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第3章 サフォケイション
3-5 大佐
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目が覚めた。腕時計で時間を確認すると、とっくに日付が変わっていた。どうやらクアルトであのまま寝てしまい、いつの間にか現実世界に戻ってきたようだ。夢の中で眠れば現実に戻ると言う事か。言い得て妙だが、不思議な感覚だ。
「弟、起きたのか? まだ寝ててもいいんだぞ?」
後ろから声がした。ラウディさんだ。車は高速道路を走っている。真夜中だが、周りに設置された照明と車のライトでさほど暗くは感じない。隣の一颯さんもぐっすり寝てる様だ。
「あ、はい。大丈夫です。僕ちょっと寝れば回復するんで」
クアルトでシクスの料理をご馳走になった事もあるが、あの部屋にいると短時間でも目覚めたらいつも体が軽くなっている。あの2人が安心させてくれるからなのかもしれない。
「大佐こそ寝なくて大丈夫なんですか?」
見張りをしていてくれたみたいだし、交代すべきだろうか?
あ……しまった……またやってしまった。ずっと姉さんと話していたから、ついラウディさんの事を「大佐」と呼んでしまった。
「だから俺は『大佐』じゃないって言ってるだろ。『大尉』だ……って、あ? なんで弟がその呼び方するんだ? 俺の事を『大佐』って呼ぶ奴はレンビーくらいだぞ?」
ラウディさんも疑問に思って首を傾げてる。
「あ、いや、昔よく姉さんが『大佐』って呼んでたの思い出して、寝惚けて言っちゃいました」
なんとか誤魔化せただろうか? おそらく姉さんの事だからラウディさんが「大尉」である事を知っててわざと「大佐」って呼んでたんだな。それが皮肉から来るものなのか、はたまた響きの良さ等を考慮した結果なのかは解らないが。
「フ、なんだか懐かしいな。俺の心配はいらん。昼間寝てたしな。何より夜間の活動も日常茶飯事だ」
そうなのか。特殊部隊という仕事も大変なのだろうな。
「想、起きたのか? もう少しでサービスエリアにつくからなー」
今度は前から声がした。ファルさんだ。さっきから次々と車を追い抜いていてスピードを出しているようだったが、声が落ち着いているので冷静に安全運転してくれているようだ。
「ファルさんお疲れ様です。ファルさんは眠くならないんですか?」
照明があるとは言え、周りは真っ暗で、そんな状況での運転は僕だったら眠くなってしまうだろうな。車を運転した事がないので解らないが。
「俺は慣れてるからなー。向こうでもよく夜移動してたし。丸1週間、家に帰らないでドライブ旅してばっかだしさ」
「丸1週間!? すごい。やっぱり外国の人達って逞しいですよね」
僕がそう言うと、ファルさんは静かに笑った。
「まぁ、仕事が普通じゃないしな。それと日本は平和すぎるからな。俺達みたいに、『自分がなんとかしなきゃ』ってならないんだよ」
あぁ、なるほど。確かに日本は平和で、設備や制度が整っているから、安心しすぎているのかもしれない。
「こいつなんて貧弱な方だぞ? アメリカじゃ生きていけないな。軍人の方がもっとタフだ」
「この野郎……俺がこの前アメリカのストックカーレースで2位だったの見てなかったのか?」
ラウディさんの言葉にファルさんが声を荒らげ始め出した。
「2人とも! 喧嘩はだめですよ? 一颯さんとドドがまだ寝てますから」
僕が小声で制すると、2人は少し渋りながらもちゃんと謝ってくれた。なんだか少し可愛い。
「お、看板見えた。サービスエリア着くぞー」
数分しないうちにサービスエリアへの案内看板が見え、程なくしてファルさんが運転するSUV車は高速道路を外れ、サービスエリアへと入っていく。
