カンテノ

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第5章 ファイナイト

5-14 番人

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「撃て撃て! テロリストをこの先に行かせるな!」

  2階東側、中央ビルへの渡り廊下に隊員達の怒声が飛び交う。僕達はその隊員を蹴散らしながら進んで行く。
 「僕達」と言っても、僕は一切何もしていない。他の4人が張り切ってしまっているのだ。これじゃ、高みの見物を決め込むテロリストのリーダーじゃないか。

「ハッハッハー! どんなに応援が駆けつけようが、このトロイお兄さんのドッペルに敵うわけがないだろー!」

  渡り廊下の先からぞろぞろと他の隊員が応援に駆けつけていたが、トロイのドッペル4人だけで並の兵隊と同じ戦力を有していた。
  頼むからここであのサイドワインダーは使わないでほしい。

「少女と言えど、容赦はせん!」

  大柄な隊員がミルに向かってナイフを振りかざしていた。

「あら怖い! でも、わたくしあなたと遊んでいる暇はないのでしてよ? ごめんあそばせ!」

  ミルがそう言うと、大柄な隊員は渡り廊下の外の空中へと転移させられ、そのまま中庭に落下した。非グラインダーの一般人なら、手を触れずとも飛ばす事は容易のようだった。

「どけ! 何もわかってない奴らが、中途半端な正義だの権力をかざすんじゃねぇ!」

  ドドは正面の隊員の腹を蹴りつけ、左から殴りかかってきた隊員を左腕でガードし、右からナイフを持って突撃してきた隊員の顔面を右の拳で殴る。
  左から殴りかかってきた隊員のその腕を両手で掴むと、その隊員を振り回して右側の隊員にぶつけた後、正面の集団に向けて投げ放った。

「雑魚どもがでしゃばってんじゃねぇよ」

  ドドに投げ飛ばされ、集団に激突した隊員の身体の上にレグネッタさんが飛び乗り、2挺の拳銃を構えながら告げた。
  目の前の隊員達に向けて銃を撃つと、レグネッタさんはそこから飛び上がり、さらに前方の隊員達にも銃撃を浴びせる。一介の兵隊など話にならない程に戦闘慣れしているのがわかる。

「レグねぇさん、その腕があればゼブルムでもやっていけるぜ? ほとんど倒しちまったじゃねぇの」

  僕の左隣に立つトロイが周りを見渡しながら言う。

「お前らの仲間になるなんざ、死んでもお断りだ」

  レグネッタさんは銃弾をリロードしてからホルスターに2挺の拳銃を収納した。本当に、僕は一切何も攻撃をする余地がなかった。

「想様! これで、やっと中央のビルに行けますわよ!」

  右隣にミルが立ち、僕の顔を覗き込みながら言った。

「うん、そうだね。まだ最上階は先だから、とにかく階段を見つけて登るしかない」

  そう、中央のビルには辿り着けたが、ここはまだ2階だ。通る事ができる階段がすぐに見つかるといいのだが。

  通路を抜けた先には広々としたホールのような空間が広がっていた。休憩所なのか、自販機やテーブル、ソファが並んでいる。

「お、あっちに階段あるな。通れそうだし急ごうぜ」

  ドドが示した先に階段があり、彼に続くように足を向けた時、

「待て」

  レグネッタさんが僕達を止めた。彼女の視線の先を見ると、休憩所の向こうにある扉の前に、1人の女性がいた。

「お前、ここの社員か?」

  レグネッタさんは警戒して腰の拳銃に触りながら女性に問い掛ける。その女性は小さくコクンと頷いた。僕達を見ながら怯えているようだ。無理もない。あの特殊部隊を倒してやってきたのだから。
  見ると、その女性の背後の室内からも何人かの人間がこちらを恐る恐る窺っている。

