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第5章 ファイナイト
5-8 フォールン・トロイ
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「ゼブルム!? なぜこんな所に!?」
僕は思わず立ち上がって身構える。「フォールン・トロイ」と名乗った長身のウェーブヘア男は、依然とにんまりとした笑顔で僕達4人を眺めている。
「エイシストに聞いたんだ。ここに来れば会えるってねー。こんな森の中にいるわけねぇだろーって思ってたんだが、まさか本当に会えるとはなー、いやーよかったよかった!」
エイシストの差し金か。選りに選ってこんな時に。ミルとドド、レグネッタさんも立ち上がり、突然の来訪者を警戒する。
「ゼブルムのクズか。いいだろう相手してやる」
レグネッタさんは腰のホルスターから2挺の拳銃を抜く。フォールン・トロイは意味ありげな笑顔を浮かべている。
「いいねいいねー! 血気盛んじゃないかぁ! そうこなくっちゃな!」
フォールン・トロイは腕を伸ばしてから構え出す。
「俺達4人を相手に随分余裕だな。覚悟しろよ」
「ん? あ? いや、ちょっと待てでかいの。4人は流石に無理だな!? サシでやろう! な? 青緑! 弖寅衣 想くんだよな? 君でいい。OK?」
ウェーブヘアの男はドドの言葉に慌て出した。なんだコイツは。
「僕とか。やってやる。みんなは下がっててくれ」
そう言ってから、僕はチェアから離れ、戦いやすいスペースへと移動する。奴はニヤニヤしながら頷き、そして僕の前に立った。
「それじゃ、始めよう。遠慮なくいかせてもらう」
と、フォールン・トロイは飛び出し、ストレートに拳を放ってきた。長身だが、シクス程高くない。この程度のリーチならなんて事はなく、僕は右にステップを踏んで躱す。
そして、右の脚で蹴り払うように奴の脇腹を狙う。
「おおっとー! くぅ、効くねぇ!」
奴は左脚を折り曲げてガードした。ならば、グラインドを使う。近くに落ちていた長い木の枝をしならせるようにして、奴の背中に向けて叩き付けた。
「ぬおっ!? くっ、これが噂の名も無きグラインドの力か」
フォールン・トロイは前のめりになりながら体勢を崩した。僕はそこで奴の足元に落ちていた木の葉を舞い上がらせる。
思わぬ視界妨害に奴は腕で顔を覆う。ガラ空きになったボディに向けて、僕は透かさず拳を放つ。
「なに!?」
声を発したのは僕だ。殺気。敵は目の前にいるのに、背後から凍りつくような殺気を感じ、僕は放とうとした拳を思わず背後に放った。しかし、そこには何もなかった。
「もらったぁ!」
やはり前か。気付いた時には遅く、奴の放ったボディブローが僕の腹部を直撃した。
「ぐはっ!? くっ、こいつ!」
腹に痛みを感じながらも、僕は足に力を入れて踏ん張り、先程まで僕が使っていたチェアを奴の膝裏に向けて思い切り当てた。
「うわ! ちょ!?」
体勢を崩して地面に仰向けに倒れたフォールン・トロイの顔目掛け、僕は拳を飛ばす。
「だぁーっ! ちょっと待った! 降参だ! 俺の負け!」
「は、はぁ?」
寸前で拳を止めようとしたが、僕の拳は奴の額に当たり、奴は痛みを感じながら情けない顔をしている。
「あ、モジャ髪さんすみません。痛かったですか?」
突然の降参宣言につい変な呼び方をして謝ってしまった。
「あーいいっていいって。このくらい、全然痛くないもんねー……って、誰が『モジャ髪さん』だー!? 俺のことかー!?」
立ち上がった途端に、フォールン・トロイは僕が言った呼び方に気付いて慌てるように突っ込む。
「すいません。つい、ポロっと」
「……ぷっ! ダハハハハ! いいね! 気に入った! お前に付いて行く事にするよ」
な、なんだって?
