カンテノ

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第5章 ファイナイト

5-12 5人のテロリスト

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 ミルのテリファイアにより、僕達5人は東海地方でも有数の都市、爾栄じえに辿り着く。
  街のどこで事件が起きているのか、それがわからないまま来てしまったが、いざ着くと尋常ではない空気が爾栄の街を包んでいた。

「なんだ? 何が起きてんだ?」

  警察の車両が何台も目の前を走り、ドドが警戒しながら言った。

「あっちの方角だわな。とにかく、行ってみようぜ」

  トロイがそう言い、ドドと共に走り出す。それに続いてレグネッタさんが溜め息を吐きながらも走り始めたので、僕とミルも後を追う。
  街行く人々は事態を知ってか知らずか、事件現場の方向を見ながらも、足速に歩いている。
  街中にはパトカーのサイレンも響き渡り、警察らしき人が民間人に避難するよう呼びかけている声がスピーカー越しに聞こえる。

  目の前の大きなスクランブル交差点を右折した所で、驚くべき光景が広がっていた。大勢の警官の更に向こうには、その倍以上の特殊部隊がいたのだ。
  間違いない。あの特殊部隊は以前交戦したACHEエイクだ。上空にはいつかと同じようにヘリが飛んでいる。特殊部隊隊員達は、皆あるビルの入り口に視線を注いでいた。
  こんな都会のド真ん中にも拘わらず、そのビルの周りには公園のような芝生の地があり、ベンチや自販機なども設置されている。
  そして、その大きなビルは円柱形だ。周りのどの建物よりも遥かに高く、大きい。

「どうやら、あのビルが事件現場みたいだな。状況から察するに、立て篭りか?」

  レグネッタさんが冷静に言う。

「そうみたいだねー。白髪坊主、こんなでっかいビルを乗っ取ったわけか? 国も慌てて特殊部隊を動員したって所か? 焦ってるじゃないのー」

  トロイはショートダッフルのポケットに手を入れながら、面白そうに状況を見据えている。

「まさか、あの特殊部隊はゼブルムが派遣したんじゃ?」

  僕がそう言うと、ドドもはっとなりトロイを睨む。

「おいおいやめてくれよー。俺はなんも悪くないぜ? それに、日本の特殊部隊ACHEに通じてたのはサフォケイションとブルータルだ。あの2人がいなくなった今、あれを動かしているのは国だ」

  トロイの言葉を僕はそのまま受け止める。

「では、どうなさいます? あのビルに入るにはこの包囲網を突破しなくてはなりませんわよ?」

  ミルが最もな疑問を口にする。以前は特殊部隊に囲まれてばかりだったが、今回はその包囲網の外側から突破しなくてはいけないのか。

「ミル、あんたのグラインドであの中に入れないの?」

  レグネッタさんが腰のホルスターに手を置きながら尋ねた。

「わたくしのテリファイアで建物の中に侵入するためには、ある程度内部の構造を把握してないと行けませんの。あとは見知った人がいれば『その人の近くへ』と念じれば行けるのですが、先程からあのファイナイトの気配がはっきりしませんの。まるで妨害されているように」

