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第2章 カーネイジ
2-16 バーント・イン・ザ・サン
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サターンは血を撒き散らしながら地面に落下した。
「そーちゃん、ナイスー! いい連携だったわね!」
シルベーヌさんがハイタッチをしてきたので、僕は呆然としながらも手を差し出す。正直、こんなに綺麗に決まるとは思っていなかった。
奴のあの腹に一撃いれるためにはあの大きな環がどうしても邪魔だった。それを見事に粉砕してくれたシルベーヌさんの剣技はやはり達人技だ。なんだ、あの突きの連撃は。速すぎるだろ。
「やっぱり、あなたはれんちゃんの弟だわ! もう、惚れ直しちゃう!」
そう言って抱きついてきた。ちょっとここではやめてくれよ。そこに近付く足音があった。
「おいおい……まさか、倒しちまったのか!?」
堂島さんと一颯さんだった。腕には布が巻かれており、無事に応急処置は終わったようだった。
「ドド、大丈夫そうだね。よかった」
「俺は別にあんなんじゃなんともねぇよ? でも、ミモザちゃん本当にありがとうな。おかげで無駄に血を減らさずに済んだよ」
堂島さんにそう言われ、一颯さんはいえいえと両手を振っていた。その様子にシルベーヌさんも安心し、微笑んでいた。
「くっそがぁ……、こんなガキに、くそ……やられる訳ねぇんだよ……この俺がァ!」
そんな……。背後を振り返ると、サターンが起き上がろうとしていた。
「まだ生きてたのね。しぶといわね。今は百々丸くんもいるのよ? 3対1。勝てるわけないわよ。あなたの負け」
そう冷ややかに言って、シルベーヌさんは腰に持つ納刀状態の日本刀に手を置く。そして、その隣に堂島さんが拳を握りながら立つ。
「そうだ。諦めろ。命だけはとらねぇでやってもいいぞ」
と、サターンの動きが止まった。震えている。いや、笑っていた。
「はははは……ふははは! 負けだと? 何を勘違いしている?」
シルベーヌさんが訝しむように眉をピクンと動かす。
「この状況でどうする事もできないでしょ?」
シルベーヌさんがそう言った瞬間、奴の身体の下に環が出現する。サターンの身体を乗せて、背後の方へと逃げ出す。
「まだまだ終わってねぇんだよ!」
そう叫び、サターンを乗せた環は大きな岩をも飛び越えていく。
「しまった! 追うぞ!」
シルベーヌさんと、堂島さんが駆け出す。僕は姉さんに言われた陣形の事を思い出し、一颯さんの手を取り、後を追う。
「一颯さん疲れてないですか? 2人に離れないように行きますけど、途中でダメそうだったら言ってください」
大きな岩を回り込み、斜面になった地面を下りながら声をかける。幸いまだ2人の背中は視界に入っている。
「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。弖寅衣くんは怪我はないですか?」
今度は岩と岩の間にできた狭い道を進む。
「はい、今の所は。でも、ここは本当に自然の迷路って感じですよね。方向感覚が全くわからなくなる」
地面がうねうねと隆起している上に、樹木もくねくねと曲がっている。この世とは思えない。
「はい、昔は遭難者が多発していたそうですし、ここまで広大に広がっていると体力も消耗してしまうでしょうし、それも遭難の原因の1つだと思えます」
その通りだ。最近は巡回をする専門職の人もいるようで、遭難の被害は減っているらしいが。
途中でシルベーヌさんがこちらを気にするように止まっていた。堂島さんは引き続き、サターンを追跡しているようだった。
