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第2章 カーネイジ
2-3 旅行
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相談があると、そうシルベーヌさんから話を持ちかけられた。
「な、何なんでしょう? 強いと言われてもシルベーヌさんに比べたら僕なんて素人でしかないですよ?」
相談の内容によるとしか言えない。
「あたしが日本に来た理由。ディキャピテーションの事件の調査、それはもう済んだわ。でも実はもう1つあるの。それはある地域で以前から多発している不可解な現象の調査。ちょうど依頼もなくてオフだったから、ずっと気になっていたそれを調べたいと思ってね」
それは、危険を伴うものではないのだろうか? 用心棒のオフというのは、つまり依頼がない時期ということだろうか。
「ある地域? それはどこなんだ?」
堂島さんが少し真剣な面持ちになって口を挟んだ。彼の質問に対し、シルベーヌさんはその場所を告げた。
峡峰県。ここから隣接している県だ。自然豊かで、観光地としても有名だ。
「当初はあたし1人で行くつもりだったんだけど、心細いし、そーちゃんが一緒に来てくれると助かるわー。でも、さっきみたいな刺客がいつあなた達を襲ってくるかもわからない。だから堂島さんと一颯《いぶき》ちゃんも一緒の方がいいかしらね。ちなみに、旅費は全てあたしが負担するわ」
僕ら3人の旅費を負担!? 用心棒という仕事はそんなに儲かるのか。この時代にそんな仕事がある事にも驚きだが。
「いいんですか!? 私、行きたいです! なんだか旅行みたいですし」
そう言って身を乗り出したのは一颯さんだった。
「そうよー。むしろあたしは旅行気分で行くつもり! ちょうど明日から3連休でしょ?」
シルベーヌさんは笑顔で極めて呑気な口調だった。そうか、3連休だ。すっかり忘れていた。観光客で賑わうのだろうなー。嫌だなぁ。
「一颯ちゃん……ミモザちゃんだったっけね? いい娘ね! あなたみたいな素直な女の子大好き! 大丈夫、万が一危険な状況になってもあなたのことはお姉さんが守っちゃうわぁ!」
シルベーヌさんは一颯さんの事を甚く気に入ったようだ。姉さんと好みが近いのかもしれない。
「ところで、その不可解な現象とはいったい何なのですか?」
僕はまだまだ了承する気にはなれず、気になっていた事を聞く。あんな人気の観光地でそんな事件などあったのだろうか。
「うん、それね。実は、数年前から峡峰県では公害が発生してるの。ニュースでは公にされてはいないのだけれど、年々それは増加しているようだし、どうにも怪しいからあたしはずっと気になっていたのよ」
そうだったのか。やはり、これも隠蔽工作、情報操作の類によって一般市民には知らされていないのだろうか。
「そして、さっき公園で襲い掛かってきた野蛮人たち。あの人達の何人かはあの地域の人達だったわ」
そう言えば、シルベーヌさんは公園を去る前に、倒れた男達の身分証明書をチェックしていた。こういう状況に慣れていそうだ。
「私達を襲ってきた人達は、1週間前の事件の事で始末しようとしてきたのですよね? そして、その人達が問題の地域から来た人達ということは、その事件はあの組織が絡んでいるということですか?」
一颯さんが自分でも確認しながら聞いてきた。そうか、言われてみればそうなるな。あの組織の目的は一体何なのだろう?
「まだ確証はないけど、その可能性は極めて高いわ。だからこそ、あなた達にも協力してもらいたいの」
「ふむ。なるほど。ところで、あの組織は一体なんなんだ? シルベーヌ姉さんは何か知ってるのか?」
堂島さんが僕の気持ちを代弁するように質問してくれた。そしてシルベーヌさんは少し真剣な表情になり、口を開いた。
「あの組織は、世界統合研究機関と言われているの。名前は、『XEBRM』。世界各地で活動しているようだけど、その実態は未だに謎ね」
ゼブルム……奴らこそがこの世界の敵なのか。世界を股にかけて暗躍するその組織に、僕は立ち向かえるのだろうか? あのディキャピテーションのように凄まじい力を持った人間が何人もいるのだろうか?