「あ、あの、僕達は悪い人間じゃないんです。ここの会社を襲った少年を止めたくて来ました。もしよければ、お話を聞かせてもらえませんか?」

  他の4人が話し出すと何を言い出すかわからないので、僕が率先して会話をする。

「あなた……テレビで見ました。指名手配犯、なんですよね? でも、思ってたより礼儀正しいんですね」

  指名手配犯だとばれた瞬間はドキッとしてしまったが、女性が少し安心したようだったので僕は一息ついた。

「あなた達は、ここで避難していたんですか?」

  僕を警戒しながらも、女性は少しづつ近付いてきてくれたのでそう聞いた。
  ふと周りを見ると、レグネッタさんはいつの間にか自販機でコーヒーを購入してくつろぎ始めた。それに続いてミルもオレンジジュースを買ってレグネッタさんの隣に座った。ま、休憩という事でいいか。

「はい、そうです。社内のあちこちで爆発が起きて、特殊部隊がやって来て俺達はここに集められたんです」

  後ろから若い男の社員もやってきた。

「他にも社員はいるんだよね? そして、ここの代表も。みんな上にいるのかい? 誰か、白い髪のガキを見なかったか?」

  トロイが僕の隣に並んで聞いた。すると、初めに話しかけた女性が返事をする。

「はい、うちの会社にはまだまだ社員がいます。あの白髪の少年、何者なのですか? あの少年が……何人かの社員と隊員を殺した所を、見てしまったのです」

  女性社員が少し震えながらそう話した。

「ファイナイトだ。あいつを止めないと。あの少年は何らかの理由でここの代表の方を狙っているんだと思います」

  僕がそう話すと、中年の眼鏡をかけた男性社員が女性社員の隣に立った。

「代表取締役はこのセントラルタワーの最上階にいるはずです。私は、報道であなた達のニュースを何度も見ました。それを見る度に、なんて悪党だ、早く捕まってくれと、そう願っていました」

  中年男性の言葉を聞き、ドドが近付き、トロイが僕の前に出る。「しかし」と、中年男性は言葉を続ける。

「今、この緊急事態に直面して、わからなくなった。あなた達はあの少年の仲間なのか? それとも、本当にあの少年を止める気なのか?」

  中年男性社員は苦悩を露わにしてそう言った。

「俺達は、そのためにわざわざこうやって特殊部隊も倒して来たんだ。信じねぇだろうがな」

  ドドが隣に立ってそう言う。

「百々丸の言う通りさ。なに、別に正義の味方なわけじゃないさ。だがね、あのガキを野放しにしとくと、ちょっとまずいんだよね。この世界が。だからね、別に、あんたらを救いたいわけじゃないのよ」

  トロイは隠す事無く、僕達の本音を代弁してくれた。

「僕達は、例え世間から悪人だと思われようが、自分達が正しいと思っている事をしたいだけなので」

  僕の言葉に、苦悩していた男性社員は顔を上げる。だいぶ疲れた表情をしている。

「そうか。すごいな。あぁ、あっちの階段はだめだ。上の階で通路が塞がれていたらしくて、隊員がさっき引き返していた。反対側の階段を使うといい」

  そう教えてくれた。

「ありがとうございます。あなた達も、できればこのビルから脱出してください。もっと大きな爆発が起きるかもしれません。ミル! レグネッタさん! そろそろ行こう」

  休んでいた2人に声をかけて、再び僕達は進み出す。中央のビル――セントラルタワーの西側の階段に辿り着き、そこから上を目指す。
  その階段は特に障害もなく、難なく5階にまで辿り着けた。ミルは階段慣れしていないからか、疲れてしまっていたが。

  5階に辿り着いた所で、異質な空気が漂っていたため、皆足を止めた。煙が漂っており、手榴弾などの火薬を使用した匂いがする。

「ここでやり合ったみてぇだな。まだそんなに時間も経ってない」

  ドドがそう言う。僕にはわからなかったが、亜我見の戦場を経験した彼の嗅覚は鋭い。

「何かいるぞ」

  レグネッタさんがそう言ってすぐに2挺の拳銃を手に持った。
  煙が一層濃くなっている通路の先にある空間から、足音が聞こえる。そこから何人もの特殊部隊隊員が現れた。彼等は煙の向こうへと銃を撃ちながら後退してくる。
  誰かと戦っているのか? ファイナイトか? だが、その予想は外れた。