駐車場は広く、三連休最終日も終わったというのに多くの車が停まっていた。これから帰る人や、仕事上立ち寄ってる人もいるのかもしれない。
「璃風都から出たとは言え、まだ油断出来ないからなー。下手に出歩く訳にもいかない。とりあえずしばらく車の中で休むか。おっさーん、それでいいか?」
「あぁ。警戒するに越したことはない。俺はちょっと一服してくるぞ?」
と、ラウディさんは立ち上がろうとする。ドアがあるシートには僕と、そしてまだ寝ている一颯さんがいる。どうしよう。僕が一颯さんの方に行くしかないか。と、ファルさんが笑いながら声を掛ける。
「おいおい、まさかその格好で外に出る気か?」
僕もぱっとラウディさんを見る。そうだ、ラウディさんはまだあの特殊部隊の服装のままだった。
「ハハハ、俺とした事がすっかり馴染んでたな。脱ぐか。下に着てるから安心しろ」
と、ラウディさんはモゾモゾと動き、車内で脱ぎ始めた。
「うーん……」
ラウディさんが脱ぎ終わる頃に一颯さんが寝返りを打ちながら目を覚ました。
「ミスイブキ、済まない。起こしてしまったか。だが、ちょうどよかった。俺はちょっと外に出るから、そっちに弟を行かせるぞ」
そういう事になってしまうか。まだ寝ぼけ眼の一颯さんに失礼しますと断ってから、1つのシートに2人で座る。僕も身体は細い方だが、一颯さんはスラリとした細さなため、意外と2人で座れてしまう。
ラウディさんは黒い半袖Tシャツを着ており、ボトムスは自前の物だったようだが特殊部隊の物となんら変わらない。そして夜風を感じながら外に出ていった。
「ここはどこなんです? サービスエリアという所なんですか?」
寝ぼけ気味なのか、いや、一颯さんは元々サービスエリアには縁もないだろうし、知らなかったのだろう。
「ミモザちゃん、寝れたかい? そう、ここはサービスエリアだ。しばらくゆっくりするつもりだからまだ寝てても大丈夫だよ? ここには入浴施設もあるから後で行ってくるといい」
そうだったのか。サービスエリアに入浴施設がある事にも驚いたが、気を利かせてくれたファルさんにも感謝の思いが湧く。
「ありがとうございます、ファルさん。でも、せっかくだしもう少し起きてようと思います」
一颯さんの寝起きの声を聞き、ファルさんはニカッと綺麗な歯を見せて笑う。
「寒かったら言ってくれ。暖房も付けるし、ブランケットもある」
ファルさんは昔から女性に優しいな。今は車のエンジンを切って休めているようだった。一颯さんは笑顔を見せてお礼を言った。
数分するとタバコを吸い終えたラウディさんが戻ってきた。僕はまた一旦、一颯さんの方へと移る。
「飲み物、買ってきたぞ。コーヒー、お茶、チビにはオレンジジュースでよかったよな?」
施設内にはコンビニもあるらしく、ラウディさんはビニール袋を持っていた。ラウディさんも気が利くいい人だ。
「バカ言え。俺はコーヒーだ。ブラックだ」
ファルさんはそう言いながら奪い取るようにコーヒーを受け取った。
「じゃあ、オレンジジュースは私が貰っちゃいますね」
一颯さんは嬉しそうに笑い、ラウディさんにお礼を言った。一颯さんは確かオレンジジュース好きなんだよな。僕もお茶を頂きながらお礼を言った。
「ダンケー」
僕らに釣られるように運転席から声が聞こえた。なんだかんだでファルさんもラウディさんに感謝していたようだった。
「ラウディさん半袖で寒くないんですか? 僕のこのパーカー着れそうだったら着ます?」
気を遣って言ったが、峡峰での戦いの後タオルで少し拭いただけなので汚れている。
「ありがとうな。だが、このくらいは寒くもなんともない。ニューヨークなんかはもっと寒かったからな。弟こそ、腹は減ってないのか? 中に24時間営業のフードコートもあったし後で行くか?」
その質問をされ、僕はぎくっとする。先程夢の中でたらふく食べてお腹いっぱいです、なんてバカな発言はしたくない。
