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第5章 ファイナイト
5-4 出動
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ミルの倉庫での日々は、とても平和に過ぎていく。
ドルティエさんの厳しい生活リズムにも慣れ、いつも目敏く世話を焼いてくれる彼女にはとても感謝している。
朝食はいつもドルティエさんが準備してくれるが、夕食はドドとドルティエさんの2人で作る事も定番になった。
ミルも一緒に教わりながらパスタを作った日もあった。ミルは苦戦しながらも、しっかり最初から最後までやりとげ、そのパスタは初めてとは思えないくらい美味しかった。
あのエイシストがここを訪ねる事もなかったため、やはり未来予知は通用していないようだった。
そのため、僕達は戦いを忘れ、安心して日々を過ごす。
退屈な時は、遠くの街までミルに連れて行ってもらい、3人で観光をした日もあった。ただ、指名手配の身なので長居が出来なかった事が悔やまれた。
倉庫で暮らし始めて5日目。既に10月下旬に差し掛かろうとしていた。
身体は完治とはいかないものの、あの戦いからかなり回復しつつあり、ミルの火傷も跡が残らなかったので安心していた。
その日、昼食を終えた後、ドルティエさんがタブレット端末をじっと見つめていた。
「ドルティエさん、どうしたんですか?」
彼女がずっと動かなかったので、僕はつい声を掛けてしまう。
「それが、今ニュースでやってて驚いてしまったのですが、迦鳴の方で建物が突然崩落したそうなんです」
ドルティエさんがニュースの映像を僕に見せてくれた。迦鳴県迦鳴市。九州で最も栄えている都市である。その繁華街のビルが確かに、不自然に崩壊している。
僕はその映像を食い入るように見てしまう。と、その映像に何か黒い影が飛んでいた。何だこれは?
あまりにも一瞬で、殆どの人は気づかないか、虫か鳥かと思ってしまうだろう。しかし、僕には人にしか見えなかった。ドロドロとした胸騒ぎがする。
「弖寅衣様? どうかなさいましたか?」
ドルティエさんが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「これ、つい先程の事件なんですよね? ドド。ミル」
僕は2人を呼んで映像を見せる。
「思い過ごしならいいんだけど、何か人為的な力を感じるんだ。今から、行こう」
僕はそう言って、椅子の背もたれに掛けていたモスグリーン色のマウンテンパーカーを着る。
「迦鳴か。琥蘭道からじゃ、端から端だな」
ドドはそう言って、玄関から3人の靴を持ってきてくれ、そしてレザーのジャケットを着る。
「今から行くのですか? ちょっと、そんな床に靴を置かないでください」
ドルティエさんは少し驚きなからも注意してきたので、ドドはわりぃと謝る。
「わたくしのテリファイアなら一瞬ですわ。ドルティエはお留守番していてください」
ミルは平気でフローリングの上で革のショートブーツを履く。今日は紅と黒で配色されたアシンメトリーなデザインのゴスロリワンピースだ。
「それじゃ、行こうか」
僕とドドはミルと手を繋ぐ。手を繋ぐ必要はないと解っていても、最近は移動する時についこうして手を繋いでしまうんだ。
見慣れた室内から一変し、僕達の目の前には初めて見る迦鳴の街が広がっていた。
「ここが迦鳴ですのね! 素敵な街じゃありませんか!」
ミルも迦鳴は初めてだったようで、物珍しく周囲を見渡している。だが、少し離れた場所では倒壊したビルが痛々しく目に付いた。
「間近で見ると酷いね。他のビルも崩れるかもしれない。気をつけながら行こう」
僕の言葉に2人も頷き、警戒しながら3人で進む。繁華街という事もあり、周囲には多くの人が行き交っている。
ある人は倒壊したビルから逃げるように足速になり、またある人はそのビルを写真に収めようと立ち止まって携帯端末のカメラを向けている。
その時、僕達の少し前で1人の男性が助けを乞いながら、ふらふらと走っていた。
「どうしましたか?」
僕は堪らず声を掛けた。
「た、助けてくれ。殺される。腕を……腕を切られちまったんだ!」
そう言われてから気付いた。その男性の、右腕の肘から先がない。だが、そこから血は出ておらず、断面図はただ黒いだけだ。
「な、なんだこりゃ? あんた一体どうしたんだ?」
ドドが不信に思いながら聞くと、混乱状態だった中年男性は少しずつ落ち着きながら話した。
その日、男性はいつも通うファストフード店で昼飯を済ませようと、そこへ立ち寄ったのだそうだ。だが、そこの若い男性店員の言葉がよく聞き取れなかったため、注意をした。
すると、その店員は中年男性を見つめ、何か呟くと、次の瞬間には中年男性の腕はなくなっていたという。そして、その店員は中年男性にも聞こえる声でこう言った。
「お前の預金残高を全て0にした」
そんな馬鹿げた事信じられないと思いながらも、男性は慌てて近くのコンビニのATMで確認すると、たしかに1000万円程あった残高が0になっていたと言う。
「今でも信じられねぇが、何度も確認したんだ……何より、この腕がおかしくなっちまってんだ!」
中年男性はなかなか体格もいいが、今は自身の腕を見つめながら震え、取り乱している。
――――ゴゴオォン!
