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第5章 ファイナイト
5-6 メガネ
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「レグ、またね」
姉はそう言い、レグネッタさんに手を振り、微笑みながら消えていった。
「レグネッタさん、姉は1日10分しかこっちの世界に来れないんです」
ミルに連れられて彼女の近くに来た僕はそう声を掛けた。
「そうか。制限付きか。まぁ、あいつが『また』って言ってんだから、私は信じる」
レグネッタさんが右手に持つ黒い拳銃の光は収まり、黄光の鞭もいつの間にか消えていた。
「レグネッタさんだったか? その銃、なんだか不思議な銃だな」
ドドがその銃を見ながら言った。レグネッタさんは真剣な眼差しを黒縁メガネの奥から放つ。
「でかいな。話は後だ。あいつが、また来る」
レグネッタさんの言葉と共に、ファイナイトが光を放ちながら空中に現れた。あの2人の激しい攻撃を食らっても尚平然としているのか。「オリジン」とは一体何なのだ?
「弖寅衣 煉美は消えたか。制限時間か」
ファイナイトはそう言って、地上の僕達を冷ややかに見下ろしている。
「ファイナイト、君の目的が何なのかは知らない。だが、これ以上君の好きにはさせない」
「群青の男、弖寅衣 想。無駄を知れ。ぬしの力では我の前に立つ事すらできぬ」
無常に言い放ったファイナイトは両腕を横に広げる。すると、周囲に次々と爆発が巻き起こった。
「くっ、これはまずいな」
「レグネッタさん、わたくし達の近くに。一緒に移動します!」
ミルの言葉にレグネッタさんは戸惑いながらも近寄る。4人でファイナイトの背後に位置するビルの屋上へと移動していた。
「これでも食らえ」
無駄だとわかっても攻撃する。レグネッタさんが先程姉に言っていた言葉を思い出しながら、僕は周囲のビルのガラスを割り、ファイナイトへと向けてグラインドで飛ばす。
「わたくしも、撃ちます!」
ミルも空中に浮かぶファイナイトに向けてオートマチックの拳銃を撃つ。そのミルに並び、レグネッタさんも加勢してリボルバーの拳銃を撃つ。
「我は、ぬしらと戦いたいわけではないのだ」
ファイナイトが言い放つと、僕が飛ばしたガラスの破片、そしてミルとレグネッタさんの銃弾はファイナイトの周りで蒸発するように消えていく。
「ただ、この地は消し飛ばす。巻き込まれたくなければ、即刻退避せよ」
ファイナイトは瞬時に僕達の眼前に現れ、そう言い放った後に空中を飛翔していく。
「ま、待て! なっ!?」
僕の呼びかけも虚しく、奴は空中から幾千もの光のレーザーを放ち、周囲の建物を次々に破壊しながら飛んで行く。
「おい、どうすんだ!?」
ドドが苦悶の表情を浮かべながら聞く。ファイナイトのレーザーは以前見た江飛凱のレーザーよりも何倍もの破壊力がある。
「ミル! あそこだ。あの車まで連れていってくれ」
眼下で放置されていた一般車を指さす。すると、その車の前まで4人で移動した。僕は車にグラインドの力を働きかけ、ドアを開けてエンジンをかける。
「ほう。なかなか面白い能力だな」
レグネッタさんは感心していた。
「レグネッタさん、運転できますか? お願いします」
僕が言うと、彼女は不敵に笑う。
「任せな。あいつにはお前のお守りを頼まれてるからな。さっさと乗れ!」
彼女の言葉に僕達はなかば慌て気味に車に乗る。レグネッタさんはアクセルを踏み、車は急発進する。ファルさんの運転よりも遥かに荒い。
「ただし! 1本吸わせろ」
そう言って、レグネッタさんは僕達の返事を待たずにタバコを咥えてジッポで火を付けた。
「ぶへっ。なんなんですのこの人……失礼ですわー」
後部座席に座るミルは顔を歪めながらウインドウを開ける。あの破天荒な姉と仲が良いのも、この性格ならばと納得してしまう。
「ファイナイト、あいつはどうも湾岸沿いに向かっているようですね」
