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第3章 サフォケイション
3-21 復讐
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「なんだお前は!? どこから現れた!?」
突然現れた男、シクスに江飛凱は動揺を隠せずにいた。
「お前を倒すために地獄から来たんだよ」
そう言ってシクスは手に拳銃を構え、容赦なく撃つ。状況に戸惑いながらも江飛凱は風で防御しながら空へと舞い上がる。
「お、お前、あん時の……へへっ、また助けられちまったな」
ファルさんは上半身を起こしながらシクスを見た。
「ファルさん、ここまで戦ってくれてありがとうございます。後は私にお任せを」
シクスは背後のファルさんに向かって振り返りそう言うと、跳躍し、10m程の高さにいた江飛凱の目の前へと現れる。その江飛凱に向かって左脚で蹴りを放つ。江飛凱は咄嗟に腕と脚を構え防御した。
すると、シクスはグラインド、D3の力で両手にサブマシンガンを出現させ連射する。
「くっ、貴様何者だ!?」
江飛凱は風で防御しつつも上空を飛び、回避していく。そして風の刃を放ち、落雷を落としていく。
「貴様に名乗る名などない」
建物の屋根の上に降り立ったシクスは、その上を駆け抜けながら今度はショットガンを撃っている。その足の速さはファルさんのバイクの速さとさほど変わらない。
そして、豪雨はさらに強くなっていく。さらに、広場には大きな竜巻が現れた。
「貴様が何者だろうがこの際どうでもいいか。私を邪魔する者は殺すまで」
そう言って、江飛凱は瞬時にシクスの背後まで飛び、巨大な風の衝撃波を発生させ、シクスを竜巻の中へと飛ばす。
「くっ」
シクスが小さく呻いた。竜巻の中には無数の風の刃が飛び交っていたのだ。血は出ないものの、現界している身体にダメージが蓄積される。それが積もればシクスは現界を保てなくなる。
しかし、シクスはすぐに飛び交う風の刃を見極め、それを上手く足場にし、竜巻の中を跳ね上がっていく。
「人間とは思えない身体能力だな。ならこれはどうだ?」
江飛凱は竜巻の中心に向けて落雷を落とした。しかもかなりの太さの雷であった。
シクスが持ち前の身体能力で雷を回避する事は容易かったが、竜巻内に落ちた雷によって、竜巻は帯電し始める。そして、竜巻内で次々と雷の矢が飛び交い始める。
「ハハハハハ! どうだね? もう生きて帰れまい」
江飛凱は次々に竜巻内へ雷を落としていく。竜巻の壁は厚く、内側から外に出ようと試みたシクスは弾き飛ばされ、帯電した竜巻による電撃を受けてしまう。
それでも、シクスは果敢に上へ上へと跳びあがっていく。常人では有り得ない事を成し遂げてしまう身体能力だ。
そして上空に近づいた時、シクスは空中で大量の手榴弾をばら撒き、それを拳銃で撃った。爆風によって竜巻の上部が破壊される。
「なんだと?」
数秒の出来事に江飛凱は表情を曇らせる。爆風によってシクスはさらに高く跳躍し、江飛凱の頭上にまで跳んでいた。
「死ね、江飛凱」
シクスはそう言い放つと左手で無数の手榴弾を投げながら右手でサブマシンガンを連射し、爆発が次々と発生する。
が、その中心部からさらにまた新たな竜巻を発生させ、江飛凱は爆発を防いだようだ。
「はぁ、はぁ、なかなか酷い事をしてくれるもんだねぇ?」
息を切らしながらも、江飛凱は余裕を見せていた。シクスはジェットコースターのレールの上に立ち、右手に持ったサブマシンガンと左手にショットガンを出し連射していく。
