カンテノ

よんそん

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第3章 サフォケイション

3-7 包囲再び

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「日本の特殊部隊、ACHEエイクだ。また奴らが来たか」

  ラウディさんがそう言った。ACHE。何度か聞いた事がある。駅で僕達を囲んだのもACHEだったのか。そして、また警察ではなくその特殊部隊が来た。どうなっているんだ?

「とにかく、ファルさん達の所に戻りましょう」

  そう言って2人で外に出た。が、その途端に僕らの目の前に何人もの隊員が立ち塞がった。

「やれやれ……おい、貴様ら! 俺が誰か解っているのか? 解らないようなら、今から教えてやる」

  そう言って、ラウディさんは正面の隊員へと瞬時に距離を詰め、その腹に重いボディブローを当てた。その隊員の身体は3mほど上空に飛ばされた。
  立て続けにラウディさんは横の男を回し蹴りし、その勢いをそのままに反対側の男も蹴る。

  別の隊員がラウディさんに向けて銃を放ったがラウディさんは回転の勢いを止めず、空中でくるくると身体を横にして回転させながら、その銃弾を容易くかわし、2人、3人と蹴り倒し、手に持ったハンドガンで離れた所にいる隊員の腹部や脚を確実に当てていった。わずか数秒で10人以上もの隊員を倒してしまった。

「ACHEども。教えてやる。俺が、アメリカ最高峰の特殊部隊リラプスの隊長、ラウディ・ビリオネアスだ。まだ俺に楯突く気なら、容赦なく殺す」

  隊員たちに動揺が走った。

「リラプスの隊長だと? そんな訳が無いだろ……犯罪者に加担する訳がない……」

「あぁ、そうだ、嘘だ、嘘に決まってるんだ」

  隊員達は動揺しながらも僕とラウディさんに向けて銃を構え出した。が、そこに黒い影が飛び込む。1人を殴り倒し、もう1人蹴り倒した。

「なんだか大勢集まってんな! 無事か?」

  ドドだった。こちらに声をかけた後も次々と隊員を倒していく。

「ドドマルか。元気いっぱいじゃないか」

  ラウディさんは横目で確認しながらも確実に敵を仕留めていく。僕も向かってくる敵は倒すつもりでいたのだが、2人の超人が周りの敵を一掃したためその必要はなかった。

「想ー! 無事かー?」

  と、そこへファルさんが黒いSUV車で駆け付けてくれた。

「弟! 今度は後部座席に乗ってくれ!」

  ラウディさんが周りに銃を撃ちながら言った。後部座席からではラウディさんが銃を撃ちにくいからだろう。僕は返事をし、車に乗り込む。それに続いてドドも飛び乗るように車に入る。
  ラウディさんが乗ろうとした所で後方から激しい銃撃が飛んできた。見ると、特殊部隊の戦闘車両が数台止まっており、そこから次々に隊員が現れた。

「くっ!」

  銃撃を逃れるため、ラウディさんは僕らの車から離れてしまった。地面を転がるように銃撃を回避しつつも、すぐに相手へ反撃の銃を撃つ。が、当たったはずの相手は倒れない。さっきまでの隊員とは違う。

  僕はグラインドを発動し、近くに設置されていたダストボックスを地面から引き剥がし、それを隊員達に向かって叩き付ける。その隙にファルさんが車を動かし、ラウディさんの近くに寄せ付けた。

「おっさん、乗れ!」

  ラウディさんは素早く車に乗り込んだ。

「どうなってる? 今の奴ら、銃で撃っても倒れなかった。防弾チョッキ以外を確実に狙い撃ちしたんだがな」

「たぶん、例の薬物で強化されているのかもしれません。痛覚も麻痺しているのかと」

  僕はそう言いながら、後部座席にあったアサルトライフルと、ラウディさんのバックパック、先程まで着ていた特殊部隊の上着を渡した。

「おう、Thanks。厄介だな」

  ラウディさんは受け取った上着から手榴弾を出し、それを窓から後方に向かって容赦なく投げつけた。後方で大きな爆発が発生する。

「おい、前からも来てるぞ!」

  僕の隣に座るドドが叫んでいた。見ると、僕らの進行方向に何台もの戦闘車両がバリケードを作るように止まりだし、その周りに隊員が立ち、銃を構えている。

「みんなしっかり掴まってろ。突破する」

  ファルさんが冷静に言葉を発した。僕らを乗せたSUV車が近づくと、ACHEの隊員達は容赦なく発砲した。しかし、それと同時にファルさんが大きくハンドルを切り、ほとんどの銃弾を交わす。また逆側にハンドルを切り、細かいドリフトを繊細に繋いでいく。
  ラウディさんは隙あらば窓からアサルトライフルを撃ち、隊員を確実に倒す。1発では倒れないのならばと、1人に向かって何発も撃って確実に仕留めていく。

「ファルさん! 突っ込む気ですか!?」

  ACHEの車両は目の前に迫っていた。

「安心しろ。道はまだある」

  特殊部隊の戦闘車両を目の前にして、ファルさんは急ハンドルを切る。そして僕らが乗る車は、右側のサービスエリアの建物がある方の歩道地帯へと乗り上げる。
  そしてファルさんはまたさらに逆側にハンドルを切り、歩道地帯をドリフトする。あっという間に特殊部隊の戦闘車両を躱し、アスファルトに戻ると駐車場の外周に沿って走り出す。