「なんですのあれ!? 人間じゃ、ありませんわ!」

  ミルの言葉通り、煙の向こうから現れたのは全長3mはある機械の身体であった。

「くそっ! なんだコイツ!? 銃が効かない!」

  隊員達は焦りながらもマシンガンを連射している。

「あれは、確かゼブルムが作ったセキュリティマシンだ。日本にはまだ導入されていないはずだったが、まさかこの会社が隠し持っていたっつーのかー?」

  トロイが片眉を上げながら言った。

「貴様ら!? チッ! こんな時にテロリスト共も来たのか!?」

  隊員の1人が僕達に気付いて舌打ちをした。

「いつまでテロリスト呼ばわりされなきゃいけませんの! お困りのようですし、助けてあげますわ!」

  ミルが憤慨しながらも、セキュリティマシンのすぐ傍に移動し、銃を撃ち放つ。だが、その銃弾はマシンのボディに悉く弾かれた。

「なんなんですの!?」

  驚いていたミルに向かって、マシンがその右手に握る電流を纏った太い棒を振り下ろしていた。

「おおっとー! んがががー! 痺れるぅ!?」

  ミルの前にトロイのドッペルが2人現れ、その電流棒を受け止めていた。

「な、なんだお前ら!? こいつの仲間じゃないのか!?」

  逃げてきた隊員が驚いていた。

「違いますよ。死にたくなかったら離れていてください」

  僕はチラリとその隊員を見て言う。前方の煙が晴れていき、その先には先程の2階にあった休憩所のようなホールがあり、そこに何人もの特殊部隊隊員が倒れていた。銃を構えてこちらを警戒している隊員もいる。

「へっ。貧弱な隊員共の相手ばかりで飽き飽きしてた所だ。やってやるか!」

  ドドの言葉に隊員達は言葉を詰まらせていたが、彼はそんな様子もお構い無しに走り出す。
  セキュリティマシンを目の前にし、ドドは近くの壁に向かって飛ぶ。その壁を、両足揃えて蹴り、回転を加えて大きな弧を描きながらセキュリティマシンの頭部を右足で蹴る。

「かってぇっ!」

「百々丸! ワンモアだ!」

  ドドの背後に回ったトロイのドッペルが言い、空中のドドに向かって腕をクロスして足場を作ってくれていた。

「うっしゃあ!」

  トロイのドッペルに足を乗せ、思い切り蹴って再びドドは飛んだ。セキュリティマシンの左腕を空中で掴むと、そのまま身体をしならせて宙返りし、あの機械の巨体を投げ飛ばした。

「な、なんだ……なんだあの男は!? 我々が束になって敵わなかったあのロボットを投げ飛ばしただと!?」

  周りの隊員達が驚愕し、わなわなと震えている。そこへ、タバコを吸いながらレグネッタさんが進み出る。

「お前らクソ凡人共とは格が違うんだよ。私達の邪魔したらお前らも殺す」

  そう言ってレグネッタさんはタバコを吸いながらも走り出した。
  投げ飛ばされたセキュリティマシンは、ホールの壁に激突していたが、すぐに立ち上がる。そして、右手に持った電流棒が火花を散らしながら輝き出す。

「でかい鉄屑が」

  レグネッタさんが左手に持つ白い拳銃を撃つ。ミルの拳銃も、特殊部隊のマシンガンも弾いていた鋼のボディだったが、レグネッタさんの銃弾は弾かれず、セキュリティマシンは身体のバランスを崩す。

「いくぞ、バブーン!」

  レグネッタさんの右手の黒い銃、その黄色い部分が輝き出す。その黒い銃口から放たれた黄光のビームが強靭な鋼のボディを貫いていた。
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