、その全てが『滅亡』という判決に至ったのだ」
「なっ……!?」
僕は言葉を失い、顔から血の気が引く。他の4人もファイナイトの言葉を受け止められずにいる。
「今までも、ヒトは滅ぼすべしとオリジンは判断し、ヒトを駆逐し、破壊してきた。だが、残ったヒト共は懇願した。『これからは心を改め、よりよい社会を築く。だから、チャンスをくれ』と」
ファイナイトはそこで間を置き、再び口を開く。
「しかし、何年か経つとヒトはその約束を、いとも容易く忘れた。子孫に伝える事が無くなっていった。そして、堕落した。それを4度繰り返したのだ。その過去があるからこそ、我はもう決定を覆《くつがえ》さぬのだ」
僕達人類にも、多かれ少なかれ責任はあるということなのか? でも、認めたくない。「滅亡」という現実を受け止めたくない。
「解せんな。本当に滅亡するつもりなら、一気にこの星を滅ぼせばいいだろ? なぜ、わざわざ1人ずつ殺し、都市規模での破壊を繰り返す?」
レグネッタさんが不機嫌そうに訊ねた。
「無論、罰するためだ。滅亡するまではその時のオリジンの好きにしていいという規定になっている。あとは、猶予のようなものだ。愚かではないごく少数のヒトのためのな。地球そのものを崩壊する事もできるが、星を無駄にはしたくない。ヒトが、この星を与えうるに足る存在か、我らは見定めてきたのだ」
オリジンは、それほどまでに圧倒的な存在だという事なのか。
「でも、でも! 僕達『人間』を作ったのは君達オリジンなんだろ!? なら、なぜ? なぜこんな事をするんだ?」
僕は、自分でも苦し紛れの反論だと思いながら、声を荒らげて口にした。
「違う。我らが『ヒト』を作ったのではない。『ヒト』を作ったのはこの『地球《ほし》』よ。我らは地球の基盤を作ったに過ぎない。そして、地球はあらゆる連鎖を起こして成長していったのだ。『ヒト』はその成長の過程にできた生命の一部でしかない」
ファイナイトはそこで言葉を切り、だからこそと続ける。
「だからこそ、その地球を蝕む害虫を駆除せねばならぬのだ」
その無慈悲な言葉に、僕は意識が遠のきそうになる。僕達が、生活を侵害する虫を駆除するのと同じ感覚で、彼らオリジンは人間を虐殺しようというのか。そんな……どうしたらいいんだ?
「そして、何より我らは『生命』を研究している。その『生命』がどれ程成長できるのかと。故に、今までヒトを観測してきたのだ。だが、いつまでも待っている程我らも愚かではない」
生命の成長。僕達人間は、成長する所か衰退しかしてこなかったという事か。人間は、それ程までに愚かだと言う事なのか。
「あーあー! うっせぇ! おめぇの話なんか全然わからねぇ!」
そこで、ドドが声を上げ、臆する事無くファイナイトに近付き、睨みつけながらその胸ぐらを掴んだ。
「だから何だ!? それでも、俺はこの先も成長してやる! 変わり続けてやる! 『お前らはダメな人間だ。だから滅ぼす』そう言われて黙ってられっか! 知るか! 俺は、お前を倒してこの先に進むだけだ!」
ドドは今までにないくらいに怒っていた。そして、ファイナイトでさえもそのドドを見て驚いていた。
そんなファイナイトの反応もお構い無しに、ドドはそのままファイナイトを殴り飛ばした。
「いなくなった仲間のために、俺はこの先を生きるって決めてんだ!」
ドドのその言葉は、もはやファイナイトに向けてではなく、自分自身と、そしていなくなった人達に向けて放っているようにしか見えなかった。
「あぁ、その通りだ。全くもってその通りだ。私も、生き抜くとガキの頃に誓ったんだ。この地球にどんな過去があろうが、関係ない」
そう言って、レグネッタさんはタバコを落とし、パンプスの爪先で揉み消した。
「俺は、まだまだ旅がしてぇ。まだまだ、見たい景色、見たい場所がある。そして、こいつらと、もっといたいんだ」
トロイは俯きながら言ってから顔を上げ、にんまりと微笑む。
「わたくしの姉様は、この世界を愛していました。姉様が愛した世界と、愛した人々を絶対に守り続ける。それが、わたくしの使命なのです!」
ミルは足を引きずりながらも僕の隣に立ち、強い心を示した。
「そうだ……そうだ。『諦めちゃダメだ』とそう言われた。だから、何があろうと諦めない。僕には想像できる。成長し続ける人間の強さが」
そう言って、僕はファイナイトを真っ直ぐに見詰めた。
「ぬしらは強い。だが、そんな強い意志も、我の力の前では無に等しい」
そう言って、ファイナイトは宙に浮かび始め、その身体は光に包まれる。
「この地を破壊する」
ファイナイトがそう呟くと、ビルの外の至る所で爆発が発生する。
「てめぇ!」
そう言ってドドが宙に浮かぶファイナイトの足を掴もうと跳び上がるが、ファイナイトは遥か上空へと飛び、周囲に光のレーザーを飛ばし続けた。
「野郎! 逃がすかぁ!」