「2人とも大丈夫? 百々丸くんに警戒しながら先に行くよう伝えたけど、恐らく奴はこのまま真っ直ぐ行ったようよ」
目の前のサターンを追うことばかりじゃなく、後方の僕らの事も考えている辺り、やはりこの人は全体を見る事ができるのだろうな。
「私は大丈夫です。まだまだ動けますので!」
元気そうに笑った一颯さんを見て、シルベーヌさんも微笑みを返す。
「僕が一颯さんの守りに回るので、次で戦闘になったら2人でお願いします」
「わかったわ。任せてちょうだい!」
そう言ってシルベーヌさんはいつものウインクをした。やがて草木が鬱蒼と生い茂る場所に行き当たったが、堂島さんが通った形跡もあり、そこをひたすら進む。すると、彼の背中が見えた。
「なんだ……ここは?」
堂島さんは、周りに視線を走らせながら呟いた。草を掻き分けて進んだ先、そこは今までよりは地面の隆起と陥没が激しくなく、少し開けた場所だった。
4人合流した僕らは慎重に警戒しながら進む。今までの場所に比べ、樹が少ない。何かの跡地かと思ったが、進むにつれて謎が解けた。
家屋だ。老朽化し、崩れた家屋があり、そこに苔がびっしり生え、屋根を貫通するように樹が生えている。そのような家屋がぽつぽつと点在している。
ここには村があったのか。その村の跡地が、樹海に取り込まれ一体化しつつある。
「ここは、廃村ですね。こんな樹海のど真ん中に、人が住んでいたのですね」
一颯さんも辺りを見回しながら、誰に言うでもなく呟いた。
「そうね。峡峰という地域は盆地に繁栄していったから、この樹海一帯は年々過疎化が進んでいったのでしょうね。こういう小さな村は捨てられるしかなかったのかもしれないわ。悲しい事に。もう100年以上は経っていそうね」
と、その時、ホオォーンという遠吠えが聞こえた。僕は顔を上げ、前方を見る。
1番奥にあったその家屋は倒壊こそしていたものの、他の家屋よりも大きかった。その家屋の屋根に何かがいた。黒い影。暗いからそう見えたのかとも思ったが、あたりはまだ明るかった。
――狼だ。大きさはライオンと同じか、それ以上。普通の狼より明らかに大きい。全身が真っ黒で赤い瞳をした狼が、屋根の上にいる。
そうだ。僕はその時まで忘れていた。金曜日の夜に、この街で聞いた噂。1つ残っていたもの、それが狼の噂だ。日本では絶滅したはずの狼が出現すると。それが、これか――。
「な、なんだありゃ!? あんな狼見た事ねぇぞ」
堂島さんも驚き、後退る。
「ミモザちゃん、悪いんだけどこの鞘も持ってて貰えるかしら? それと、できるだけ離れていて」
シルベーヌさんもただならぬ危機感を察知したのか、一颯さんに鞘を預ける。僕は一颯さんと共に後方へと下がる。
そして、狼は勢いよく屋根から飛び降り、一直線にこちらに向かってきた。
「ふ、熊の次は狼か。いいだろう。相手してやる!」
堂島さんは気合いを入れ、走り出した。狼は堂島さんに近づくと飛び上がり、堂島さんへと襲いかかる。堂島さんは身体を捩るような蹴りで狼の腹を突くと、続けてそこにボディブローを放つ。しかし、
「あっちい!」
そう言って、堂島さんは地面を転げ回っていた。黒い狼は燃えていた。炎を纏い、平然としている。
そこへ、透かさずシルベーヌさんが俊足で近づき、日本刀で一突きするも、鋭く危険を察知した狼は高くジャンプし、近くの家屋の屋根へと飛び乗った。
「はははは、どうだ!? お前らの攻撃なんか通用しねぇぞ?」
高らかな笑いと共にサターンの声が廃村に響いた。先程、狼がいた1番大きな家屋の屋根に奴が座っていた。
「そいつは、バーント・イン・ザ・サン。組織の研究によって改良し、グラインドを与えられた燃える狼だ。これでも俺達が負けてると思うか?」