助手席に座る僕は、前方の空中で飛行しながらレーザーを撒き散らす少年を見据えながら言う。
「クソ怪物め。好き勝手して気に食わねぇ。私は運転に集中するから、お前ら攻撃しろ」
怖い。車に備え付けられていた灰皿にタバコの灰を落としながらも、人気のない大通りを走る車を加速していくこの女性は、とても女性とは思えない口調だ。知的な印象を与える黒縁メガネとは何なのだ。
「やります。やります」
僕は周囲に放置されていた乗用車を次から次へとファイナイトに向けてグラインドで飛ばしていく。
しかし、ファイナイトは後方を一切振り返らずに、手から伸びるレーザーが軌道を曲げ、僕が飛ばした乗用車を破壊していく。
「私らの事は眼中にないってか? あぁ?」
レグネッタさんはタバコを咥えながら静かに怒り出した。
「おいおい、なんだよこの人……」
ドドの呆れた声が後方から聞こえた。車は既に高速道路に突入しているが、周囲に他の車は見当たらず、一般人は避難しているようだ。
「ここからじゃ銃も届きそうにありませんわね。わたくし、ちょっと行ってきます」
そう言ったミルに、気をつけてと声を掛けたが、その時には既に車内にミルの姿はなかった。
ミルはファイナイトの頭上に現れていた。
「それ以上の破壊行動はやめなさいませ!」
ミルの手から食事用ナイフが何本も投げられていた。
「来たか、テリファイア。ミルティーユ。だが、そんな攻撃は通用せぬぞ」
ファイナイトに向けて投げられたナイフは四方八方に弾き飛ばされる。だが、ミルはすぐに移動し、ファイナイトの背後を取っていた。その手に、あの自慢の釘バットを持って。
「往生なさいませ!」
そう言って、背中に向けて釘バットを振り上げた。ファイナイトは空中で蹌踉めくように体勢を崩し、背後を振り返りながらも無数のレーザーを放つ。
ミルは次々と空中を転移で飛び交い、拳銃を撃っていく。
「何あの小娘。生意気な口叩いてると思ってたらすごい事してるじゃない」
車を走らせるレグネッタさんが言った。タバコを咥えながらも、その口元が少し笑っている。
「あれがミルのグラインド、『テリファイア』です。自分と、物体を自由にテレポートできるんです」
助手席の僕はそう言って解説すると、ミルが後部座席へと帰ってきた。
「やはり手強いですわ。攻撃が全く通用しませんもの」
そう言いながら呼吸を整えていた。
「それでも、無駄だと解っても、諦めるな」
レグネッタさんは再び冷静に言い放つ。だがその時、ファイナイトから放たれたレーザーは後方の僕達に向けて次々と放たれてきた。
「くっ! 掴まってろ!」
レグネッタさんは車のスピードを少し落としながら、レーザーを回避するようにハンドルを操作していく。
「おい! ビルが崩れるぞ!」
ドドが叫んだ。前方右の高層ビルが中程から折れ、それは僕達の進路を塞ぐように倒れてくる。
「ちっ! 最悪だ!」
「レグネッタさん! スピードを落とさず、そのまま走ってください!」
僕の言葉に戸惑いながらもレグネッタさんはアクセルを踏む。
高層ビルが倒れてきたが、僕はグラインドで車を宙に浮かせ、その倒れたビルに車は着地し、その上を走り出す。
「なんてことさせんのよバカ! 死ぬかと思ったわ」
レグネッタさんのタバコの灰が落ち、彼女は余計に怒っていた。
「ひいっ! ごめんなさい!」
僕は咄嗟に怯えながら謝ってしまう。倒れたビルの上を走っているが、そのビルの端は目の前に迫っていた。この車を飛ばすしか方法はない。
「レグネッタさん、ごめんなさい! 車、空飛びます!」
「あぁ? ちょっ、おい!」
僕のグラインドによって車は空を飛ぶ。空中にはファイナイトから放たれたレーザーが飛び交い、破壊された周囲の建物の一部や破片が舞ってるが、それを避けながらも車を操作する。
「ったく、無茶するのはあいつと同じだな。ちゃんと運転しろよ?」
レグネッタさんはそう言って、運転席の窓から腕を出し、黒い拳銃を撃つ。その銃弾は驚く事に、70m程先の空中を飛ぶファイナイトに届いた。