「なら、これはどうかなー?」
その時、ずっと降り続けていた豪雨が一瞬の内に猛吹雪に変わった。
「くっ!」
連射を続けていたシクスの手が止まる。あまりにも激しい吹雪は視界を遮断し、辺りは豪雪地帯と化していた。
と、遥か上空から音がする。
――――ゴゴゴゴ……。
それは、雪崩だった。山など存在しなかったが、江飛凱は大量の雪を落としたらしく、それはシクスの上へと落ち、その周囲のジェットコースターのレールをひしゃげるように破壊していく。
「ハハハ! どうだねー? なかなかダイナミックだろー?」
江飛凱は今やシルエットでしか確認できないが、宙に浮きながら笑い声を上げている。
しかし、その江飛凱へと弾丸が飛ぶ。その弾丸は江飛凱の腰を貫いた。
「ぎがぁっ!? くっ!? くそ!? あれを食らってもまだ生きているのか!?」
江飛凱が被弾してダメージを負ったからか、吹雪が弱まり、今はしんしんと雪が降り、視界は晴れつつある。
シクスがいた位置、ジェットコースターのレールがあった場所の地面にシクスはスナイパーライフルを構えていた。
その周りには破壊されたジェットコースターのレールの骨組みが立っており、それを囲めて雪崩から身を守っていたようだった。あの一瞬で。
シクスは続けてもう1発、2発とスナイパーライフルで撃つと、その弾丸に追いつく程のスピードで江飛凱の頭上にまで飛び上がった。弾丸は囮でしかなかった。
そして、江飛凱の頭上から斜め下に線を描く蹴りを放ち、奴を地面へと叩きつけた。
「雪崩を受けても生きているのかと、先程お前は言ったな? そうじゃない。死んでるんだよ、私は。6年も前に」
雪が降り、その積もった雪の上に足を下ろしたシクスは、立ち上がろうとする江飛凱を見下ろしながら銃を構えて言う。
「貴様は覚えていないだろうな。6年前に、弖寅衣 煉美の部屋で殺した猫の事など」
何だって? シクスは事故で死んだのではなかったのか? シクスも、この江飛凱に殺されたのか?
「はっ? そんな事などあったか? いや、確か、昔あの女の部屋に忍びこんだ時に猫はいたな。ああ、そうだそうだ思い出したよ。私の足に噛みつき邪魔をしてきたからサイレンサーで撃ち殺したんだったな」
こいつ……許せない。許せない。
「そうだ。その時の猫が私だ。私は幽霊だ。私は、貴様の銃によって殺された。だから、私は、私を殺した銃をグラインドにした。こうしてお前に突き付けるために」
シクスがそう言っても、江飛凱は全くその話を信じていなかった。しかし、その猫についての事実を知っている事が何よりの証拠だ。その事にあの男は気付かずにいる。
「貴様に復讐するために私は今ここにいる。貴様は幽霊など信じないだろう。だが、貴様がやってきた行いによって多くの人間が死んだ。その罰を受ける時が来たのだ」
そう言って、シクスは手に持った拳銃の引き金を引く。その瞬間、足元の雪が舞い上がった。それがシクスに襲い掛かり、再び吹雪が発生する。
「なかなか面白い作り話をありがとう。だがね、私にはまだ先がある。ここで君のような小さな存在にやられてる場合ではないんだよ」
大量の雪を巻き上げ、シクスは上空へと飛ばされる。飛ばされながらも、彼は手に持った拳銃を連射していく。その照準は確実に江飛凱を捉えていたが、江飛凱は風の壁を張っていた。
「貴様のせいで多くの幸せが壊された! 貴様は、ここで必ず、仕留める!」
あのシクスが声を荒らげ、銃を連射している。
そして、この猛吹雪の中、落雷が発生する。落雷は雪を伝って広がっていき、それは地面に降り立ったシクスに次々と襲い掛かる。
――ブゥン!
