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第5章 ファイナイト
5-2 ドルティエ
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「わたくしの『テリファイア』の事を知っているのは姉様だけだったと以前言いましたが、実はこのドルティエも知っているのです」
ドルティエさんも交え、4人で食事をしながらミルが話し出した。それほど、ミルも心を許している相手という事なのだろう。
「はい。初めてお嬢様のテレポートを見た時は心臓が飛び出るくらいに驚きました」
ドルティエさんは目の前の餃子を無心で頬張りながらそう答えた。
「あの時のドルティエの顔は本当に見ものでしたわ! それから、わたくしに銃の扱いを教えてくれたのもドルティエなのです」
「そうなの? ミルも一颯さんみたいにお父さんから教わったのかと思ってた」
僕がそう言うと、ミルは、ツインテールの髪を揺らしながら首を振る。
「お父様は忙しいので、あまり家にいないのです」
ミルはそれが普通だと思っているようで、表情を崩さずにそう言った。
「確か、ミルは日本人とフランス人のハーフだよね? じゃあ、ドルティエさんはフランス人なんですか?」
僕が話を振ると、ドルティエさんは必死に頬張っていた餃子をお茶で流し込み、一息つく。
「はい、私はフランスの産まれで、ルヴィエ家に代々仕えてきた家系の者です。ルヴィエ家を守るため、幼少の頃から銃の扱いなど教わってきました」
ピンと伸ばした背筋がとても綺麗なドルティエさんはそう語った。
「ルヴィエっつーと、ミルの母方の家系か? そんなに代々続いてるのか?」
ドドはドルティエさんの空いたグラスにお茶を注ぎながら聞いた。
「あ、そんな、ありがとうございます。えぇ、ルヴィエ家は何代も栄華を極めてきた、誇りある家柄なのです」
ドルティエさんはどこか誇らしげに語り、僕とドドは、おぉーと唸っていた。
「旦那様と奥様には私からうまく伝えておきます。見た所、3人とも酷いお怪我ですね。特に、堂島さん。ここにいる限り、私が手当て致します」
「ん? 俺か? 俺はいいって。むしろ、想の方が骨折とか打撲も酷いはずだ。見てやってくれ」
ドドはそう言って僕の身体を気遣ってくれた。
「そ、そうなんですか? わかりました。しかし、余程強い敵と戦ったようですね。お嬢様からは、『倒さなければならない敵』とだけしか聞いてないのですが」
ドルティエさんはそう言ってから牡蠣フライを口に運び、その美味しさに驚いていた。
「あー、ゼブルムって言う組織がいるんです。あちらも僕達を狙っているんですが、僕達も奴らを倒したいんです。間違いを正したい。それだけなんです」
僕は、ふと自分が何のために戦っているのか疑問に思う。本当に、それが理由なのだろうか? 姉に世界の敵と戦えと言われ、ここまで成り行きで来てしまった。ただ、今の僕にとって戦う1番の理由は。
「何より、仲間を守りたいんです。もう大切な人を失いたくないので。今の僕にとっては、ドドとミルです。だから、戦います」
そう、はっきり告げた。僕の言葉に、ドドもミルも納得しているような笑顔をする。きっと、2人とも同じ理由なのだろう。
「ドルティエはきっと信じないでしょうけど、わたくし達先程まで幽霊と戦っていましたのよ?」
ミルの言葉を聞いて、ドルティエさんは口を開け、手に持っていたフォークを落とし、慌ててそれを拾うと笑い出した。
「ちょっと! なんで笑ってるんですの!? やっぱり信じてくれませんわね」
ミルはむきになりながら、ドルティエさんの前にあった餃子を貪り始める。
「まぁ、無理もねぇさ。俺だって未だに現実感ないな。まさか、幽霊をぶん殴る日が来るとは思ってなかったからな。だが、この世にはいい幽霊もいるんだ」
ドドはそう言って僕を見て笑い、釣られるようにミルも僕に笑いかける。
「堂島さんがそう仰るなら私も信じます」
「はぁ? ちょっと、わたくしの話は笑い飛ばしたくせに、ドドの話は信じますの!? どういう神経してますの!?」
「そ、それは! こ、こんな美味しいお料理を作る御方が嘘をつくわけがないという意味で言ったのです!」