トロイはサイドワインダーを放つが、それもファイナイトのレーザーにより破壊されてしまう。
「まずいですわ!」
ミルが指さした方角を見ると、遠くに光の柱が出現し、そこを中心に大爆発が発生した。
「おい! このビルも崩れるぞ! 昨日みたいに街ごと吹っ飛ばす気か!?」
レグネッタさんの言葉にみんなが、はっとし、退避のためにミルの近くに行く。
「止めなくちゃ。僕は、僕がすべき事をするんだ。あいつを、止める事ができるのは僕しか、いない!」
「想様!?」
ミルが呼び止める声が聞こえたが、僕は既に走り出していた。大きな瓦礫に乗って、それをグラインドで動かし、宙を飛ぶ。
周りに散らばっていた瓦礫も手当り次第引き連れて飛ぶ。遥か上空に浮かぶファイナイトに向けて。
「ファイナイトー! お前の好きには、させはしない!」
そう叫び、僕はありったけの瓦礫を集め、それは1本の束になり、螺旋を描きながらファイナイトへと突撃する。
ファイナイトがちらりと僕を見た瞬間、周囲を眩い光が包み、何も見えなくなった。
そして音が消えた。
「なんだこれ……これなら、いけるな!」
ドドが驚愕しながらも拳を握った。だが、あの緑光の球体が次第に力を失いながら小さくなっていく。
「我に、このオリジン・グラインド『ファイナイト』がある限り、敗れはせぬ」
ファイナイトの声が聞こえ、あの緑光の球体が消滅した。
「チッ。しぶといヤツめ」
レグネッタさんは透かさず銃を連射し、それと同時にシクスが走り出しながらサブマシンガンを両手で連射する。
「ファイナイト、あなたを止める」
シクスは更に戦車砲を両手で抱え、それを振り回して砲身でファイナイトを殴打する。
僕はそこで瓦礫の破片をいくつも飛ばす。僕の攻撃が絡む事により、やはりファイナイトは予知のリズムを狂わされているのか、レグネッタさんの弾丸も避けられずにいた。
そこへ、シクスがファイナイトの頭上から戦車砲を撃ち抜いた。激しい爆音と共に、爆炎が上がる。
「一気に畳み掛けるぜ!」
トロイが3人のドッペルと共にサイドワインダーを射出した。そこへミルが両手でナイフをいくつも投げ飛ばし、それを転移させファイナイトの斜め上から攻撃する。
レグネッタさんは再び白い拳銃からドライブ回転する緑光の弾丸を放った。
ファイナイトの予知を回避するために、僕は瓦礫を飛ばし続けながらも、ミルが投げたナイフを引き継いで飛ばし続ける。
「やかましい」
僕達の激しい猛攻のなか、ファイナイトの声が響いた。すると、奴を中心にして白い光の球体がいつくも浮かび上がり、それは円を描くようにファイナイトを中心にしてぐるぐると飛び始めた。
僕達の攻撃はその白い球体に掻き消され、更にそれは僕達それぞれに襲いかかる。
「うっぐぁっ!」
「きゃあっ!」
白い球体は熱を帯び、触れた瞬間に全身が痺れるような激痛を感じ、その衝撃によって皆は壁に激突させられた。
「はあぁっ!」
シクスはそれでも駆け出していた。白い球体を蹴りで弾き飛ばし、ファイナイトに向けて回転しながら、右足左足と、2発の蹴りを浴びせ、更にファイナイトに向けてカノン砲と戦車砲を同時に放った。
「くっ! ここまでやるか」
表情を歪めたファイナイトに向けて、シクスは更にその戦車砲の砲身をファイナイトに向けて振り下ろし、ファイナイトは瓦礫の固まりに打ち付けられた。
だが、その直後にシクスはすうっと消えてしまう。時間切れだ。消える直前に、シクスは僕をしっかり見ていた。「後は頼んだ」という事なのだろう。
「これでも、ダメだっつーのか」
ドドが呟きながらもファイナイトに殴りかかる。しかし、そのドドが触れる前にファイナイトの力によって吹き飛ばされてしまう。
「諦めよ。ぬしらヒトと我らオリジンは圧倒的に力が違うのだ」
ファイナイトは静かに降り立つ。
「なぜだ? なぜ、お前はそこまでして人間を滅ぼそうとする?」
僕は最もな疑問をぶつけた。
「人間は、腐り果てた。それを駆除する存在が我らなのだ。それが義務であり、仕事であり、摂理なのだ。故に、この地上を一掃する」
「確かに腐ってる奴らはいる。だが、そうじゃない人間だっているはずだ! 腐った奴だって変わるはずだ!」
先程吹き飛ばされたドドが立ち上がって腕を押さえながらも言う。
「ドドの言う通りですわ! 人間は変わります。わたくしだって、想様に会って、変わりました!」
ミルが目を潤ませながらも悲痛な声を発した。僕だって、自分の中で変わらないと思っていたものが変わっていったんだ。
「いや、変わらぬ。変わるのはほんの極一部のみ。ヒト全体が変わらなければ何の意味もない。我は、この100年、世界を渡り歩いた。どんなに呼びかけても、変わらなかった。我が幼い見た目をしているのをいい事に、ヒトは我を見下し、横暴をし続けた」
100年? そんなにも長い間この世界を見ていたのか?
