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第5章 ファイナイト
5-5 ハンター
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「また来たか。ぬしも懲りないな」
白髪の少年、ファイナイトが手を向けると、金髪メガネの女性が放った銃弾が空中で静止する。ファイナイトがその手の平を前に倒すと、その銃弾は女性に向かって飛んだ。
だが、撃ち返された銃弾が今度は女性の目の前で止まる。女性が左手に持つ白い銃の側面を向けて胸の前に掲げていた。
「その銃は厄介だ。我の力が上手く通らぬ」
ファイナイトは無表情で呟き、女性の近くにあった建物を破壊した。女性は俊敏に走り出し、頭上から落下してくる瓦礫を回避していく。
「民間人は避難しろ」
金髪の女性はファイナイトに銃を撃ち続けながら走り、僕達をちらりと見てから言った。
「わたくし達は民間人ではございません。無益な争いを止めるためにここにいるのでございます!」
ミルはそう言って、ファイナイトの背後へと瞬間移動し銃を撃つ。金髪女性はそれを見て驚いていたが、足を止めずに銃を撃ち続ける。
「転移グラインド、『テリファイア』か。また面倒な相手だ」
ファイナイトは呟き、驚くべきスピードで周囲を移動して金髪女性とミルの銃弾を回避していく。
僕もグラインドを発動し、近くに路上駐車されていた一般車をファイナイトへと飛ばす。奴は手を掲げ、その車を遥か後方へと弾き飛ばした。
「その力……グラインダー? ん? お前、その髪の色、まさか?」
金髪で黒縁メガネの女性が僕を見たその時、あのファイナイトが宙に浮き、その手が光り輝きだす。そこに尋常ではないエネルギーが収束している事が、周囲の空気の流れによって伝わる。
「あれはちょっとやばいねー。あたしが行くわ」
いつの間にか、僕の隣に姉がいた。今日は白いブラウスを着て、グレーのキュロットを履いている。下はスニーカーだ。
ファイナイトに向かって飛び出した姉は、奴の手から放たれた光の束を片手で受け止める。その手に重力を帯びることによって、威力を相殺しているようだ。
「ガキだからって、容赦はしないよ!」
そう言って、白髪の少年を蹴り飛ばし、小さな身体が遥か後方のビルに向かって飛んでいった。姉のグラインド、「アンチセシス」の力は攻守共に優れた、万能の能力だ。
その姉がすぐにこちらへと戻る。しかし、その身体は僕の方を向いておらず、あの金髪黒縁メガネの女性へと向いていた。
「やぁ、レグ。ひっさしぶりー!」
姉はそう言って片手を上げた。金髪の女性は眉を顰めている。
「お前、レンビーか? でも、死んだはずでしょ? どうなってるの?」
「はははっ、今は幽霊になって現世を彷徨ってるとこさ」
笑顔で語る姉を見て、しばらく放心していた金髪の女性は、ふっと笑う。
「そう。未練たらたらでこの私の前にのこのこ現れたわけね。いいだろう、私が成仏させてあの世に送ってあげる」
冷ややかな目でそう言い、右手に持つ黒い銃を姉に向けてきた。
「や、やめてください! 姉は、何も悪い事はしてません!」
僕は慌てて呼びかけ、足を踏み出す。姉が成仏してしまったら、今度こそ本当に話せなくなる。まだまだ、話したい。一緒にいたい。
僕の呼びかけに答える素振りもなく、金髪の女性は姉へと詰め寄る。姉も、臆する事無く距離を詰めていく。
「あぁ、レンビー! 本当にあなたなの!?」
なんと、金髪の女性は姉に抱きついていた。
「レグー! よかったよ、また会えて。元気そうだね!」
「当たり前だ。この私が簡単にくたばると思うか? でもまさか、レンビーが幽霊になるなんて、こんな可笑しい話信じられないな。それでも、お前にまた会えて、私は嬉しい」
2人は肩を寄せ合いながら笑っている。
「ど、どうなってんだ? 煉美さんの知り合いだったのか?」
