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第3章 サフォケイション
3-4 晩餐
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休んでいいと言われ、寝始めたらやる事は1つしかない。そう思い、僕は自身の奥底の夢の部屋、クアルトへと再びやってきた。
「おーっとー! そーくん、ここでついにピットインに突入だぁーっ!」
「はぁ?」
着くなり早々、姉は訳の分からない事を言ってきたので、僕はつい呆けたような反応をしてしまった。
しかし、姉の言葉の意味はすぐにわかった。なんと、姉はレースクイーンの格好をしているのだ。
シルベーヌさん程ではないが、姉も胸が大きく、それを強調したノースリーブのトップス。おへそも出している。そしてヒラヒラとしたミニスカート、膝の上まであるロングブーツ。3点とも赤と白と黒のカラーリングで統一され、長い髪は後ろで上手く束ねている。
「どう? 似合ってるでしょ?」
姉はくびれを強調するようなポーズをとった。
「もー、何やってんだよー。ハロウィンはまだ先だよー?」
僕は呆れながらソファに座る。シクスは何も見えていないように紅茶を持ってきてくれたので、お礼を言いながらお茶を飲む。あー、疲れが吹っ飛ぶ。
「ちょっとー!? 少しくらい褒めてくれてもいいでしょー? 可愛いでしょー?」
あーもうなんか面倒臭い。いや、姉を一旦落ち着かせる為にもここは褒めておかなければならない。今僕がすべき事はそれだ。
「うん! 姉さん似合ってるよ。すごく、可愛い。とても30歳には見えないよ」
「わー本当? ありがとう、そーくん! でも、最後のは余計だぞ! しかも、24歳の時に死んだから永遠の20代なんだぞ!」
姉さんは誇らしげに語りながら自分の特等席である、3人掛けソファへと座る。アンティークなこの空間に、このレースクイーンの衣装はとても浮いているし、不釣り合いだ。
「ファルくん、懐かしいよねー! 昔、ファルくんのレース見に行った事あるじゃん? あの時いたレースクイーンの人達見て憧れててさぁ。ずっと着てみたかったんだよねー」
あぁ、そう言えば姉と何度かファルさんのレースを見に行った事もあったな。日本でレースをやる時にファルさんがよく誘ってくれて、2人で一緒に行ったのだが、確かに姉はその時、あのレースクイーンの衣装を着たいと言っていたな。まさかその日が来てしまうとは。
「あぁ、うん。夢が叶ってよかったね。ファルさんも見たかっただろうに。ラウディさんの事は覚えてる?」
僕がそう聞くと、姉は何度も頷いた。
「大佐も懐かしいねー! 昔から変わってない。ファルくんと仲悪いのも。まさかあのピンチに駆けつけてくれるとはねー」
ラウディさんは大佐なのか? 後でそれとなく本人にも確認しておこうか。姉は嬉しそうに、思い出に浸っているようだった。
「あの時は本当にもうダメだと思ったよ」
諦めるなとは言われているが、ここに至るまで何度も死を覚悟している。
「全国指名手配ですからね。私もびっくりして皿を落としました。落としても割れませんけど」
シクスがそう言った。自分が全国指名手配犯だなんて、本当に未だに信じられない。それより、気になる事が。
「お皿? 何か食べてたの?」
この部屋にある物は壊れない。皿を落としても割れないのだろう。しかし、その皿を何に使っていたのか、つい気になってしまったのだ。
「はい。暇になるといつも私が料理して2人で食べてますよ? 先程の具材がまだ残ってますから作りますね。夢想の部屋とは言え、食べれば空腹も満たされます」
そう言ってシクスはキッチンへと向かった。あー、シクスありがとう! 思えば、峡峰での戦いから何も食べてないのでお腹ペコペコである。故に心の底から感謝である。
現実世界にいる4人には申し訳ないが、先にご飯頂きます。
「シクスの料理うまいよー? 散々本見て勉強してたからね。あたしも1日5食くらい食べてるから」
姉も目を輝かせている。5食はすごいな。キッチンからは既にいい匂いが漂って来ている。
「姉さんばっかりずるいよー。5食も食べてよく太んないよね」
「幽霊は太んないんだよー」
