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第5章 ファイナイト
5-10 凡人と天才と
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食事を終え、僕達はゆっくり休む。辺りはすっかり真っ暗になっていたが、目の前の明るい空間がそれを忘れさせてしまう。
それぞれ気の向くままに話をしたり、ミルが持ってきてくれたお菓子やナッツを食べ、まるで自分の部屋にいるかのように寛いでいた。
トロイが突然ドドに相撲を挑んできた時は唖然とした。もちろん、トロイはボロ負けだった。
夜も更け、男性陣と女性陣、それぞれ別のテントで就寝となった。
「男3人で寝るってのもなかなか貴重な体験だな! いやー、襲われちまったらどうしよう?」
3人でシェラフに入り、明かりを消したのにトロイが呟く。
「1番襲いそうなのはトロイさんですよ」
右にトロイ、左にドドと2人に挟まれた僕が目を閉じながら呟く。テントの中は広々としていて、最新式のためか保温性にも優れており、寒さは感じない。
「あぁ。本当だ。そんな事言われたらこっちは眠れなくなっちまうぜ?」
ドドの言葉にトロイは静かに笑う。流石に夜の時間を弁えているのか、大声で笑わなかったため僕は安心する。だが、なんだかんだでドドは1番初めに寝てしまうんだろうな。
「俺は、今まで単独行動が多かったからさ。こうして、お前らといるのが自分でも不思議だ」
トロイの言葉に僕は共感する。僕も、ドドや一颯さんと会う前はずっと1人で行動する人間だったからだ。
「僕も以前はそうでした。1人でいても、何も不自由はなかった。でも、今はドドとミルがいてくれるだけで、すごく心強いと感じるんです。誰かといるだけで、景色が変わって、気付く事がたくさんあるんだなって解ったんです」
僕がそう語ると、トロイはふふんと鼻を鳴らす。
「想、お前は1人でいちゃいけない人間だ。俺とは違う。俺はー、生まれつきさ、そうできてたんだよ」
どこか寂しげな言葉をトロイは口にする。
「こんなに頼もしい男がいんだ。さっき相撲やってわかったぜ? 百々丸の身体はお前を支えてくれるってな。な、そうだろ? って、もう寝てんのか!」
左を見ると、ドドは既に寝息を立てて寝ている。
「ドドはいつもこんな感じです。トロイさんの言いたい事、なんとなくわかりました。仲間を大切にします」
僕の言葉に、トロイは嬉しそうに返事をして、僕達も眠りに就く事にした。
「またキャンプかー! ずるいぞー!」
そして、今はこうしてクアルトにいる。姉は昼間着ていた赤いシャツにグレーのキュロットのままだ。
「トロイさんをあの倉庫に連れて行くわけにはいかなかったからね」
そう、それが1番の理由なのだ。少しずつ信頼しているとは言え、トロイはゼブルムのメンバーなのだ。ゼブルムにあの場所はどうしても知られる訳にはいかない。ミルに迷惑も掛けたくないから尚更だ。
「そうだけどさー、あたしまたみんなとご飯食べたいんだもん! レグもずるい!」
姉さんはソファの上で胡座をかいて大層ご立腹だ。
「子供みたいな事をいうんじゃありませんよ煉美。この前、招待してもらったじゃないですか。我慢してください」
シクスがいつも通り、紅茶を持ってきながら姉を窘めた。
「わかったよ……我慢する」
姉は口を尖らせながら言い、紅茶を飲む。子供じゃないか。
「トロイさんの事はどう思う? 信用できると思う?」
僕も紅茶を口にする。優しい味が口の中に広がり、ソファに沈めた身が更に安らぐ。
「いかにも胡散臭そうな男だよねー。でも、お姉ちゃんは信用していいと思うよ?」
姉がそう言うのだから僕もそれに従おう。
「私も初めは警戒しましたが、大丈夫だと考えています。もし万が一、想を狙う様な事があっても、私達のどちらかが駆けつけるので、想は安心していてください」
シクスは本当に頼もしい。彼の言葉にも甘えて、トロイの事は仲間だと思って行動しよう。
僕は先程から、この部屋で流れていた音楽が気になっていた。静かで、どこか寂しげなピアノ。これも、ジャズなんだろうか?