なぜだかドルティエさんが慌て出している。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。とにかく、僕達はこれからも戦い続けなければいけないので、いっぱい栄養とって、早く身体を治さなきゃね」
うん、なんとか上手く纏める事ができただろうか。
「わかりました。先程も言いましたが、ここにいる間は、このドルティエがしっかり3人をお世話致します。至らない所はあるかもしれませんが、改めてよろしくお願いします」
ドルティエさんが深々と頭を下げたので、僕もこちらこそと頭を下げる。
その後も、4人で団欒しながら食事を楽しみ、あの大量にあった料理をすっかり平らげてしまった頃には、既に深夜2時に差し掛かっていた。
隣の部屋も空いていたため、僕とドドはそちらを使わせてもらうことにした。流石に1人1部屋では広すぎてしまう。
あの激闘の後で疲労困憊していたため、ベッドに横たわると意識を失うように眠りについた。
「おーきーろー!」
寝始めたはずだったのだが、僕の意識は引き寄せられるように、クアルトへと強制召喚させられていたのだ。
ソファに座っていた僕のすぐ真横に姉の顔があった。
そして、その姉は、なんと、メイド姿であった。
「今度は、メイドか。うーん、おやすみー」
「おやすむなー! お姉ちゃんといっぱいお話しろー!」
姉が僕の身体を揺さぶり、現実世界に戻さないようにしてくる。
「わかった! わかった! 起きます! はい! 起きた! はい! 姉さん可愛い!」
姉はきっと今日も「似合うでしょ?」とか「可愛いでしょ?」と言ってくるはずなので先手を打った。
「本当にそう思ってるー? またいい加減な事言ってるでしょー? そんな適当な事ばっか言ってるそーくんはー……コチョコチョの刑に処すー!」
と、姉は僕の身体のありとあらゆる部分をくすぐり始めた。
「あっ、ちょっと……ぎゃははっ、なっ、子供みたいな事しないでよ! コチョコチョとか、何年前の人だよ! あっ、そっちはだめだってば!」
姉の手がついに僕の下半身に伸びようとした所で、僕は本気で慌て出した。
「煉美! 想をいじめちゃダメですよ!」
と、そこでシクスが姉の足を引っ張り、ぶん回してから壁に向かって投げた。
「はぁ……はぁ、シクス、ありがとう。助かったよ」
「想、安心するのはまだ早い。奴が起き上がります」
シクスの言葉通り、壁に激突して沈んだ姉が再び立ち上がろうとしていた。僕は思わず固唾を飲んだ。
「あんたたちねー……お姉ちゃんを怪物かなんかだと思ってない?」
姉はそう言って飛び上がり、並んで立っていた僕とシクスに向かってラリアットをしてきた。メイド服姿で。
「いてて……だってそうでしょ! 妖怪コチョコチョお化けだよ姉さんは」
この部屋では痛みはないが、つい痛がりながら起き上がって、僕はそう反論した。
「誰が妖怪よ! そう、じゃあこれならどう?」
姉は、ある物を取り出し、それを頭につけた。
「にゃん!」
猫耳カチューシャだった。それを頭につけ、両手を猫手にし、片足を折り曲げてポーズを取った。つまり、猫耳メイドなのだ。
「う、うわぁ……」
シクスはドン引きしている。
「何さ!? あんたと同じ猫ちゃんになってあげたのに! 感謝しなさい!」
もう、この人はどこを目指しているんだ。呆れ果てた僕はソファに座り、シクスも無言でキッチンへと行く。
姉は、何さ何さと膨れながら渋々特等席のソファに座る。猫耳カチューシャを外す気配は一切ない。
「そもそも、僕これから寝る所だったのに、どうしたの? 何かあったの?」
姉のラリアットを食らってすっかり目は覚めてしまった。
「だってさー、みんなでパーティーしててずるいよー」
そう言って姉は口を尖らせる。いい歳こいて。
「あぁ、そっか。ついさっき現界したばっかだから来れなかったんだね」
24時間で10分だけしか現実世界に来れないという制限があるため、あのパーティーに行きたくても行けなかったのだろう。
と、そこでシクスがキッチンから戻り、紅茶を持ってきてくれた。ありがたくそれを口にすると、アールグレイをベースにしたブレンドの味がする。美味しいな。
「ご飯を食べるためだけに現界するなんて、私は反対です。いつ敵が襲ってきても可笑しくないんですよ?」
「シクスー。あんたさー、クラリスと戦った時に意気揚々とこの部屋出てったけどさ、それナターシャの時にとっとくべきだったんじゃないの? ねぇ? タイミング間違えたよね? よくあんたがそんな口利けるよね!」