と、姉は自慢げに言った。幽霊である事を理由に贅沢三昧じゃないか。全くいい気なもんだ。
数分後、シクスが料理を運んできた。
「先程煉美と食べていたブイヤベースです。それから、ドイツと聞いてソーセージも焼いてきました。こちらのサラダもドイツ風に味付けしてあります」
そう言ってシクスはテーブルに料理を並べてくれた。小さめの鍋に入ったブイヤベースにはエビと貝とイカがぎっしり詰まっている。
ソーセージは3種類あった。細長い物と、カレー粉のような粉末がまぶしてある物、そして白くて楕円に近い形をした物。それらが3人分はある量だ。
色とりどりのサラダも大きいお皿に盛り付けられ、白いドレッシングがかけられている。
「シクスー! あたしの分も用意してくれたのー? ありがとう!」
「後で不満をグチグチ言われたくなかったので。さ、食べましょう」
シクスがそう言ってソファに座るのを確認し、3人とも手を合わせる。
「いただきまーす」
綺麗に3人の声が重なった。僕は初めて見た時から1番気になっていた物に手をつける。
「美味しい! ムール貝だー!」
あまりの美味しさに僕は大人気なくはしゃいでしまった。とても香りがよくて少しスパイスも効いている。こんなに美味しいブイヤベースは初めてだ。
「ふふふ、そーくん貝好きだもんねー。ホタテも入ってるよー」
「そう言えば、煉美の部屋に遊びに来てた時もよく貝を食べてましたね。あさりの味噌汁とか」
シクスもそんな事を覚えてたのか。ちょっと恥ずかしくて、ブイヤベースの美味しさと相まって思わず顔が綻んでしまう。
「煉美はしっかり野菜も食べなさい。ソーセージ全部食べちゃだめですよ?」
姉はずっとソーセージを食べていた。
「いっぱいあるんだからいいじゃんよー! ちょっとビール持ってきてー! そーくんも食べてみな? 美味しいよー」
シクスはやれやれと言いながらキッチンに戻った。僕はそんなシクスを横目で憐れに見ながらも、姉さんに言われた通りソーセージにフォークを刺し食べる。
プリッといういい音を立て、肉汁が口の中で飛び散る。風味がとてもよく、味わい深い。思わず姉さんと顔を見合わせた。
「美味しいね! いつも食べるソーセージじゃないよ? ドイツってこんなに違うんだ!」
「うんうん。ファルくんに言って今度お土産に買ってきてもらいなよ」
僕は空腹だった事もあり、料理に夢中で貪るように食べていたが、ファルさんの名前が出た所でやっと現実世界の事を思い出す。
「そうだよ。今回の事件どう思う? あんな大勢の特殊部隊を配備してたなんておかしいよね?」
シクスがビールを持ってきて、姉はそれを受け取りグラスに注いでいる所だった。
「うん。普段の日本じゃありえないよね。警察動員すれば済むはずだもの。ゼブルムが手を回しているのは言わずもがなだけど、こんな大掛かりなやり方は違和感があるね。日本の警察機構上層部、もしくは軍上層部にゼブルムの人間がいる可能性が高い」
姉はソーセージを食べながらそう言うと、ビールをグラス半分ほどまで飲み、美味そうに息を吐いた。レースクイーンの姿でだ。
「ふむ。ディキャピテーション、そして峡峰でカーネイジを倒した事によってついにゼブルムが本気で動き出したとも捉えられますね。あとは、あのサターンズ・リングが想達の事を報告したのでしょう」
シクスがサラダを小皿に装ってくれ、それを僕に渡し、姉さんには押し付けるように渡しながら言った。
ゼブルムの奴らも、サターンズ・リングの重症を見たらさぞ慌てただろう。ただ、そのサターンを倒したシルベーヌさんはもう旅立ってしまった。
「どうした? 不安かい? だーいじょうぶだよー。シルベーヌちゃんはもういないけど、あの2人が今はいるからね。ファルくんももちろんだけど、特に大佐がいるんだ」
「大佐……あぁ、ラウディさんか。そんなにすごい人なの?」
まだ「大佐」という呼び方に慣れておらず、反応が遅れてしまう。ラウディさんは確かにあの時も僕らを救ってくれてすごいと思う。
「当たり前さ。戦闘のスペシャリストだ。とりわけ、大勢の部隊を相手にする戦況では特にね。必ず戦いを有利に導いてくれるし、そーくんのサポートだってしてくれるよきっと」
姉は、しっかりとサラダも食べながら言った。
「そう言えば、ラウディさんは、前に姉さんに任務を手伝ってもらった事があるとか言ってたよ?」