「この曲が気になりますか? チック・コリアさんという御方の曲です。ジャズピアニストの巨匠ですね」
シクスが僕の心を見透かしたかのように察し、そう説明してくれた。
独特で、どこか浮遊感のあるメロディがくせになってしまう。明るくアップテンポな曲もあれば、キーボードで不思議な世界観を演出している曲もある。
暗い宇宙のド真ん中で漂うような心地さえしてきてしまう。
「すごく、素敵なピアノだ。この人は、天才だと思う」
僕は思った事をそのまま口に出す。
「私もそう思います。『天才』と呼ばれる人間は、本当に極々一握りです。でも、間違いなく彼は『真の天才』です」
シクスでさえもそう言い切ってしまった。世界には、僕の知らない音楽がまだまだたくさんあるんだ。
「あたしは前から思う事があるんだ。『世の中には凡人と天才の2種類の人間がいる』ってよく言われてるけど、本当はもう1種類いる。それがなんなのかはわからない。でも、そーくんがそれなんだと思う」
姉が円形の天井を見つめながらそう語った。あの天井は、どこか天体のようにも見える。
「姉さんの言う『それ』が何なのかはよくわからないけど、僕はただの凡人だよ。姉さんこそ、枠組みに囚われない人間だと思うけど?」
僕は少し困りながら言う。
「あたし? あたしはー、ただの天才だよ。でも、そーくんはもっとすごい存在だよ」
そう言った姉の言葉に、僕自身は全く自覚が湧かない。
「よくわかんないや。レグネッタさんも天才っぽそうだよね。頭よさそうだし」
僕がそう言うと、姉は笑い出す。
「それ、レグに絶対言っちゃダメね。あの娘、学校の勉強あまりしなかったからさ」
「えぇ!? あー、でも、確かに不良っぽいもんね。やっぱり眼鏡で誤魔化そうとしてるのかな?」
僕がそう言うと、姉はまた笑い、何度も頷いている。レグネッタさんは眼鏡をしていても本当に怖い。勉強関連の事は絶対に触れないでおこう。
「レグネッタさん、姉さんと会った時、すごい喜んでたよね? 僕達と接する態度と全然違う」
「そりゃあね! あたしら、大親友だから。まぁー、レグとは何度も衝突したし、何度も笑い合って、お互い助け合った仲だからね」
姉は当時の事を思い出しているのか、とても嬉しそうにしている。
「学生の頃から幽霊退治しててね。日本に留学してきて、その時に知り合ったんだ。いつも心霊スポット行くのに付き合わされたけどね」
そうだったのか。僕だったら心霊スポットなんて無理だ。レグネッタさんの影響もあるから、姉は幽霊も怖くないのだろうな。今はその幽霊そのものだが。
「そう言えば、姉さんよくホラー映画も見てたよね。あれもレグネッタさんの影響なの?」
「そうそう! レグがオススメしてくれたんだよね。ここでも映画見れるし、見る?」
姉が僕との間にある壁面を指さそうとし、僕は慌ててその指を押さえる。姉が女子高生時代、よく家でもホラー映画を一緒に見させられたのだが、僕は怖くていつも途中で断念した。
「懐かしいねー。ホラー映画見たあと、そーくんトイレ行くの怖くなっちゃってたもんね。今日は大丈夫? お姉ちゃん一緒にトイレ行ってあげよっか?」
「もうそんな子供じゃないんだよ。結構です」
姉はどこか本気でトイレについて行きたそうにそう言ったので、僕はむきになって反論する。本当は、今でもホラー映画を見たあとはトイレに行けないのだが、それは絶対に内緒だ。
「ファイナイトと戦ってみてどうだった?」
あの姉でさえも、ファイナイトには勝てなかった。それ程、僕達がこれから戦う敵は強いという事だ。
勝ち目がなくても、挑まなければ、また大勢の人間が死ぬ。時間があるうちに何とか打開策を見出し、最善の手を打たなければならない。
「ファイナイト……あいつ、強いね! もう1回くらいは戦ってみたいなー!」
真剣に考えていた僕の心を裏切るように、姉は楽しそうに言った。
「はぁ。そうじゃなくてさ、あいつを倒す方法とか、弱点とか何かないの?」
溜め息を吐いた僕の言葉に、姉は顰めっ面をする。
「あるわけないでしょうが! あいつは完全に先を予知しているし、仮に攻撃を受けても通じない、攻撃が通っても回復する。お手上げだね」
姉はなぜか怒るように開き直っている。