「えー!?」
僕と同時にミルも驚嘆の声を上げた。そこへドドが近寄って来る。
「おいちょっと待て! お前、ゼブルムの人間なんだろ? 何考えてんだ?」
ドドは半ば呆れ気味に問い質す。
「まぁ、いいじゃねぇか。な? サポートもするしさ」
「よくありません! あなたはわたくし達の敵なんですのよ? しかも、あのオレンジ髪の人に言われてやって来たのですのよね? 信用できません!」
ミルは捲し立てながら、フォールン・トロイへと詰め寄った。
彼女の言う通り、今まで散々対立してきたゼブルムの人間と行動を共にするなど、危険極まりなく、安心できるわけが無い。寝込みを襲われる危険性も充分に有り得る。
「まぁ、信じてもらえないのもご尤も。俺は、組織に属するのが嫌いな人間でね。あまり任務とは無縁なのよ。各地をぶらつきながら自由にやらせてもらってんだ」
いわゆる「はぐれ」というものだろうか?
「それと、俺あまりアイツら好きじゃねぇんだよね! ハハハッ! あっ、これ他の奴らには内緒ね。まー、ゼブルムも一枚岩じゃねえってわけ」
目の前の怪しい男は、至ってちゃらけた口調であるが、嘘を言っているようにも見えない。
「元々、エイシストの野郎がずっと弖寅衣 想を探してたんだが、ここ数日全く居場所が視えなかったらしい。だが、あいつはあの白髪の坊主が日本に来ている事を知って、ずっとお前を心配してたみたいだ。んで、ついさっき連絡を受けてな。ここに行けと。あいつは今忙しいらしくてなー。それで、何かと融通が利く俺に白羽の矢が立ったってわけだ」
フォールン・トロイは、僕が先程飛ばしたアウトドアチェアに座り、そう話した。やはり、エイシストの未来予知を回避する事には成功していたようだ。
「あいつとは昔からの馴染みで、世話にもなったからな。そのあいつが、やけに真剣にお前の事を話したんだ。助けてやってくれってな。だから、ちょっと試すためにも一戦交えさせてもらった。悪かったな!」
エイシストが僕を助けたいだと? 益々腹の内が見えない奴だ。それは、目の前のこの男も同じだ。
そこへ、レグネッタさんが近付き、銃口をフォールン・トロイへと向ける。
「どんな事情があるにせよ、貴様らはゼブルムだ。お前らの悪評は私も散々耳にした。同行を許可できるとでも思うか?」
銃口を向けられても、フォールン・トロイは臆する事無く、レグネッタさんを真っ直ぐに見詰めている。
「綺麗な姉さんじゃないか。俺だって、自分の立場は弁えてるさ。だから、ここに誓う。お前達に、危害を加える事は絶対にしない」
そう言って、フォールン・トロイは僕達1人1人に視線を注いだ。
「はぁ。仕方ない。許可しよう」
僕がそう言うと、フォールン・トロイは再びにんまりと笑みを浮かべた。
「想ー! 弖寅衣 想! いいやつだなー! 益々気に入った!」
そう言って彼は僕に抱きついてきた。
「想、お前もついにとち狂ったか? はぁ。いいか? トロイ、妙な真似をしたらすぐに貴様の頭をぶち抜くぞ?」
レグネッタさんは頭を押さえながらトロイを脅す。
「OK OK! 絶対に変な事はしない。名前聞いてなかったな。レグネッタ? いい名前だな!」
トロイ1人だけ楽しそうにしており、明らかにこの場の空気に浮いている。
「俺は百々丸だ。変なのに懐かれちまったな想も。しかも、こいつ強そうに見えねー」
ドドは露骨に不安そうにしながらそう言う。
「百々丸か! よろしくな。俺のグラインドはちょっと特殊でな。絶対役に立つ。その時が来るまでのお楽しみだ」
トロイのグラインド。先程戦った時に、一瞬だけ背後に感じた気配。恐らくあれがグラインドの片鱗なのだろう。
「わたくしもあまり気は進みませんわ。でも、想様が決めた事です。わたくしは従いますわ」
ミルはそう言いながら決意を固めているようだった。