そう言って、サターンはまた笑った。あの炎はグラインドなのか? 人間だけじゃなく、動物もグラインドを使えるのか。
「全く、ゼブルムって本当趣味悪いわよね。呆れるわ」
シルベーヌさんはそう言いながら屋根の上にいる狼――バーント・イン・ザ・サンを警戒している。
「動物をなんだと思ってやがんだ。だが、動物といえど敵になっちまってるんじゃ、容赦はできねぇよな」
堂島さんは体勢を建て直し、構えている。
「グルゥー、グワァウ!」
バーント・イン・ザ・サンは唸るように吠えると跳躍し、空中で火を纏いながら縦回転した。それを2人は同時に避ける。
そして、シルベーヌさんは着地した狼へと斬撃を放つ。低い位置から斬り上げるように日本刀を振り上げた。バーント・イン・ザ・サンの横腹から血が出たが、瞬時に回避に移っていたようでダメージは少ない。
そこに堂島さんが回し蹴りを2発放った。拳を打つよりも蹴りの方が炎を受けにくいだろう。しかし、空中で蹴られたバーント・イン・ザ・サンは体勢を建て直し、後ろ足の爪で堂島さんの足を切り裂きにかかる。
苦痛の表情を一瞬浮かべた堂島さんだったが、もう1発回し蹴りを狼の腹部へと放ち、狼は倒壊した家屋へと吹っ飛んだ。
その家屋から煙が出始める。火が燃え移ったようだ。そして、狼はすぐに飛び出てきた。今度はシルベーヌさんへと襲いかかる。ガキンという音を立て、シルベーヌさんは日本刀で狼の爪と牙を受け止めた。
そして、その狼の下へと堂島さんが潜り込み、逆立ちをしながら真上の狼の腹へと蹴りを当て跳ね上げる。
シルベーヌさんは、膝を曲げ、体勢を低くし、跳躍しながら刀を振り上げる。その軌跡は螺旋を描きながら狼の身体を斬りつける。燃える狼はまた血を撒き散らしながら地に落ちた。
「どうだー? まだやるかー?」
見事な2人の連携攻撃をうけ、バーント・イン・ザ・サンは倒れ伏してしまった。が、サターンは笑っている。まさかと思い、狼へと視線を戻すと、姿が消えている。
「2人ともまだ終わってない! 気をつけるんだ!」
僕が叫ぶのと同時に、シルベーヌさんの身体目掛けて、横からもの凄い勢いで黒い塊が燃えながらタックルしてきた。
「うっ!」
予想外の方角からの攻撃に、シルベーヌさんは思わず呻き声を洩らし、そして彼女の身体は大きく吹っ飛ばされてしまった。
「しぶといやつだな!」
堂島さんは再び狼へと向かい、踏み込む。しかし、バーント・イン・ザ・サンは先程とは段違いの動きだった。
向かってきた堂島さんに対し、地面を思い切り蹴り、堂島さんの顔に炎のタックルを当てた。衝撃と熱さで思わず仰け反った堂島さんに、さらに燃える狼はタックルをかけ、その次は燃える爪で引き裂いてきた。
「ぐおっ!?」
一方的に攻撃を受け続けていた堂島さんだったが、そこへ起き上がったシルベーヌさんが駆け付け、狼のタックルを日本刀で止める。
「百々丸くん! 大丈夫?」
堂島さんに声を掛けた。そして、バーント・イン・ザ・サンは大きく後ろに飛び退き、すぐに再びシルベーヌさんに向かって走り出した。まずい、先程よりさらに速さと勢いが増している。
僕はもう躊躇していられなかった。グラインドを使い、家屋から丸太を取り出し、シルベーヌさんに飛び掛かろうとしていた狼を横殴りする。
しかし、老朽化した丸太は儚く砕ける。それでも燃える狼は空中でバランスを崩した。そこへ飛び散った丸太の破片を僕のグラインドで突き刺すように追い討ちをかける。
「ガルン!?」
悲鳴のような鳴き声を上げ、地面に落ちたバーント・イン・ザ・サンだったが、すぐに起き上がると、奴は今度は僕に向かって猛烈な速さで駆け出した。あまりの速さに対処出来なかった。
「うっおぉ!?」
燃える狼の強烈なタックルを正面から食らい、僕の身体は大きく宙に浮いた。そして、背後の硬い物、恐らく岩に強く打ち付けられる。