「ファイナイトはその耐久性、俊敏性も優れていますが、あの街を爆発させた光も強烈ですね。あれを想達が直に受けていたら助からないでしょう」
ずっと黙っていたシクスが意見を述べた。
「うん。あの爆発で、何人もの人々が亡くなってしまった。ミルがいなかったら回避する事なんてできないよ」
あの時、ミルは状況を正確に判断し、余裕を持って離れた場所まで移動させてくれたのだろう。
「ふむ。オリジンと言っていましたね。レグネッタさんやトロイさんの話を纏めると、やはり『宇宙人』と言ってしまった方が1番しっくり来るでしょうか?」
シクスの言葉に僕も頷く。そう、宇宙人が1番近い存在だろう。この宇宙を創り、星々を監視し、何か問題があればその星に手を加える存在。
つまり、僕達が住まうこの地球に、問題があったのか。
「レグの話では、過去にもオリジンらしき存在が地球に襲来したらしいし。恐らく、ファイナイトは、自分達が良しとしないものを排除する気だろう。そうやって、地球を自分達の理想に近付けるつもりなのかもね」
姉は白銀の髪を指で梳きながらそう言う。
「僕達の都合はおかまいなしって事か。だからって、黙ってやられるわけにはいかないし、今は闇雲に当たって行くしかないのかな?」
「闇雲にはなっちゃダメだよ。常に慎重に、相手の出方を見ながらも手を緩めずにね」
説得力がある姉の言葉を聞き、僕も納得する。
「次にファイナイトと戦う時は私が出ます」
シクスが落ち着いた口調で言う。
「えー。あたしもっかい戦いたいってば!」
「駄目です。次は私の番です!」
シクスも密かにファイナイトと戦ってみたいだけじゃないか。
「幽霊は気楽でいいよね。こっちなんて、命懸けなんだよ?」
睨み合っていた姉とシクスが僕を見る。
「まぁ、ファイナイトはそーくん達に殺意はなかったし、大丈夫じゃない? 勝負したいって言えば、案外ノリノリで受けてくれるタイプだよ、あれは」
ファイナイトが? いやいや、そんなノリのいいタイプではないだろう。
「そうなんですか? ならばやはり次は私が挑戦します」
姉の適当な発言をシクスが真に受けていた。
「はいはい、もうわかったよ。お姉ちゃんが諦めますー」
観念した姉は腕を伸ばした後、ソファで横になった。
「シクス、がんばろう。僕達の力がどこまで通用するかわからないけど、ぶつけてみよう」
僕の言葉にシクスは無言で頷き、横になっていた姉がその様子を片目で見て微笑んでいた。
それぞれ気の向くままに話をしたり、ミルが持ってきてくれたお菓子やナッツを食べ、まるで自分の部屋にいるかのように寛いでいた。
トロイが突然ドドに相撲を挑んできた時は唖然とした。もちろん、トロイはボロ負けだった。
夜も更け、男性陣と女性陣、それぞれ別のテントで就寝となった。
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3人でシェラフに入り、明かりを消したのにトロイが呟く。
「1番襲いそうなのはトロイさんですよ」
右にトロイ、左にドドと2人に挟まれた僕が目を閉じながら呟く。テントの中は広々としていて、最新式のためか保温性にも優れており、寒さは感じない。
「あぁ。本当だ。そんな事言われたらこっちは眠れなくなっちまうぜ?」
ドドの言葉にトロイは静かに笑う。流石に夜の時間を弁えているのか、大声で笑わなかったため僕は安心する。だが、なんだかんだでドドは1番初めに寝てしまうんだろうな。
「俺は、今まで単独行動が多かったからさ。こうして、お前らといるのが自分でも不思議だ」
トロイの言葉に僕は共感する。僕も、ドドや一颯さんと会う前はずっと1人で行動する人間だったからだ。
「僕も以前はそうでした。1人でいても、何も不自由はなかった。でも、今はドドとミルがいてくれるだけで、すごく心強いと感じるんです。誰かといるだけで、景色が変わって、気付く事がたくさんあるんだなって解ったんです」
僕がそう語ると、トロイはふふんと鼻を鳴らす。
「想、お前は1人でいちゃいけない人間だ。俺とは違う。俺はー、生まれつきさ、そうできてたんだよ」
どこか寂しげな言葉をトロイは口にする。
「こんなに頼もしい男がいんだ。さっき相撲やってわかったぜ? 百々丸の身体はお前を支えてくれるってな。な、そうだろ? って、もう寝てんのか!」