「ありがとうお嬢さん! 確か、ミルティーユさんで合ってるか? エイシストの奴から聞いてる。あのナターシャを倒したんだろ? とんでもないねー!」
トロイに言われ、ミルは満更でもないのか、少し口元が綻ぶ。
「とりあえず、あなたの事を信用します。これからよろしくお願いします。ところで、僕達はこれからここでキャンプする予定なのですが、ご一緒するんですよね?」
僕達は先程まで休息していた場所に戻り、トロイに確認をとる。
「キャンプか! いいねいいねー。と、俺にもコーヒーをくれないか? さっきからいい匂いがしてたまらないんだ」
ドドが溜め息を吐きながらも、マグカップにコーヒーを入れる。ミルは倉庫から新しいチェアを出し、それをトロイに渡す。
「おほ! ありがとう、2人とも。ありがたく頂くよ。うーん! やっぱ自然の中でのコーヒーは上手いね」
そう言ったトロイの顔は、素直にコーヒーを味わっているようにしか見えなく、僕は彼の事を少しずつ信じてしまう。
「そろそろ陽が落ちてきたな。ここで食事も作るつもりか?」
レグネッタさんはまたタバコに火を付けながら聞く。辺りの空はすっかり夕焼け色だ。
「あぁ、そうする。ミル、食材を取りに行きたいから倉庫まで連れてってもらえるか?」
「えぇ、いいですとも! 行きましょう!」
ミルと共にドドは消えていく。あとに残されたのは僕と、レグネッタさんと、そしてトロイ。なんて気まずい空間なんだ。
「あ、僕、近くの川で水汲んでこようかなー」
「そうか! それじゃあトロイお兄さんも一緒に行かなくちゃな! 想といつも一緒だ!」
そう言ってトロイお兄さんはチェアから立ち上がる。外国人の年齢は予想がつきにくいが、おそらく30代の真ん中あたりだろうか。おじさんだよな。
「あぁ? お前も行くのか? じゃあ、私も行かなくちゃなんないだろが。想に何かあったらあいつに怒られるからな。めんどくせ」
そう言ってレグネッタさんは嫌そうな顔をしながらも、タバコを消してから立ち上がる。
そんなわけで、結局3人で川まで行く事になってしまい、気まずい空気から脱する事には失敗した。
「いいなー。ガキの頃のピクニックを思い出すよ」
トロイだけが常に楽しそうにしている。
「トロイさんは、なんでゼブルムにいるんですか?」
僕はこの場の空気に居た堪れなくなり、とりあえず質問をしてみた。
「まぁ、成り行きでな。俺は昔から自分の力を持て余していた。異常な力を、何に使えばいいのかわからなくて、とりあえず捌け口になりそうな事は手当たり次第やってきた。まぁ、悪い事ばっかだったがな! それで奴らに声を掛けられて、自分の力を試せると思ってな」
トロイはそう語った。以前戦ったディキャピテーションも僕を誘い、ゼブルムはグラインダーをスカウトしていると言っていたな。
「はっ。とんだ迷惑だな。お前達のやってきた事は犯罪だ。人類への侮辱に過ぎない」
レグネッタさんは冷たい言葉を吐き、近くの木々を見ていた。
「確かに。あんたの言う通りだ。俺は、ゼブルムのやってる事は正しいとは言わないが、だが偏に間違ってるとも言い切る事ができない。最近になってからわからなくなってんだよなー。それもあって、お前達といて見極めたいんだ」
能天気そうで意外と考えているようだ。
「僕はゼブルムのやり方は間違ってるとしか思えないですけどね。でも、トロイさんの考え方はわかりました。あ、川がありましたよ」
目の前に川が見え、僕は手に持ったペットボトルの蓋を開けて水を汲む。その僕に並んでトロイも水を汲む。
「それでいいのさ。全てが分かり合える事なんて有り得ないんだ。ただ、今はわけわからねぇ坊主が暴れようとしてんだ。俺は、想、お前に力を貸す」
トロイはそう言って、横から僕に笑いかけた。
「全く、調子が狂うな。水汲んだらさっさと戻るぞ。私はタバコが吸いたいし、コーヒーが飲みたい」