ドドが呆気にとられながら近付いてきた。ミルも戸惑いながら僕の隣に立つ。
「あぁ、ごめんごめん。こちら、あたしの大親友、レグネッタ。レグ、あたしの弟のそーくんだよ」
姉はそう言って紹介してくれた。
「やはり。お前が弖寅衣 想か。ラウディから聞いてる。本当にレンビーの弟? 随分弱そうだけど? あぁ、初めまして。レグネッタ・シュギセクスだ」
そう言ってレグネッタさんは、腰に装着したホルスターに2挺の拳銃を収納すると僕と握手した。
正面からまじまじと見てみると少し怖い。よく見ると、左目の下にほくろがある。姉と話してる時は笑顔だったが、僕に対しては冷たい視線をしている。これが普段の彼女なのかもしれない。ラウディさんとも知り合いなのか。
「生まれはスウェーデン。仕事はー、幽霊退治や不可思議な現象の調査ってとこかしら?」
少し気だるそうにそう語った。
「幽霊退治? あ、もしかして前に姉さんが言ってた人?」
以前、専門家の知り合いがいると言っていたがこの人の事だったのか。イメージとはだいぶ違っていたが。
「うん、そうだよ。まさか、レグが日本に来てるとは思わなかった。あの少年は何なの? 幽霊?」
そうだった。姉が呑気に再会を喜び、僕達に紹介してくれたが、あの謎の少年と戦闘中だった。
「あれは……人智を越えた危険な存在とでも今は言っておく。幽霊なんて可愛いもんじゃない。アイツがまた起きる。警戒を怠るなよ」
レグネッタさんは2挺の黒と白の拳銃それぞれに弾を込める。
間近で見て解ったが、黒い拳銃には黄色のラインと紋章、細かなデザインが、白い拳銃には緑のラインと紋章、デザインがされている。
どこか、普通の銃とは違う神秘的な気配がする。
「レグが言うほどだ。相当だね。あたしもあまり時間がないけど、なんとか被害を最小限に留めよう」
そう言って姉はレグネッタさんと並ぶ。その途端、ファイナイトがいる方向から光のレーザーが弧を描きながら何本も飛んできた。
「まるで兵器だね。いくよ!」
姉は宙に舞う。両の拳に重力磁場を纏い、そのレーザーを殴って上空へ弾き飛ばしていく。
「幽霊になってからの方が調子いいじゃない」
そう言って地を走っていたレグネッタさんも、姉と同じようにレーザーを防いでいる。ただし、拳ではなく拳銃のグリップの部分を当てているようだ。どうなっているのだ?
「それで我の力を押さえたつもりか?」
ファイナイトがレグネッタさんの前に現れていた。そして、左の拳に光を纏い、殴りかかる。
だが、レグネッタさんは2挺の拳銃をクロスするように胸の前に構えた。すると、見えない壁のようなものにファイナイトの拳が弾かれる。
「ほらほらー! こっちだ!」
ファイナイトの背後に現れた姉が左側から蹴りを放つ。だが、ファイナイトは後ろ向きのまま左腕でそれを防いで払い除け、振り向きながら右の拳を放った。
その拳を、姉は同じ右の拳で跳ね返す。だが、ファイナイトは跳ね返されたその勢いを利用するかのように、空中に浮いたままで右回転し、後ろ回し蹴りを放った。
姉は右側から来たファイナイトの後ろ回し蹴りを右の肘で受け止め、奴の背面に向けて左の拳を放つ。だが、ファイナイトは瞬時に左回転して振り返り、あの姉の拳を手の平で払い落とした。
「無駄だ。ぬしの攻撃は視えている」
「あっちゃー。読まれてるね」
あの姉と、互角に戦う程の格闘術。それも小さな少年だ。
「どうなってんだ? 煉美さんの攻撃が通用してねぇぞ」
隣に立つドドが焦るように驚いている。
「ああ。それに、姉さんの重力が掻き消されてるみたいだ」
信じ難いが、そのようにしか見えない。普段だったら、吹き飛ばされる程の威力を持つ拳を受けても、あのファイナイトは平然としている。
「だから言っただろ? そいつは化け物なんだって」
ファイナイトの背後にいたレグネッタさんが身体を横にしながら横蹴りを放つ。スカートはストレッチ素材なのか、一切破れる事がない。