そう言うと、姉は懐かしむように笑った。
「あーあー、大佐、日本にも仕事でよく来てたからね。あと、あたし高校の夏休みの時、旅行でアメリカ行ったじゃん? あん時実は大佐の招待だったんだよね。おかげで殆ど旅行出来なかったけどね」
そう言って姉は、ソファをぽんぽん叩きながら楽しそうに笑った。確かに姉は夏休みにアメリカに行った。と言うか、長期休みはよく海外に行ってた気もする。
「ラウディさんの銃の扱いは見事でしたね。私も参考になりました」
僕からしたら、どちらも同じくらいにすごいと思っていたのだが、シクスがそう言うのだから相当な腕前なのだろう。
「いいかい、そーくん。今回は大勢の人間との戦闘を避けられない。民間人を巻き込む事にもなるだろう。それでも、自分の身を守るためにも、多少の被害はやむを得ないと覚悟しておくべきだ。もちろん、他人の命を犠牲にするような事はしてほしくない。でも、そーくんのグラインドで動かせる物は、必要とあらば利用していくべきだ」
姉は真剣な眼差しでそう語った。それは、僕も頭では解っていたのだが、躊躇ってしまっていた。特殊部隊に囲まれていた時も。
「うん、そうだよね。わかった。もっと色んなパターンも考えていこうと思う」
僕がそう言うと姉は安心したように微笑み、僕の頭を撫でる。
「うん! あたしがずっと見守ってるから、自分の判断で自信を持って行動するといい」
姉はそう言って、ブイヤベースのスープを口にした。僕もまだまだ食べ足りなかったので、ホタテを口にする。コクのある味わいに思わずまた笑みが零れる。あっという間に3人であの料理を平らげてしまった。
「ごちそうさまでした!」
また、3人同じタイミングで声が揃い、僕らは顔を見合わせて笑った。
「シクス、本当に美味しかった。ありがとう」
「いえいえ、また作りますからお腹が減っていたら遠慮なく言ってください」
あの時の猫に、今はこうしてお世話されているのがなんだかとても不思議だ。シクスが食器を片付けた後、すぐまた紅茶を持ってきてくれて、僕ら3人は安らぎの時間を過ごした。
姉はいつも通り、僕に微笑みかけてくれる。
その笑顔を見る度に、この姉が自殺でこの世を去ったという事実を、今でも受け入れる事ができない。
「おーっとー! そーくん、ここでついにピットインに突入だぁーっ!」
「はぁ?」
着くなり早々、姉は訳の分からない事を言ってきたので、僕はつい呆けたような反応をしてしまった。
しかし、姉の言葉の意味はすぐにわかった。なんと、姉はレースクイーンの格好をしているのだ。
シルベーヌさん程ではないが、姉も胸が大きく、それを強調したノースリーブのトップス。おへそも出している。そしてヒラヒラとしたミニスカート、膝の上まであるロングブーツ。3点とも赤と白と黒のカラーリングで統一され、長い髪は後ろで上手く束ねている。
「どう? 似合ってるでしょ?」
姉はくびれを強調するようなポーズをとった。
「もー、何やってんだよー。ハロウィンはまだ先だよー?」
僕は呆れながらソファに座る。シクスは何も見えていないように紅茶を持ってきてくれたので、お礼を言いながらお茶を飲む。あー、疲れが吹っ飛ぶ。
「ちょっとー!? 少しくらい褒めてくれてもいいでしょー? 可愛いでしょー?」
あーもうなんか面倒臭い。いや、姉を一旦落ち着かせる為にもここは褒めておかなければならない。今僕がすべき事はそれだ。
「うん! 姉さん似合ってるよ。すごく、可愛い。とても30歳には見えないよ」
「わー本当? ありがとう、そーくん! でも、最後のは余計だぞ! しかも、24歳の時に死んだから永遠の20代なんだぞ!」
姉さんは誇らしげに語りながら自分の特等席である、3人掛けソファへと座る。アンティークなこの空間に、このレースクイーンの衣装はとても浮いているし、不釣り合いだ。
「ファルくん、懐かしいよねー! 昔、ファルくんのレース見に行った事あるじゃん? あの時いたレースクイーンの人達見て憧れててさぁ。ずっと着てみたかったんだよねー」
あぁ、そう言えば姉と何度かファルさんのレースを見に行った事もあったな。日本でレースをやる時にファルさんがよく誘ってくれて、2人で一緒に行ったのだが、確かに姉はその時、あのレースクイーンの衣装を着たいと言っていたな。まさかその日が来てしまうとは。