「あー、僕はそんなにお腹減ってないかな? でも、指名手配されてる僕らが行くとまずくないですか?」
そう言うと、ラウディさんだけでなくファルさんも、うーんと唸り始めた。トイレに行く時もあるだろうし、どうしようかと僕も悩む。
「私は眼鏡していけば大丈夫かなって。弖寅衣くんには私の帽子貸してあげましょうか?」
なるほど。眼鏡は便利だな。
「帽子ってあのキャスケットですか? いいんですか? 借りちゃって?」
一颯さんは、はい、と愛想よく答えた。これは助かる。
「帽子なら俺のもあるから、百々丸さんにはこっち貸そうか。まだ寝てるけど」
ファルさんはダッシュボードに入れていた帽子を取り出した。
「ドドは1回寝たらなかなか起きないんです」
僕がそう言うと、ファルさんは吹き出すように笑った。
「ハハ、まぁ、よく寝るのはいい事だ。こいつは体格もいいし、後で働いてもらうかもしれないしな」
そう言ったのはラウディさんだった。働くとはやはり戦闘の事だろうか? 僕も働くべきなのかなと思い聞こうとしたが、ちょうど携帯端末が振動した。
見てみるとシルベーヌさんからメールが10件以上も来ていた。1番新しいメールには文章はなく、泣き顔の絵文字のみで埋め尽くされていた。僕らが指名手配されているニュースを見たようだ。
「どうした? 顔が引き攣ってるぞ?」
ラウディさんが声をかけてきた。
「ずっとシルベーヌさんからメール来てたんですが、気付かなくて。心配してたみたいです」
3人の無事を伝えるついでに、ファルさんとラウディさんも一緒だという事を伝えた。すると、
【ファルくんと大佐も一緒なの!? なら安心ね! 2人によろしく言っといてねー】
と、すぐにメッセージが来た。
「だから、俺は大佐じゃねぇって言ってるだろ」
ラウディさんが後ろから覗き込んでいたらしく、僕は思わずその声にびっくりした。シルベーヌさんも「大佐」と呼んでいるのか。
「本人に言っときます」
と、僕はラウディさんの言葉を伝えて端末を閉まった。シルベーヌさんとメールをし出すと終わらないからな。
「シルベーヌさん今は飛行機ですかねー? どこの国に行くんでしょう?」
一颯さんが独り言のように呟いた。
「あいつ、あちこち回ってるらしいからな。ついこの前はチリ行ってたらしいし、その前はマダガスカルだったかな?」
ファルさんがハンドルに顎を乗せながら言った。
「そんな所まで? すごいですね、用心棒って」
僕が言うと、ラウディさんがまたびっくりしたように身体を起こした。
「用心棒だと? ボディガードみたいなもんか? ハードな仕事やってるなミスブシドー」
いつの間にかシルベーヌさんの事を「ミスブシドー」と呼ぶ事にしたらしい。
「仕事と言えば、本当だったら今日から仕事ですよね? どうしましょう」
一颯さんが少し不安そうに言った。その件に関しては僕もずっと考えていた。全国指名手配にされた以上はもうあの職場には戻れないかな。ラウディさんが口を開く。
「1番ベストな手段は、濡れ衣を晴らして指名手配を取り下げる事だ。難しいがな。それが出来なかったら、国外に逃亡するしかないな」
国外に逃亡か。そうなったら立派な犯罪人だな。そんな事ができるとはとても思えない。
「弟、起きたのか? まだ寝ててもいいんだぞ?」
後ろから声がした。ラウディさんだ。車は高速道路を走っている。真夜中だが、周りに設置された照明と車のライトでさほど暗くは感じない。隣の一颯さんもぐっすり寝てる様だ。
「あ、はい。大丈夫です。僕ちょっと寝れば回復するんで」
クアルトでシクスの料理をご馳走になった事もあるが、あの部屋にいると短時間でも目覚めたらいつも体が軽くなっている。あの2人が安心させてくれるからなのかもしれない。
「大佐こそ寝なくて大丈夫なんですか?」
見張りをしていてくれたみたいだし、交代すべきだろうか?