「化け物扱いとは。随分ひどい」
背中から蹴りを受けたファイナイトだったが、平然と言葉を発する。その言葉に対し、不敵な笑みを浮かべながらレグネッタさんが銃を放つ。
「レンビー! 臆するな! どんなに無駄だろうが、ぶつけろ!」
「了解! ちょっと本気出す!」
姉の周囲の空間がねじ曲がりだした。身体に膨大な量の重力磁場を纏いだし、銃弾を弾いていたファイナイトの左側に瞬時に張り付く。
「速いな」
ファイナイトの口から呟きが漏れると同時に、姉は中段、下段に拳を突く。
反撃しようと右の拳を掲げたファイナイトのその右の肩の付け根に、姉はさらに拳を放つ。そこに重力による渦が発生し、ファイナイトの身体が固まる。
「くっ。これが、『アンチセシス』の力か」
ファイナイトが初めて呻き声を出した。
「そうだ。さぁ、そのツラで味わえ」
姉はそう言って、ファイナイトの顔面に5発の拳を、ほんのたった数秒で放った。ファイナイトは仰け反るような姿勢のまま吹き飛び、再び近くの建物に激突した。
「お前もすっかり化け物だな。死んでからグラインド使えるようになったわけ?」
「まぁね。手応えはあったけど、どうやらまだ死んでないみたいだ」
姉のあの攻撃でも死なないのか? どうなっているんだ? 本物の化け物じゃないか。
「アンチセシス……普通のグラインドではないな」
ファイナイトは呟く。奴の周囲の瓦礫が浮かび上がっている。そして、先程姉から攻撃を受けた箇所がみるみる回復していく。
「君は一体何者だ? 人間じゃないな?」
姉は真剣な表情で聞く。
「そうだ。ヒトよ。教えてやろう。我は『オリジン』がその1人。ファイナイトだ」
「オリジン? なんだそれは?」
僕が呟いた直後、ファイナイトの周囲に浮いていた無数の瓦礫が弾け飛んだ。
「ぐおっ! これじゃ、まるで想の能力じゃねぇか!」
僕とミルを守るために前に飛び出したドドがその瓦礫を蹴りながらも呟いた。
「2人とも! 移動しますわよ!」
ミルの言葉と共に、僕達は近くの建物の上にまで来た。だが。
「ここも崩れる!」
ファイナイトは周囲の建物を手当たり次第破壊していく。堪らずミルは再び他の建物に渡るように僕達を移動させる。
地上に残っていた姉さん達はどうなった? 見ると、レグネッタさんの前で姉が宙を舞い、蹴りで瓦礫の嵐を弾き飛ばしている。
「レグ、すまないがそろそろ制限時間だ。弟のそーくんの事を頼む。また会いに来るからね」
姉はそう言って駆け出した。
「はあ。よくわからないけど、とりあえず援護すればいいわけ? なら、やってやるわ」
レグネッタさんはリボルバーに銃弾を装填し、走りながら銃を撃つ。
「ファイナイト。君が何者かは知らないが、あたしに出会った事を後悔させてやる」
姉はファイナイトの懐に飛び込み、その手の平を奴の腹に押し当てる。そこに凝縮された重力磁場が発生し、ファイナイトの表情が少しだけ崩れた。
「バブーン、力を借せ」
ファイナイトの左側に回り込みながらレグネッタさんが呟いた。すると、右手に持つ黒い拳銃の黄色い部分が光り出す。
レグネッタさんがファイナイトに向けた銃口から黄色いビームが照射された。しかし、それはその弾道を波打つようにしならせ、1本の長い鞭となった。
「む! これがその銃の隠された力か」
レグネッタさんから伸びた黄光の鞭を、ファイナイトは払い除けようと右腕を掲げる。だが、不規則な軌道を描く鞭は逆にファイナイトの腕を払い除け、奴を背後から殴打した。
「さぁ、弾け飛べ!」
「粉砕してやる!」
姉とレグネッタさんが同時に言い放つ。姉はファイナイトの腹部に当てていた手の平を握り、それでファイナイトの腹を殴る。その拳に込められた重力は螺旋を描き、ファイナイトを空中へ飛ばす。
