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疑惑
第54話
しおりを挟むラミアさんはルキナさんに上着を返して温泉の脱衣所へ向かいました。
自分の服を着に行ったのです。
そして、テンテはユニを連れて自分の家へ。
天幕に囲まれた『部屋』の中に揃うのは、僕を含めた他の6人です。
「ラミアちゃんの……さっき見たあれは皆さんお忘れになって下さいませ。よろしいですわね?」
ルキナさんが男性陣に向かってきっぱりと言います。
「はいっ!!」
良い返事をするトーマさん。
瞳がキラキラしています。
絶対目の当たりにした映像を脳裡に深く刻み付けている表情です。
「あのラミアが泣くほど恥ずかしかったのねぇ。裸を見られたくらいでうぶな子」
トリアさんが呟きます。
「だから殿方には忘れて頂きたいのですわ」
「殿方には? 限定?」
トリアさんのツッコミ。
「えっ、え、ええ。普通そうですわよね?」
「やあ、ずるいよ!」
トーマさんが口を尖らせました。
「まぁ、忘れようたって忘れられないわよね。あんな綺麗な身体」
トリアさんが肩をすくめます。
「だから大人の私達が記憶を上書きしてあげましょ」
そう言うなり服を脱ぎ始める。
なっ、何を始めたの、トリアさん? 今日は下着は身につけてるけど。
ホゾンのお店で僕に選ばせた下着。ウサギさんの顔が大きく描かれています。
「さあ、ルキナも脱いで脱いで」
ついに下着にまで手をかけたトリアさんがルキナさんを急かしました。
「え、わ、わたくしはいやですわ」
たじろぐルキナさん。
「ルキナもいい身体してるのに出し惜しみしないの。ラミアのためよ?」
「で、でも……無理」
なるほど……。
全くどんな発想なのでしょう。
成熟した大人の裸体を見せつけて、皆の頭に残るラミアさんの裸の印象を薄めてしまおうというわけです。
トリアさんは一糸纏わぬ姿となってポーズをとり、男性陣の視線を掻っ攫ってしまいました。
慣れた様子で放漫な乳房を自分で揉みしだきながら、煽情的な表情で一人一人見つめていく。
「「「おお~~~~っ!!」」」と、沸き起こる感嘆の溜め息。
「見慣れてるけどやっぱりたまんないねぇ」と、フィンさん
しばらく凝視した後、赤面して俯くガンプさん。
「わ、わしにはフィアンセが……」
トーマさんは悩ましい表情で、目を逸らしたり見たりを繰り返しています。記憶の上書きが惜しいのでしょう。
「アレンは触ってもいいのよ?」
トリアさんが熱っぽい視線を僕に送ってきます。
「あ、そ、それは大丈夫です。ラミアさんに触ったわけじゃないですし」
本当は触ったんですけど。
トリアさんはまた哀しそうな表情を見せる。
そこへお師様が天幕の入り口に掛かる幕をめくって顔を覗かせました。
「今テンテから聞いたのだが……」
言いかけて固まる。
トリアさんをガン見。
ガン見。
ガン見。
「あ、あの、しゃがんで両足を開いてみてもらえませんでしょうか?」
何か言い出しました。
「…………」
えっ、トッ、トリアさん? リクエストに応える必要ないですから!
大体その人ラミアさんの裸は見てないですし。
「もっ、もう充分ですから服を着て下さいな」
見かねてルキナさんがカオスな時間の終了を告げます。
満足げに上気した顔で中に入ってくるお師様。
そこへちょうどラミアさんが戻ってきました。
「おおっ! そなたも素っ裸で大暴れしたそうだな! 丸裸で! 全裸で! 赤裸々に剥き出しで!」
嬉しそうに声を掛けるお師様。
「ちょ、ちょっと!」
焦るルキナさん。
でもラミアさんの反応は……。
「もう、やだぁ」
そう言って身をくねらせる。
照れてみせても、どうにも沸き上がる喜びを隠しきれない様子です。
「……何か目覚めたのかしら……」
小声でひとりごつのはトリアさん。
これ、変な誤解を招いてしまったんじゃないでしょうか。
「ところで……」
お師様がようやく真顔になって切り出しました。
「話がある」
一変したその雰囲気に皆は顔を見合わせます。
「とりあえず座りましょ」
トリアさんが言い、僕達は輪になって座る。
「テンテは落ち着きましたの?」
ルキナさんが聞きます。
「ああ、大丈夫だ。そのテンテのことだが……」
お師様は何やら言いにくそうです。
「いや、まずな、何があったか話は聞いた。それで我輩、家を引き払おうと思う」
ラミアさんがうなずきます。