後ろに立っていたレグネッタさんが髪を掻き上げながら言う。
「あぁ、戻ろう! 晩飯ご馳走してくれんだろ? ひっひっひー! さっきから楽しみで仕方ないんだ!」
相変わらず1人だけおかしなテンションだが、気まずい空気は少しだけ和らいだような気もする。
僕は思わず立ち上がって身構える。「フォールン・トロイ」と名乗った長身のウェーブヘア男は、依然とにんまりとした笑顔で僕達4人を眺めている。
「エイシストに聞いたんだ。ここに来れば会えるってねー。こんな森の中にいるわけねぇだろーって思ってたんだが、まさか本当に会えるとはなー、いやーよかったよかった!」
エイシストの差し金か。選りに選ってこんな時に。ミルとドド、レグネッタさんも立ち上がり、突然の来訪者を警戒する。
「ゼブルムのクズか。いいだろう相手してやる」
レグネッタさんは腰のホルスターから2挺の拳銃を抜く。フォールン・トロイは意味ありげな笑顔を浮かべている。
「いいねいいねー! 血気盛んじゃないかぁ! そうこなくっちゃな!」
フォールン・トロイは腕を伸ばしてから構え出す。
「俺達4人を相手に随分余裕だな。覚悟しろよ」
「ん? あ? いや、ちょっと待てでかいの。4人は流石に無理だな!? サシでやろう! な? 青緑! 弖寅衣 想くんだよな? 君でいい。OK?」
ウェーブヘアの男はドドの言葉に慌て出した。なんだコイツは。
「僕とか。やってやる。みんなは下がっててくれ」
そう言ってから、僕はチェアから離れ、戦いやすいスペースへと移動する。奴はニヤニヤしながら頷き、そして僕の前に立った。
「それじゃ、始めよう。遠慮なくいかせてもらう」
と、フォールン・トロイは飛び出し、ストレートに拳を放ってきた。長身だが、シクス程高くない。この程度のリーチならなんて事はなく、僕は右にステップを踏んで躱す。
そして、右の脚で蹴り払うように奴の脇腹を狙う。
「おおっとー! くぅ、効くねぇ!」
奴は左脚を折り曲げてガードした。ならば、グラインドを使う。近くに落ちていた長い木の枝をしならせるようにして、奴の背中に向けて叩き付けた。
「ぬおっ!? くっ、これが噂の名も無きグラインドの力か」
フォールン・トロイは前のめりになりながら体勢を崩した。僕はそこで奴の足元に落ちていた木の葉を舞い上がらせる。
思わぬ視界妨害に奴は腕で顔を覆う。ガラ空きになったボディに向けて、僕は透かさず拳を放つ。
「なに!?」
声を発したのは僕だ。殺気。敵は目の前にいるのに、背後から凍りつくような殺気を感じ、僕は放とうとした拳を思わず背後に放った。しかし、そこには何もなかった。
「もらったぁ!」
やはり前か。気付いた時には遅く、奴の放ったボディブローが僕の腹部を直撃した。
「ぐはっ!? くっ、こいつ!」
腹に痛みを感じながらも、僕は足に力を入れて踏ん張り、先程まで僕が使っていたチェアを奴の膝裏に向けて思い切り当てた。
「うわ! ちょ!?」
体勢を崩して地面に仰向けに倒れたフォールン・トロイの顔目掛け、僕は拳を飛ばす。
「だぁーっ! ちょっと待った! 降参だ! 俺の負け!」
「は、はぁ?」
寸前で拳を止めようとしたが、僕の拳は奴の額に当たり、奴は痛みを感じながら情けない顔をしている。
「あ、モジャ髪さんすみません。痛かったですか?」
突然の降参宣言につい変な呼び方をして謝ってしまった。
「あーいいっていいって。このくらい、全然痛くないもんねー……って、誰が『モジャ髪さん』だー!? 俺のことかー!?」
立ち上がった途端に、フォールン・トロイは僕が言った呼び方に気付いて慌てるように突っ込む。
「すいません。つい、ポロっと」
「……ぷっ! ダハハハハ! いいね! 気に入った! お前に付いて行く事にするよ」
な、なんだって?
