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血まみれ少女は罪を問う
しおりを挟むアラフォーのカッちゃんは学生の頃、心霊スポット巡りを趣味にしていたという。
そんな彼が一番怖かった体験として語った話。
夏の夜、カッちゃんがバイクに乗って一人で向かったのは、かつて少女の遺体が遺棄されていた現場だった。
町並みから離れた場所に位置する河原の橋の下。
事件からは既に時を経ていたが、十歳の女の子が親族にめった刺しにされて亡くなるという痛ましい出来事はその町に住む人々の心の中に薄暗い記憶として刻み込まれていた。
そのせいか、件の河原で血まみれの少女の幽霊を見たという目撃情報が時折噂として流れる。
同じ県に住むカッちゃんは噂を聞き付けるや早速突撃したという訳だ。
被害者への哀悼の気持ちなど微塵もない物見遊山感覚だ。
現場は真っ暗だった。
持ってきた懐中電灯で雑草の繁る足元を照らしながら土手から河原へ下り、橋脚の方へゆっくりと向かう。
ワクワク感が絶頂に達するその時間が大好きだった。
川の水音にちょっと驚き振り向いた。
蛙でも飛び込んだか。
何でもないと軽く溜息を吐いた時。
思いがけず人の呻き声が微かに聞こえてきたのだ。
カッちゃんはビクリと硬直する。
色んな心霊スポットを見て回ったが、そんな事は初めてだった。
今回もやっぱり何もなかったなーなんて、ぼやきながら帰るつもりでいたのに。
声は確かに女の子のもののように思えた。
耳をそばだてていると、また。
人声は途切れ途切れに断続的に続く。
カッちゃんは勇気を振り絞り、懐中電灯の明かりを声のする方に向けた。
数メートル離れた先に人が横たわっている。
子供だ。
小さな女の子。
白いワンピースを血に染め、俊樹の方に足を向けて仰向けに草むらの中に沈んでいる。
カッちゃんは声も出ない。
自然と身体は激しく震えだした。
手の痙攣で揺れる明かりの中、少女は突然首をもたげて俊樹を見た。
見開かれた目は瞬きもしない。
真っ白な顔。
少女は苦しそうに深紅の口を開いた。
「た・・・す・・・け・・・」
「うわあああーーーーっ!!」
カッちゃんの悲鳴が少女の声を掻き消す。
少女の喉の奥がゴボゴボと音を立て、口から血が溢れ出した。
カッちゃんは身を翻すと一目散に逃げた。
何度か転びながら土手を駆け上がり、バイクのもとへ戻る。
そのままバイクに跨がると、すっ飛ばして現場を後にした。
走りながらも少女が後ろに乗っているような気がして何度も振り返ったが、幸いそんな事はなかった。
一人暮らしのアパートに帰宅したカッちゃんは着替えもせず横になった。
何だか気分が優れなかったのだ。
目覚めたのは夕方だった。
ふらふらと立ち上がる。
音が欲しくてテレビを点けるとニュースをやっていた。
昨夜自分が行ってきたばかりの橋の映像が目に飛び込んでくる。
腰を抜かした。
殺人事件の報道だった。
昨日の下校時から行方不明になっていた小学生の女の子の遺体が発見されたという。
ナイフで刺された事による失血死だった。
映し出された被害者の顔写真は夜に見た女の子のものに間違いない。
過去の事件の事も持ち出され、センセーショナルな報じられ方をしていた。
カッちゃんは自分が見たものを誰にも話さなかったという。
それをもう時効だからと語ってくれた。
ずっと重荷を背負っているような感覚があるとカッちゃんは言った。
何で行ったのがあの夜だったのか。運命の悪意を感じるよ、とも言った。
血まみれで自分を見詰める少女の夢を繰り返し見るらしい。
「あれ、幽霊だったと思う? 幽霊だよね。もう死んでたよね?」
縋るようにそう聞かれても何とも答えようがない。
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