左を見ると、ドドは既に寝息を立てて寝ている。
「ドドはいつもこんな感じです。トロイさんの言いたい事、なんとなくわかりました。仲間を大切にします」
僕の言葉に、トロイは嬉しそうに返事をして、僕達も眠りに就く事にした。
「またキャンプかー! ずるいぞー!」
そして、今はこうしてクアルトにいる。姉は昼間着ていた赤いシャツにグレーのキュロットのままだ。
「トロイさんをあの倉庫に連れて行くわけにはいかなかったからね」
そう、それが1番の理由なのだ。少しずつ信頼しているとは言え、トロイはゼブルムのメンバーなのだ。ゼブルムにあの場所はどうしても知られる訳にはいかない。ミルに迷惑も掛けたくないから尚更だ。
「そうだけどさー、あたしまたみんなとご飯食べたいんだもん! レグもずるい!」
姉さんはソファの上で胡座をかいて大層ご立腹だ。
「子供みたいな事をいうんじゃありませんよ煉美。この前、招待してもらったじゃないですか。我慢してください」
シクスがいつも通り、紅茶を持ってきながら姉を窘めた。
「わかったよ……我慢する」
姉は口を尖らせながら言い、紅茶を飲む。子供じゃないか。
「トロイさんの事はどう思う? 信用できると思う?」
僕も紅茶を口にする。優しい味が口の中に広がり、ソファに沈めた身が更に安らぐ。
「いかにも胡散臭そうな男だよねー。でも、お姉ちゃんは信用していいと思うよ?」
姉がそう言うのだから僕もそれに従おう。
「私も初めは警戒しましたが、大丈夫だと考えています。もし万が一、想を狙う様な事があっても、私達のどちらかが駆けつけるので、想は安心していてください」
シクスは本当に頼もしい。彼の言葉にも甘えて、トロイの事は仲間だと思って行動しよう。
僕は先程から、この部屋で流れていた音楽が気になっていた。静かで、どこか寂しげなピアノ。これも、ジャズなんだろうか?
「この曲が気になりますか? チック・コリアさんという御方の曲です。ジャズピアニストの巨匠ですね」
シクスが僕の心を見透かしたかのように察し、そう説明してくれた。
独特で、どこか浮遊感のあるメロディがくせになってしまう。明るくアップテンポな曲もあれば、キーボードで不思議な世界観を演出している曲もある。
暗い宇宙のド真ん中で漂うような心地さえしてきてしまう。
「すごく、素敵なピアノだ。この人は、天才だと思う」
僕は思った事をそのまま口に出す。
「私もそう思います。『天才』と呼ばれる人間は、本当に極々一握りです。でも、間違いなく彼は『真の天才』です」
シクスでさえもそう言い切ってしまった。世界には、僕の知らない音楽がまだまだたくさんあるんだ。
「あたしは前から思う事があるんだ。『世の中には凡人と天才の2種類の人間がいる』ってよく言われてるけど、本当はもう1種類いる。それがなんなのかはわからない。でも、そーくんがそれなんだと思う」
姉が円形の天井を見つめながらそう語った。あの天井は、どこか天体のようにも見える。
「姉さんの言う『それ』が何なのかはよくわからないけど、僕はただの凡人だよ。姉さんこそ、枠組みに囚われない人間だと思うけど?」
僕は少し困りながら言う。
「あたし? あたしはー、ただの天才だよ。でも、そーくんはもっとすごい存在だよ」
そう言った姉の言葉に、僕自身は全く自覚が湧かない。
「よくわかんないや。レグネッタさんも天才っぽそうだよね。頭よさそうだし」
僕がそう言うと、姉は笑い出す。
「それ、レグに絶対言っちゃダメね。あの娘、学校の勉強あまりしなかったからさ」
「えぇ!? あー、でも、確かに不良っぽいもんね。やっぱり眼鏡で誤魔化そうとしてるのかな?」
僕がそう言うと、姉はまた笑い、何度も頷いている。レグネッタさんは眼鏡をしていても本当に怖い。勉強関連の事は絶対に触れないでおこう。
「レグネッタさん、姉さんと会った時、すごい喜んでたよね? 僕達と接する態度と全然違う」
「そりゃあね! あたしら、大親友だから。まぁー、レグとは何度も衝突したし、何度も笑い合って、お互い助け合った仲だからね」
姉は当時の事を思い出しているのか、とても嬉しそうにしている。
「学生の頃から幽霊退治しててね。日本に留学してきて、その時に知り合ったんだ。いつも心霊スポット行くのに付き合わされたけどね」