「100年だと!? それじゃ、ガキじゃなくてジジィじゃねぇか! だがよ、それでも人類を滅ぼすのは違うだろ? そこまでしなくてもいいだろ!」
トロイでさえも、いつもとは違って真剣にそう言った。
「厳正に見極めてから判断した事だ。決めるのはぬしらではない。我だ。決定権は我にあるのだ」
ファイナイトが告げると、レグネッタさんがタバコに火を付けて一歩踏み出す。
「ふざけるな。貴様1人の判断で、70億もの人間が殺されるなんて、そんな馬鹿げた話があるか」
ファイナイトはそこで首を振る。
「ヒトよ、『人』ではない。『煌《こう》』だ。我らはオリジン。故に、その数え方は『1人』ではなく、『1煌』なり」
と、ファイナイトは言い、更に話を続ける。
「5煌目だ。この地球に裁審しに来たオリジンは、我で5煌目。つまり、我の前にも4煌のオリジンがいた」
ファイナイトの言葉に僕は絶句した。以前、レグネッタさんが文献を調べて、過去にもオリジンらしき者の襲来があったと聞いたが、それが今までに4度もあったという事か?
「我らオリジンの裁審は、唐突に執行される。1000年の間が空いた時もあれば、わずか50年後に行われた時もあった。前の裁審からは800年ほど空いたか」
「でも、こうして地球は残っている。つまり、過去の4度で人類は滅亡しなかった。なのに、今回はなぜ?」
僕の質問に対して、ファイナイトはまた首を振る。
「そうではない、弖寅衣 想よ。過去4度、その全てが『滅亡』という判決に至ったのだ」
「なっ……!?」
僕は言葉を失い、顔から血の気が引く。他の4人もファイナイトの言葉を受け止められずにいる。
「今までも、ヒトは滅ぼすべしとオリジンは判断し、ヒトを駆逐し、破壊してきた。だが、残ったヒト共は懇願した。『これからは心を改め、よりよい社会を築く。だから、チャンスをくれ』と」
ファイナイトはそこで間を置き、再び口を開く。
「しかし、何年か経つとヒトはその約束を、いとも容易く忘れた。子孫に伝える事が無くなっていった。そして、堕落した。それを4度繰り返したのだ。その過去があるからこそ、我はもう決定を覆《くつがえ》さぬのだ」
僕達人類にも、多かれ少なかれ責任はあるということなのか? でも、認めたくない。「滅亡」という現実を受け止めたくない。
「解せんな。本当に滅亡するつもりなら、一気にこの星を滅ぼせばいいだろ? なぜ、わざわざ1人ずつ殺し、都市規模での破壊を繰り返す?」
レグネッタさんが不機嫌そうに訊ねた。
「無論、罰するためだ。滅亡するまではその時のオリジンの好きにしていいという規定になっている。あとは、猶予のようなものだ。愚かではないごく少数のヒトのためのな。地球そのものを崩壊する事もできるが、星を無駄にはしたくない。ヒトが、この星を与えうるに足る存在か、我らは見定めてきたのだ」
オリジンは、それほどまでに圧倒的な存在だという事なのか。
「でも、でも! 僕達『人間』を作ったのは君達オリジンなんだろ!? なら、なぜ? なぜこんな事をするんだ?」
僕は、自分でも苦し紛れの反論だと思いながら、声を荒らげて口にした。
「違う。我らが『ヒト』を作ったのではない。『ヒト』を作ったのはこの『地球《ほし》』よ。我らは地球の基盤を作ったに過ぎない。そして、地球はあらゆる連鎖を起こして成長していったのだ。『ヒト』はその成長の過程にできた生命の一部でしかない」
ファイナイトはそこで言葉を切り、だからこそと続ける。
「だからこそ、その地球を蝕む害虫を駆除せねばならぬのだ」
その無慈悲な言葉に、僕は意識が遠のきそうになる。僕達が、生活を侵害する虫を駆除するのと同じ感覚で、彼らオリジンは人間を虐殺しようというのか。そんな……どうしたらいいんだ?
