カンテノ

よんそん

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第3章 サフォケイション

3-12 ハイウェイ・バトル

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 猛スピードで追いついてきたその異様な戦闘車両は、僕達の車と並走しながらも、その車体に搭載した機関銃の砲口をこちらに向けてきた。

 「スピード落とす。みんな、周りに掴まってくれ」

  ファルさんがそう言ってブレーキを踏むが、この雨で路面が濡れいるため、車はスリップする。しかし、ファルさんは慣れた操作で冷静に車体を持ち直す。
  そして、目の前の先程までいた空間に機関銃の連射が放たれていた。

「くっ、あの車、人が乗ってない。無人だ」

  車体を持ち直した所でファルさんが呟いた。

「なんだと? まさかAIが操縦しているのか? それとも遠隔操作か?」

「いや、この雨の中であのスピード、それなのにあの細かい動きは遠隔操作じゃ無理がある。AIと見て間違いないだろう。面白い、受けて立とうじゃないか! おっさん、想! 思いっきりやってくれ! 俺も本気でいく」

  そう言ってファルさんは再びアクセルを踏み、ラウディさんはドドと位置を交代した。僕も改めてあの奇妙な車体を見る。あれを本当にAIが操縦しているのか。ならば遠慮なく攻撃できる。
  そう思って、僕は道路脇に仕切られている大きな防音壁をグラインドの力でもぎ取り、上空からそれを回転させながら落とす。
  だが――。

「避けられた!? どうなってるんだ!?」

  謎の戦闘車両はくねくねした動きをして、僕の攻撃を回避した。あれがAIの反応なのか。

「やるな。弟、2人で一気に仕掛けるぞ!」

「はい! いきます!」

  ラウディさんはあの戦闘車両に向けて手榴弾を投げつけるとすぐにショットガンを立て続けに撃つ。
  僕は先程の防音壁をもう一度投げつけると共に、ガードレールをもぎ取り、その先端をあの車体に向けて突き刺すようにグラインドで動かす。
  あまりの猛撃にAIは判断に迷ったのか、回避しながらもラウディさんの銃撃とガードレールの突撃を受ける。

「弟! 手を緩めずにそのまま行け!」

  ラウディさんの言葉に僕は無言で頷き、次々に防音壁とガードレールを飛ばす。そして、次第にあの戦闘車両は失速し始めた。

「やったか!?」

  思わず僕とラウディさんの声が重なった。ちょうど失速した戦闘車両を追い抜いた瞬間だった。

「まだだ! アイツまた走り出した!」

  あれを食らってまだ動くのか? 後方を確認すると、確かにあの戦闘車両はまた加速しだした。車体にダメージを受けているのは確かだが、それでもさっきと同じスピードだ。と、その時ファルさんが声を荒らげた。

「みんな掴まってろ!」

  その直後、轟音がすぐ近くで鳴り響いた。ファルさんが運転する車のすぐ真横で爆発が生じた。あの戦闘車両が車体に搭載された大きな砲台から砲弾を撃ってきたのだ。ファルさんはそれを咄嗟の判断でハンドルを切って躱していた。
  そして、砲弾はまだ続いていた。あまりの衝撃に僕達の車がビリビリと振動している。しかし、どれも直撃していない。驚く事にファルさんは砲弾全てを回避している。ルームミラーとサイドミラーだけで確認しながら。常人では有り得ない集中力だ。

「く、これじゃあまるで戦車じゃないか!」

  ラウディさんはそう言いながら再び後方に向けてショットガンを撃ち始める。
  僕も後方を確認し、あの車両が砲弾を撃つタイミングを見極め、そして防音壁を僕達の車との間にグラインドで落とし防ぐ。砲弾の防御には成功したが、あの戦闘車両は防音壁を突き破って尚加速し始めた。

「なんて頑丈なんだ!」

  僕は思わず歯を食いしばる。戦闘車両はまた僕達が乗る車の背後へと迫っていた。この距離であの大砲を撃たれたらまずい。

「ファルさん!」

「おう! まかせろ!」

  そう言うと、ファルさんは急ブレーキを踏んだ。濡れた路面で僕達が乗る車はスリップし出す。
  しかし、ファルさんは冷静にハンドルを切り、車体は先程の状態から90°左に向きを変え、1番右の車線を滑っていく。
  横向きになった僕達の目の前をあの戦闘車両が通り過ぎる。そしてファルさんは再びハンドルを右に回し、車体を元の向きに戻した。
  前方に行った戦闘車両はあらぬ方向へと大砲を放っていた。雨の路面を活かした見事なドリフトだった。

「くっそ、チビのくせにやるじゃねぇか!」

  ラウディさんはどこか嬉しそうに前方の車両に向かって、今度はアサルトライフルを撃ち始める。
  だが、前方の戦闘車両は前に向けていた銃身を全て後ろへと向け、再び僕達を捉え、機関銃を連射してきた。

「くそ! 後ろに回ろうがお構いなしって事か!」

  ファルさんは繊細なハンドル捌きで銃弾を躱しているが、それでも何発か当たってしまい、この状況に苛立っていた。


「大丈夫です。私にお任せ下さい」

  誰もいないはずの助手席から声が聞こえた。ファルさんは、目を見開きながらゆっくり左を向く。

「うおーっ!? お前誰だー!? いつからそこにいた!? ゆ、幽霊か!?」

  突然の出来事にファルさんは、一瞬手を上げてハンドルから離してしまったが、慌てて再びハンドルを握り、銃弾の嵐を回避していく。

「はい。私は幽霊です。猫の幽霊です」

  助手席に突然現れた男はそう言った。

「シクス! 助けに来てくれたの? 大丈夫、皆、味方だ」

  突然の闖入者にファルさんとラウディさんは引きる様に驚いていたが、僕の言葉を聞き、そうなのかと疑問に思いながらも安心しつつあるようだった。

「あんた! あん時の! 助かったよあの時は。シクスって言うのか?」

「猫の幽霊さんだったんですね! またお会いできて嬉しいです」

  ドドと一颯さんは2度目だからか、落ち着きながらもどこか興奮している。

「堂島さん、一颯さん、こんばんは。ドライブにお邪魔してすみません。我が主であり、親友であり、兄である想が危機に陥ってるため、我慢できずにこうしてやってきました。あの鉄の塊を破壊します」