「そのゼブルムの人達は、やはり特殊な力を持っているんですか? たしか、『グラインド』でしたっけ? もしかして、シルベーヌさんも何か力を持っているんですか?」
シルベーヌさんはどれ程の事を知っているのだろう? 聞けることは聞いておきたい。そして、あの刀捌き、ひょっとして能力なのだろうか。
「そうよ。あなた達も目の当たりにしたディキャピテーションの力のように、この世界には『グラインド』と呼ばれる特殊異常能力が存在する。ゼブルムではその能力の研究もしているらしいの。あたしは、能力者じゃないわ。鍛錬の積み重ねでここまできたの」
そう言ったシルベーヌさんは少し目を細めながら、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。
「聞きたいことはそんなとこかしら? 質問ばかりしてると女性に嫌われちゃうわよ? そろそろさっきの返事を聞かせてちょうだい?」
話題を逸らすためにも色々質問してみたのだが、やはり忘れてなかったか。でも、僕の気持ちはもう決まっている。
念の為、堂島さんと一颯さんの顔を見る。堂島さんは頼もしい笑顔、そして一颯さんは目を輝かせながら首を何度も縦に振っている。
「はい、行かせてもらいます。シルベーヌさん、改めてよろしくお願いします」
そう言うとシルベーヌさんは嬉しそうにし、そして僕に抱きついてきた。
「よかったー! フラれちゃったらどうしようかと思ったのよ? うん、ミモザちゃんももちろんだけど、そーちゃんの事も守るからね? れんちゃんに怒られちゃうもん」
あ、あはははと僕はつい引き攣ってしまった。
「で、出発はいつなんだ? 明日の朝か?」
堂島さんは伸びをしながら聞いてきた。
「ん? 今からよ? もう既に新幹線もホテルも予約してあるわよー?」
「今からー!?」
シルベーヌさんのあっさりした答えに、僕達3人は異口同音に叫んだ。いくらなんでも急すぎるし、予約済みって、それは僕らが了承することをわかってたみたいじゃないか。しかし、シルベーヌさんは本気のようだ。
「じゃあ、今すぐ帰って支度しなきゃですよね? 駅で待ち合わせればいいですか?」
一颯さんの問いかけにシルベーヌさんは肯定の笑顔を返した。時刻は既に19時。僕達3人は急いで自宅へと帰宅し、支度をするのであった。
3泊分の荷物をまとめて、僕は待ち合わせの駅へと到着した。一颯さんと堂島さんはまだのようだったが、シルベーヌさんは既に待っていた。近くのホテルに宿泊していたらしいのだが、スーツケースを2つ持っていた。
「そーちゃん早いのね! 忘れ物はない?」
僕の姿を見つけると、シルベーヌさんは手を振り、近くまで来るとそう言った。
「子供じゃないんですから。シルベーヌさんは旅慣れしてる感じがしますね」
僕がスーツケースを見ながらそう言うと、まぁねと答えた。数分後には一颯さん、堂島さんの順で到着し、4人揃った。
そして新幹線へと乗る。なんと、人生初のグリーン車だった。一颯さんも堂島さんも初めてだったらしく、驚いていた。
ここでもシルベーヌさんは僕の隣をキープしたのだが、僕はお構いなしに仮眠をとる。
「寝ちゃうの? そーちゃんとお話したーい」
と、寂しそうに言われたのだが、少しだけと言って寝かせてもらう。実際には寝ないのだが。目を瞑り、僕の中に存在するクアルトへとアクセスする。
「なんか面白いことになってきたね! いいなー、旅行かぁー」
目の前に姉がいた。今日は薄いベージュ色のノースリーブブラウス、黒と白のチェック柄のスリット入りロングスカートというコーデだった。髪はサイドテールにして縛っている。夜だからまた晩酌装備だと思っていたが、どうやら姉さんも旅行気分らしい。
「姉さん達も一緒に旅行行くようなもんだよね」
僕が肩を竦めながら答えると、「うん!」と満面の笑みで返事をした姉はローテーブルを飛び越え、3人掛けソファへとお尻からふわりとダイブした。
「こら、煉美! お行儀が悪いですよ」
そこへ前髪さんが紅茶を運びながらやってきた。前髪さんの紅茶! 僕は嬉しくて、姉さんの3人掛けソファから左に位置する自分の席へとすぐに着席する。
「ここに来る1番の楽しみがこのお紅茶です! いただきます!」
はぁー、美味しい。心が落ち着くし、香りが体に染み渡るようだ。
「えー、あたしと会えるのが楽しみなんじゃないのー?」
姉は眉を八の字にして膨れ、また子供みたいな事を言い出す。
「姉さんと会えるのはその次に楽しみに決まってるじゃないか。姉さんに確認したい事があってこうして来たわけだし」
表情を崩さずに僕は弁解し、そして早速本題を口にする。すると、姉はフッと笑ってから壁面に映像を映し出す。僕の記憶。今日見たシルベーヌさんの映像だ。