「あぁ、うん。夢が叶ってよかったね。ファルさんも見たかっただろうに。ラウディさんの事は覚えてる?」
僕がそう聞くと、姉は何度も頷いた。
「大佐も懐かしいねー! 昔から変わってない。ファルくんと仲悪いのも。まさかあのピンチに駆けつけてくれるとはねー」
ラウディさんは大佐なのか? 後でそれとなく本人にも確認しておこうか。姉は嬉しそうに、思い出に浸っているようだった。
「あの時は本当にもうダメだと思ったよ」
諦めるなとは言われているが、ここに至るまで何度も死を覚悟している。
「全国指名手配ですからね。私もびっくりして皿を落としました。落としても割れませんけど」
シクスがそう言った。自分が全国指名手配犯だなんて、本当に未だに信じられない。それより、気になる事が。
「お皿? 何か食べてたの?」
この部屋にある物は壊れない。皿を落としても割れないのだろう。しかし、その皿を何に使っていたのか、つい気になってしまったのだ。
「はい。暇になるといつも私が料理して2人で食べてますよ? 先程の具材がまだ残ってますから作りますね。夢想の部屋とは言え、食べれば空腹も満たされます」
そう言ってシクスはキッチンへと向かった。あー、シクスありがとう! 思えば、峡峰での戦いから何も食べてないのでお腹ペコペコである。故に心の底から感謝である。
現実世界にいる4人には申し訳ないが、先にご飯頂きます。
「シクスの料理うまいよー? 散々本見て勉強してたからね。あたしも1日5食くらい食べてるから」
姉も目を輝かせている。5食はすごいな。キッチンからは既にいい匂いが漂って来ている。
「姉さんばっかりずるいよー。5食も食べてよく太んないよね」
「幽霊は太んないんだよー」
と、姉は自慢げに言った。幽霊である事を理由に贅沢三昧じゃないか。全くいい気なもんだ。
数分後、シクスが料理を運んできた。
「先程煉美と食べていたブイヤベースです。それから、ドイツと聞いてソーセージも焼いてきました。こちらのサラダもドイツ風に味付けしてあります」
そう言ってシクスはテーブルに料理を並べてくれた。小さめの鍋に入ったブイヤベースにはエビと貝とイカがぎっしり詰まっている。
ソーセージは3種類あった。細長い物と、カレー粉のような粉末がまぶしてある物、そして白くて楕円に近い形をした物。それらが3人分はある量だ。
色とりどりのサラダも大きいお皿に盛り付けられ、白いドレッシングがかけられている。
「シクスー! あたしの分も用意してくれたのー? ありがとう!」
「後で不満をグチグチ言われたくなかったので。さ、食べましょう」
シクスがそう言ってソファに座るのを確認し、3人とも手を合わせる。
「いただきまーす」
綺麗に3人の声が重なった。僕は初めて見た時から1番気になっていた物に手をつける。
「美味しい! ムール貝だー!」
あまりの美味しさに僕は大人気なくはしゃいでしまった。とても香りがよくて少しスパイスも効いている。こんなに美味しいブイヤベースは初めてだ。
「ふふふ、そーくん貝好きだもんねー。ホタテも入ってるよー」
「そう言えば、煉美の部屋に遊びに来てた時もよく貝を食べてましたね。あさりの味噌汁とか」
シクスもそんな事を覚えてたのか。ちょっと恥ずかしくて、ブイヤベースの美味しさと相まって思わず顔が綻んでしまう。
「煉美はしっかり野菜も食べなさい。ソーセージ全部食べちゃだめですよ?」
姉はずっとソーセージを食べていた。
「いっぱいあるんだからいいじゃんよー! ちょっとビール持ってきてー! そーくんも食べてみな? 美味しいよー」
シクスはやれやれと言いながらキッチンに戻った。僕はそんなシクスを横目で憐れに見ながらも、姉さんに言われた通りソーセージにフォークを刺し食べる。
プリッといういい音を立て、肉汁が口の中で飛び散る。風味がとてもよく、味わい深い。思わず姉さんと顔を見合わせた。
「美味しいね! いつも食べるソーセージじゃないよ? ドイツってこんなに違うんだ!」
「うんうん。ファルくんに言って今度お土産に買ってきてもらいなよ」
僕は空腹だった事もあり、料理に夢中で貪るように食べていたが、ファルさんの名前が出た所でやっと現実世界の事を思い出す。