そこに1本の光の筋が江飛凱に向けて走った。荷電粒子砲だ。ラウディさんが倒れた状態で荷電粒子砲を撃っていた。
「あいつの言う通りだ。俺達は、例えここで朽ち果てようが、江飛凱、お前を殺す! 弟! 動けるか? あいつを援護するぞ」
「はい! いきます!」
ラウディさんの声に僕もありったけの声で返事をする。シクスが、大切な親友がこんなにも必死になっているんだ。どんなに苦しくても動く。
猛吹雪の中、僕は近くに倒れていた長い木をグラインドで江飛凱に向けて飛ばした。奴はそれを風の刃で切り裂いた。
「死に損ないどもめ! まだ悪あがきをするか!」
江飛凱は僕とラウディさんに向けて落雷を放ってきたが、僕は近くに倒れていたもう1本の木に乗り、それを動かして回避し、ラウディさんは右腕のファントム・リムで防御しながらもこの豪雪地帯を走り出す。
「ありがとう。想。ラウディさん」
シクスの声が聞こえた。彼はどこかの建物の屋根の上からロケットランチャーを撃ち、江飛凱の周りでは爆発が巻き起こっている。
「江飛凱、お前を倒す!」
僕はそう言って、自身が乗る木を突撃させながら、周囲にあった木々、建物の瓦礫を一斉に江飛凱に向けて飛ばす。乗っていた木から飛び降り、それも奴に向けて飛ばす。
「効かないねー!」
そう言って奴はその全てを風で跳ね除ける。そこにシクスが再びロケットランチャーを撃ち、僕が飛ばした木々や瓦礫ごと爆発させる。
「俺達は戦士だ。貴様とは違って、誇りを胸に戦っているんだ」
江飛凱の近くまで飛び込んだラウディさんが、右手のファントム・リムを青白く輝かせ、電撃を撒き散らしながら江飛凱の顔を殴った。
「俺もいる。江飛凱、お前をここで討つ! 何が何でも! 譲れねぇ物があるんだ!」
と、ファルさんがディフィート・サニティーに跨り、炎を噴射させながら江飛凱の目の前に飛び上がっていた。そのまま前輪をぶつけ、半回転して後輪をぶつけるワンツーを放った。
「これが、私達だ。お前とは、背負ってる物の重みが違うんだ」
シクスがいつの間にか近くまで来ていた。ファルさんの攻撃によって、宙に飛ばされた江飛凱に向けて、正面から両手のサブマシンガンを連射する。
そして、それをすぐに捨て、宙に浮いた江飛凱の腹に向けて渾身の拳を放つ。それを当てると同時に、その拳に手榴弾を出現させ、爆発させた。
4人の連携によって、江飛凱の身体はボロボロになり、吹き飛ばされた。
「ぐばっはー! き、きさ、貴様らあぁーっ! 図に、図に乗るんじゃーないぞ! よくもこの私をコケにしてくれたなぁ!?」
倒れた江飛凱は、再び自身の能力で宙に浮かぶ。そして、空に向かって大声を上げ、手を横に広げた。すると、あの猛吹雪がぴたりと止んだかと思ったら、周囲は晴天になった。
いや、晴天などと言うものではなかった。猛暑、極暑、いや、獄暑と呼べる程に、今まで体感した事がない熱気に辺りは包まれていた。
「どうなってんだ!? これは!?」
バイクを走らせていたファルさんが汗を流しながら驚いている。いや、彼だけでなく僕もラウディさんもだらだら汗をかいていた。シクスだけは例外で汗1つかいていない。
そして、足元の積雪は瞬時に溶けて蒸発し、蒸気に包まれた一帯はサウナ状態を遥かに越えていた。
「どうだ? 苦しいか? もっと苦しませてやる」
江飛凱がその言葉を放つと同時に、身体が苦しくなり、意識が揺らいでいく。
「い、息が、でき、ない……」
僕は苦しみながらも言葉を吐いた。ファルさんもラウディさんもその場に倒れ始めた。
「ハハハハ! それはそうだ。酸素を極端に減らしたからね。この地獄のような暑さの中で窒息死するがいい」