その時、衝撃音が鳴り響き、近くのアパレルショップが爆発した。
「きた……! あいつが、追っかけてきやがった!」
中年男性は腰を抜かして、地面に倒れながらも藻掻くように足を動かしている。
爆発があった方を見ると、1人の少年が逃げており、その少年を追うように金髪の女性が走って来ている。
「あの女か!」
ドドが言う。あの女性が男性の腕を切断したのか。そして、今度は少年の命も狙っているのか。
いや、違う、何か違う。
「そ、そっちじゃ……ない。あっち、だっ!」
地面に倒れた男性がガタガタ歯を震わせながら呟くと同時に、逃げていた少年が振り返り、金髪の女性に向けて手を向けると、その金髪の女性の身体は宙に浮き、遥か遠くの通りの先まで飛ばされてしまった。
「追いついたぞ」
僕達の目の前にやって来たその少年は静かに呟いた。年齢は、小学校高学年にも見えるし、中学3年生くらいにも見える。身長150cm程。白いワイシャツ、黒いスラックスを履いている。
そして、なによりその頭髪は、透き通るような白髪の、ソフトなマッシュルームカットをしている。
「やめろ……やめてくれ!」
中年男性はもう既に泣いている。放ってはおけない。
「君が、この人の腕を切ったのか? なぜ、そんな事をする?」
僕が問い掛けると、その白髪の少年は初めて僕を見た。
「弖寅衣 想か。ついに我の前に出てきたか」
「なんで僕の名前を!? 君は、まさかゼブルムか!?」
僕の名前を知っていて、しかも怪現象を起こしているとなると、ゼブルムの一員だとしか思えない。白髪の少年は少しずつこちらに近付いてくる。
「我をあの矮小な連中と同視するな。その男が事の顛末は話しただろうが、それはその男の主観でしかない」
白髪の少年を警戒するように、僕達3人は身構える。
「それは、どういう事ですの?」
ミルが緊張した声音で質問する。
「信じる信じないかは、ぬしらの自由。この男は、詐欺師だ。詐欺で稼いだ金で豪遊をしていた。この男の息子も詐欺師だった。だから、その息子が車で運転している所を事故死に見せかけて殺した。そして、この男はあの飲食店に毎日通い、女の店員に怒鳴り散らしていた。その女は先週自殺してしまった。それを、この男は反省もせず、毎日気楽にのうのうと暮らしていた。だから、我が罰する」
少年の言葉が終わると同時に、中年男性の左腕が肩から無くなった。中年男性は更に錯乱し始めた。
僕は、目の前の出来事にただ固まってしまった。何が起きているのか、全くわからない。今の少年の話は本当なのか?