レグネッタさんから伸びていた黄光の鞭は、回転しながら飛ぶファイナイトに向けて縦横無尽に襲い掛かる。1本しかないはずの鞭が幾重にも増えるように、ファイナイトを攻撃した。
白髪の少年、ファイナイトが手を向けると、金髪メガネの女性が放った銃弾が空中で静止する。ファイナイトがその手の平を前に倒すと、その銃弾は女性に向かって飛んだ。
だが、撃ち返された銃弾が今度は女性の目の前で止まる。女性が左手に持つ白い銃の側面を向けて胸の前に掲げていた。
「その銃は厄介だ。我の力が上手く通らぬ」
ファイナイトは無表情で呟き、女性の近くにあった建物を破壊した。女性は俊敏に走り出し、頭上から落下してくる瓦礫を回避していく。
「民間人は避難しろ」
金髪の女性はファイナイトに銃を撃ち続けながら走り、僕達をちらりと見てから言った。
「わたくし達は民間人ではございません。無益な争いを止めるためにここにいるのでございます!」
ミルはそう言って、ファイナイトの背後へと瞬間移動し銃を撃つ。金髪女性はそれを見て驚いていたが、足を止めずに銃を撃ち続ける。
「転移グラインド、『テリファイア』か。また面倒な相手だ」
ファイナイトは呟き、驚くべきスピードで周囲を移動して金髪女性とミルの銃弾を回避していく。
僕もグラインドを発動し、近くに路上駐車されていた一般車をファイナイトへと飛ばす。奴は手を掲げ、その車を遥か後方へと弾き飛ばした。
「その力……グラインダー? ん? お前、その髪の色、まさか?」
金髪で黒縁メガネの女性が僕を見たその時、あのファイナイトが宙に浮き、その手が光り輝きだす。そこに尋常ではないエネルギーが収束している事が、周囲の空気の流れによって伝わる。
「あれはちょっとやばいねー。あたしが行くわ」
いつの間にか、僕の隣に姉がいた。今日は白いブラウスを着て、グレーのキュロットを履いている。下はスニーカーだ。
ファイナイトに向かって飛び出した姉は、奴の手から放たれた光の束を片手で受け止める。その手に重力を帯びることによって、威力を相殺しているようだ。
「ガキだからって、容赦はしないよ!」
そう言って、白髪の少年を蹴り飛ばし、小さな身体が遥か後方のビルに向かって飛んでいった。姉のグラインド、「アンチセシス」の力は攻守共に優れた、万能の能力だ。
その姉がすぐにこちらへと戻る。しかし、その身体は僕の方を向いておらず、あの金髪黒縁メガネの女性へと向いていた。
「やぁ、レグ。ひっさしぶりー!」
姉はそう言って片手を上げた。金髪の女性は眉を顰めている。
「お前、レンビーか? でも、死んだはずでしょ? どうなってるの?」
「はははっ、今は幽霊になって現世を彷徨ってるとこさ」
笑顔で語る姉を見て、しばらく放心していた金髪の女性は、ふっと笑う。
「そう。未練たらたらでこの私の前にのこのこ現れたわけね。いいだろう、私が成仏させてあの世に送ってあげる」
冷ややかな目でそう言い、右手に持つ黒い銃を姉に向けてきた。
「や、やめてください! 姉は、何も悪い事はしてません!」
僕は慌てて呼びかけ、足を踏み出す。姉が成仏してしまったら、今度こそ本当に話せなくなる。まだまだ、話したい。一緒にいたい。
僕の呼びかけに答える素振りもなく、金髪の女性は姉へと詰め寄る。姉も、臆する事無く距離を詰めていく。
「あぁ、レンビー! 本当にあなたなの!?」
なんと、金髪の女性は姉に抱きついていた。
「レグー! よかったよ、また会えて。元気そうだね!」
「当たり前だ。この私が簡単にくたばると思うか? でもまさか、レンビーが幽霊になるなんて、こんな可笑しい話信じられないな。それでも、お前にまた会えて、私は嬉しい」
2人は肩を寄せ合いながら笑っている。
「ど、どうなってんだ? 煉美さんの知り合いだったのか?」
ドドが呆気にとられながら近付いてきた。ミルも戸惑いながら僕の隣に立つ。
「あぁ、ごめんごめん。こちら、あたしの大親友、レグネッタ。レグ、あたしの弟のそーくんだよ」