あ……しまった……またやってしまった。ずっと姉さんと話していたから、ついラウディさんの事を「大佐」と呼んでしまった。
「だから俺は『大佐』じゃないって言ってるだろ。『大尉』だ……って、あ? なんで弟がその呼び方するんだ? 俺の事を『大佐』って呼ぶ奴はレンビーくらいだぞ?」
ラウディさんも疑問に思って首を傾げてる。
「あ、いや、昔よく姉さんが『大佐』って呼んでたの思い出して、寝惚けて言っちゃいました」
なんとか誤魔化せただろうか? おそらく姉さんの事だからラウディさんが「大尉」である事を知っててわざと「大佐」って呼んでたんだな。それが皮肉から来るものなのか、はたまた響きの良さ等を考慮した結果なのかは解らないが。
「フ、なんだか懐かしいな。俺の心配はいらん。昼間寝てたしな。何より夜間の活動も日常茶飯事だ」
そうなのか。特殊部隊という仕事も大変なのだろうな。
「想、起きたのか? もう少しでサービスエリアにつくからなー」
今度は前から声がした。ファルさんだ。さっきから次々と車を追い抜いていてスピードを出しているようだったが、声が落ち着いているので冷静に安全運転してくれているようだ。
「ファルさんお疲れ様です。ファルさんは眠くならないんですか?」
照明があるとは言え、周りは真っ暗で、そんな状況での運転は僕だったら眠くなってしまうだろうな。車を運転した事がないので解らないが。
「俺は慣れてるからなー。向こうでもよく夜移動してたし。丸1週間、家に帰らないでドライブ旅してばっかだしさ」
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僕がそう言うと、ファルさんは静かに笑った。
「まぁ、仕事が普通じゃないしな。それと日本は平和すぎるからな。俺達みたいに、『自分がなんとかしなきゃ』ってならないんだよ」
あぁ、なるほど。確かに日本は平和で、設備や制度が整っているから、安心しすぎているのかもしれない。
「こいつなんて貧弱な方だぞ? アメリカじゃ生きていけないな。軍人の方がもっとタフだ」
「この野郎……俺がこの前アメリカのストックカーレースで2位だったの見てなかったのか?」
ラウディさんの言葉にファルさんが声を荒らげ始め出した。
「2人とも! 喧嘩はだめですよ? 一颯さんとドドがまだ寝てますから」
僕が小声で制すると、2人は少し渋りながらもちゃんと謝ってくれた。なんだか少し可愛い。
「お、看板見えた。サービスエリア着くぞー」
数分しないうちにサービスエリアへの案内看板が見え、程なくしてファルさんが運転するSUV車は高速道路を外れ、サービスエリアへと入っていく。
駐車場は広く、三連休最終日も終わったというのに多くの車が停まっていた。これから帰る人や、仕事上立ち寄ってる人もいるのかもしれない。
「璃風都から出たとは言え、まだ油断出来ないからなー。下手に出歩く訳にもいかない。とりあえずしばらく車の中で休むか。おっさーん、それでいいか?」
「あぁ。警戒するに越したことはない。俺はちょっと一服してくるぞ?」
と、ラウディさんは立ち上がろうとする。ドアがあるシートには僕と、そしてまだ寝ている一颯さんがいる。どうしよう。僕が一颯さんの方に行くしかないか。と、ファルさんが笑いながら声を掛ける。
「おいおい、まさかその格好で外に出る気か?」
僕もぱっとラウディさんを見る。そうだ、ラウディさんはまだあの特殊部隊の服装のままだった。
「ハハハ、俺とした事がすっかり馴染んでたな。脱ぐか。下に着てるから安心しろ」
と、ラウディさんはモゾモゾと動き、車内で脱ぎ始めた。
「うーん……」
ラウディさんが脱ぎ終わる頃に一颯さんが寝返りを打ちながら目を覚ました。
「ミスイブキ、済まない。起こしてしまったか。だが、ちょうどよかった。俺はちょっと外に出るから、そっちに弟を行かせるぞ」
そういう事になってしまうか。まだ寝ぼけ眼の一颯さんに失礼しますと断ってから、1つのシートに2人で座る。僕も身体は細い方だが、一颯さんはスラリとした細さなため、意外と2人で座れてしまう。
ラウディさんは黒い半袖Tシャツを着ており、ボトムスは自前の物だったようだが特殊部隊の物となんら変わらない。そして夜風を感じながら外に出ていった。
「ここはどこなんです? サービスエリアという所なんですか?」
寝ぼけ気味なのか、いや、一颯さんは元々サービスエリアには縁もないだろうし、知らなかったのだろう。
「ミモザちゃん、寝れたかい? そう、ここはサービスエリアだ。しばらくゆっくりするつもりだからまだ寝てても大丈夫だよ? ここには入浴施設もあるから後で行ってくるといい」
そうだったのか。サービスエリアに入浴施設がある事にも驚いたが、気を利かせてくれたファルさんにも感謝の思いが湧く。
「ありがとうございます、ファルさん。でも、せっかくだしもう少し起きてようと思います」