「シルベーヌさんだよね。困ったことにあたしも知らないんだわ。親しくしてた人の顔忘れるなんて事はありえないからね」
なんだって? ということは、やはりシルベーヌさんは嘘をついているのか? 映像を見つめる姉の表情は曇っている。と、先程の公園での乱闘シーンに映像が切り替わった。
「強いよね。只者じゃない。あれ? でも、この太刀筋……なんか、見覚え……ある? うーん……ん? ん? んー!? いや、えぇー!?」
冷静に解析するように真剣に映像を見つめていた姉だったが、1人で驚き出した。かと思ったら、突然お腹を抱えて大笑いしだした。
「あーははははっ、あは、あは、あははは! あ、ごめんごめん。1人で納得しちゃってて。わかったよ、いや思い出した。シルベーヌさんは間違いなくあたしの大親友だ」
え? そうなのか? じゃあシルベーヌさんはやはり本当のことを言っているのか。なら信じていいのかな? そして、姉は目を閉じてから続ける。どこか穏やかな表情で。
「彼女は間違いなく、あたしの大親友。そして、あたしの知ってる人のなかで2番目、3番目に強い」
そう断言した。姉がそこまで太鼓判を押すとは。
「じゃあ、信じていいんだよね? そんなに強いの? 確かにあの時も強かったけど」
僕の言葉に姉は微笑みながら首を横に振る。
「ぜーんぜん。あの時は素人相手なんだから、全く本気出してないよ。彼女の本気はあんなもんじゃないから。そして、彼女がいれば本当に心強い。全面的に信頼していい」
そうなのか。なんだかほっとした。姉がそこまで言うのだから僕は信頼する事にした。シルベーヌさんの事を、一時でも疑ってしまった事、ごめんなさい。この場を借りて謝罪します。
「な、何なんでしょう? 強いと言われてもシルベーヌさんに比べたら僕なんて素人でしかないですよ?」
相談の内容によるとしか言えない。
「あたしが日本に来た理由。ディキャピテーションの事件の調査、それはもう済んだわ。でも実はもう1つあるの。それはある地域で以前から多発している不可解な現象の調査。ちょうど依頼もなくてオフだったから、ずっと気になっていたそれを調べたいと思ってね」
それは、危険を伴うものではないのだろうか? 用心棒のオフというのは、つまり依頼がない時期ということだろうか。
「ある地域? それはどこなんだ?」
堂島さんが少し真剣な面持ちになって口を挟んだ。彼の質問に対し、シルベーヌさんはその場所を告げた。
峡峰県。ここから隣接している県だ。自然豊かで、観光地としても有名だ。
「当初はあたし1人で行くつもりだったんだけど、心細いし、そーちゃんが一緒に来てくれると助かるわー。でも、さっきみたいな刺客がいつあなた達を襲ってくるかもわからない。だから堂島さんと一颯《いぶき》ちゃんも一緒の方がいいかしらね。ちなみに、旅費は全てあたしが負担するわ」
僕ら3人の旅費を負担!? 用心棒という仕事はそんなに儲かるのか。この時代にそんな仕事がある事にも驚きだが。
「いいんですか!? 私、行きたいです! なんだか旅行みたいですし」
そう言って身を乗り出したのは一颯さんだった。
「そうよー。むしろあたしは旅行気分で行くつもり! ちょうど明日から3連休でしょ?」
シルベーヌさんは笑顔で極めて呑気な口調だった。そうか、3連休だ。すっかり忘れていた。観光客で賑わうのだろうなー。嫌だなぁ。
「一颯ちゃん……ミモザちゃんだったっけね? いい娘ね! あなたみたいな素直な女の子大好き! 大丈夫、万が一危険な状況になってもあなたのことはお姉さんが守っちゃうわぁ!」
シルベーヌさんは一颯さんの事を甚く気に入ったようだ。姉さんと好みが近いのかもしれない。
「ところで、その不可解な現象とはいったい何なのですか?」
僕はまだまだ了承する気にはなれず、気になっていた事を聞く。あんな人気の観光地でそんな事件などあったのだろうか。
「うん、それね。実は、数年前から峡峰県では公害が発生してるの。ニュースでは公にされてはいないのだけれど、年々それは増加しているようだし、どうにも怪しいからあたしはずっと気になっていたのよ」
そうだったのか。やはり、これも隠蔽工作、情報操作の類によって一般市民には知らされていないのだろうか。
「そして、さっき公園で襲い掛かってきた野蛮人たち。あの人達の何人かはあの地域の人達だったわ」
そう言えば、シルベーヌさんは公園を去る前に、倒れた男達の身分証明書をチェックしていた。こういう状況に慣れていそうだ。
「私達を襲ってきた人達は、1週間前の事件の事で始末しようとしてきたのですよね? そして、その人達が問題の地域から来た人達ということは、その事件はあの組織が絡んでいるということですか?」
一颯さんが自分でも確認しながら聞いてきた。そうか、言われてみればそうなるな。あの組織の目的は一体何なのだろう?
