カンテノ

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第5章 ファイナイト

5-18 底力

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 あれ程の攻撃を受けたにも拘わらず、ファイナイトの傷はみるみる回復していく。

「バケモンだなありゃ」

  トロイが引き攣った笑みを浮かべている。ファイナイトは、セントラルタワーの屋上に集まっている僕達の前へと降り立つ。

「なぜだ? なぜ予知外の現象が発生した?」

  ファイナイトは無表情で困惑している。未来予知妨害――それがどこまで通用するかわからないが、これがあれば充分にあのファイナイトと戦える。

「想様の攻撃があなたの理解を上回っているのです! ひれ伏しなさい!」

  ミルはファイナイトに向けて訳の分からない言葉を言い出したが、ファイナイトの耳にその言葉は全く入っていないようで、ミルは不機嫌そうにしている。
  と、そのファイナイトが顔を上げる。

「もう1人客人が来たか」

  ファイナイトがそう言うと、僕の左隣に長身の男が現れた。シクスだ。ファイナイトとずっと戦いたくて我慢できなかったのだろう。

「な、なんだなんだー!?」

  トロイは飛び上がるように驚いた。

「こいつ……この感じ、レンビーと同じだ。幽霊か?」

  レグネッタさんは幽霊専門家なだけあり、すぐにシクスの正体に気づいた。

「そうです。紹介します、僕の弟、シクスです。姉が昔飼っていた猫の幽霊です」

  僕がそう言うと、シクスは静かにお辞儀をした。

「猫……あぁ、確かにレンビーは生前に『猫を飼いだした』と私にも言ってきたな」

  と、レグネッタさんは別段驚く事もなく納得してくれた。

「レグネッタさん、よろしくお願いします。私もあの少年を倒したいので協力させていただきます」

  シクスが拳銃を手にしながら挨拶し、レグネッタさんはタバコを咥えながらも口角を上げて笑みを浮かべる。

「いい銃だな。頼りにしてる」

  そう言ってシクスの隣に立つ。トロイに接する時と全く違う。
  僕の右隣にはミルが立ち、その横にドド、トロイと並んでいる。6人が並び、正面に立つ白髪の少年と対峙する。

「何人増えても変わらぬ。我には、勝てぬ」

「勝てそうにないからこそ、俺は燃えるんだ」

  そう言ってドドは先陣を切って飛び出した。それと同時にシクスは真上に高く跳び上がり、空中からサブマシンガンを連射した。

「これが『D3』か。効かぬ」

  ファイナイトは手を翳してその弾丸を止める。だが、その足下目掛けてドドがスライディングを仕掛ける。
  ファイナイトはその攻撃も予知していたのか、ふわりと浮かんで躱す。だが、屋上を滑ったドドはそこで前転してから手をつけ、先程のように腕のバネを使って跳ね上がり、空中のファイナイトに向けて蹴りを放つ。

「それも予知済みだ」

  そう言って、自身に向かってきたドドの蹴りを同じ蹴りで払い飛ばした。

「予知済みだ? 知るか。撃つ!」

  レグネッタさんが走りながら2挺の拳銃を撃ち続ける。
  だが、ファイナイトは宙を飛び交い、その銃弾を回避していく。その背後に人影が現れる。

「ふっふーん! 悪い事した子供を叱るのは大人の役目だよな! 人殺しばっかしちゃ、いけませんよー!」

  ミルのテリファイアによって、トロイはミルと一緒にファイナイトの背後に現れ、巨大な機械のアーム、「マニピュレーター」で殴って屋上へと叩きつけた。
  だが、ファイナイトは屋上とアームの拳に挟まれながらも、しっかりとそのアームを受け止めていた。