「そうだよ。今回の事件どう思う? あんな大勢の特殊部隊を配備してたなんておかしいよね?」
シクスがビールを持ってきて、姉はそれを受け取りグラスに注いでいる所だった。
「うん。普段の日本じゃありえないよね。警察動員すれば済むはずだもの。ゼブルムが手を回しているのは言わずもがなだけど、こんな大掛かりなやり方は違和感があるね。日本の警察機構上層部、もしくは軍上層部にゼブルムの人間がいる可能性が高い」
姉はソーセージを食べながらそう言うと、ビールをグラス半分ほどまで飲み、美味そうに息を吐いた。レースクイーンの姿でだ。
「ふむ。ディキャピテーション、そして峡峰でカーネイジを倒した事によってついにゼブルムが本気で動き出したとも捉えられますね。あとは、あのサターンズ・リングが想達の事を報告したのでしょう」
シクスがサラダを小皿に装ってくれ、それを僕に渡し、姉さんには押し付けるように渡しながら言った。
ゼブルムの奴らも、サターンズ・リングの重症を見たらさぞ慌てただろう。ただ、そのサターンを倒したシルベーヌさんはもう旅立ってしまった。
「どうした? 不安かい? だーいじょうぶだよー。シルベーヌちゃんはもういないけど、あの2人が今はいるからね。ファルくんももちろんだけど、特に大佐がいるんだ」
「大佐……あぁ、ラウディさんか。そんなにすごい人なの?」
まだ「大佐」という呼び方に慣れておらず、反応が遅れてしまう。ラウディさんは確かにあの時も僕らを救ってくれてすごいと思う。
「当たり前さ。戦闘のスペシャリストだ。とりわけ、大勢の部隊を相手にする戦況では特にね。必ず戦いを有利に導いてくれるし、そーくんのサポートだってしてくれるよきっと」
姉は、しっかりとサラダも食べながら言った。
「そう言えば、ラウディさんは、前に姉さんに任務を手伝ってもらった事があるとか言ってたよ?」
そう言うと、姉は懐かしむように笑った。
「あーあー、大佐、日本にも仕事でよく来てたからね。あと、あたし高校の夏休みの時、旅行でアメリカ行ったじゃん? あん時実は大佐の招待だったんだよね。おかげで殆ど旅行出来なかったけどね」
そう言って姉は、ソファをぽんぽん叩きながら楽しそうに笑った。確かに姉は夏休みにアメリカに行った。と言うか、長期休みはよく海外に行ってた気もする。
「ラウディさんの銃の扱いは見事でしたね。私も参考になりました」
僕からしたら、どちらも同じくらいにすごいと思っていたのだが、シクスがそう言うのだから相当な腕前なのだろう。
「いいかい、そーくん。今回は大勢の人間との戦闘を避けられない。民間人を巻き込む事にもなるだろう。それでも、自分の身を守るためにも、多少の被害はやむを得ないと覚悟しておくべきだ。もちろん、他人の命を犠牲にするような事はしてほしくない。でも、そーくんのグラインドで動かせる物は、必要とあらば利用していくべきだ」
姉は真剣な眼差しでそう語った。それは、僕も頭では解っていたのだが、躊躇ってしまっていた。特殊部隊に囲まれていた時も。
「うん、そうだよね。わかった。もっと色んなパターンも考えていこうと思う」
僕がそう言うと姉は安心したように微笑み、僕の頭を撫でる。
「うん! あたしがずっと見守ってるから、自分の判断で自信を持って行動するといい」
姉はそう言って、ブイヤベースのスープを口にした。僕もまだまだ食べ足りなかったので、ホタテを口にする。コクのある味わいに思わずまた笑みが零れる。あっという間に3人であの料理を平らげてしまった。
「ごちそうさまでした!」
また、3人同じタイミングで声が揃い、僕らは顔を見合わせて笑った。
「シクス、本当に美味しかった。ありがとう」
「いえいえ、また作りますからお腹が減っていたら遠慮なく言ってください」
あの時の猫に、今はこうしてお世話されているのがなんだかとても不思議だ。シクスが食器を片付けた後、すぐまた紅茶を持ってきてくれて、僕ら3人は安らぎの時間を過ごした。
姉はいつも通り、僕に微笑みかけてくれる。
その笑顔を見る度に、この姉が自殺でこの世を去ったという事実を、今でも受け入れる事ができない。
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