「両腕を無くした男よ。我の話は間違っているか?」
白髪の少年はいつの間にか、地面に転がる中年男性の目の前に立ち、冷ややかに見下ろしていた。
「な、何も間違って……ない。だが、俺は、俺は、何も悪くねぇ!」
「反省できない生き物だな」
白髪の少年の言葉と共に、今度は男性の右足の膝から下が無くなる。
「きさま、そこまでにしろよ」
ドドが静かに言い放ち、白髪の少年に殴りかかっていた。だが、その大きな拳を少年は小さな片手で受け止めた。
「我には勝てない。諦めよ」
そう言って少年が手を離すと、ドドの身体が吹き飛び、建物の壁に衝突した。
「ドド! なんて事するんだ……!」
僕は目の前の得体の知れない少年を睨む。幸い、ドドは立ち上がっていたため無事のようだった。
「弖寅衣 想。我はぬしの事が嫌いではない。むしろ感心している。あの愚かな組織を相手に果敢に立ち向かっているのでな。故に、我はぬしらとは戦う気はない」
戦う気はないだと? だが、こいつはこの中年男性を殺す気だろう。そして、あのビルの崩壊もこいつの仕業だろう。止めなくてはいけないんだ。
「君に戦う気はなくても、僕は君を止める!」
胸の内の思いを口に出し、僕は先程爆発した建物の瓦礫を、少年の背後から飛ばす。
「無意味」
だが、白髪の少年の背後にまで迫ったその瓦礫はさらさらと溶けるように消えていった。どうなっているんだ?
「君は、一体何者なんだ?」
「我が名は、ファイナイト。弖寅衣 想、ぬしに問う。この世界は、救うに値するか? その価値があるか?」
ファイナイトと名乗った少年は僕にそう問い掛けた。この世界を守る価値、それがあるのかどうか。ふと、考えだして僕はわからなくなってしまう。
あの中年男性を、本当に救うべきなのか? 自分は、何のために戦っているのだ?
――――バァンッ!
その時、銃声が街に響いた。見ると、ファイナイトの後方に、先程ファイナイトを追っていたあの金髪女性が手に銃を持っていた。銃弾はファイナイトの背後で止まっており、地に落ちた。
「化け物め」
女性は低い声で呟いた。金髪の髪は前下がりのショートカット、黒縁フレームのメガネを掛けている。
身長170cm程のスラリとした体型にフィットする黒いレディーススーツを着ている。膝よりも少し上の位置までの丈のタイトスカートからは、黒タイツを履いた靱やかな脚が伸びていた。
そして、その手に2挺の拳銃を持っている。シクスやミルが扱うオートタイプではなく、リボルバー式だ。
「この世界を救うに値するかだと? はっ。決まっている。私が、生きるために救う。それだけで充分だ」
金髪黒縁メガネの女性はそう言って、ファイナイトに向けて銃を撃った。
ドルティエさんの厳しい生活リズムにも慣れ、いつも目敏く世話を焼いてくれる彼女にはとても感謝している。
朝食はいつもドルティエさんが準備してくれるが、夕食はドドとドルティエさんの2人で作る事も定番になった。
ミルも一緒に教わりながらパスタを作った日もあった。ミルは苦戦しながらも、しっかり最初から最後までやりとげ、そのパスタは初めてとは思えないくらい美味しかった。
あのエイシストがここを訪ねる事もなかったため、やはり未来予知は通用していないようだった。
そのため、僕達は戦いを忘れ、安心して日々を過ごす。
退屈な時は、遠くの街までミルに連れて行ってもらい、3人で観光をした日もあった。ただ、指名手配の身なので長居が出来なかった事が悔やまれた。
倉庫で暮らし始めて5日目。既に10月下旬に差し掛かろうとしていた。
身体は完治とはいかないものの、あの戦いからかなり回復しつつあり、ミルの火傷も跡が残らなかったので安心していた。
その日、昼食を終えた後、ドルティエさんがタブレット端末をじっと見つめていた。
「ドルティエさん、どうしたんですか?」
彼女がずっと動かなかったので、僕はつい声を掛けてしまう。
「それが、今ニュースでやってて驚いてしまったのですが、迦鳴の方で建物が突然崩落したそうなんです」
ドルティエさんがニュースの映像を僕に見せてくれた。迦鳴県迦鳴市。九州で最も栄えている都市である。その繁華街のビルが確かに、不自然に崩壊している。
僕はその映像を食い入るように見てしまう。と、その映像に何か黒い影が飛んでいた。何だこれは?