「重いな。どけ」

  ファイナイトは静かに言い、トロイを真上に高く飛ばした。

「ならばこれで潰れなさい!」

  そう言って、ミルがファイナイトの上に戦闘車両を出現させて落とした。先程このビルの入口前に止まっていた物だろう。

「既に対策済みだ」

  そう言ってファイナイトは片手を細かく動かした。すると、その戦闘車両がバラバラに切り刻まれた。

「まだだ。それも利用させてもらう」

  そう言って僕はそのバラバラになった戦闘車両の破片を全てファイナイトに向けて飛ばす。

「私達には想がいる。想がいる限り、お前には決して負けない」

  屋上を走りながらシクスがウィンチェスターライフルをファイナイト目掛けて撃つ。

「無駄だ。我には予知がある」

  そう言って、戦闘車両の破片もシクスの銃弾も弾き飛ばしていた。だが、

「うぐっ!」

  ファイナイトが顔を歪めた。僕が戦闘車両の破片に紛れて飛ばした、屋上のアンテナで奴の顔を殴打していたからだ。やはり、これは予知できなかったようだ。

「おらおらぁ! 隙ができちまってんぞ!」

  そこへドドが距離を詰めていた。ファイナイトの腕を掴むと、一周振り回した後、空高く投げ飛ばした。そして、その先には、

「フォーッ! トロイさんの帰還だー!」

  先程飛ばされたトロイが落下しながら雄叫びを上げていた。その左腕にサイドワインダーを携えて。

「ぐぬぉっ!」

  サイドワインダーの先端で殴るように腹に押し付けられ、そのままミサイルが射出され、ファイナイトは屋上へと戻される。そこへトロイは右腕のマニピュレーターで更に殴りつけた。

「みなさん! 危ないですわ!」

  ミルのテリファイアによって、僕達はそこから距離をとるように屋上の端にまで移動していた。ファイナイトがいた位置には爆発が巻き起こっていた。

「あの馬鹿。私達まで巻き添えにする気か?」

  レグネッタさんが怒りを露にしていた。

「まだです」

  そう言ってシクスは駆け出す。炎の向こうに、あの少年は平然と立っていた。
  その少年に向かって、シクスは飛び回し蹴りを放つ。ファイナイトはそれを両腕で受け止める。
  そして素早くシクスの足を掴むと、あの長身をいとも容易く屋上に打ち付けた。

「うぐっ!」

  正面から屋上にぶつけられたシクスだったが、手の力で屋上から飛んで離れると、空中でアサルトライフルを撃った。

「シクス、サポートするよ」

  そう言って、僕は屋上のフェンス1枚を回転させながら飛ばす。それと同時にミルから受け取ったダイナマイトも飛ばした。
  シクスの銃弾と僕のフェンスには対応したファイナイトだったが、ダイナマイトには対応出来ず、爆発で吹っ飛ばされた。

「逃がしはしない」

  そこへ、レグネッタさんの黄光の鞭が伸びた。それはファイナイトに巻き付き、奴を振り回す。

「もらった」

  そこへシクスが跳躍する。宙で振り回されたファイナイトの顔面目掛けて、あの長い足で蹴りを放った。

「ハハハッ! 流石の坊主もボロボロだな!」

  トロイは手を叩いて笑った。

「くっ! どういう事だ。なぜ、何度も予知外の事象が発生する?」

  ファイナイトは疑問を口にしながらも、その身体の傷はみるみる癒えていく。なぜと聞かれても、僕にはなぜなのかは全くわからないので答えようがない。

「なぜだ……なぜだ!」

  あのファイナイトが声を荒らげた。すると、その時僕達がいる屋上が白く光り出し、そして轟音と共に爆発した。

「がはぁーっ! ぐはっ!」

  身体を灼熱が包み、衝撃によって飛ばされ、硬い壁へと打ち付けられた。
  周囲を確認すると、先程までいた屋上は吹き飛ばされ、最上階のフロアが剥き出しになってそこに僕達は落とされたようだ。