姉がそう言うと、シクスは口篭り、言葉に詰まる。姉が説教をし出すと怖い。延々と続きそうだ。
「ま、まぁまぁ。確かにナターシャとの戦いは厳しかったけど、ミルが頑張ってくれたしさ。そんなにみんなでご飯食べたいなら、次の夕飯はこっちに来て一緒に食べる?」
僕が提案すると、不機嫌だった姉の顔は花を咲かせるように笑顔になる。
「そーくーん! いいのいいの!? 嬉しい! 行く行く!」
「うん、たまにはみんなで食べよう。シクスもおいで」
僕がそう言うと、気まずそうにしていたシクスが顔を上げる。
「私も、いいのですか?」
「もちろん。ミルもお話したがってたし。姉さんも、それで今回の事はチャラにしてあげようね?」
僕の提案に、上機嫌になった姉は戯けるように肩を竦める。
「いいでしょう! 許してあげましょう!」
やれやれ。3人姉弟の真ん中は苦労する。
「ただ、ずっと気掛かりな事があるんだ。エイシスト、あいつの未来予知で今僕達がいる場所が知られてしまったらどうしよう?」
他に行く場所がなかったので、ミルに甘えてしまっているが、あの倉庫の場所がゼブルムに知られてしまうのはまずい。
僕の質問を聞いた姉は、紅茶を1口飲んで落ち着いてから口を開く。
「あの里でエイシストに会った時、あいつは妙な事を言ってたね。『3週間程、未来予知で想くん達の居場所が視えなかった』と。その3週間はあの先生の所にいた期間だ。かと言って、先生はグラインド能力者ではなかった。これはあたしの予想でしかないけど、そーくんの居場所が都合よく探知できないようにできている。そうとしか思えないんだよね」
姉は少し難しい顔をしながらそう言い、楽観的な主観でしかないけどねと言葉を繋いだ。
本当に、そんな事ができているのだろうか? しかし、姉の言う通り、たまたま視えなかったとは思えないのだ。
「私は、根拠の無い理論は好みません。ですが、グラインドの力もそうであるように、信じる事で力は大きくなります。だから、想自身がそれを信じれば、きっとあのエイシストの未来視も欺けるのではないかと」
シクスがそう語ってくれた。そうか、信じる事が原動力か。謎は残るものの、僕は納得し、楽観的かつ不確かな現象を信じる事に決めた。
ドルティエさんも交え、4人で食事をしながらミルが話し出した。それほど、ミルも心を許している相手という事なのだろう。
「はい。初めてお嬢様のテレポートを見た時は心臓が飛び出るくらいに驚きました」
ドルティエさんは目の前の餃子を無心で頬張りながらそう答えた。
「あの時のドルティエの顔は本当に見ものでしたわ! それから、わたくしに銃の扱いを教えてくれたのもドルティエなのです」
「そうなの? ミルも一颯さんみたいにお父さんから教わったのかと思ってた」
僕がそう言うと、ミルは、ツインテールの髪を揺らしながら首を振る。
「お父様は忙しいので、あまり家にいないのです」
ミルはそれが普通だと思っているようで、表情を崩さずにそう言った。
「確か、ミルは日本人とフランス人のハーフだよね? じゃあ、ドルティエさんはフランス人なんですか?」
僕が話を振ると、ドルティエさんは必死に頬張っていた餃子をお茶で流し込み、一息つく。
「はい、私はフランスの産まれで、ルヴィエ家に代々仕えてきた家系の者です。ルヴィエ家を守るため、幼少の頃から銃の扱いなど教わってきました」
ピンと伸ばした背筋がとても綺麗なドルティエさんはそう語った。
「ルヴィエっつーと、ミルの母方の家系か? そんなに代々続いてるのか?」
ドドはドルティエさんの空いたグラスにお茶を注ぎながら聞いた。
「あ、そんな、ありがとうございます。えぇ、ルヴィエ家は何代も栄華を極めてきた、誇りある家柄なのです」
ドルティエさんはどこか誇らしげに語り、僕とドドは、おぉーと唸っていた。
「旦那様と奥様には私からうまく伝えておきます。見た所、3人とも酷いお怪我ですね。特に、堂島さん。ここにいる限り、私が手当て致します」
「ん? 俺か? 俺はいいって。むしろ、想の方が骨折とか打撲も酷いはずだ。見てやってくれ」
ドドはそう言って僕の身体を気遣ってくれた。
「そ、そうなんですか? わかりました。しかし、余程強い敵と戦ったようですね。お嬢様からは、『倒さなければならない敵』とだけしか聞いてないのですが」