あまりにも一瞬で、殆どの人は気づかないか、虫か鳥かと思ってしまうだろう。しかし、僕には人にしか見えなかった。ドロドロとした胸騒ぎがする。
「弖寅衣様? どうかなさいましたか?」
ドルティエさんが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「これ、つい先程の事件なんですよね? ドド。ミル」
僕は2人を呼んで映像を見せる。
「思い過ごしならいいんだけど、何か人為的な力を感じるんだ。今から、行こう」
僕はそう言って、椅子の背もたれに掛けていたモスグリーン色のマウンテンパーカーを着る。
「迦鳴か。琥蘭道からじゃ、端から端だな」
ドドはそう言って、玄関から3人の靴を持ってきてくれ、そしてレザーのジャケットを着る。
「今から行くのですか? ちょっと、そんな床に靴を置かないでください」
ドルティエさんは少し驚きなからも注意してきたので、ドドはわりぃと謝る。
「わたくしのテリファイアなら一瞬ですわ。ドルティエはお留守番していてください」
ミルは平気でフローリングの上で革のショートブーツを履く。今日は紅と黒で配色されたアシンメトリーなデザインのゴスロリワンピースだ。
「それじゃ、行こうか」
僕とドドはミルと手を繋ぐ。手を繋ぐ必要はないと解っていても、最近は移動する時についこうして手を繋いでしまうんだ。
見慣れた室内から一変し、僕達の目の前には初めて見る迦鳴の街が広がっていた。
「ここが迦鳴ですのね! 素敵な街じゃありませんか!」
ミルも迦鳴は初めてだったようで、物珍しく周囲を見渡している。だが、少し離れた場所では倒壊したビルが痛々しく目に付いた。
「間近で見ると酷いね。他のビルも崩れるかもしれない。気をつけながら行こう」
僕の言葉に2人も頷き、警戒しながら3人で進む。繁華街という事もあり、周囲には多くの人が行き交っている。
ある人は倒壊したビルから逃げるように足速になり、またある人はそのビルを写真に収めようと立ち止まって携帯端末のカメラを向けている。
その時、僕達の少し前で1人の男性が助けを乞いながら、ふらふらと走っていた。
「どうしましたか?」
僕は堪らず声を掛けた。
「た、助けてくれ。殺される。腕を……腕を切られちまったんだ!」
そう言われてから気付いた。その男性の、右腕の肘から先がない。だが、そこから血は出ておらず、断面図はただ黒いだけだ。
「な、なんだこりゃ? あんた一体どうしたんだ?」
ドドが不信に思いながら聞くと、混乱状態だった中年男性は少しずつ落ち着きながら話した。
その日、男性はいつも通うファストフード店で昼飯を済ませようと、そこへ立ち寄ったのだそうだ。だが、そこの若い男性店員の言葉がよく聞き取れなかったため、注意をした。
すると、その店員は中年男性を見つめ、何か呟くと、次の瞬間には中年男性の腕はなくなっていたという。そして、その店員は中年男性にも聞こえる声でこう言った。
「お前の預金残高を全て0にした」
そんな馬鹿げた事信じられないと思いながらも、男性は慌てて近くのコンビニのATMで確認すると、たしかに1000万円程あった残高が0になっていたと言う。
「今でも信じられねぇが、何度も確認したんだ……何より、この腕がおかしくなっちまってんだ!」
中年男性はなかなか体格もいいが、今は自身の腕を見つめながら震え、取り乱している。
――――ゴゴオォン!