  そうか、ファイナイトは既に僕達が来る事を予知していたから、邪魔されない為にもミルのテリファイアで近付かれるのを遮断しているのか。そんな事もできてしまうのか。

「なら、やる事は決まったな? ここ、突破するぞ。5人もいるんだ。余裕さ」

  ドドはそう言って、勢いよく飛び出し、それを見たトロイが笑い出す。

「いいねいいね! 正面突破なんて、男らしいじゃなーい! んじゃ、いきますかー!」

  トロイの言葉に僕も決意を固め、飛び出す。

「あなた達、止まりなさい! ここは現在封鎖中で一般人は立入禁止ですよ!」

  僕達の接近に気付いた警官の1人が静止を呼びかけた。

「おい、待て。あの2人の男、見た事あるぞ!」

  その隣にいた別の警官が緊張した面持ちで大きな声でそう言った。すると、その声を聞きつけた特殊部隊の男が近付いてくる。

「あぁ、そうだ。間違いない。全国指名手配のテロリスト、弖寅衣と堂島だ!」

  こんなに早くばれてしまったのか。だが、その隊員の元に走りながらドドが笑う。

「あぁ、そうだ。そこをどけ! できねぇなら、またぶちのめす!」

  ドドはそう宣言し、拳銃を構え出した警官の腕を蹴りあげ、さらに鳩尾に肘打ちを放った。

「き、きさまぁ! 総員! 緊急事態! テロリストが現れた! 戦闘態勢に入れ!」

  特殊部隊が周囲に呼びかけ、その場の警官と特殊部隊の隊員が次々にこちらを向く。初めに呼びかけた隊員は手に持ったサブマシンガンをドドに向けた。
  だが、そのサブマシンガンに銃弾が当たり、隊員の手から弾き飛ばされた。

「おい、百々丸! これじゃ、私までテロリストじゃないか。しょうがないから、乗ってやる」

  レグネッタさんは怒りながらも口元が笑っている。

「おう、レグねぇ助かるぜー!」

  ドドは後方のレグネッタさんに手を振り、目の前の警官を殴り、特殊部隊隊員を蹴り飛ばす。

「ドドは乱暴すぎますわ! もっと、穏便に済ます事もできますのよ?」

  と、ミルが警官の背後に現れ、その背中に触れると、警官はどこかに消えてしまった。遥か後方で叫び声が聞こえるので、そこに飛ばしているようだった。

「んー! ミルちゃんは優しいねー。だが、男には力しかねぇんだよな!」

  トロイもいつの間にか特殊部隊の集団と対峙し、次々に相手を殴っていく。格闘技の心得もあるようだ。

「なかなか腕の立つ無頼漢どもだ」

  太い声がした。特殊部隊の間を押し分けるように現れた坊主頭の隊員は、隊長格なのか、日本人とは思えない程の体格をしている。

「トロイさん! 危ない!」

  僕は近くに停まっていたパトカーをグラインドで動かし、トロイの前の空中に浮かしていた。
  坊主頭の屈強な隊員はトロイに向けてアサルトライフルを連射していたのだ。けたたましい銃声が鳴り、パトカーに銃弾が命中する。

「くっ! 弖寅衣 想だな? 貴様、あの白髪の少年の仲間なのだろう? 昨日の迦鳴の爆破もお前らの仕業だな? 少年と一緒にいた映像も入手している」

  パトカーの向こうから、坊主頭の男が僕を見ながら言った。また濡れ衣を着せるのか。

「ひゅー。危なかったぜ。想、Thank you!」

  数m先のトロイは僕に手を振ってヘラヘラと笑っている。

「いえいえ……っ!? トロイさん! 前!」

  あの坊主頭の男が素早くパトカーの横から回り込み、トロイの目の前にまで迫っていた。その手に黒いナイフを持って。

「あぁ?」

「死ね、犯罪者め」

  坊主頭のナイフがトロイの腹部に突き刺さっていた。

「あがっ! ごふっ! ちっくしょー……こんな、とこで、ぐはっ!」

  トロイが吐いた血が坊主頭の男の隊服に飛び散る。

「トロイ! この野郎がー!」

  遠くにいたドドが気付き、こちらに駆け寄ろうとするが、特殊部隊に阻まれてしまう。

「トロイ……そんな、しっかりして!」

  トロイの腹部にはまだそのナイフが突き刺さっており、そのナイフを握る隊員の手をトロイは震える手で握る。坊主頭の男は何が面白いのか、ニヤニヤと笑っている。

「ごふっ! こ、これから、突入って、時なのによぉー……フ、フハハハーッ! こーんな所で死ぬわきゃねーだろおぉがよぉー!」

  トロイが目の前の坊主頭の男に笑い返していた。まさに、狂気であった。あまりの光景に、坊主頭の男からも笑いが消え、顔が引き攣っている。

「わりぃーなぁ! そいつぁ、ドッペルだ」

  その時、坊主頭の背後から声がした。トロイがいる。トロイがもう1人いる。
  背後からもう1人のトロイが坊主頭の横腹に蹴りを入れる。

「ごはっ! な、なんだと!? まだ生きてるのか! くそ!」

  背後から現れたもう1人のトロイに蹴られた坊主頭の男は、振り向いて拳を掲げる。

「ハハハッ! ざーんねん! こっちだよー?」

  先程ナイフで刺されたトロイが、そのナイフを手に持ち、素早く坊主頭の横から奴の首を掻っ切った。
  血飛沫を上げながら、あの屈強な隊員が倒れた。周囲の隊員達も驚いて後ずさっている。