姉はそう言って紹介してくれた。
「やはり。お前が弖寅衣 想か。ラウディから聞いてる。本当にレンビーの弟? 随分弱そうだけど? あぁ、初めまして。レグネッタ・シュギセクスだ」
そう言ってレグネッタさんは、腰に装着したホルスターに2挺の拳銃を収納すると僕と握手した。
正面からまじまじと見てみると少し怖い。よく見ると、左目の下にほくろがある。姉と話してる時は笑顔だったが、僕に対しては冷たい視線をしている。これが普段の彼女なのかもしれない。ラウディさんとも知り合いなのか。
「生まれはスウェーデン。仕事はー、幽霊退治や不可思議な現象の調査ってとこかしら?」
少し気だるそうにそう語った。
「幽霊退治? あ、もしかして前に姉さんが言ってた人?」
以前、専門家の知り合いがいると言っていたがこの人の事だったのか。イメージとはだいぶ違っていたが。
「うん、そうだよ。まさか、レグが日本に来てるとは思わなかった。あの少年は何なの? 幽霊?」
そうだった。姉が呑気に再会を喜び、僕達に紹介してくれたが、あの謎の少年と戦闘中だった。
「あれは……人智を越えた危険な存在とでも今は言っておく。幽霊なんて可愛いもんじゃない。アイツがまた起きる。警戒を怠るなよ」
レグネッタさんは2挺の黒と白の拳銃それぞれに弾を込める。
間近で見て解ったが、黒い拳銃には黄色のラインと紋章、細かなデザインが、白い拳銃には緑のラインと紋章、デザインがされている。
どこか、普通の銃とは違う神秘的な気配がする。
「レグが言うほどだ。相当だね。あたしもあまり時間がないけど、なんとか被害を最小限に留めよう」
そう言って姉はレグネッタさんと並ぶ。その途端、ファイナイトがいる方向から光のレーザーが弧を描きながら何本も飛んできた。
「まるで兵器だね。いくよ!」
姉は宙に舞う。両の拳に重力磁場を纏い、そのレーザーを殴って上空へ弾き飛ばしていく。
「幽霊になってからの方が調子いいじゃない」
そう言って地を走っていたレグネッタさんも、姉と同じようにレーザーを防いでいる。ただし、拳ではなく拳銃のグリップの部分を当てているようだ。どうなっているのだ?
「それで我の力を押さえたつもりか?」
ファイナイトがレグネッタさんの前に現れていた。そして、左の拳に光を纏い、殴りかかる。
だが、レグネッタさんは2挺の拳銃をクロスするように胸の前に構えた。すると、見えない壁のようなものにファイナイトの拳が弾かれる。
「ほらほらー! こっちだ!」
ファイナイトの背後に現れた姉が左側から蹴りを放つ。だが、ファイナイトは後ろ向きのまま左腕でそれを防いで払い除け、振り向きながら右の拳を放った。
その拳を、姉は同じ右の拳で跳ね返す。だが、ファイナイトは跳ね返されたその勢いを利用するかのように、空中に浮いたままで右回転し、後ろ回し蹴りを放った。
姉は右側から来たファイナイトの後ろ回し蹴りを右の肘で受け止め、奴の背面に向けて左の拳を放つ。だが、ファイナイトは瞬時に左回転して振り返り、あの姉の拳を手の平で払い落とした。
「無駄だ。ぬしの攻撃は視えている」
「あっちゃー。読まれてるね」
あの姉と、互角に戦う程の格闘術。それも小さな少年だ。
「どうなってんだ? 煉美さんの攻撃が通用してねぇぞ」
隣に立つドドが焦るように驚いている。
「ああ。それに、姉さんの重力が掻き消されてるみたいだ」
信じ難いが、そのようにしか見えない。普段だったら、吹き飛ばされる程の威力を持つ拳を受けても、あのファイナイトは平然としている。
「だから言っただろ? そいつは化け物なんだって」
ファイナイトの背後にいたレグネッタさんが身体を横にしながら横蹴りを放つ。スカートはストレッチ素材なのか、一切破れる事がない。
「化け物扱いとは。随分ひどい」
背中から蹴りを受けたファイナイトだったが、平然と言葉を発する。その言葉に対し、不敵な笑みを浮かべながらレグネッタさんが銃を放つ。