「それがいいよね。あの女士官の忠告に素直に従うべきだわ。夜明けまでにあたし達も出発する」
そうです。伝書隼で宰相に報告が上がり、女王を侮辱したとして近隣の国軍兵達が恐らくすぐにやって来る。
こういう事には素早い対応を見せそうなのがゲスラー宰相です。
相手が少人数ならさっさと蹂躙してしまえ、と考えるでしょう。小さな手柄をコツコツ積み重ねて評価を上げる。
「そこでだ」
お師様が話を繋ぎます。
「テンテを一緒に連れていってやってくれんか?」
皆の表情に戸惑いの色が浮かびました。
「お師様……おいらを捨てるの?」
天幕の外からテンテの声。
いつの間に来たのか、部屋の入り口の向こう側で話を立ち聞きしていたようです。
「ん? 来たのか。まぁ、入ってこい。ユニコーンの子は?」
「ユニは寝たよ」
言いながらテンテは中へ。
隣りに座ったテンテの頭を撫でながらお師様は言いました。
「捨てるわけではない。大切なお前を捨てようものか」
「本当に?」
テンテの暗い表情に僅かに喜びの色が混じります。
「うむ。高値で売れるものをむざむざ捨てるなど愚かの極み。あくまでも一時的に預かってもらうだけよ」
「……お師様ぁぁ」
「とにかくな。この山に留まるのは危険なのだ」
「家がもぬけの殻だと知れば軍は山狩りなんかするよねぇ」
言葉を挟んだフィンさんは思案顔。
「でも、あたし達の行く先も危険な地」
ラミアさんは考えあぐねているようです。
「他に頼むあてがないのだ」
お師様は拳にした両手を地面に突いて頭を下げます。
「なら、お師様も一緒に行こうよ」
テンテがすがるような声で言いました。
「旅なんてめんどくさい」
お師様のひとこと。
「ええっ!」
「それにな、我らはこの霊山の護り人。誰かが残らねばならん。ユニだってまだ独力では生きていけん。放っておけばまた捕まることもあろう」
「そうだけど……お師様は山に残るつもりなの? 軍が来るんだよね」
「問題ない。容易に人が足を踏み入れられぬ山嶺の奥に潜むでな。地の利があれば一人でも国軍などにひけは取らんぞ」
「じゃあ、おいらも一緒に戦う」
「ダメだ! 足手まといだ」
「えっ! ひどいや!」
お師様はラミアさんの方に向き直りました。
「我輩とて国に牙むく貴殿の高名は耳にしておる。改めて詳細を聞き、あのラミア殿かと察し驚いた。そして信頼に足る相手と見込んだのだ」
言ってちらりとテンテに視線を投げる。
「心配せんでもこの子は自分の身くらい自分で守れるぞ」
一瞬の間を置いて、ラミアさんは遂にうなずきました。
「分かった。引き受けるよ」
「すまぬ。……よいな、テンテ」
「えっ……でも」
「目的を果たしたらまた戻ってきますわよ」
ルキナさんが優しく声を掛けます。
「その頃には国軍も諦めとるだろ」
お師様が笑う。
「……こうなったのは全部おいらのせいだ」
うつむくテンテの目は潤んでいる。
お師様は語調を強め、きっぱりと言いました。
「違うぞ。お前はやるべき事をやった。霊山の護り人としてやらねばならぬ事をやった。さすが我が弟子よ」
言った後、ドヤ顔で僕達の顔を見回す。……何なんでしょう。
「お師様、ちゃんとユニの面倒は見てくれるの?」
顔を上げテンテは聞きました。
「もちろんだ。親を亡くした子の世話をするのは慣れとるでな」
「本当? 売ったりしない?」
「信用ないな! やっていい事と悪い事の区別くらいつくぞ」
自分の師匠の娘に毒を飲ませて売るのはやっていい事の中に含まれていたのでしょうか。みんなもそこをツッコみたそうな顔をしていますが、空気を読んで誰も何も言いません。
「だから安心して行け。売るとしたら雌のユニコーンを見つけて繁殖させてからだ」
この人は余計な一言を付け加えなくては気が済まないようです。
「……ユニの角を食べれば若いままでいられるなんて話を女王が知ったら……」
強い不安がテンテの声を震わせる。
「目の色変えて手に入れようとするかもな。ふん、誰が女王なんぞに渡すものか」
お師様はラミアさんを見ます。
「テンテももうどうすべきか分かったろう」
ラミアさんが立ち上がりました。
「話は決まった。すぐにここを出る準備を!」
「ユニのお父さんを埋葬してやる時間もないの……?」
テンテが聞きます。
「……うん。ごめんね」
つらそうにラミアさんは答える。
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