頭を打ったのか、意識が遠のく。視界の隅で一颯さんが近寄ってくるのが見えた。そこで僕の意識は途絶えた。
「そーちゃん、ナイスー! いい連携だったわね!」
シルベーヌさんがハイタッチをしてきたので、僕は呆然としながらも手を差し出す。正直、こんなに綺麗に決まるとは思っていなかった。
奴のあの腹に一撃いれるためにはあの大きな環がどうしても邪魔だった。それを見事に粉砕してくれたシルベーヌさんの剣技はやはり達人技だ。なんだ、あの突きの連撃は。速すぎるだろ。
「やっぱり、あなたはれんちゃんの弟だわ! もう、惚れ直しちゃう!」
そう言って抱きついてきた。ちょっとここではやめてくれよ。そこに近付く足音があった。
「おいおい……まさか、倒しちまったのか!?」
堂島さんと一颯さんだった。腕には布が巻かれており、無事に応急処置は終わったようだった。
「ドド、大丈夫そうだね。よかった」
「俺は別にあんなんじゃなんともねぇよ? でも、ミモザちゃん本当にありがとうな。おかげで無駄に血を減らさずに済んだよ」
堂島さんにそう言われ、一颯さんはいえいえと両手を振っていた。その様子にシルベーヌさんも安心し、微笑んでいた。
「くっそがぁ……、こんなガキに、くそ……やられる訳ねぇんだよ……この俺がァ!」
そんな……。背後を振り返ると、サターンが起き上がろうとしていた。
「まだ生きてたのね。しぶといわね。今は百々丸くんもいるのよ? 3対1。勝てるわけないわよ。あなたの負け」
そう冷ややかに言って、シルベーヌさんは腰に持つ納刀状態の日本刀に手を置く。そして、その隣に堂島さんが拳を握りながら立つ。
「そうだ。諦めろ。命だけはとらねぇでやってもいいぞ」
と、サターンの動きが止まった。震えている。いや、笑っていた。
「はははは……ふははは! 負けだと? 何を勘違いしている?」
シルベーヌさんが訝しむように眉をピクンと動かす。
「この状況でどうする事もできないでしょ?」
シルベーヌさんがそう言った瞬間、奴の身体の下に環が出現する。サターンの身体を乗せて、背後の方へと逃げ出す。
「まだまだ終わってねぇんだよ!」
そう叫び、サターンを乗せた環は大きな岩をも飛び越えていく。
「しまった! 追うぞ!」
シルベーヌさんと、堂島さんが駆け出す。僕は姉さんに言われた陣形の事を思い出し、一颯さんの手を取り、後を追う。
「一颯さん疲れてないですか? 2人に離れないように行きますけど、途中でダメそうだったら言ってください」
大きな岩を回り込み、斜面になった地面を下りながら声をかける。幸いまだ2人の背中は視界に入っている。
「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。弖寅衣くんは怪我はないですか?」
今度は岩と岩の間にできた狭い道を進む。
「はい、今の所は。でも、ここは本当に自然の迷路って感じですよね。方向感覚が全くわからなくなる」
地面がうねうねと隆起している上に、樹木もくねくねと曲がっている。この世とは思えない。
「はい、昔は遭難者が多発していたそうですし、ここまで広大に広がっていると体力も消耗してしまうでしょうし、それも遭難の原因の1つだと思えます」
その通りだ。最近は巡回をする専門職の人もいるようで、遭難の被害は減っているらしいが。
途中でシルベーヌさんがこちらを気にするように止まっていた。堂島さんは引き続き、サターンを追跡しているようだった。
「2人とも大丈夫? 百々丸くんに警戒しながら先に行くよう伝えたけど、恐らく奴はこのまま真っ直ぐ行ったようよ」
目の前のサターンを追うことばかりじゃなく、後方の僕らの事も考えている辺り、やはりこの人は全体を見る事ができるのだろうな。