ドルティエさんはそう言ってから牡蠣フライを口に運び、その美味しさに驚いていた。
「あー、ゼブルムって言う組織がいるんです。あちらも僕達を狙っているんですが、僕達も奴らを倒したいんです。間違いを正したい。それだけなんです」
僕は、ふと自分が何のために戦っているのか疑問に思う。本当に、それが理由なのだろうか? 姉に世界の敵と戦えと言われ、ここまで成り行きで来てしまった。ただ、今の僕にとって戦う1番の理由は。
「何より、仲間を守りたいんです。もう大切な人を失いたくないので。今の僕にとっては、ドドとミルです。だから、戦います」
そう、はっきり告げた。僕の言葉に、ドドもミルも納得しているような笑顔をする。きっと、2人とも同じ理由なのだろう。
「ドルティエはきっと信じないでしょうけど、わたくし達先程まで幽霊と戦っていましたのよ?」
ミルの言葉を聞いて、ドルティエさんは口を開け、手に持っていたフォークを落とし、慌ててそれを拾うと笑い出した。
「ちょっと! なんで笑ってるんですの!? やっぱり信じてくれませんわね」
ミルはむきになりながら、ドルティエさんの前にあった餃子を貪り始める。
「まぁ、無理もねぇさ。俺だって未だに現実感ないな。まさか、幽霊をぶん殴る日が来るとは思ってなかったからな。だが、この世にはいい幽霊もいるんだ」
ドドはそう言って僕を見て笑い、釣られるようにミルも僕に笑いかける。
「堂島さんがそう仰るなら私も信じます」
「はぁ? ちょっと、わたくしの話は笑い飛ばしたくせに、ドドの話は信じますの!? どういう神経してますの!?」
「そ、それは! こ、こんな美味しいお料理を作る御方が嘘をつくわけがないという意味で言ったのです!」
なぜだかドルティエさんが慌て出している。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。とにかく、僕達はこれからも戦い続けなければいけないので、いっぱい栄養とって、早く身体を治さなきゃね」
うん、なんとか上手く纏める事ができただろうか。
「わかりました。先程も言いましたが、ここにいる間は、このドルティエがしっかり3人をお世話致します。至らない所はあるかもしれませんが、改めてよろしくお願いします」
ドルティエさんが深々と頭を下げたので、僕もこちらこそと頭を下げる。
その後も、4人で団欒しながら食事を楽しみ、あの大量にあった料理をすっかり平らげてしまった頃には、既に深夜2時に差し掛かっていた。
隣の部屋も空いていたため、僕とドドはそちらを使わせてもらうことにした。流石に1人1部屋では広すぎてしまう。
あの激闘の後で疲労困憊していたため、ベッドに横たわると意識を失うように眠りについた。
「おーきーろー!」
寝始めたはずだったのだが、僕の意識は引き寄せられるように、クアルトへと強制召喚させられていたのだ。
ソファに座っていた僕のすぐ真横に姉の顔があった。
そして、その姉は、なんと、メイド姿であった。
「今度は、メイドか。うーん、おやすみー」
「おやすむなー! お姉ちゃんといっぱいお話しろー!」
姉が僕の身体を揺さぶり、現実世界に戻さないようにしてくる。
「わかった! わかった! 起きます! はい! 起きた! はい! 姉さん可愛い!」
姉はきっと今日も「似合うでしょ?」とか「可愛いでしょ?」と言ってくるはずなので先手を打った。
「本当にそう思ってるー? またいい加減な事言ってるでしょー? そんな適当な事ばっか言ってるそーくんはー……コチョコチョの刑に処すー!」
と、姉は僕の身体のありとあらゆる部分をくすぐり始めた。
「あっ、ちょっと……ぎゃははっ、なっ、子供みたいな事しないでよ! コチョコチョとか、何年前の人だよ! あっ、そっちはだめだってば!」
姉の手がついに僕の下半身に伸びようとした所で、僕は本気で慌て出した。
「煉美! 想をいじめちゃダメですよ!」
と、そこでシクスが姉の足を引っ張り、ぶん回してから壁に向かって投げた。
「はぁ……はぁ、シクス、ありがとう。助かったよ」
「想、安心するのはまだ早い。奴が起き上がります」
シクスの言葉通り、壁に激突して沈んだ姉が再び立ち上がろうとしていた。僕は思わず固唾を飲んだ。
「あんたたちねー……お姉ちゃんを怪物かなんかだと思ってない?」