「えー!?」
僕と同時にミルも驚嘆の声を上げた。そこへドドが近寄って来る。
「おいちょっと待て! お前、ゼブルムの人間なんだろ? 何考えてんだ?」
ドドは半ば呆れ気味に問い質す。
「まぁ、いいじゃねぇか。な? サポートもするしさ」
「よくありません! あなたはわたくし達の敵なんですのよ? しかも、あのオレンジ髪の人に言われてやって来たのですのよね? 信用できません!」
ミルは捲し立てながら、フォールン・トロイへと詰め寄った。
彼女の言う通り、今まで散々対立してきたゼブルムの人間と行動を共にするなど、危険極まりなく、安心できるわけが無い。寝込みを襲われる危険性も充分に有り得る。
「まぁ、信じてもらえないのもご尤も。俺は、組織に属するのが嫌いな人間でね。あまり任務とは無縁なのよ。各地をぶらつきながら自由にやらせてもらってんだ」
いわゆる「はぐれ」というものだろうか?
「それと、俺あまりアイツら好きじゃねぇんだよね! ハハハッ! あっ、これ他の奴らには内緒ね。まー、ゼブルムも一枚岩じゃねえってわけ」
目の前の怪しい男は、至ってちゃらけた口調であるが、嘘を言っているようにも見えない。
「元々、エイシストの野郎がずっと弖寅衣 想を探してたんだが、ここ数日全く居場所が視えなかったらしい。だが、あいつはあの白髪の坊主が日本に来ている事を知って、ずっとお前を心配してたみたいだ。んで、ついさっき連絡を受けてな。ここに行けと。あいつは今忙しいらしくてなー。それで、何かと融通が利く俺に白羽の矢が立ったってわけだ」
フォールン・トロイは、僕が先程飛ばしたアウトドアチェアに座り、そう話した。やはり、エイシストの未来予知を回避する事には成功していたようだ。
「あいつとは昔からの馴染みで、世話にもなったからな。そのあいつが、やけに真剣にお前の事を話したんだ。助けてやってくれってな。だから、ちょっと試すためにも一戦交えさせてもらった。悪かったな!」
エイシストが僕を助けたいだと? 益々腹の内が見えない奴だ。それは、目の前のこの男も同じだ。
そこへ、レグネッタさんが近付き、銃口をフォールン・トロイへと向ける。
「どんな事情があるにせよ、貴様らはゼブルムだ。お前らの悪評は私も散々耳にした。同行を許可できるとでも思うか?」
銃口を向けられても、フォールン・トロイは臆する事無く、レグネッタさんを真っ直ぐに見詰めている。
「綺麗な姉さんじゃないか。俺だって、自分の立場は弁えてるさ。だから、ここに誓う。お前達に、危害を加える事は絶対にしない」
そう言って、フォールン・トロイは僕達1人1人に視線を注いだ。
「はぁ。仕方ない。許可しよう」
僕がそう言うと、フォールン・トロイは再びにんまりと笑みを浮かべた。
「想ー! 弖寅衣 想! いいやつだなー! 益々気に入った!」
そう言って彼は僕に抱きついてきた。
「想、お前もついにとち狂ったか? はぁ。いいか? トロイ、妙な真似をしたらすぐに貴様の頭をぶち抜くぞ?」
レグネッタさんは頭を押さえながらトロイを脅す。
「OK OK! 絶対に変な事はしない。名前聞いてなかったな。レグネッタ? いい名前だな!」
トロイ1人だけ楽しそうにしており、明らかにこの場の空気に浮いている。
「俺は百々丸だ。変なのに懐かれちまったな想も。しかも、こいつ強そうに見えねー」
ドドは露骨に不安そうにしながらそう言う。
「百々丸か! よろしくな。俺のグラインドはちょっと特殊でな。絶対役に立つ。その時が来るまでのお楽しみだ」
トロイのグラインド。先程戦った時に、一瞬だけ背後に感じた気配。恐らくあれがグラインドの片鱗なのだろう。
「わたくしもあまり気は進みませんわ。でも、想様が決めた事です。わたくしは従いますわ」
ミルはそう言いながら決意を固めているようだった。
「ありがとうお嬢さん! 確か、ミルティーユさんで合ってるか? エイシストの奴から聞いてる。あのナターシャを倒したんだろ? とんでもないねー!」
