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ラミア襲来

第26話

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「あっ、フィンさん」
 軍勢の最前列に四天王のフィンさんを見つけました。
「やぁ! 入団の盃はまだだったけど、ちゃんと戦いに来たね。感心、感心」
「僕は戦いを止めに来たんです」
「あのねぇ。ボクも戦闘で怪我したかないけど、ボス的に降伏は無理なんだって」
「じゃあ降伏なしの講和を」
「あはは、どうやって? アレンってバカなんだね。嫌いじゃないけど」
 はっきり言うんですね。
 ちょっと傷つきながら、バリケード側を向いて立つダモンさんの背中を見やりました。

 ダモンさんは、キメラの群れから僅かに離れてバリケード前に腕を組んで仁王立ちしています。七色熊の袖のない毛皮のコートを羽織り、頭には派手な羽根をたくさん刺したツバ広の帽子。
 歌舞いていてカッコイイなと思いました。
 どうやらダモンさんは向こうの軍勢を煽っている様子です。おじいさんが言っていた舌戦が続いているのでしょう。
 僕はしばらくやり取りを聞いていることにしました。


 ダモンさんが威勢良く言います。
「馬鹿野郎! 数はそっちが倍でも兵隊一人一人の強さはこっちが3倍だ。つまり実質こっちの兵力の方が、ええと」
「1.5倍です」
 フィンさんが助け舟を出します。
「そうだ。1.5倍だ。要するに俺達の方が有利なわけさ。分かったかい?」

 バリケードの向こうから反論が飛んできます。
「強さが3倍? 根拠のない妄言ね。そう信じるなら真っ向勝負を挑めばいいのに、なぜ亀のように首を引っ込めてそこに篭るわけ?」
 よく通る澄んだ若い女性の声。
「それはな、余計な負傷者を出したくねぇのさ。みんな大切な仲間だからなぁ。戦わずして勝つのが賢いやり方なのさ」
 キメラ達から拍手が沸き起こります。

「そこで震えていればあたし達に勝てるとでも? それどんな超常現象?」
 向こうからドッと笑い声。

「ああ? てめぇ、ふざっ……」
 言いかけて言葉を止めたダモンさん。
「ふっ、挑発には乗らねぇ。下らねぇ煽り方してくんのは、どうにもならずに焦ってる証拠だな?」
「焦ってはいない」
「嘘つけや」
「こんなバリケード、力ずくで破れないとでも思ってるのかしら?」
「力ずくでバリケード破ろうとする敵を黙って見てるとでも思ってるのかしら?」
 ダモンさんが声真似をして嘲笑いました。

「しかし、最終的には破れる」
 相手は落ち着いた口調で言い返します。
「なぁに、入って来たところで俺達には砦があるんだ」
「砦ってそこのボロアパート?」
「ボロでも篭ればこっちが有利だ。入り口は狭いし、上からも攻撃ができる」
「強さ3倍の兵なのに篭るわけ?」
「怪我人出したくねぇっつってんだろうが!!」
「で? いつまでもいつまでも篭り続けるつもり? 食料はどれ位もつの?」
「……教えねぇ」

 聞いてると何だか二人で戦いのシミュレーションをしているみたいに思えてきました。
 いっそこれで決着がついてしまえば最高なんですけど。

「じゃあ試してみる? 持久戦」
「おお! じゃ始めるかい? まずはこっちに来てみろや!」
「バカね」
「はあっ?!」
「そっちには行かないって言ってるの。わざわざ強引な戦い方して兵の数を減らすような真似しないわ」
「へえ、臆したのかい?」
「違う」
「どう違う?」
「分からないの?」

 相手の声のトーンが上がりました。
「あたしらはバリケードをこのままにして、そっちから誰も出られないように見張っておけばいいだけ。それで無傷のまま勝てる」
「なっ、何だと?」
 ダモンさんの声に狼狽の色が見えます。

「街の外へ出るにはこの道を通るしかないんでしょ? ここで気長にあんたらが飢えて干上がるのを待つわ。大事な仲間に負傷者を出したくないもの」
「待て、待て待て待て、何言ってんだ? 待て」
「自分達を閉じ込めるバリケード、頑張って作っていただきご苦労様。ホント檻の中のバカなケモノみたい」

「ざけんなああっ!! ナメてんじゃあねぇぞ!」
 ダモンさんはわめき立てます。
 興奮して我を失ってしまったような様子です。
 ダモンさんとしては、籠城の前にバリケード戦で敵の数を減らしておく目算だったのでしょう。

「別に」
 相手の反応はそっけないものです。

 ダモンさんはついにくるりと身を翻してキメラ軍の方に向き直りました。
 顔を真っ赤にしています。
 間を溜めてから怒声を張り上げました。
「お前らあっ! こうなりゃこっちからこんなちゃちなバリケード乗り越えて攻め込んだるぞおっ!!」
 帽子を掴み頭上に高く放り投げる。

 うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
 おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
 勇ましい喊声が上がりました。

「一気に蹴散らしたれええっ!!」

 ああ……最悪です。

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