「私は大丈夫です。まだまだ動けますので!」
元気そうに笑った一颯さんを見て、シルベーヌさんも微笑みを返す。
「僕が一颯さんの守りに回るので、次で戦闘になったら2人でお願いします」
「わかったわ。任せてちょうだい!」
そう言ってシルベーヌさんはいつものウインクをした。やがて草木が鬱蒼と生い茂る場所に行き当たったが、堂島さんが通った形跡もあり、そこをひたすら進む。すると、彼の背中が見えた。
「なんだ……ここは?」
堂島さんは、周りに視線を走らせながら呟いた。草を掻き分けて進んだ先、そこは今までよりは地面の隆起と陥没が激しくなく、少し開けた場所だった。
4人合流した僕らは慎重に警戒しながら進む。今までの場所に比べ、樹が少ない。何かの跡地かと思ったが、進むにつれて謎が解けた。
家屋だ。老朽化し、崩れた家屋があり、そこに苔がびっしり生え、屋根を貫通するように樹が生えている。そのような家屋がぽつぽつと点在している。
ここには村があったのか。その村の跡地が、樹海に取り込まれ一体化しつつある。
「ここは、廃村ですね。こんな樹海のど真ん中に、人が住んでいたのですね」
一颯さんも辺りを見回しながら、誰に言うでもなく呟いた。
「そうね。峡峰という地域は盆地に繁栄していったから、この樹海一帯は年々過疎化が進んでいったのでしょうね。こういう小さな村は捨てられるしかなかったのかもしれないわ。悲しい事に。もう100年以上は経っていそうね」
と、その時、ホオォーンという遠吠えが聞こえた。僕は顔を上げ、前方を見る。
1番奥にあったその家屋は倒壊こそしていたものの、他の家屋よりも大きかった。その家屋の屋根に何かがいた。黒い影。暗いからそう見えたのかとも思ったが、あたりはまだ明るかった。
――狼だ。大きさはライオンと同じか、それ以上。普通の狼より明らかに大きい。全身が真っ黒で赤い瞳をした狼が、屋根の上にいる。
そうだ。僕はその時まで忘れていた。金曜日の夜に、この街で聞いた噂。1つ残っていたもの、それが狼の噂だ。日本では絶滅したはずの狼が出現すると。それが、これか――。
「な、なんだありゃ!? あんな狼見た事ねぇぞ」
堂島さんも驚き、後退る。
「ミモザちゃん、悪いんだけどこの鞘も持ってて貰えるかしら? それと、できるだけ離れていて」
シルベーヌさんもただならぬ危機感を察知したのか、一颯さんに鞘を預ける。僕は一颯さんと共に後方へと下がる。
そして、狼は勢いよく屋根から飛び降り、一直線にこちらに向かってきた。
「ふ、熊の次は狼か。いいだろう。相手してやる!」
堂島さんは気合いを入れ、走り出した。狼は堂島さんに近づくと飛び上がり、堂島さんへと襲いかかる。堂島さんは身体を捩るような蹴りで狼の腹を突くと、続けてそこにボディブローを放つ。しかし、
「あっちい!」
そう言って、堂島さんは地面を転げ回っていた。黒い狼は燃えていた。炎を纏い、平然としている。
そこへ、透かさずシルベーヌさんが俊足で近づき、日本刀で一突きするも、鋭く危険を察知した狼は高くジャンプし、近くの家屋の屋根へと飛び乗った。
「はははは、どうだ!? お前らの攻撃なんか通用しねぇぞ?」
高らかな笑いと共にサターンの声が廃村に響いた。先程、狼がいた1番大きな家屋の屋根に奴が座っていた。
「そいつは、バーント・イン・ザ・サン。組織の研究によって改良し、グラインドを与えられた燃える狼だ。これでも俺達が負けてると思うか?」
そう言って、サターンはまた笑った。あの炎はグラインドなのか? 人間だけじゃなく、動物もグラインドを使えるのか。
「全く、ゼブルムって本当趣味悪いわよね。呆れるわ」