  シクスの言葉に戸惑っている4人だったが、シクスはお構いなしに窓を開け、そこから半身を出す。ドアウインドウの淵に腰掛けるような姿勢になった。
  雨は容赦なく降り続いている。幽霊と言えど、現界するために肉体を得ているため、シクスも雨で濡れ始める。

  そして、シクスは担ぐような姿勢で銃を出した。シクスのグラインド、D3によって現れた銃器、それはロケットランチャーだった。
  すぐにそれを撃ち放つ。次弾がすぐに出現し、立て続けに撃つ。前方を走る戦闘車両からの銃弾は既に止んでおり、その車体を仰け反らせるように砲撃を受けている。しかし、すぐに躱し始めた。

「外に出ます。私に構わずウインドウを閉めてください」

  そう言って、シクスは軽々と車のルーフへと登った。この猛スピードの中で。そしてどうやら上からマシンガンを連射しているようだった。
  が、その時、前方の戦闘車両の上部から長い筒が現れ、それがこちらに向いた。

「あれは、荷電粒子砲か!?」

  ラウディさんが声を荒らげる。その長い銃身が電気を帯び始めている。
  と、その時、僕達が乗っている車の天井からトンッと音が鳴った。シクスが前方に向けて飛んでいた。この降り頻る雨の中を跳躍しながらも、あの戦闘車両に向かってハンドガンを両手に1挺ずつ持ち、連射している。
  そして、荷電粒子砲にエネルギーを貯めていた戦闘車両へと見事着地した。シクスの目の前にその砲口があった。その砲口に、シクスは2挺のハンドガンの銃口を突っ込み連射する。
  しかし、戦闘車両の砲身は火花を散らしながらもその荷電粒子砲を発射した。それと同時にその砲身は爆発した。

「おい! あの前髪長い幽霊大丈夫か!?」

  運転席のファルさんは叫んでいた。爆発と荷電粒子砲を目の前で食らったシクスは大きく吹き飛ばされ、僕達の上を飛び越え、遥か後方に飛ばされていた。

  しかし、シクスは空中で身体を横回転するようにして、その爆風の勢いを殺し、身体を捻じるようにして濡れた路面を滑りながら着地する。
  シクスは顔を上げた。まだやる気だ。彼はそこから走り出した。僕達から200m程離れていたが、その距離を一瞬で詰めて再び跳躍した。
  常人では有り得ないスピードが乗った跳躍により、彼は僕達の頭上を越え、そしてあの戦闘車両の真上まで来た。
  その上空にいる状態で彼は、重機関銃を出現させ、下にいる戦闘車両に向けて連射した。あの頑丈なボディがへこみ出す。

「これで、THE ENDです」

  シクスの声が、確かにそう聞こえた。シクスは戦闘車両の上に降り立つと右手を振り上げた。その拳には手榴弾が握られており、シクスは戦闘車両のボディに捩じ込むようにその拳を放った。
  僕達の車が通り過ぎる瞬間にあの戦闘車両が爆発した。

「おいおい、本当に倒しちまったのか!? あの前髪ヤローは無事なのか!?」

  ファルさんは思わず車を停めた。そして、その運転席のすぐ側にシクスは降り立った。爆発する寸前に跳び上がって回避したようだった。

「うおぉい! またビックリさせやがって。無事でよかったぜ!」

  ファルさんは窓を開けてシクスと握手を交わしていた。

「私は幽霊なので死にはしませんよ」

  シクスは真面目に言っているが、ファルさんは冗談だと受け取ったのか笑っている。と、そこへ車から降りたラウディさんが駆け寄り、シクスを抱擁した。

「た、大佐!?」

  シクスは動揺してしまったのか、ついその呼び方をしてしまった。

「だから俺は大佐じゃねぇって言ってるだろ!? お前までその呼び方か!? いや、しかし見事だった。本当に助かった。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」

  そう言ってラウディさんもシクスと握手をしていた。僕も慌てて車を降りて駆け寄った。

「ありがとうシクス! 本当に助かったし、すごかったね」

  僕は彼とハイタッチをした。自分でも、らしくないなと思いながら。

「いえいえ。予想外の兵器でしたからね。私自身もちょっとウズウズしてしまいまして。これからの旅路もどうかお気をつけて。私は帰りますね。では、またどこかで」

  最後は皆に向けてお辞儀をし、そのままの姿勢でシクスは消えていった。

「Jesus……! 本当に彼は幽霊だったのか!? ありえん」

  ラウディさんはもう放心状態だった。

「信じられないかもしれませんが、事実です」

  僕は苦笑いしながらも答えた。

  そして再び車に乗り走り出す。雨はまだ降り続いており、辺りはすっかり夜になっていた。先程のラウディさんの提案通り、今日はどこかで宿泊すべきだろうか。

「うーん、どこか手頃なホテル探そうか? さっきみたいに変装していけばなんとかなるだろう? 部屋からは極力出ないようにしてさ」

  ファルさんがそう言った。僕はファルさんを休ませてあげたいのもあり、それに賛成した。
  ファルさん以外の4人でホテルを調べ、目星を付けたホテルに予約を取る。そのホテルに向かって車は雨の中を走り抜ける。
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