カンテノ

よんそん

文字の大きさ
上 下
20 / 125
第2章 カーネイジ

2-5 汚染

しおりを挟む
 「襲われないようにする方法ないんですか?」
 「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」

 普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
 けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
 大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。

 「……多すぎて分からないです……」
 「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」

 きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
 一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。

 「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
 「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
 「違うわ!そんな事してない!」
 「では何故憎まれてると思うの?」
 「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
 「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」

 リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
 彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
 相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
 
 「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
 「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
 「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
 「あの、何か探す方法無いですか」
 「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
 「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
 「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
 「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
 「そ、そっか……」

 急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
 しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
 よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。

 「一人で立ち向かおうなどと思うな」
 「え、だ、駄目ですか」
 「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
 「……そうですよね」

 それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
 しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
 そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。

 「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」

 お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...