「そんな……わたくしの銃ではこの距離は届きませんわよ!?」
銃弾は当たりこそしなかったものの、ファイナイトの肩を掠めた。それでも、奴は依然と宙を飛び交ってる。
「この銃をそこらの銃と一緒にするな」
レグネッタさんは左手でタバコを灰皿で揉み消しながらも、右手の銃を連発していく。2、3発は外したものの、その後は足、腰、肩と見事に命中していく。
「おい、ガキ。あー、想だっけ? 弾、いれといて」
そう言って、レグネッタさんは黒い拳銃と、弾丸がセットになっているローダーを僕に投げ、もう1つの白い拳銃で撃ち始めた。
「レグネッタさん! 想様を雑用扱いしないでくださいまし! 想様、わたくしが装填いたしますわ」
ミルがそう言って僕から拳銃と銃弾を受け取る。銃弾の装填などやったことが無いためミルには感謝した。
「はい、どうぞ!」
ポンと、レグネッタさんの膝の上に黒い拳銃が現れた。
「おっ。便利だな。助かる」
そう言ったレグネッタさんにミルは呆れるように息を吐く。
「呑気なものだな」
僕の左側からファイナイトの声がした。この車のすぐ隣を飛んでいた。
「想! どけ!」
レグネッタさんの命令に、僕は思わずシートにへばりつく様に身を引く。すると、僕の目の前を弾丸が飛んだ。なんて無茶苦茶な事をするんだ。
「もうこの遊びも飽きた」
運転席から助手席を通過してファイナイトへと放たれた弾丸を、ファイナイトは親指と人差し指で摘んでいた。
「こいつ、馬鹿にしやがって」
レグネッタさんが再び銃を構えようとして僕は思わず身構える。
「ミル! 俺を飛ばせ!」
後部座席のドドが大きな声を発した。すると、ドドがファイナイトの頭上に現れる。
「おーりゃあ!」
空中で前回転し、ドドは踵落としを放つ。ファイナイトはそれを腕をクロスして受け止めた。
「グラインドも武器も持たぬヒトがここまでやるか」
ファイナイトが呟いた言葉は褒め言葉とも呆れ言葉とも受け取れる。
踵落としを受け止められたドドは、そのままクロスしていたファイナイトの腕を蹴り払い、逆さまになりながら両手を組んで、叩き落とすようにファイナイトの背中へとぶつけた。
「おちるー! お、想、ナイスキャッチ!」
僕はドドの下へと車を移動させ、そのルーフにドドは着地していた。
「うむ。見事だ。だが、もう時間だ」
ファイナイトが呟くと、周囲が白く光りだした。それは先日戦ったナターシャのオーブ爆発を彷彿とさせた。
「いけません! 膨大なエネルギー量を感じます! 皆様、避難しますわよ!」
ミルのテリファイアによって、僕達は車ごと移動していた。どこかの山の中にある平地のようだった。
その直後、爆音が轟き、空に光の柱が上がった。
「なんだ……あれ? あそこが、今までいた所なのか?」
僕は呆然としながら言葉を発し、車の外に出た。ミルとドド、レグネッタさんも同じように地面に立ち、大きな光の柱を見つめていた。
この地点からは先程までいた街が一望できる。街と、そして湾岸を飲み込んだ光の柱が消え、その街があった場所には大きなクレーターができ、そこに海の水が流れ込んでいった。
姉はそう言い、レグネッタさんに手を振り、微笑みながら消えていった。
「レグネッタさん、姉は1日10分しかこっちの世界に来れないんです」
ミルに連れられて彼女の近くに来た僕はそう声を掛けた。
「そうか。制限付きか。まぁ、あいつが『また』って言ってんだから、私は信じる」
レグネッタさんが右手に持つ黒い拳銃の光は収まり、黄光の鞭もいつの間にか消えていた。
「レグネッタさんだったか? その銃、なんだか不思議な銃だな」
ドドがその銃を見ながら言った。レグネッタさんは真剣な眼差しを黒縁メガネの奥から放つ。
「でかいな。話は後だ。あいつが、また来る」
レグネッタさんの言葉と共に、ファイナイトが光を放ちながら空中に現れた。あの2人の激しい攻撃を食らっても尚平然としているのか。「オリジン」とは一体何なのだ?