シルベーヌさんはそう言いながら屋根の上にいる狼――バーント・イン・ザ・サンを警戒している。
「動物をなんだと思ってやがんだ。だが、動物といえど敵になっちまってるんじゃ、容赦はできねぇよな」
堂島さんは体勢を建て直し、構えている。
「グルゥー、グワァウ!」
バーント・イン・ザ・サンは唸るように吠えると跳躍し、空中で火を纏いながら縦回転した。それを2人は同時に避ける。
そして、シルベーヌさんは着地した狼へと斬撃を放つ。低い位置から斬り上げるように日本刀を振り上げた。バーント・イン・ザ・サンの横腹から血が出たが、瞬時に回避に移っていたようでダメージは少ない。
そこに堂島さんが回し蹴りを2発放った。拳を打つよりも蹴りの方が炎を受けにくいだろう。しかし、空中で蹴られたバーント・イン・ザ・サンは体勢を建て直し、後ろ足の爪で堂島さんの足を切り裂きにかかる。
苦痛の表情を一瞬浮かべた堂島さんだったが、もう1発回し蹴りを狼の腹部へと放ち、狼は倒壊した家屋へと吹っ飛んだ。
その家屋から煙が出始める。火が燃え移ったようだ。そして、狼はすぐに飛び出てきた。今度はシルベーヌさんへと襲いかかる。ガキンという音を立て、シルベーヌさんは日本刀で狼の爪と牙を受け止めた。
そして、その狼の下へと堂島さんが潜り込み、逆立ちをしながら真上の狼の腹へと蹴りを当て跳ね上げる。
シルベーヌさんは、膝を曲げ、体勢を低くし、跳躍しながら刀を振り上げる。その軌跡は螺旋を描きながら狼の身体を斬りつける。燃える狼はまた血を撒き散らしながら地に落ちた。
「どうだー? まだやるかー?」
見事な2人の連携攻撃をうけ、バーント・イン・ザ・サンは倒れ伏してしまった。が、サターンは笑っている。まさかと思い、狼へと視線を戻すと、姿が消えている。
「2人ともまだ終わってない! 気をつけるんだ!」
僕が叫ぶのと同時に、シルベーヌさんの身体目掛けて、横からもの凄い勢いで黒い塊が燃えながらタックルしてきた。
「うっ!」
予想外の方角からの攻撃に、シルベーヌさんは思わず呻き声を洩らし、そして彼女の身体は大きく吹っ飛ばされてしまった。
「しぶといやつだな!」
堂島さんは再び狼へと向かい、踏み込む。しかし、バーント・イン・ザ・サンは先程とは段違いの動きだった。
向かってきた堂島さんに対し、地面を思い切り蹴り、堂島さんの顔に炎のタックルを当てた。衝撃と熱さで思わず仰け反った堂島さんに、さらに燃える狼はタックルをかけ、その次は燃える爪で引き裂いてきた。
「ぐおっ!?」
一方的に攻撃を受け続けていた堂島さんだったが、そこへ起き上がったシルベーヌさんが駆け付け、狼のタックルを日本刀で止める。
「百々丸くん! 大丈夫?」
堂島さんに声を掛けた。そして、バーント・イン・ザ・サンは大きく後ろに飛び退き、すぐに再びシルベーヌさんに向かって走り出した。まずい、先程よりさらに速さと勢いが増している。
僕はもう躊躇していられなかった。グラインドを使い、家屋から丸太を取り出し、シルベーヌさんに飛び掛かろうとしていた狼を横殴りする。
しかし、老朽化した丸太は儚く砕ける。それでも燃える狼は空中でバランスを崩した。そこへ飛び散った丸太の破片を僕のグラインドで突き刺すように追い討ちをかける。
「ガルン!?」
悲鳴のような鳴き声を上げ、地面に落ちたバーント・イン・ザ・サンだったが、すぐに起き上がると、奴は今度は僕に向かって猛烈な速さで駆け出した。あまりの速さに対処出来なかった。
「うっおぉ!?」
燃える狼の強烈なタックルを正面から食らい、僕の身体は大きく宙に浮いた。そして、背後の硬い物、恐らく岩に強く打ち付けられる。
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