その時、衝撃音が鳴り響き、近くのアパレルショップが爆発した。
「きた……! あいつが、追っかけてきやがった!」
中年男性は腰を抜かして、地面に倒れながらも藻掻くように足を動かしている。
爆発があった方を見ると、1人の少年が逃げており、その少年を追うように金髪の女性が走って来ている。
「あの女か!」
ドドが言う。あの女性が男性の腕を切断したのか。そして、今度は少年の命も狙っているのか。
いや、違う、何か違う。
「そ、そっちじゃ……ない。あっち、だっ!」
地面に倒れた男性がガタガタ歯を震わせながら呟くと同時に、逃げていた少年が振り返り、金髪の女性に向けて手を向けると、その金髪の女性の身体は宙に浮き、遥か遠くの通りの先まで飛ばされてしまった。
「追いついたぞ」
僕達の目の前にやって来たその少年は静かに呟いた。年齢は、小学校高学年にも見えるし、中学3年生くらいにも見える。身長150cm程。白いワイシャツ、黒いスラックスを履いている。
そして、なによりその頭髪は、透き通るような白髪の、ソフトなマッシュルームカットをしている。
「やめろ……やめてくれ!」
中年男性はもう既に泣いている。放ってはおけない。
「君が、この人の腕を切ったのか? なぜ、そんな事をする?」
僕が問い掛けると、その白髪の少年は初めて僕を見た。
「弖寅衣 想か。ついに我の前に出てきたか」
「なんで僕の名前を!? 君は、まさかゼブルムか!?」
僕の名前を知っていて、しかも怪現象を起こしているとなると、ゼブルムの一員だとしか思えない。白髪の少年は少しずつこちらに近付いてくる。
「我をあの矮小な連中と同視するな。その男が事の顛末は話しただろうが、それはその男の主観でしかない」
白髪の少年を警戒するように、僕達3人は身構える。
「それは、どういう事ですの?」
ミルが緊張した声音で質問する。
「信じる信じないかは、ぬしらの自由。この男は、詐欺師だ。詐欺で稼いだ金で豪遊をしていた。この男の息子も詐欺師だった。だから、その息子が車で運転している所を事故死に見せかけて殺した。そして、この男はあの飲食店に毎日通い、女の店員に怒鳴り散らしていた。その女は先週自殺してしまった。それを、この男は反省もせず、毎日気楽にのうのうと暮らしていた。だから、我が罰する」
少年の言葉が終わると同時に、中年男性の左腕が肩から無くなった。中年男性は更に錯乱し始めた。
僕は、目の前の出来事にただ固まってしまった。何が起きているのか、全くわからない。今の少年の話は本当なのか?
「両腕を無くした男よ。我の話は間違っているか?」
白髪の少年はいつの間にか、地面に転がる中年男性の目の前に立ち、冷ややかに見下ろしていた。
「な、何も間違って……ない。だが、俺は、俺は、何も悪くねぇ!」
「反省できない生き物だな」
白髪の少年の言葉と共に、今度は男性の右足の膝から下が無くなる。
「きさま、そこまでにしろよ」
ドドが静かに言い放ち、白髪の少年に殴りかかっていた。だが、その大きな拳を少年は小さな片手で受け止めた。
「我には勝てない。諦めよ」
そう言って少年が手を離すと、ドドの身体が吹き飛び、建物の壁に衝突した。
「ドド! なんて事するんだ……!」
僕は目の前の得体の知れない少年を睨む。幸い、ドドは立ち上がっていたため無事のようだった。
「弖寅衣 想。我はぬしの事が嫌いではない。むしろ感心している。あの愚かな組織を相手に果敢に立ち向かっているのでな。故に、我はぬしらとは戦う気はない」
戦う気はないだと? だが、こいつはこの中年男性を殺す気だろう。そして、あのビルの崩壊もこいつの仕業だろう。止めなくてはいけないんだ。
「君に戦う気はなくても、僕は君を止める!」
胸の内の思いを口に出し、僕は先程爆発した建物の瓦礫を、少年の背後から飛ばす。
「無意味」
だが、白髪の少年の背後にまで迫ったその瓦礫はさらさらと溶けるように消えていった。どうなっているんだ?
「君は、一体何者なんだ?」
「我が名は、ファイナイト。弖寅衣 想、ぬしに問う。この世界は、救うに値するか? その価値があるか?」
ファイナイトと名乗った少年は僕にそう問い掛けた。この世界を守る価値、それがあるのかどうか。ふと、考えだして僕はわからなくなってしまう。
あの中年男性を、本当に救うべきなのか? 自分は、何のために戦っているのだ?
――――バァンッ!
その時、銃声が街に響いた。見ると、ファイナイトの後方に、先程ファイナイトを追っていたあの金髪女性が手に銃を持っていた。銃弾はファイナイトの背後で止まっており、地に落ちた。
「化け物め」
女性は低い声で呟いた。金髪の髪は前下がりのショートカット、黒縁フレームのメガネを掛けている。
身長170cm程のスラリとした体型にフィットする黒いレディーススーツを着ている。膝よりも少し上の位置までの丈のタイトスカートからは、黒タイツを履いた靱やかな脚が伸びていた。
そして、その手に2挺の拳銃を持っている。シクスやミルが扱うオートタイプではなく、リボルバー式だ。
「この世界を救うに値するかだと? はっ。決まっている。私が、生きるために救う。それだけで充分だ」
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