「弖寅衣 煉美は消えたか。制限時間か」
ファイナイトはそう言って、地上の僕達を冷ややかに見下ろしている。
「ファイナイト、君の目的が何なのかは知らない。だが、これ以上君の好きにはさせない」
「群青の男、弖寅衣 想。無駄を知れ。ぬしの力では我の前に立つ事すらできぬ」
無常に言い放ったファイナイトは両腕を横に広げる。すると、周囲に次々と爆発が巻き起こった。
「くっ、これはまずいな」
「レグネッタさん、わたくし達の近くに。一緒に移動します!」
ミルの言葉にレグネッタさんは戸惑いながらも近寄る。4人でファイナイトの背後に位置するビルの屋上へと移動していた。
「これでも食らえ」
無駄だとわかっても攻撃する。レグネッタさんが先程姉に言っていた言葉を思い出しながら、僕は周囲のビルのガラスを割り、ファイナイトへと向けてグラインドで飛ばす。
「わたくしも、撃ちます!」
ミルも空中に浮かぶファイナイトに向けてオートマチックの拳銃を撃つ。そのミルに並び、レグネッタさんも加勢してリボルバーの拳銃を撃つ。
「我は、ぬしらと戦いたいわけではないのだ」
ファイナイトが言い放つと、僕が飛ばしたガラスの破片、そしてミルとレグネッタさんの銃弾はファイナイトの周りで蒸発するように消えていく。
「ただ、この地は消し飛ばす。巻き込まれたくなければ、即刻退避せよ」
ファイナイトは瞬時に僕達の眼前に現れ、そう言い放った後に空中を飛翔していく。
「ま、待て! なっ!?」
僕の呼びかけも虚しく、奴は空中から幾千もの光のレーザーを放ち、周囲の建物を次々に破壊しながら飛んで行く。
「おい、どうすんだ!?」
ドドが苦悶の表情を浮かべながら聞く。ファイナイトのレーザーは以前見た江飛凱のレーザーよりも何倍もの破壊力がある。
「ミル! あそこだ。あの車まで連れていってくれ」
眼下で放置されていた一般車を指さす。すると、その車の前まで4人で移動した。僕は車にグラインドの力を働きかけ、ドアを開けてエンジンをかける。
「ほう。なかなか面白い能力だな」
レグネッタさんは感心していた。
「レグネッタさん、運転できますか? お願いします」
僕が言うと、彼女は不敵に笑う。
「任せな。あいつにはお前のお守りを頼まれてるからな。さっさと乗れ!」
彼女の言葉に僕達はなかば慌て気味に車に乗る。レグネッタさんはアクセルを踏み、車は急発進する。ファルさんの運転よりも遥かに荒い。
「ただし! 1本吸わせろ」
そう言って、レグネッタさんは僕達の返事を待たずにタバコを咥えてジッポで火を付けた。
「ぶへっ。なんなんですのこの人……失礼ですわー」
後部座席に座るミルは顔を歪めながらウインドウを開ける。あの破天荒な姉と仲が良いのも、この性格ならばと納得してしまう。
「ファイナイト、あいつはどうも湾岸沿いに向かっているようですね」
助手席に座る僕は、前方の空中で飛行しながらレーザーを撒き散らす少年を見据えながら言う。
「クソ怪物め。好き勝手して気に食わねぇ。私は運転に集中するから、お前ら攻撃しろ」
怖い。車に備え付けられていた灰皿にタバコの灰を落としながらも、人気のない大通りを走る車を加速していくこの女性は、とても女性とは思えない口調だ。知的な印象を与える黒縁メガネとは何なのだ。
「やります。やります」
僕は周囲に放置されていた乗用車を次から次へとファイナイトに向けてグラインドで飛ばしていく。