酸素を減らしただと? まずい、身体が苦しくて、動けない。
だが、シクスは動いた。ハンドガンを乱射しながら江飛凱に近付き、蹴りを放つ。しかし、その蹴りにも先程までの威力はない。
「驚いたな。この獄暑酸欠状態でも動けるか。本当に幽霊か? まさか。それに、さっき程の力は出せないようだね」
シクスが呼吸困難に陥ることは無いが、それでもエネルギー粒子でできた身体に障害をもたらしているようだった。
動きが次第に鈍くなったシクスに、江飛凱は容赦なく風の刃を浴びせる。その刃はこの暑さで燃えだしている。
「ぐっ! くっ、ぐあぁっ!」
最後に風の衝撃波を受け、シクスの身体は吹き飛ばされた。
「シ、シクス……!」
僕の数m先で仰向けに倒れたシクスへと、僕は手を伸ばす。シクスの身体が少しずつ、薄くなっていく。
「ダメでした……私の負けです」
シクスはそう呟いた。
あのシクスが負けた。僕達は負けたのか? 江飛凱の圧倒的な力には、敵わないのか? ここまでなのか? こんなに悔しくて、無情な結末があっていいのか。
奴と僕達の間には、歴然とした力の差がある。それが現実であり、その現れがこの結末なのか。もう何もできない。僕達の負けだ。
「ハハハ! ついに負けを認めたか! 憐れだな! 命乞いでもするか?」
「違いますよ。あなたに負けたわけではありません」
そう言って、シクスは空に向けて手を伸ばす。
「全力でやりましたが、敵いませんでした。交代です」
――――パァン!
小気味いい音が周囲に響いた。
シクスの消えゆく手の平を、どこからか現れた手がタッチしたのだ。
その人物を見ようと、僕は顔を上げたが、既にいなかった。
そして、次の瞬間、30m程離れた所にいたはずの江飛凱の身体が吹き飛ばされていた。
「よくもあたしの可愛い2人の弟を傷つけてくれたなぁ!」
弖寅衣 煉美。
6年前に亡くなった筈の僕の姉が、目の前にいた。
突然現れた男、シクスに江飛凱は動揺を隠せずにいた。
「お前を倒すために地獄から来たんだよ」
そう言ってシクスは手に拳銃を構え、容赦なく撃つ。状況に戸惑いながらも江飛凱は風で防御しながら空へと舞い上がる。
「お、お前、あん時の……へへっ、また助けられちまったな」
ファルさんは上半身を起こしながらシクスを見た。
「ファルさん、ここまで戦ってくれてありがとうございます。後は私にお任せを」
シクスは背後のファルさんに向かって振り返りそう言うと、跳躍し、10m程の高さにいた江飛凱の目の前へと現れる。その江飛凱に向かって左脚で蹴りを放つ。江飛凱は咄嗟に腕と脚を構え防御した。
すると、シクスはグラインド、D3の力で両手にサブマシンガンを出現させ連射する。
「くっ、貴様何者だ!?」
江飛凱は風で防御しつつも上空を飛び、回避していく。そして風の刃を放ち、落雷を落としていく。
「貴様に名乗る名などない」
建物の屋根の上に降り立ったシクスは、その上を駆け抜けながら今度はショットガンを撃っている。その足の速さはファルさんのバイクの速さとさほど変わらない。
そして、豪雨はさらに強くなっていく。さらに、広場には大きな竜巻が現れた。
「貴様が何者だろうがこの際どうでもいいか。私を邪魔する者は殺すまで」
そう言って、江飛凱は瞬時にシクスの背後まで飛び、巨大な風の衝撃波を発生させ、シクスを竜巻の中へと飛ばす。
「くっ」
シクスが小さく呻いた。竜巻の中には無数の風の刃が飛び交っていたのだ。血は出ないものの、現界している身体にダメージが蓄積される。それが積もればシクスは現界を保てなくなる。