姉はそう言って飛び上がり、並んで立っていた僕とシクスに向かってラリアットをしてきた。メイド服姿で。
「いてて……だってそうでしょ! 妖怪コチョコチョお化けだよ姉さんは」
この部屋では痛みはないが、つい痛がりながら起き上がって、僕はそう反論した。
「誰が妖怪よ! そう、じゃあこれならどう?」
姉は、ある物を取り出し、それを頭につけた。
「にゃん!」
猫耳カチューシャだった。それを頭につけ、両手を猫手にし、片足を折り曲げてポーズを取った。つまり、猫耳メイドなのだ。
「う、うわぁ……」
シクスはドン引きしている。
「何さ!? あんたと同じ猫ちゃんになってあげたのに! 感謝しなさい!」
もう、この人はどこを目指しているんだ。呆れ果てた僕はソファに座り、シクスも無言でキッチンへと行く。
姉は、何さ何さと膨れながら渋々特等席のソファに座る。猫耳カチューシャを外す気配は一切ない。
「そもそも、僕これから寝る所だったのに、どうしたの? 何かあったの?」
姉のラリアットを食らってすっかり目は覚めてしまった。
「だってさー、みんなでパーティーしててずるいよー」
そう言って姉は口を尖らせる。いい歳こいて。
「あぁ、そっか。ついさっき現界したばっかだから来れなかったんだね」
24時間で10分だけしか現実世界に来れないという制限があるため、あのパーティーに行きたくても行けなかったのだろう。
と、そこでシクスがキッチンから戻り、紅茶を持ってきてくれた。ありがたくそれを口にすると、アールグレイをベースにしたブレンドの味がする。美味しいな。
「ご飯を食べるためだけに現界するなんて、私は反対です。いつ敵が襲ってきても可笑しくないんですよ?」
「シクスー。あんたさー、クラリスと戦った時に意気揚々とこの部屋出てったけどさ、それナターシャの時にとっとくべきだったんじゃないの? ねぇ? タイミング間違えたよね? よくあんたがそんな口利けるよね!」
姉がそう言うと、シクスは口篭り、言葉に詰まる。姉が説教をし出すと怖い。延々と続きそうだ。
「ま、まぁまぁ。確かにナターシャとの戦いは厳しかったけど、ミルが頑張ってくれたしさ。そんなにみんなでご飯食べたいなら、次の夕飯はこっちに来て一緒に食べる?」
僕が提案すると、不機嫌だった姉の顔は花を咲かせるように笑顔になる。
「そーくーん! いいのいいの!? 嬉しい! 行く行く!」
「うん、たまにはみんなで食べよう。シクスもおいで」
僕がそう言うと、気まずそうにしていたシクスが顔を上げる。
「私も、いいのですか?」
「もちろん。ミルもお話したがってたし。姉さんも、それで今回の事はチャラにしてあげようね?」
僕の提案に、上機嫌になった姉は戯けるように肩を竦める。
「いいでしょう! 許してあげましょう!」
やれやれ。3人姉弟の真ん中は苦労する。
「ただ、ずっと気掛かりな事があるんだ。エイシスト、あいつの未来予知で今僕達がいる場所が知られてしまったらどうしよう?」
他に行く場所がなかったので、ミルに甘えてしまっているが、あの倉庫の場所がゼブルムに知られてしまうのはまずい。
僕の質問を聞いた姉は、紅茶を1口飲んで落ち着いてから口を開く。
「あの里でエイシストに会った時、あいつは妙な事を言ってたね。『3週間程、未来予知で想くん達の居場所が視えなかった』と。その3週間はあの先生の所にいた期間だ。かと言って、先生はグラインド能力者ではなかった。これはあたしの予想でしかないけど、そーくんの居場所が都合よく探知できないようにできている。そうとしか思えないんだよね」
姉は少し難しい顔をしながらそう言い、楽観的な主観でしかないけどねと言葉を繋いだ。
本当に、そんな事ができているのだろうか? しかし、姉の言う通り、たまたま視えなかったとは思えないのだ。
「私は、根拠の無い理論は好みません。ですが、グラインドの力もそうであるように、信じる事で力は大きくなります。だから、想自身がそれを信じれば、きっとあのエイシストの未来視も欺けるのではないかと」
シクスがそう語ってくれた。そうか、信じる事が原動力か。謎は残るものの、僕は納得し、楽観的かつ不確かな現象を信じる事に決めた。
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