しかし、ファイナイトは後方を一切振り返らずに、手から伸びるレーザーが軌道を曲げ、僕が飛ばした乗用車を破壊していく。
「私らの事は眼中にないってか? あぁ?」
レグネッタさんはタバコを咥えながら静かに怒り出した。
「おいおい、なんだよこの人……」
ドドの呆れた声が後方から聞こえた。車は既に高速道路に突入しているが、周囲に他の車は見当たらず、一般人は避難しているようだ。
「ここからじゃ銃も届きそうにありませんわね。わたくし、ちょっと行ってきます」
そう言ったミルに、気をつけてと声を掛けたが、その時には既に車内にミルの姿はなかった。
ミルはファイナイトの頭上に現れていた。
「それ以上の破壊行動はやめなさいませ!」
ミルの手から食事用ナイフが何本も投げられていた。
「来たか、テリファイア。ミルティーユ。だが、そんな攻撃は通用せぬぞ」
ファイナイトに向けて投げられたナイフは四方八方に弾き飛ばされる。だが、ミルはすぐに移動し、ファイナイトの背後を取っていた。その手に、あの自慢の釘バットを持って。
「往生なさいませ!」
そう言って、背中に向けて釘バットを振り上げた。ファイナイトは空中で蹌踉めくように体勢を崩し、背後を振り返りながらも無数のレーザーを放つ。
ミルは次々と空中を転移で飛び交い、拳銃を撃っていく。
「何あの小娘。生意気な口叩いてると思ってたらすごい事してるじゃない」
車を走らせるレグネッタさんが言った。タバコを咥えながらも、その口元が少し笑っている。
「あれがミルのグラインド、『テリファイア』です。自分と、物体を自由にテレポートできるんです」
助手席の僕はそう言って解説すると、ミルが後部座席へと帰ってきた。
「やはり手強いですわ。攻撃が全く通用しませんもの」
そう言いながら呼吸を整えていた。
「それでも、無駄だと解っても、諦めるな」
レグネッタさんは再び冷静に言い放つ。だがその時、ファイナイトから放たれたレーザーは後方の僕達に向けて次々と放たれてきた。
「くっ! 掴まってろ!」
レグネッタさんは車のスピードを少し落としながら、レーザーを回避するようにハンドルを操作していく。
「おい! ビルが崩れるぞ!」
ドドが叫んだ。前方右の高層ビルが中程から折れ、それは僕達の進路を塞ぐように倒れてくる。
「ちっ! 最悪だ!」
「レグネッタさん! スピードを落とさず、そのまま走ってください!」
僕の言葉に戸惑いながらもレグネッタさんはアクセルを踏む。
高層ビルが倒れてきたが、僕はグラインドで車を宙に浮かせ、その倒れたビルに車は着地し、その上を走り出す。
「なんてことさせんのよバカ! 死ぬかと思ったわ」
レグネッタさんのタバコの灰が落ち、彼女は余計に怒っていた。
「ひいっ! ごめんなさい!」
僕は咄嗟に怯えながら謝ってしまう。倒れたビルの上を走っているが、そのビルの端は目の前に迫っていた。この車を飛ばすしか方法はない。
「レグネッタさん、ごめんなさい! 車、空飛びます!」
「あぁ? ちょっ、おい!」
僕のグラインドによって車は空を飛ぶ。空中にはファイナイトから放たれたレーザーが飛び交い、破壊された周囲の建物の一部や破片が舞ってるが、それを避けながらも車を操作する。
「ったく、無茶するのはあいつと同じだな。ちゃんと運転しろよ?」