「レンビー! 臆するな! どんなに無駄だろうが、ぶつけろ!」
「了解! ちょっと本気出す!」
姉の周囲の空間がねじ曲がりだした。身体に膨大な量の重力磁場を纏いだし、銃弾を弾いていたファイナイトの左側に瞬時に張り付く。
「速いな」
ファイナイトの口から呟きが漏れると同時に、姉は中段、下段に拳を突く。
反撃しようと右の拳を掲げたファイナイトのその右の肩の付け根に、姉はさらに拳を放つ。そこに重力による渦が発生し、ファイナイトの身体が固まる。
「くっ。これが、『アンチセシス』の力か」
ファイナイトが初めて呻き声を出した。
「そうだ。さぁ、そのツラで味わえ」
姉はそう言って、ファイナイトの顔面に5発の拳を、ほんのたった数秒で放った。ファイナイトは仰け反るような姿勢のまま吹き飛び、再び近くの建物に激突した。
「お前もすっかり化け物だな。死んでからグラインド使えるようになったわけ?」
「まぁね。手応えはあったけど、どうやらまだ死んでないみたいだ」
姉のあの攻撃でも死なないのか? どうなっているんだ? 本物の化け物じゃないか。
「アンチセシス……普通のグラインドではないな」
ファイナイトは呟く。奴の周囲の瓦礫が浮かび上がっている。そして、先程姉から攻撃を受けた箇所がみるみる回復していく。
「君は一体何者だ? 人間じゃないな?」
姉は真剣な表情で聞く。
「そうだ。ヒトよ。教えてやろう。我は『オリジン』がその1人。ファイナイトだ」
「オリジン? なんだそれは?」
僕が呟いた直後、ファイナイトの周囲に浮いていた無数の瓦礫が弾け飛んだ。
「ぐおっ! これじゃ、まるで想の能力じゃねぇか!」
僕とミルを守るために前に飛び出したドドがその瓦礫を蹴りながらも呟いた。
「2人とも! 移動しますわよ!」
ミルの言葉と共に、僕達は近くの建物の上にまで来た。だが。
「ここも崩れる!」
ファイナイトは周囲の建物を手当たり次第破壊していく。堪らずミルは再び他の建物に渡るように僕達を移動させる。
地上に残っていた姉さん達はどうなった? 見ると、レグネッタさんの前で姉が宙を舞い、蹴りで瓦礫の嵐を弾き飛ばしている。
「レグ、すまないがそろそろ制限時間だ。弟のそーくんの事を頼む。また会いに来るからね」
姉はそう言って駆け出した。
「はあ。よくわからないけど、とりあえず援護すればいいわけ? なら、やってやるわ」
レグネッタさんはリボルバーに銃弾を装填し、走りながら銃を撃つ。
「ファイナイト。君が何者かは知らないが、あたしに出会った事を後悔させてやる」
姉はファイナイトの懐に飛び込み、その手の平を奴の腹に押し当てる。そこに凝縮された重力磁場が発生し、ファイナイトの表情が少しだけ崩れた。
「バブーン、力を借せ」
ファイナイトの左側に回り込みながらレグネッタさんが呟いた。すると、右手に持つ黒い拳銃の黄色い部分が光り出す。
レグネッタさんがファイナイトに向けた銃口から黄色いビームが照射された。しかし、それはその弾道を波打つようにしならせ、1本の長い鞭となった。
「む! これがその銃の隠された力か」
レグネッタさんから伸びた黄光の鞭を、ファイナイトは払い除けようと右腕を掲げる。だが、不規則な軌道を描く鞭は逆にファイナイトの腕を払い除け、奴を背後から殴打した。
「さぁ、弾け飛べ!」
「粉砕してやる!」
姉とレグネッタさんが同時に言い放つ。姉はファイナイトの腹部に当てていた手の平を握り、それでファイナイトの腹を殴る。その拳に込められた重力は螺旋を描き、ファイナイトを空中へ飛ばす。
レグネッタさんから伸びていた黄光の鞭は、回転しながら飛ぶファイナイトに向けて縦横無尽に襲い掛かる。1本しかないはずの鞭が幾重にも増えるように、ファイナイトを攻撃した。
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