そうだったのか。僕だったら心霊スポットなんて無理だ。レグネッタさんの影響もあるから、姉は幽霊も怖くないのだろうな。今はその幽霊そのものだが。
「そう言えば、姉さんよくホラー映画も見てたよね。あれもレグネッタさんの影響なの?」
「そうそう! レグがオススメしてくれたんだよね。ここでも映画見れるし、見る?」
姉が僕との間にある壁面を指さそうとし、僕は慌ててその指を押さえる。姉が女子高生時代、よく家でもホラー映画を一緒に見させられたのだが、僕は怖くていつも途中で断念した。
「懐かしいねー。ホラー映画見たあと、そーくんトイレ行くの怖くなっちゃってたもんね。今日は大丈夫? お姉ちゃん一緒にトイレ行ってあげよっか?」
「もうそんな子供じゃないんだよ。結構です」
姉はどこか本気でトイレについて行きたそうにそう言ったので、僕はむきになって反論する。本当は、今でもホラー映画を見たあとはトイレに行けないのだが、それは絶対に内緒だ。
「ファイナイトと戦ってみてどうだった?」
あの姉でさえも、ファイナイトには勝てなかった。それ程、僕達がこれから戦う敵は強いという事だ。
勝ち目がなくても、挑まなければ、また大勢の人間が死ぬ。時間があるうちに何とか打開策を見出し、最善の手を打たなければならない。
「ファイナイト……あいつ、強いね! もう1回くらいは戦ってみたいなー!」
真剣に考えていた僕の心を裏切るように、姉は楽しそうに言った。
「はぁ。そうじゃなくてさ、あいつを倒す方法とか、弱点とか何かないの?」
溜め息を吐いた僕の言葉に、姉は顰めっ面をする。
「あるわけないでしょうが! あいつは完全に先を予知しているし、仮に攻撃を受けても通じない、攻撃が通っても回復する。お手上げだね」
姉はなぜか怒るように開き直っている。
「ファイナイトはその耐久性、俊敏性も優れていますが、あの街を爆発させた光も強烈ですね。あれを想達が直に受けていたら助からないでしょう」
ずっと黙っていたシクスが意見を述べた。
「うん。あの爆発で、何人もの人々が亡くなってしまった。ミルがいなかったら回避する事なんてできないよ」
あの時、ミルは状況を正確に判断し、余裕を持って離れた場所まで移動させてくれたのだろう。
「ふむ。オリジンと言っていましたね。レグネッタさんやトロイさんの話を纏めると、やはり『宇宙人』と言ってしまった方が1番しっくり来るでしょうか?」
シクスの言葉に僕も頷く。そう、宇宙人が1番近い存在だろう。この宇宙を創り、星々を監視し、何か問題があればその星に手を加える存在。
つまり、僕達が住まうこの地球に、問題があったのか。
「レグの話では、過去にもオリジンらしき存在が地球に襲来したらしいし。恐らく、ファイナイトは、自分達が良しとしないものを排除する気だろう。そうやって、地球を自分達の理想に近付けるつもりなのかもね」
姉は白銀の髪を指で梳きながらそう言う。
「僕達の都合はおかまいなしって事か。だからって、黙ってやられるわけにはいかないし、今は闇雲に当たって行くしかないのかな?」
「闇雲にはなっちゃダメだよ。常に慎重に、相手の出方を見ながらも手を緩めずにね」
説得力がある姉の言葉を聞き、僕も納得する。
「次にファイナイトと戦う時は私が出ます」
シクスが落ち着いた口調で言う。
「えー。あたしもっかい戦いたいってば!」
「駄目です。次は私の番です!」
シクスも密かにファイナイトと戦ってみたいだけじゃないか。
「幽霊は気楽でいいよね。こっちなんて、命懸けなんだよ?」
睨み合っていた姉とシクスが僕を見る。
「まぁ、ファイナイトはそーくん達に殺意はなかったし、大丈夫じゃない? 勝負したいって言えば、案外ノリノリで受けてくれるタイプだよ、あれは」
ファイナイトが? いやいや、そんなノリのいいタイプではないだろう。
「そうなんですか? ならばやはり次は私が挑戦します」
姉の適当な発言をシクスが真に受けていた。
「はいはい、もうわかったよ。お姉ちゃんが諦めますー」
観念した姉は腕を伸ばした後、ソファで横になった。
「シクス、がんばろう。僕達の力がどこまで通用するかわからないけど、ぶつけてみよう」
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