しかし、シクスはすぐに飛び交う風の刃を見極め、それを上手く足場にし、竜巻の中を跳ね上がっていく。
「人間とは思えない身体能力だな。ならこれはどうだ?」
江飛凱は竜巻の中心に向けて落雷を落とした。しかもかなりの太さの雷であった。
シクスが持ち前の身体能力で雷を回避する事は容易かったが、竜巻内に落ちた雷によって、竜巻は帯電し始める。そして、竜巻内で次々と雷の矢が飛び交い始める。
「ハハハハハ! どうだね? もう生きて帰れまい」
江飛凱は次々に竜巻内へ雷を落としていく。竜巻の壁は厚く、内側から外に出ようと試みたシクスは弾き飛ばされ、帯電した竜巻による電撃を受けてしまう。
それでも、シクスは果敢に上へ上へと跳びあがっていく。常人では有り得ない事を成し遂げてしまう身体能力だ。
そして上空に近づいた時、シクスは空中で大量の手榴弾をばら撒き、それを拳銃で撃った。爆風によって竜巻の上部が破壊される。
「なんだと?」
数秒の出来事に江飛凱は表情を曇らせる。爆風によってシクスはさらに高く跳躍し、江飛凱の頭上にまで跳んでいた。
「死ね、江飛凱」
シクスはそう言い放つと左手で無数の手榴弾を投げながら右手でサブマシンガンを連射し、爆発が次々と発生する。
が、その中心部からさらにまた新たな竜巻を発生させ、江飛凱は爆発を防いだようだ。
「はぁ、はぁ、なかなか酷い事をしてくれるもんだねぇ?」
息を切らしながらも、江飛凱は余裕を見せていた。シクスはジェットコースターのレールの上に立ち、右手に持ったサブマシンガンと左手にショットガンを出し連射していく。
「なら、これはどうかなー?」
その時、ずっと降り続けていた豪雨が一瞬の内に猛吹雪に変わった。
「くっ!」
連射を続けていたシクスの手が止まる。あまりにも激しい吹雪は視界を遮断し、辺りは豪雪地帯と化していた。
と、遥か上空から音がする。
――――ゴゴゴゴ……。
それは、雪崩だった。山など存在しなかったが、江飛凱は大量の雪を落としたらしく、それはシクスの上へと落ち、その周囲のジェットコースターのレールをひしゃげるように破壊していく。
「ハハハ! どうだねー? なかなかダイナミックだろー?」
江飛凱は今やシルエットでしか確認できないが、宙に浮きながら笑い声を上げている。
しかし、その江飛凱へと弾丸が飛ぶ。その弾丸は江飛凱の腰を貫いた。
「ぎがぁっ!? くっ!? くそ!? あれを食らってもまだ生きているのか!?」
江飛凱が被弾してダメージを負ったからか、吹雪が弱まり、今はしんしんと雪が降り、視界は晴れつつある。
シクスがいた位置、ジェットコースターのレールがあった場所の地面にシクスはスナイパーライフルを構えていた。
その周りには破壊されたジェットコースターのレールの骨組みが立っており、それを囲めて雪崩から身を守っていたようだった。あの一瞬で。
シクスは続けてもう1発、2発とスナイパーライフルで撃つと、その弾丸に追いつく程のスピードで江飛凱の頭上にまで飛び上がった。弾丸は囮でしかなかった。
そして、江飛凱の頭上から斜め下に線を描く蹴りを放ち、奴を地面へと叩きつけた。
「雪崩を受けても生きているのかと、先程お前は言ったな? そうじゃない。死んでるんだよ、私は。6年も前に」
雪が降り、その積もった雪の上に足を下ろしたシクスは、立ち上がろうとする江飛凱を見下ろしながら銃を構えて言う。
「貴様は覚えていないだろうな。6年前に、弖寅衣 煉美の部屋で殺した猫の事など」
何だって? シクスは事故で死んだのではなかったのか? シクスも、この江飛凱に殺されたのか?