一颯さんの寝起きの声を聞き、ファルさんはニカッと綺麗な歯を見せて笑う。
「寒かったら言ってくれ。暖房も付けるし、ブランケットもある」
ファルさんは昔から女性に優しいな。今は車のエンジンを切って休めているようだった。一颯さんは笑顔を見せてお礼を言った。
数分するとタバコを吸い終えたラウディさんが戻ってきた。僕はまた一旦、一颯さんの方へと移る。
「飲み物、買ってきたぞ。コーヒー、お茶、チビにはオレンジジュースでよかったよな?」
施設内にはコンビニもあるらしく、ラウディさんはビニール袋を持っていた。ラウディさんも気が利くいい人だ。
「バカ言え。俺はコーヒーだ。ブラックだ」
ファルさんはそう言いながら奪い取るようにコーヒーを受け取った。
「じゃあ、オレンジジュースは私が貰っちゃいますね」
一颯さんは嬉しそうに笑い、ラウディさんにお礼を言った。一颯さんは確かオレンジジュース好きなんだよな。僕もお茶を頂きながらお礼を言った。
「ダンケー」
僕らに釣られるように運転席から声が聞こえた。なんだかんだでファルさんもラウディさんに感謝していたようだった。
「ラウディさん半袖で寒くないんですか? 僕のこのパーカー着れそうだったら着ます?」
気を遣って言ったが、峡峰での戦いの後タオルで少し拭いただけなので汚れている。
「ありがとうな。だが、このくらいは寒くもなんともない。ニューヨークなんかはもっと寒かったからな。弟こそ、腹は減ってないのか? 中に24時間営業のフードコートもあったし後で行くか?」
その質問をされ、僕はぎくっとする。先程夢の中でたらふく食べてお腹いっぱいです、なんてバカな発言はしたくない。
「あー、僕はそんなにお腹減ってないかな? でも、指名手配されてる僕らが行くとまずくないですか?」
そう言うと、ラウディさんだけでなくファルさんも、うーんと唸り始めた。トイレに行く時もあるだろうし、どうしようかと僕も悩む。
「私は眼鏡していけば大丈夫かなって。弖寅衣くんには私の帽子貸してあげましょうか?」
なるほど。眼鏡は便利だな。
「帽子ってあのキャスケットですか? いいんですか? 借りちゃって?」
一颯さんは、はい、と愛想よく答えた。これは助かる。
「帽子なら俺のもあるから、百々丸さんにはこっち貸そうか。まだ寝てるけど」
ファルさんはダッシュボードに入れていた帽子を取り出した。
「ドドは1回寝たらなかなか起きないんです」
僕がそう言うと、ファルさんは吹き出すように笑った。
「ハハ、まぁ、よく寝るのはいい事だ。こいつは体格もいいし、後で働いてもらうかもしれないしな」
そう言ったのはラウディさんだった。働くとはやはり戦闘の事だろうか? 僕も働くべきなのかなと思い聞こうとしたが、ちょうど携帯端末が振動した。
見てみるとシルベーヌさんからメールが10件以上も来ていた。1番新しいメールには文章はなく、泣き顔の絵文字のみで埋め尽くされていた。僕らが指名手配されているニュースを見たようだ。
「どうした? 顔が引き攣ってるぞ?」
ラウディさんが声をかけてきた。
「ずっとシルベーヌさんからメール来てたんですが、気付かなくて。心配してたみたいです」
3人の無事を伝えるついでに、ファルさんとラウディさんも一緒だという事を伝えた。すると、
【ファルくんと大佐も一緒なの!? なら安心ね! 2人によろしく言っといてねー】
と、すぐにメッセージが来た。
「だから、俺は大佐じゃねぇって言ってるだろ」
ラウディさんが後ろから覗き込んでいたらしく、僕は思わずその声にびっくりした。シルベーヌさんも「大佐」と呼んでいるのか。
「本人に言っときます」
と、僕はラウディさんの言葉を伝えて端末を閉まった。シルベーヌさんとメールをし出すと終わらないからな。
「シルベーヌさん今は飛行機ですかねー? どこの国に行くんでしょう?」
一颯さんが独り言のように呟いた。
「あいつ、あちこち回ってるらしいからな。ついこの前はチリ行ってたらしいし、その前はマダガスカルだったかな?」
ファルさんがハンドルに顎を乗せながら言った。
「そんな所まで? すごいですね、用心棒って」
僕が言うと、ラウディさんがまたびっくりしたように身体を起こした。
「用心棒だと? ボディガードみたいなもんか? ハードな仕事やってるなミスブシドー」
いつの間にかシルベーヌさんの事を「ミスブシドー」と呼ぶ事にしたらしい。
「仕事と言えば、本当だったら今日から仕事ですよね? どうしましょう」
一颯さんが少し不安そうに言った。その件に関しては僕もずっと考えていた。全国指名手配にされた以上はもうあの職場には戻れないかな。ラウディさんが口を開く。
「1番ベストな手段は、濡れ衣を晴らして指名手配を取り下げる事だ。難しいがな。それが出来なかったら、国外に逃亡するしかないな」
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