  みんなは大丈夫か? ドドはふらふらと立ち上がろうとしている。トロイは倒れていたが、何か訳のわからない事を呟いているので大丈夫そうだ。
  レグネッタさんは足を負傷したようで、その表情は苦痛と怒りで歪んでいる。1番心配だったミルは、どうやらシクスが守ってくれたようで大きな怪我はなかったようだ。
  一瞬で起きた爆発だ。ミルも反応が遅れ、テリファイアを使えなかったのだろう。自分を守ってくれたシクスに感謝し、彼の身を心配している。

  そして、ファイナイトは宙に浮きながら、その両手に光のエネルギーを纏っている。

「ぬしらを殺すつもりはないが、我の邪魔をいつまでもするなら、容赦はせぬ」

  そう言ってその光り輝く手を僕達に向ける。

「くっ、う、うるせー! させるかー!」

  ドドが苦痛に耐えながらも走り出した。途中にあった瓦礫の固まりを踏み台にし、ファイナイトに向かって飛び上がった。
  だが、ドドに向けてファイナイトは光り輝く左手からレーザーを放った。

「ぬっぐお!」

  レーザーを脇腹に受け、空中でバランスを崩してドドは吹っ飛ばされてしまった。

「百々丸! こんにゃろーが!」

  トロイがファイナイトに向けてサイドワインダーを放つ。だが、それをファイナイトは光る拳で破壊した。
  そして周囲に向けてレーザーを放つ。僕達の周りで爆発が起き、ビルがグラグラと揺れる。

「ファイナイト! それ以上はやらせない!」

  シクスがレーザーを俊敏に躱しながらファイナイトの前に出る。空中でファイナイトの腹を殴り、そこから後ろ回し蹴りに繋いでファイナイトの横顔を蹴った。さらに両手の拳銃を連射する。

「こいつもくらえ」

  シクスは空中でカノン砲を出現させた。それをファイナイトの真正面から撃ち、大きな砲口が火を噴いた。
  ファイナイトは確実にダメージを負った。だが、空中でシクスの身体が固まった。そして、至近距離で光の爆発を受け、その身体は吹き飛ばされた。

「調子にのんなよ、ガキが」

  レグネッタさんが、吹き飛ばされたシクスを受け止めてそう言った。

「シクス、だったな。よくやった」

  そう言って、彼の肩をぽんと叩いた。そして、タバコに火を付けてからファイナイトに向けて歩み出す。その右手に持つ黒い拳銃の黄色い部分が光り出す。

「負ける事を疑わない、スカしたてめぇのその面がムカつくんだ」

  そう言って、黒い拳銃「バブーン」から黄光のビームを撃ち放った。

「それはもう何度も見た。効かぬ。我はオリジンだ。全てを思い通りにできるのだから当然だ」

  そう言ってファイナイトは、黄光のビームを光る拳で弾き飛ばした。
  だが、その時、レグネッタさんが左手に持つ白い拳銃の緑色の部分が光り出した。

「さぁ、チンチラ。力を解放しろ」

  レグネッタさんはそう言って、白い拳銃「チンチラ」をファイナイトへと向けた。その銃口から緑のエネルギーが溢れ、膨れ上がって大きな光の球体になる。

「なんだと? なんだその力は?」

  ファイナイトはなぜか慌てだした。未来を予知して結果が見えたのか?

「死ね、クソガキ」

  そう言ってレグネッタさんはその緑光の球体を撃った。それは驚異のスピードでファイナイトに当たる。ファイナイトは瞬時に光を纏った両手で受け止めていた。
  だが、緑光の球体はそこでドライブ回転しだした。激しく縦回転するその緑光の球体は、あのファイナイトの光のエネルギーをみるみる削っていく。

「これで終わりだと思うなよ」

  そう言って、レグネッタさんは白い拳銃から次々に緑の弾丸を球体を撃った。それらはバウンドしながらドライブ回転し、ファイナイトへ次々に襲いかかっていく。

「な、なんだこれは!?」

  緑に輝く球体に埋もれながらファイナイトから呻き声が聞こえた。
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