レグネッタさんはそう言って、運転席の窓から腕を出し、黒い拳銃を撃つ。その銃弾は驚く事に、70m程先の空中を飛ぶファイナイトに届いた。
「そんな……わたくしの銃ではこの距離は届きませんわよ!?」
銃弾は当たりこそしなかったものの、ファイナイトの肩を掠めた。それでも、奴は依然と宙を飛び交ってる。
「この銃をそこらの銃と一緒にするな」
レグネッタさんは左手でタバコを灰皿で揉み消しながらも、右手の銃を連発していく。2、3発は外したものの、その後は足、腰、肩と見事に命中していく。
「おい、ガキ。あー、想だっけ? 弾、いれといて」
そう言って、レグネッタさんは黒い拳銃と、弾丸がセットになっているローダーを僕に投げ、もう1つの白い拳銃で撃ち始めた。
「レグネッタさん! 想様を雑用扱いしないでくださいまし! 想様、わたくしが装填いたしますわ」
ミルがそう言って僕から拳銃と銃弾を受け取る。銃弾の装填などやったことが無いためミルには感謝した。
「はい、どうぞ!」
ポンと、レグネッタさんの膝の上に黒い拳銃が現れた。
「おっ。便利だな。助かる」
そう言ったレグネッタさんにミルは呆れるように息を吐く。
「呑気なものだな」
僕の左側からファイナイトの声がした。この車のすぐ隣を飛んでいた。
「想! どけ!」
レグネッタさんの命令に、僕は思わずシートにへばりつく様に身を引く。すると、僕の目の前を弾丸が飛んだ。なんて無茶苦茶な事をするんだ。
「もうこの遊びも飽きた」
運転席から助手席を通過してファイナイトへと放たれた弾丸を、ファイナイトは親指と人差し指で摘んでいた。
「こいつ、馬鹿にしやがって」
レグネッタさんが再び銃を構えようとして僕は思わず身構える。
「ミル! 俺を飛ばせ!」
後部座席のドドが大きな声を発した。すると、ドドがファイナイトの頭上に現れる。
「おーりゃあ!」
空中で前回転し、ドドは踵落としを放つ。ファイナイトはそれを腕をクロスして受け止めた。
「グラインドも武器も持たぬヒトがここまでやるか」
ファイナイトが呟いた言葉は褒め言葉とも呆れ言葉とも受け取れる。
踵落としを受け止められたドドは、そのままクロスしていたファイナイトの腕を蹴り払い、逆さまになりながら両手を組んで、叩き落とすようにファイナイトの背中へとぶつけた。
「おちるー! お、想、ナイスキャッチ!」
僕はドドの下へと車を移動させ、そのルーフにドドは着地していた。
「うむ。見事だ。だが、もう時間だ」
ファイナイトが呟くと、周囲が白く光りだした。それは先日戦ったナターシャのオーブ爆発を彷彿とさせた。
「いけません! 膨大なエネルギー量を感じます! 皆様、避難しますわよ!」
ミルのテリファイアによって、僕達は車ごと移動していた。どこかの山の中にある平地のようだった。
その直後、爆音が轟き、空に光の柱が上がった。
「なんだ……あれ? あそこが、今までいた所なのか?」
僕は呆然としながら言葉を発し、車の外に出た。ミルとドド、レグネッタさんも同じように地面に立ち、大きな光の柱を見つめていた。
この地点からは先程までいた街が一望できる。街と、そして湾岸を飲み込んだ光の柱が消え、その街があった場所には大きなクレーターができ、そこに海の水が流れ込んでいった。
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