「まだ確証はないけど、その可能性は極めて高いわ。だからこそ、あなた達にも協力してもらいたいの」
「ふむ。なるほど。ところで、あの組織は一体なんなんだ? シルベーヌ姉さんは何か知ってるのか?」
堂島さんが僕の気持ちを代弁するように質問してくれた。そしてシルベーヌさんは少し真剣な表情になり、口を開いた。
「あの組織は、世界統合研究機関と言われているの。名前は、『XEBRM』。世界各地で活動しているようだけど、その実態は未だに謎ね」
ゼブルム……奴らこそがこの世界の敵なのか。世界を股にかけて暗躍するその組織に、僕は立ち向かえるのだろうか? あのディキャピテーションのように凄まじい力を持った人間が何人もいるのだろうか?
「そのゼブルムの人達は、やはり特殊な力を持っているんですか? たしか、『グラインド』でしたっけ? もしかして、シルベーヌさんも何か力を持っているんですか?」
シルベーヌさんはどれ程の事を知っているのだろう? 聞けることは聞いておきたい。そして、あの刀捌き、ひょっとして能力なのだろうか。
「そうよ。あなた達も目の当たりにしたディキャピテーションの力のように、この世界には『グラインド』と呼ばれる特殊異常能力が存在する。ゼブルムではその能力の研究もしているらしいの。あたしは、能力者じゃないわ。鍛錬の積み重ねでここまできたの」
そう言ったシルベーヌさんは少し目を細めながら、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。
「聞きたいことはそんなとこかしら? 質問ばかりしてると女性に嫌われちゃうわよ? そろそろさっきの返事を聞かせてちょうだい?」
話題を逸らすためにも色々質問してみたのだが、やはり忘れてなかったか。でも、僕の気持ちはもう決まっている。
念の為、堂島さんと一颯さんの顔を見る。堂島さんは頼もしい笑顔、そして一颯さんは目を輝かせながら首を何度も縦に振っている。
「はい、行かせてもらいます。シルベーヌさん、改めてよろしくお願いします」
そう言うとシルベーヌさんは嬉しそうにし、そして僕に抱きついてきた。
「よかったー! フラれちゃったらどうしようかと思ったのよ? うん、ミモザちゃんももちろんだけど、そーちゃんの事も守るからね? れんちゃんに怒られちゃうもん」
あ、あはははと僕はつい引き攣ってしまった。
「で、出発はいつなんだ? 明日の朝か?」
堂島さんは伸びをしながら聞いてきた。
「ん? 今からよ? もう既に新幹線もホテルも予約してあるわよー?」
「今からー!?」
シルベーヌさんのあっさりした答えに、僕達3人は異口同音に叫んだ。いくらなんでも急すぎるし、予約済みって、それは僕らが了承することをわかってたみたいじゃないか。しかし、シルベーヌさんは本気のようだ。
「じゃあ、今すぐ帰って支度しなきゃですよね? 駅で待ち合わせればいいですか?」
一颯さんの問いかけにシルベーヌさんは肯定の笑顔を返した。時刻は既に19時。僕達3人は急いで自宅へと帰宅し、支度をするのであった。
3泊分の荷物をまとめて、僕は待ち合わせの駅へと到着した。一颯さんと堂島さんはまだのようだったが、シルベーヌさんは既に待っていた。近くのホテルに宿泊していたらしいのだが、スーツケースを2つ持っていた。
「そーちゃん早いのね! 忘れ物はない?」
僕の姿を見つけると、シルベーヌさんは手を振り、近くまで来るとそう言った。
「子供じゃないんですから。シルベーヌさんは旅慣れしてる感じがしますね」
僕がスーツケースを見ながらそう言うと、まぁねと答えた。数分後には一颯さん、堂島さんの順で到着し、4人揃った。