トロイに言われ、ミルは満更でもないのか、少し口元が綻ぶ。
「とりあえず、あなたの事を信用します。これからよろしくお願いします。ところで、僕達はこれからここでキャンプする予定なのですが、ご一緒するんですよね?」
僕達は先程まで休息していた場所に戻り、トロイに確認をとる。
「キャンプか! いいねいいねー。と、俺にもコーヒーをくれないか? さっきからいい匂いがしてたまらないんだ」
ドドが溜め息を吐きながらも、マグカップにコーヒーを入れる。ミルは倉庫から新しいチェアを出し、それをトロイに渡す。
「おほ! ありがとう、2人とも。ありがたく頂くよ。うーん! やっぱ自然の中でのコーヒーは上手いね」
そう言ったトロイの顔は、素直にコーヒーを味わっているようにしか見えなく、僕は彼の事を少しずつ信じてしまう。
「そろそろ陽が落ちてきたな。ここで食事も作るつもりか?」
レグネッタさんはまたタバコに火を付けながら聞く。辺りの空はすっかり夕焼け色だ。
「あぁ、そうする。ミル、食材を取りに行きたいから倉庫まで連れてってもらえるか?」
「えぇ、いいですとも! 行きましょう!」
ミルと共にドドは消えていく。あとに残されたのは僕と、レグネッタさんと、そしてトロイ。なんて気まずい空間なんだ。
「あ、僕、近くの川で水汲んでこようかなー」
「そうか! それじゃあトロイお兄さんも一緒に行かなくちゃな! 想といつも一緒だ!」
そう言ってトロイお兄さんはチェアから立ち上がる。外国人の年齢は予想がつきにくいが、おそらく30代の真ん中あたりだろうか。おじさんだよな。
「あぁ? お前も行くのか? じゃあ、私も行かなくちゃなんないだろが。想に何かあったらあいつに怒られるからな。めんどくせ」
そう言ってレグネッタさんは嫌そうな顔をしながらも、タバコを消してから立ち上がる。
そんなわけで、結局3人で川まで行く事になってしまい、気まずい空気から脱する事には失敗した。
「いいなー。ガキの頃のピクニックを思い出すよ」
トロイだけが常に楽しそうにしている。
「トロイさんは、なんでゼブルムにいるんですか?」
僕はこの場の空気に居た堪れなくなり、とりあえず質問をしてみた。
「まぁ、成り行きでな。俺は昔から自分の力を持て余していた。異常な力を、何に使えばいいのかわからなくて、とりあえず捌け口になりそうな事は手当たり次第やってきた。まぁ、悪い事ばっかだったがな! それで奴らに声を掛けられて、自分の力を試せると思ってな」
トロイはそう語った。以前戦ったディキャピテーションも僕を誘い、ゼブルムはグラインダーをスカウトしていると言っていたな。
「はっ。とんだ迷惑だな。お前達のやってきた事は犯罪だ。人類への侮辱に過ぎない」
レグネッタさんは冷たい言葉を吐き、近くの木々を見ていた。
「確かに。あんたの言う通りだ。俺は、ゼブルムのやってる事は正しいとは言わないが、だが偏に間違ってるとも言い切る事ができない。最近になってからわからなくなってんだよなー。それもあって、お前達といて見極めたいんだ」
能天気そうで意外と考えているようだ。
「僕はゼブルムのやり方は間違ってるとしか思えないですけどね。でも、トロイさんの考え方はわかりました。あ、川がありましたよ」
目の前に川が見え、僕は手に持ったペットボトルの蓋を開けて水を汲む。その僕に並んでトロイも水を汲む。
「それでいいのさ。全てが分かり合える事なんて有り得ないんだ。ただ、今はわけわからねぇ坊主が暴れようとしてんだ。俺は、想、お前に力を貸す」
トロイはそう言って、横から僕に笑いかけた。
「全く、調子が狂うな。水汲んだらさっさと戻るぞ。私はタバコが吸いたいし、コーヒーが飲みたい」
後ろに立っていたレグネッタさんが髪を掻き上げながら言う。
「あぁ、戻ろう! 晩飯ご馳走してくれんだろ? ひっひっひー! さっきから楽しみで仕方ないんだ!」
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