「はっ? そんな事などあったか? いや、確か、昔あの女の部屋に忍びこんだ時に猫はいたな。ああ、そうだそうだ思い出したよ。私の足に噛みつき邪魔をしてきたからサイレンサーで撃ち殺したんだったな」
こいつ……許せない。許せない。
「そうだ。その時の猫が私だ。私は幽霊だ。私は、貴様の銃によって殺された。だから、私は、私を殺した銃をグラインドにした。こうしてお前に突き付けるために」
シクスがそう言っても、江飛凱は全くその話を信じていなかった。しかし、その猫についての事実を知っている事が何よりの証拠だ。その事にあの男は気付かずにいる。
「貴様に復讐するために私は今ここにいる。貴様は幽霊など信じないだろう。だが、貴様がやってきた行いによって多くの人間が死んだ。その罰を受ける時が来たのだ」
そう言って、シクスは手に持った拳銃の引き金を引く。その瞬間、足元の雪が舞い上がった。それがシクスに襲い掛かり、再び吹雪が発生する。
「なかなか面白い作り話をありがとう。だがね、私にはまだ先がある。ここで君のような小さな存在にやられてる場合ではないんだよ」
大量の雪を巻き上げ、シクスは上空へと飛ばされる。飛ばされながらも、彼は手に持った拳銃を連射していく。その照準は確実に江飛凱を捉えていたが、江飛凱は風の壁を張っていた。
「貴様のせいで多くの幸せが壊された! 貴様は、ここで必ず、仕留める!」
あのシクスが声を荒らげ、銃を連射している。
そして、この猛吹雪の中、落雷が発生する。落雷は雪を伝って広がっていき、それは地面に降り立ったシクスに次々と襲い掛かる。
――ブゥン!
そこに1本の光の筋が江飛凱に向けて走った。荷電粒子砲だ。ラウディさんが倒れた状態で荷電粒子砲を撃っていた。
「あいつの言う通りだ。俺達は、例えここで朽ち果てようが、江飛凱、お前を殺す! 弟! 動けるか? あいつを援護するぞ」
「はい! いきます!」
ラウディさんの声に僕もありったけの声で返事をする。シクスが、大切な親友がこんなにも必死になっているんだ。どんなに苦しくても動く。
猛吹雪の中、僕は近くに倒れていた長い木をグラインドで江飛凱に向けて飛ばした。奴はそれを風の刃で切り裂いた。
「死に損ないどもめ! まだ悪あがきをするか!」
江飛凱は僕とラウディさんに向けて落雷を放ってきたが、僕は近くに倒れていたもう1本の木に乗り、それを動かして回避し、ラウディさんは右腕のファントム・リムで防御しながらもこの豪雪地帯を走り出す。
「ありがとう。想。ラウディさん」
シクスの声が聞こえた。彼はどこかの建物の屋根の上からロケットランチャーを撃ち、江飛凱の周りでは爆発が巻き起こっている。
「江飛凱、お前を倒す!」
僕はそう言って、自身が乗る木を突撃させながら、周囲にあった木々、建物の瓦礫を一斉に江飛凱に向けて飛ばす。乗っていた木から飛び降り、それも奴に向けて飛ばす。
「効かないねー!」
そう言って奴はその全てを風で跳ね除ける。そこにシクスが再びロケットランチャーを撃ち、僕が飛ばした木々や瓦礫ごと爆発させる。
「俺達は戦士だ。貴様とは違って、誇りを胸に戦っているんだ」
江飛凱の近くまで飛び込んだラウディさんが、右手のファントム・リムを青白く輝かせ、電撃を撒き散らしながら江飛凱の顔を殴った。
「俺もいる。江飛凱、お前をここで討つ! 何が何でも! 譲れねぇ物があるんだ!」
と、ファルさんがディフィート・サニティーに跨り、炎を噴射させながら江飛凱の目の前に飛び上がっていた。そのまま前輪をぶつけ、半回転して後輪をぶつけるワンツーを放った。
「これが、私達だ。お前とは、背負ってる物の重みが違うんだ」