「す、すげぇ。なんだ今の……」

  僕の隣に座るドドが座席からずれ落ちそうになりながら呟いた。

「ミスイブキ大丈夫だったか?」

「は、はい、なんとか……」

  ラウディさんが一颯さんを心配して声を掛けていた。一颯さんは、目の前に位置する助手席の背もたれに掴まりながらも、弱々しく答えた。

「悪いが、まだまだ続きそうだ」

  ファルさんが皆に告げる。前方の進行方向にはまた別の戦闘車両がバリケードを作るように固まっている。そして、その上部に備え付けられたガトリング砲で容赦なく撃ってきた。

「くそっ……、躱しきれない!」

  ファルさんがハンドルを切りながらも呟く。僕らが乗る車に銃弾がいくつか当たり、けたたましい音が鳴る。
  クアルトで姉さんに言われた事を思い出す。生き延びる為にも手段を選んではいられない。僕は、すぐ近くに駐車されていた一般車をグラインドで動かし、それを戦闘車両の前に落とし防御する。

「想、助かったぜ」

  ファルさんはそう言って左折し、車が並ぶ通りを走る。と、そこに巨大なトラックが現れた。よく見ると、その運転席に乗っていた男は、僕らの事を警察に通報したあの初老のおじさんだった。その顔は引き攣った笑みを浮かべ、僕らの車へと正面衝突を仕掛けてきた。
  もう、迷ってはいられない。あの大型トラック程の巨大な物など動かした事は今までない。でも、この力でできるのなら、動かしてやりたいと、僕は半ば好奇心でグラインドを発動する。
  浮いた。あの巨大なトラックが上空10m程の高さまで。トラック全体を傾け、運転席のドアをグラインドで開け、あのおじさんをそこから落とした。

  そして、ちょうど運良く前方に多くの特殊部隊とその戦闘車両が固まっていた。僕は容赦なくその一団に向かって巨大なトラックを投げつけた。轟音を響かせ、戦闘車両は呆気なくひしゃげた。周りにいた隊員も何人か巻き添えになり、下敷きにされている。

「うは! えげつねえー。でも、助かった! これで出口まで行ける」

  ファルさんは意気揚々とハンドルを右に切り、駐車している車の合間を通り、サービスエリアの出口へと一直線に向かう。

「あのじじぃの慌てた顔は見物だったな。だが、安心するのはまだ早い。横から追ってきてる。俺は右側を撃つ。弟、悪いが左を頼む」

  ラウディさんは冷静に状況を見極めそう言った。僕は左側のドドと場所を代わり、追ってくる戦闘車両を視界に収める。
  左側には2台の戦闘車両が走っていた。どちらも上部のガトリング砲をこちらに向けている。ならばと、僕は2体の乗用車をグラインドで投げつける。その途端にガトリング砲を撃ち出したが、時すでに遅し。健闘虚しく、戦闘車両のガトリング砲は潰れ、走行不能となった。

「こっちは片付きました! ラウディさんそちらは?」

  僕は声を掛けながら右側を向く。

「2台は仕留めた。が、1台前方に回り込む気だ。弟、頼む」

  ラウディさんは2台の戦闘車両を手榴弾で仕留めたらしく、後方で炎上しているのが見えた。
  そして、右斜め前を走る車両を僕は見据え、路肩に立つ鉄の看板をグラインドで地面から引き抜く。そしてそれを回転させながら敵の戦闘車両の上から落とす。
  ガトリング砲の銃身は呆気なく切断され、看板はそのまま車体に突き刺さる。何が起こったのか理解出来なかった特殊部隊の運転手が混乱して、その戦闘車両は駐車されていたトラックにぶつかった。

「よくやった想! このまま一気に抜けるぞ!」

  そう言ってファルさんはサービスエリアの出口を通り、再び高速道路に突入しようとした。だが、出口の先には5台程の戦闘車両が道を塞いでいた。

「くそ、どうする!?」

  ラウディさんが乱暴に運転席の後ろ側を殴った。

「ファルさん、このまま加速してください」

  僕がそう言うと、

「オーケー、まかせたぜ!」

  ファルさんは何の躊躇ためらいもなくアクセルを踏んだ。僕を全面的に信じてくれている彼の言葉に嬉しくなる。

「みんなしっかり掴まってください! いきます!」

  僕はそう言って、両側にあるガードレールをグラインドで引き抜く。2つのガードレールを横にして、前方の戦闘車両の上に落とす。
  そして、ファルさんが運転する車の左右両側の前輪を、そのガードレールの上に乗せる。僕らを乗せた車は見事に2本のガードレールの上を走り、戦闘車両を乗り越えた。

「Yeah! こいつはおまけだ!」

  と、ラウディさんは乗り越えた戦闘車両に向かって手榴弾を投げつけた。背後で爆発音が鳴った。

「はっはー! 最高にエキサイティングだったな! 想、ナイスー!」

  ファルさんはそう言って僕に向けてグッドサインをしてくれた。

「本当に、一時はダメかと思いましたが、上手く切り抜けられましたね。出口は塞いでるし、しばらくは追ってこれないでしょう」

  僕は安堵し、緊張を解いた身体から力が抜けるように座席にもたれた。

「なんだか、ジェットコースターみたいでしたね! 怖かったけど、少し楽しかったです!」

  一颯さんは呑気にそんな事を言っている。高速道路を再び走る黒のSUV車はスムーズに進んで行く。

「ファルさーん、これからどうすんだ?」

  ドドも興奮状態から落ち着き、ファルさんへと声を掛けた。

「それなんだよなー。予定ではもう少しあそこで休むつもりだったんだ。ちょっと寄りたい所もあったからさあ。時間は早いけど、ぼちぼち向かうとするか」

  ファルさんはそう言って、高速道路の出口へと向けて車を進めた。既に空が少しずつ明るみ始めた頃だった。
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