「トロイ!? 無事なの? もしかして、それがグラインド?」

「あぁ、そうだ! 俺のグラインド『フォールン・トロイ』の能力、『ドッペルゲンガー』だ」

  2人のトロイが同時に言う。そして、トロイのドッペルは3人、4人、5人と増えていく。
  そうか。あの時、トロイと対決した時に背後に感じた気配は彼のドッペルだったのか。

「トロイさん! もう! 驚かせないでくださいませ! って、どれが本物なんですの? どれでもいいですわね!」

  トロイを心配してこちらまで転移移動してきたミルが戸惑っていたが、すぐに開き直る。

「ハハ! 心配かけて悪かったね。これでわかったろ? 俺の力が。特に、こーんな大勢の隊員相手にはもってこいなのさ!」

  そう言って、トロイのドッペル達が特殊部隊に次々と襲いかかる。

「いっそ死んでくれてもよかったがなー!」

  少し離れた所で銃を撃っていたレグネッタさんが声を張って言い、トロイは鼻を掻きながら笑う。

「さぁ、想! さっさと片付けてここを突破しようじゃないの!」

  トロイの活気溢れる言葉に僕も同意し、先程のパトカーをゴロゴロと転がしながら隊員の群れに突撃させる。
  トロイのドッペル達は隊員から銃を奪って連射したり、警察車両を奪って暴走し、周囲を撹乱している。ドッペルは死ぬ事もないようで、まさに無敵の兵隊だ。

「ったくよ。弱そうとか言ったのは取り消す! 悪かった!」

  隊員を蹴散らしながらもトロイの近くまできたドドがすれ違いざまに、笑いながらトロイに言う。

「なーに、気にしてねぇさ! しかし、百々丸は強いな。あいつがドッペル使ってたら最強だったかもな? ハハハッ!」

  再び特殊部隊の群れに飛び込んで行くドドの背中を見送りながら、トロイは呟く。

「ドドはいつもそうなんだ。前にも特殊部隊と戦ってるから、相手するのも慣れてるみたい。トロイは行かないの?」

  ドドは明らかに以前よりも動きが増している。それは慣れもあるが、数々の戦場を潜り抜けてきたからか、彼はまたさらに強くなっているように見える。

「ん? 何言ってんだよ? 俺は、想に付いて行くって言っただろ?」

  そうか、そうだったな。あの宣言をここまで貫いてる彼に僕は思わず笑ってしまう。それを見て、隣に立つトロイも満足するように笑う。

「ありがとう、トロイ。あ! 今度は、ヘリが降りてくる」

  上空に待機していたヘリが降下し、その窓から隊員が機関銃を構えている。4週間程前のあの状況が頭を過ぎる。

「あーあー。任せとけって! トロイお兄さんにかかればあんなの蚊だ」

  トロイのドッペルでもあのヘリを倒すのは難しいのではないだろうか? 僕は周囲に目を配り、動かせそうな物を探す。

「そんな物騒なもん向けやがって。悪いがー、返り討ちにする!」

  トロイはそう言って、左腕を伸ばす。その腕の上に、全長2m程の巨大なミサイルが出現した。ミサイルは煙を放ち、独特な動きをしながら空中のヘリに命中し、その機体は爆発して近くのビルに激突した。

「な、なんで? 何、今の……?」

  僕は、口を開け放したまま驚いている。

「だから言ったろ? 俺のグラインドは特殊なんだ。複合型グラインド、『フォールン・トロイ』の能力その2、『サイドワインダー』だ」

  トロイが自慢げに言った後、トロイのドッペル2人が同じようにミサイルを特殊部隊に放っていた。
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