シクスがいつの間にか近くまで来ていた。ファルさんの攻撃によって、宙に飛ばされた江飛凱に向けて、正面から両手のサブマシンガンを連射する。
そして、それをすぐに捨て、宙に浮いた江飛凱の腹に向けて渾身の拳を放つ。それを当てると同時に、その拳に手榴弾を出現させ、爆発させた。
4人の連携によって、江飛凱の身体はボロボロになり、吹き飛ばされた。
「ぐばっはー! き、きさ、貴様らあぁーっ! 図に、図に乗るんじゃーないぞ! よくもこの私をコケにしてくれたなぁ!?」
倒れた江飛凱は、再び自身の能力で宙に浮かぶ。そして、空に向かって大声を上げ、手を横に広げた。すると、あの猛吹雪がぴたりと止んだかと思ったら、周囲は晴天になった。
いや、晴天などと言うものではなかった。猛暑、極暑、いや、獄暑と呼べる程に、今まで体感した事がない熱気に辺りは包まれていた。
「どうなってんだ!? これは!?」
バイクを走らせていたファルさんが汗を流しながら驚いている。いや、彼だけでなく僕もラウディさんもだらだら汗をかいていた。シクスだけは例外で汗1つかいていない。
そして、足元の積雪は瞬時に溶けて蒸発し、蒸気に包まれた一帯はサウナ状態を遥かに越えていた。
「どうだ? 苦しいか? もっと苦しませてやる」
江飛凱がその言葉を放つと同時に、身体が苦しくなり、意識が揺らいでいく。
「い、息が、でき、ない……」
僕は苦しみながらも言葉を吐いた。ファルさんもラウディさんもその場に倒れ始めた。
「ハハハハ! それはそうだ。酸素を極端に減らしたからね。この地獄のような暑さの中で窒息死するがいい」
酸素を減らしただと? まずい、身体が苦しくて、動けない。
だが、シクスは動いた。ハンドガンを乱射しながら江飛凱に近付き、蹴りを放つ。しかし、その蹴りにも先程までの威力はない。
「驚いたな。この獄暑酸欠状態でも動けるか。本当に幽霊か? まさか。それに、さっき程の力は出せないようだね」
シクスが呼吸困難に陥ることは無いが、それでもエネルギー粒子でできた身体に障害をもたらしているようだった。
動きが次第に鈍くなったシクスに、江飛凱は容赦なく風の刃を浴びせる。その刃はこの暑さで燃えだしている。
「ぐっ! くっ、ぐあぁっ!」
最後に風の衝撃波を受け、シクスの身体は吹き飛ばされた。
「シ、シクス……!」
僕の数m先で仰向けに倒れたシクスへと、僕は手を伸ばす。シクスの身体が少しずつ、薄くなっていく。
「ダメでした……私の負けです」
シクスはそう呟いた。
あのシクスが負けた。僕達は負けたのか? 江飛凱の圧倒的な力には、敵わないのか? ここまでなのか? こんなに悔しくて、無情な結末があっていいのか。
奴と僕達の間には、歴然とした力の差がある。それが現実であり、その現れがこの結末なのか。もう何もできない。僕達の負けだ。
「ハハハ! ついに負けを認めたか! 憐れだな! 命乞いでもするか?」
「違いますよ。あなたに負けたわけではありません」
そう言って、シクスは空に向けて手を伸ばす。
「全力でやりましたが、敵いませんでした。交代です」
――――パァン!
小気味いい音が周囲に響いた。
シクスの消えゆく手の平を、どこからか現れた手がタッチしたのだ。
その人物を見ようと、僕は顔を上げたが、既にいなかった。
そして、次の瞬間、30m程離れた所にいたはずの江飛凱の身体が吹き飛ばされていた。
「よくもあたしの可愛い2人の弟を傷つけてくれたなぁ!」
弖寅衣 煉美。
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