26 / 78
ラミア襲来
第26話
しおりを挟む「あっ、フィンさん」
軍勢の最前列に四天王のフィンさんを見つけました。
「やぁ! 入団の盃はまだだったけど、ちゃんと戦いに来たね。感心、感心」
「僕は戦いを止めに来たんです」
「あのねぇ。ボクも戦闘で怪我したかないけど、ボス的に降伏は無理なんだって」
「じゃあ降伏なしの講和を」
「あはは、どうやって? アレンってバカなんだね。嫌いじゃないけど」
はっきり言うんですね。
ちょっと傷つきながら、バリケード側を向いて立つダモンさんの背中を見やりました。
ダモンさんは、キメラの群れから僅かに離れてバリケード前に腕を組んで仁王立ちしています。七色熊の袖のない毛皮のコートを羽織り、頭には派手な羽根をたくさん刺したツバ広の帽子。
歌舞いていてカッコイイなと思いました。
どうやらダモンさんは向こうの軍勢を煽っている様子です。おじいさんが言っていた舌戦が続いているのでしょう。
僕はしばらくやり取りを聞いていることにしました。
ダモンさんが威勢良く言います。
「馬鹿野郎! 数はそっちが倍でも兵隊一人一人の強さはこっちが3倍だ。つまり実質こっちの兵力の方が、ええと」
「1.5倍です」
フィンさんが助け舟を出します。
「そうだ。1.5倍だ。要するに俺達の方が有利なわけさ。分かったかい?」
バリケードの向こうから反論が飛んできます。
「強さが3倍? 根拠のない妄言ね。そう信じるなら真っ向勝負を挑めばいいのに、なぜ亀のように首を引っ込めてそこに篭るわけ?」
よく通る澄んだ若い女性の声。
「それはな、余計な負傷者を出したくねぇのさ。みんな大切な仲間だからなぁ。戦わずして勝つのが賢いやり方なのさ」
キメラ達から拍手が沸き起こります。
「そこで震えていればあたし達に勝てるとでも? それどんな超常現象?」
向こうからドッと笑い声。
「ああ? てめぇ、ふざっ……」
言いかけて言葉を止めたダモンさん。
「ふっ、挑発には乗らねぇ。下らねぇ煽り方してくんのは、どうにもならずに焦ってる証拠だな?」
「焦ってはいない」
「嘘つけや」
「こんなバリケード、力ずくで破れないとでも思ってるのかしら?」
「力ずくでバリケード破ろうとする敵を黙って見てるとでも思ってるのかしら?」
ダモンさんが声真似をして嘲笑いました。
「しかし、最終的には破れる」
相手は落ち着いた口調で言い返します。
「なぁに、入って来たところで俺達には砦があるんだ」
「砦ってそこのボロアパート?」
「ボロでも篭ればこっちが有利だ。入り口は狭いし、上からも攻撃ができる」
「強さ3倍の兵なのに篭るわけ?」
「怪我人出したくねぇっつってんだろうが!!」
「で? いつまでもいつまでも篭り続けるつもり? 食料はどれ位もつの?」
「……教えねぇ」
聞いてると何だか二人で戦いのシミュレーションをしているみたいに思えてきました。
いっそこれで決着がついてしまえば最高なんですけど。
「じゃあ試してみる? 持久戦」
「おお! じゃ始めるかい? まずはこっちに来てみろや!」
「バカね」
「はあっ?!」
「そっちには行かないって言ってるの。わざわざ強引な戦い方して兵の数を減らすような真似しないわ」
「へえ、臆したのかい?」
「違う」
「どう違う?」
「分からないの?」
相手の声のトーンが上がりました。
「あたしらはバリケードをこのままにして、そっちから誰も出られないように見張っておけばいいだけ。それで無傷のまま勝てる」
「なっ、何だと?」
ダモンさんの声に狼狽の色が見えます。
「街の外へ出るにはこの道を通るしかないんでしょ? ここで気長にあんたらが飢えて干上がるのを待つわ。大事な仲間に負傷者を出したくないもの」
「待て、待て待て待て、何言ってんだ? 待て」
「自分達を閉じ込めるバリケード、頑張って作っていただきご苦労様。ホント檻の中のバカなケモノみたい」
「ざけんなああっ!! ナメてんじゃあねぇぞ!」
ダモンさんはわめき立てます。
興奮して我を失ってしまったような様子です。
ダモンさんとしては、籠城の前にバリケード戦で敵の数を減らしておく目算だったのでしょう。
「別に」
相手の反応はそっけないものです。
ダモンさんはついにくるりと身を翻してキメラ軍の方に向き直りました。
顔を真っ赤にしています。
間を溜めてから怒声を張り上げました。
「お前らあっ! こうなりゃこっちからこんなちゃちなバリケード乗り越えて攻め込んだるぞおっ!!」
帽子を掴み頭上に高く放り投げる。
うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
勇ましい喊声が上がりました。
「一気に蹴散らしたれええっ!!」
ああ……最悪です。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる