何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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第一章

19話 覆面侍女登場!!

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 部屋に入ったあたしはベッドの上に身を投げ出した。
 お布団のこの久々の柔らかさ。満足。ここでチドル飼いたい・・・・・・。


 コンコン。

 ノックの音がした。
 あれっ、なんかウトウトしてたっ!
 どれくらい時間経ったのか分かんないっ。
「はっ、はーい!」
 慌てて身を起こしドアに駆け寄る。
 開けるとそこにいたのはあたしと同じデザインのミニスカメイド服着た女の子。ただ、色は黄色ベース。
 侍女だ!
 女の子はニコニコしながら言った。
「スカート思い切り捲れ上がってるよー?」

 ああ、情けない。
 捲れた裾が上着の編み上げに引っ掛かってる。
 起き抜けで気が付かなかった。もう、やだ。
 あたしのあそこは既にネタ扱いなのか?
 今回は見られたのが同性でまだ良かった、と思おう。

「こんにちはー。私、侍女のカリンでーす」
 女の子、カリンは名乗るなりあたしが何か言う前に部屋にぴょこぴょこ入ってきた。
「あ、あ、こんにちは。ミチルです」
「後ろにいるのはネメアだよー」
 おっ、もう一人いたんだ。
「あ、こんにちは」
 言いながら入り口を見て・・・・・・ギョッとした。

 ドアの陰から出て来たその姿。
 背はやや高めで細身の女性。やはり侍女のメイド服を着ていて、ベースの色は深い紺色。そして。
 顔全面を覆う黒いマスクを被ってたの。うん、多分レザー。
 その目と口鼻の部分はくり抜かれているけど、そこにも内側から薄い灰色の布が貼り付けられてて顔は全く見えない。なんか覆面レスラーが被るようなマスクだ。もしくは強盗やテロリストをも連想する。

 な、なぜ覆面? 
 あたしに顔を知られちゃいけない人?
 あたしと過去の因縁がある伏線的な誰か? 異世界の知り合いほぼいないけど。
 それとも大きな傷か火傷跡でも隠しているのだろうか。

「わー! ネメア、マスクくらい脱ぎなよお。びっくりしてるよ?」
 カリンに言われ、そのネメアは溜め息をついた。
「はぁ、かったりいなぁ」
 後頭部に両手を回してゴソゴソやった後、顎の下のマスクの縁に指を突っ込み、一気に覆面を剥ぎ取るネメア。
 あたしは妙に緊張して思わず身構えた。

 中から現れた顔は普通に美女の部類だった。
 頭を振って髪を整える。知らん人だ。
 ネメアは鋭い吊り目で鼻筋が細く唇は薄く、表情にはやや険がある。濃い緑の髪はサイドの髪をまとめたハーフアップ。
 一方のカリンは、大きな口の両端をぐいと上げたニコニコがずっと絶えない丸顔の子。睫毛の長いくりんとした目にぷっくり涙袋。愛嬌ある顔立ちの、背があたしよりかやや低い小柄な美少女だ。髪は桃色のフィッシュボーン。
 二人ともあたしと同年代くらいに見える。
「これね、これ、私達の制服なのー、これも」
 カリンが言う。持ち上げて振る左手にはネメアが被ってたのと同じマスクが握られている。カリンがそれを持っているのを見落としてた。後ろに編み上げの紐が付いたマスクだ。

「ふえっ? 覆面が制服?」
 訳が分からず聞き返すあたし。
「うん、制服。伯爵がお城にいる間は侍女はみんな着用が義務だよ。ミチルは侍従長の部下だから違うんだねー」
「えっ、うん。初耳だよ。何で??」
 カリンの話し方の距離感のなさにあたしももうタメ口モードだ。

 カリンはネメアと顔を見合わせた。
「うちらの上司の侍女長が決めたのさ。ボンデージ趣味なんじゃねーの」
 ネメアが代わりに答える。
 ボンデージの概念があることは取りあえずどうでもいいとして、あの侍女長。やっぱり相当の変わり者なのか? 変態なのか?
「これこそが侍女として夫人を引き立てるのに相応しい、最高にクールなファッションなのです! って伯爵様には説明してるらしいよ。こうしてからは犠牲者出てないよー」
「犠牲者?」
「いてっ」
 カリンが顔をしかめる。
 ネメアが思いきしカリンの後頭部をはたいたのだ。
「もー。マジで叩いた」
 カリンが頬を膨らませる。
「いいから用事伝えろよ。あたいは付き合いで来ただけで外人と馴れ合う気はねぇんだよ」
 ネメアのその言い草にはちょっとカチンときたけど、あたしは表情には出さない。

 それにしてもさ、侍女にしては柄が悪いよ。やさぐれてる。さすがに主人の前でこんな話し方はしないんだろうけど。そして、今の話。伯爵がいる時は覆面着用? で、理由は夫人を引き立たせるため? つまり、夫の伯爵に対して夫人をよく見せるためなの? 変なの。
「あっ、ミチル! お昼の時間だよ! 食堂まで案内するから一緒に行こー!」
 カリンが思い出したように言った。そして覆面を被り始める。
「んっとに、脱いだり着けたり」
 ネメアがぶつぶつ不満を漏らす。



 侍従と侍女が集まって食事をする小食堂は、四階の調理室に隣接していた。
 二十畳くらいの広さの、飾りは少ないけど落ち着いた雰囲気を持つ板張りの部屋。壁の一面には腰高の大きな両開き窓がある。前を通りながらチラリと見下ろした感じ、窓の外は中庭かな。
 部屋の真ん中には超巨木を輪切りにしたような、年輪の木目が美しいでっかい丸テーブルが置かれている。その周りを11個の肘掛け椅子が取り囲む。
 中にはまだあたしらの他に誰もいない。あたしは薦められるままにカリンの左横に座り、ネメアはカリンの右横に座った。部屋に入るなり二人は覆面を脱いでいる。

 壁を隔ててガヤガヤした様子が伝わってくる調理室。美味しそうな香りが漂ってきて食欲をそそられる。
 カリンは色々と教えてくれた。ランマルさんに頼まれてラムちゃんの代わりにあたしを迎えに来てくれたこと。
 伯爵達は上階の広大な大食堂で、役職者や聖職者や騎士や客人達と共に楽師の奏でる音楽を聴きながら賑やかに時間をかけて食事をとること。その間の侍従と侍女は割りとフリーらしい。
 その他この国の料理のことやファッション、恋愛事情などカリンは賑やかにマシンガンのようにしゃべり続ける。その間、ネメアは腕を組んで表情を変えずにずっと黙り込んでいた。


 部屋の扉が開いた。
「あー、お腹空いたわあ」
 覆面を取りながら、よく通る朗らかな声を放ちつつ入ってきたのは大柄な侍女。ベースの色は深緑。
「また力仕事頼まれたのー?」
 カリンがニコニコと聞く。
「そうよお。侍女を何だと思ってるのかしら、人夫達」
 快活にそう答える彼女は背が高く、メイド服を着ていてもよく分かる筋肉質なアスリート体型の持ち主。あたしよりちょっぴり年上かな。
 表情は柔らかだが引き締まった顔立ち。肌は焼け、澄んだ目をして眉が濃く鼻は高い。薔薇色の髪は刈り上げのベリーショート。男前だ。
「おっ、君が東方の美女か」
 男前さんがあたしに目を移して言った。
「そうだよー。ミチルだよー」
 カリンが答え、あたしは立ち上がる。
「今日からお世話になります。よろしくお願いします」
 椅子とテーブルに挟まれてたので例のポーズはせず、思わず頭を下げた。
「おおう。僕はアシェリだよ。よろしくね」
 アシェリさんも破顔しながら頭を下げた。
「アシェリは武芸にも通じてて騎士を目指してるんだよ!」
 カリンが言うと、アシェリさんはブハハと笑った。
「目指してないよ! この子信じるだろ、バカ」

 この時、また扉が開きバタバタと人影が入ってきた。
 そして、まだ扉の前に立っていたアシェリさんの背中に衝突して弾け飛ばされ、仰向けにすっ転んだ。
「ひゃああっ!」
 股間をオープン。
 うっ、あたしもあんな風に晒け出したんだと思い出し、改めて赤面する。
「あっ、ごめん」
 振り返ってアシェリさんが言う。
「いっ、いえ、わっ、わ、わ、私の方こそごめんなさい」
 顔を耳まで真っ赤にしてオタオタと身を起こし、床に女の子座りする新たな侍女。
 オレンジ色がベースのメイド服を着た、気弱そうなおでこで垂れ目の可愛い子だ。唇はちょっと肉厚。肌は白く髪はレモン色。髪型はシンプルにまとめた高めのシニヨン。そのお団子に覆面が引っ掛かっている。
 見た目のイメージはしいて言えば文学少女って感じかな。眼鏡あったらかけさせたい。歳は同年代か少し下だね。

「ふわわわわ」と意味不明の言語を呟きながら彼女は立ち上がった。
 中背の細身で、あたしよりペチャだ。
「この子はポーラだよ」
 アシェリさんが紹介してくれた。
「新入りのミチルです。よろしくおね」
「ひゃっ、ひゃ、ひゃああああ~~~~っ!!」
 言いかけたあたしの言葉を掻き消すポーラの悲鳴。
「はわわ、すっ、すみません、いきなりお見苦しいところを、すみ、すみ、すみ」
 顔は更に赤みを増し、もはや黒ずんで見える。
「あっ、いえ、そっ、そんな」
 なんかもう目がぐるぐる渦巻いてそうなポーラの様子に、釣られてあたしまで気持ちがワタワタしてきた。
「いいから、座ろ座ろ」
 アシェリさんがポーラの背中をバンバンと叩いた。

 五人でしばらく談笑する。と言っても、ネメアは話を振られた時に「まあな」とか「ああ」とかぶっきらぼうに答えるだけだけど。なんで実質四人で談笑。
 いやあ、こんな女子会っぽいノリ、いつ以来だろ。
 あたしも調子に乗って『東方の女の子』や『東方の恋愛事情』など色々と語った。


 カーン! カーン! カーン!
 鐘の音が聞こえてくる。
 お昼の知らせだという。

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