そして新幹線へと乗る。なんと、人生初のグリーン車だった。一颯さんも堂島さんも初めてだったらしく、驚いていた。
ここでもシルベーヌさんは僕の隣をキープしたのだが、僕はお構いなしに仮眠をとる。
「寝ちゃうの? そーちゃんとお話したーい」
と、寂しそうに言われたのだが、少しだけと言って寝かせてもらう。実際には寝ないのだが。目を瞑り、僕の中に存在するクアルトへとアクセスする。
「なんか面白いことになってきたね! いいなー、旅行かぁー」
目の前に姉がいた。今日は薄いベージュ色のノースリーブブラウス、黒と白のチェック柄のスリット入りロングスカートというコーデだった。髪はサイドテールにして縛っている。夜だからまた晩酌装備だと思っていたが、どうやら姉さんも旅行気分らしい。
「姉さん達も一緒に旅行行くようなもんだよね」
僕が肩を竦めながら答えると、「うん!」と満面の笑みで返事をした姉はローテーブルを飛び越え、3人掛けソファへとお尻からふわりとダイブした。
「こら、煉美! お行儀が悪いですよ」
そこへ前髪さんが紅茶を運びながらやってきた。前髪さんの紅茶! 僕は嬉しくて、姉さんの3人掛けソファから左に位置する自分の席へとすぐに着席する。
「ここに来る1番の楽しみがこのお紅茶です! いただきます!」
はぁー、美味しい。心が落ち着くし、香りが体に染み渡るようだ。
「えー、あたしと会えるのが楽しみなんじゃないのー?」
姉は眉を八の字にして膨れ、また子供みたいな事を言い出す。
「姉さんと会えるのはその次に楽しみに決まってるじゃないか。姉さんに確認したい事があってこうして来たわけだし」
表情を崩さずに僕は弁解し、そして早速本題を口にする。すると、姉はフッと笑ってから壁面に映像を映し出す。僕の記憶。今日見たシルベーヌさんの映像だ。
「シルベーヌさんだよね。困ったことにあたしも知らないんだわ。親しくしてた人の顔忘れるなんて事はありえないからね」
なんだって? ということは、やはりシルベーヌさんは嘘をついているのか? 映像を見つめる姉の表情は曇っている。と、先程の公園での乱闘シーンに映像が切り替わった。
「強いよね。只者じゃない。あれ? でも、この太刀筋……なんか、見覚え……ある? うーん……ん? ん? んー!? いや、えぇー!?」
冷静に解析するように真剣に映像を見つめていた姉だったが、1人で驚き出した。かと思ったら、突然お腹を抱えて大笑いしだした。
「あーははははっ、あは、あは、あははは! あ、ごめんごめん。1人で納得しちゃってて。わかったよ、いや思い出した。シルベーヌさんは間違いなくあたしの大親友だ」
え? そうなのか? じゃあシルベーヌさんはやはり本当のことを言っているのか。なら信じていいのかな? そして、姉は目を閉じてから続ける。どこか穏やかな表情で。
「彼女は間違いなく、あたしの大親友。そして、あたしの知ってる人のなかで2番目、3番目に強い」
そう断言した。姉がそこまで太鼓判を押すとは。
「じゃあ、信じていいんだよね? そんなに強いの? 確かにあの時も強かったけど」
僕の言葉に姉は微笑みながら首を横に振る。
「ぜーんぜん。あの時は素人相手なんだから、全く本気出してないよ。彼女の本気はあんなもんじゃないから。そして、彼女がいれば本当に心強い。全面的に信頼していい」
そうなのか。なんだかほっとした。姉がそこまで言うのだから僕は信頼する事にした。シルベーヌさんの事を、一時でも疑ってしまった事、ごめんなさい。この場を借りて謝罪します。
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