「そして、何より我らは『生命』を研究している。その『生命』がどれ程成長できるのかと。故に、今までヒトを観測してきたのだ。だが、いつまでも待っている程我らも愚かではない」
生命の成長。僕達人間は、成長する所か衰退しかしてこなかったという事か。人間は、それ程までに愚かだと言う事なのか。
「あーあー! うっせぇ! おめぇの話なんか全然わからねぇ!」
そこで、ドドが声を上げ、臆する事無くファイナイトに近付き、睨みつけながらその胸ぐらを掴んだ。
「だから何だ!? それでも、俺はこの先も成長してやる! 変わり続けてやる! 『お前らはダメな人間だ。だから滅ぼす』そう言われて黙ってられっか! 知るか! 俺は、お前を倒してこの先に進むだけだ!」
ドドは今までにないくらいに怒っていた。そして、ファイナイトでさえもそのドドを見て驚いていた。
そんなファイナイトの反応もお構い無しに、ドドはそのままファイナイトを殴り飛ばした。
「いなくなった仲間のために、俺はこの先を生きるって決めてんだ!」
ドドのその言葉は、もはやファイナイトに向けてではなく、自分自身と、そしていなくなった人達に向けて放っているようにしか見えなかった。
「あぁ、その通りだ。全くもってその通りだ。私も、生き抜くとガキの頃に誓ったんだ。この地球にどんな過去があろうが、関係ない」
そう言って、レグネッタさんはタバコを落とし、パンプスの爪先で揉み消した。
「俺は、まだまだ旅がしてぇ。まだまだ、見たい景色、見たい場所がある。そして、こいつらと、もっといたいんだ」
トロイは俯きながら言ってから顔を上げ、にんまりと微笑む。
「わたくしの姉様は、この世界を愛していました。姉様が愛した世界と、愛した人々を絶対に守り続ける。それが、わたくしの使命なのです!」
ミルは足を引きずりながらも僕の隣に立ち、強い心を示した。
「そうだ……そうだ。『諦めちゃダメだ』とそう言われた。だから、何があろうと諦めない。僕には想像できる。成長し続ける人間の強さが」
そう言って、僕はファイナイトを真っ直ぐに見詰めた。
「ぬしらは強い。だが、そんな強い意志も、我の力の前では無に等しい」
そう言って、ファイナイトは宙に浮かび始め、その身体は光に包まれる。
「この地を破壊する」
ファイナイトがそう呟くと、ビルの外の至る所で爆発が発生する。
「てめぇ!」
そう言ってドドが宙に浮かぶファイナイトの足を掴もうと跳び上がるが、ファイナイトは遥か上空へと飛び、周囲に光のレーザーを飛ばし続けた。
「野郎! 逃がすかぁ!」
トロイはサイドワインダーを放つが、それもファイナイトのレーザーにより破壊されてしまう。
「まずいですわ!」
ミルが指さした方角を見ると、遠くに光の柱が出現し、そこを中心に大爆発が発生した。
「おい! このビルも崩れるぞ! 昨日みたいに街ごと吹っ飛ばす気か!?」
レグネッタさんの言葉にみんなが、はっとし、退避のためにミルの近くに行く。
「止めなくちゃ。僕は、僕がすべき事をするんだ。あいつを、止める事ができるのは僕しか、いない!」
「想様!?」
ミルが呼び止める声が聞こえたが、僕は既に走り出していた。大きな瓦礫に乗って、それをグラインドで動かし、宙を飛ぶ。
周りに散らばっていた瓦礫も手当り次第引き連れて飛ぶ。遥か上空に浮かぶファイナイトに向けて。
「ファイナイトー! お前の好きには、させはしない!」
そう叫び、僕はありったけの瓦礫を集め、それは1本の束になり、螺旋を描きながらファイナイトへと突撃する。
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