34 / 78
女王の秘密
第34話
しおりを挟むダモンさんの思いがけない言葉に僕は激しく混乱しました。
「な……な……何を言い出すんですか?」
動揺を隠せません。
ジュスティーヌが伯父さんの子じゃないと言ってるの?
あまりにも突拍子が無さすぎる。
「こっちの話はまず間違いねぇよ」
「し、信じられません。そんな流言があるのですか? 面白おかしく語られる下世話な噂話でしょう?」
「これは誰もが知ってるって話じゃねぇんだ。うっかり口にして密告でもされたら命はないぜ」
ダモンさんは僕の目を鋭く見据えます。
「だいたい女王が王女を孕んだ時には先の王兄様はもう病が進行して衰弱しきっていた。子作りなんかできるもんか」
「そんな話は聞いたことが……」
「お前が知ってるわけねぇだろ。先の王兄様の屋敷で働いてた下女に聞いたんだ。屋敷の物をくすねて追い出され、俺がいた路上で身を売るようになった女さ」
「でっ、でも、結局は憶測ですよね」
「ちっ、状況証拠なら有りすぎんだよ。先の王兄様は娘が生まれる前に亡くなったが、女王は最後まで妊娠を知らせなかったって話だ」
「それも本当かどうか分かりませんし、ではジュスティーヌ王女は誰の子かということに……」
「あのな。その当時、夫が病気で寝込んで欲求不満の女王は外に愛人作って盛んにやってたんだぜ?」
「えっ……本当に?」
何だかめまいを覚えました。
「どうせ元々地位目当ての結婚だろ。夫への愛情なんかこれっぽっちもねぇさ」
本当に? 本当に?
「不倫の相手は身分の低い下衆な奴だ。クズだが美男で、女を喜ばせるすべに長けている。さっきの元下女とも関係持っててな」
「つまり、その愛人の件も元下女さんに聞いたんですね?」
「ああ、そうだ。そのクズは元下女と寝屋を共にした時、酔って自慢げに話したらしい。王兄夫人、つまり今の女王の性癖とかな!」
「でも、全部元下女さんの虚言の可能性も……」
「でもでもうるせぇな。やけに食い下がるが、俺は女の嘘は分かる男だ。分かって許す男だ」
何を言ってるんですか。そんな変な自信を根拠に……。
「あとな、俺はその愛人を見たことがあるんだ」
「えっ!」
「そのクズは赤ん坊を攫って闇市で売るような真似してやがってな。ピエタも攫われかけて、俺ぁ見つけて半殺しにしてやった」
「……そんなことが」
この人はそんな闇を見ながら育ってきたんだ。僕とは真逆。
「そん時な、元下女が地面に転がるそいつに『お久し振りね』と声を掛けたんだぜ。で、後であれが例の王兄夫人の愛人だよって教えてくれた」
僕はそれでも半信半疑でした。どこまで聞いても僕の知らない元下女さんが話の鍵になっている。
「あの、その元下女さんは今どこにおられるのでしょう?」
「死んだぜ。女王が即位する少し前かな、変な死に方したな」
「死んだ……。では、愛人の方は……」
「今の騎士団長がそいつだ」
「なっ!!」
「それで充分だろ。あとな、王女は先の王兄様に顔がちっとも似てねぇ。髪の色も、何から何までな」
それは確かにそうなのです。
「女王にもそれほど似てねぇだろ? でも騎士団長にはそっくりだぜ?」
耳鳴りがする程の凄い衝撃を受けました。
騎士団長とジュスティーヌが似ている?
そうだったかな? 言われてみれば? でも、記憶が既に曖昧。
親衛隊としての重要な職責を担う伝統騎士団の長には、前団長の変死の後に無名の男が抜擢されて就任したのです。
「奴は髭を生やして以前とは風貌が変わったがな、良く見りゃ分かるはずさ。大祭の式典か何かで出てきた時に二人を見比べてみな」
もう本当のような気がしてきました。
ジュスティーヌには正統王家の血がまったく流れていないという、僕にとって極めて恐ろしいこの話が。
「宮廷じゃ誰も気付かなかったのかねぇ。気付いても言えねぇか? ははははは!!」
その通りです。嫌女王派と言えども証拠もなくそんなことは口にできないでしょう。下手をすれば自分の首が飛びます。
それにしても、ダモンさんの話が真実なら……。
正統な王家の血は僕を最後に消えてしまうことになります。
例え仮に僕が運よく子を得ることができても、子孫はもう王宮とは無関係。
つまり、王家による領民の為のロイヤル・タッチの力は永遠に失われてしまうのです。
ロイヤル・タッチこそが王の証であり、また義務なのに。
ダモンさんは立ち去って行きました。
僕はというと、その場に立ち尽くして放心状態。
余りにもショックが大きく、しばらくは名を呼ばれていることにも気がつかないほどでした。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる