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女王の秘密

第34話

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 ダモンさんの思いがけない言葉に僕は激しく混乱しました。
「な……な……何を言い出すんですか?」
 動揺を隠せません。
 ジュスティーヌが伯父さんの子じゃないと言ってるの?
 あまりにも突拍子が無さすぎる。

「こっちの話はまず間違いねぇよ」
「し、信じられません。そんな流言があるのですか? 面白おかしく語られる下世話な噂話でしょう?」
「これは誰もが知ってるって話じゃねぇんだ。うっかり口にして密告でもされたら命はないぜ」
 ダモンさんは僕の目を鋭く見据えます。

「だいたい女王が王女を孕んだ時には先の王兄様はもう病が進行して衰弱しきっていた。子作りなんかできるもんか」
「そんな話は聞いたことが……」
「お前が知ってるわけねぇだろ。先の王兄様の屋敷で働いてた下女に聞いたんだ。屋敷の物をくすねて追い出され、俺がいた路上で身を売るようになった女さ」
「でっ、でも、結局は憶測ですよね」
「ちっ、状況証拠なら有りすぎんだよ。先の王兄様は娘が生まれる前に亡くなったが、女王は最後まで妊娠を知らせなかったって話だ」
「それも本当かどうか分かりませんし、ではジュスティーヌ王女は誰の子かということに……」
「あのな。その当時、夫が病気で寝込んで欲求不満の女王は外に愛人作って盛んにやってたんだぜ?」
「えっ……本当に?」
 何だかめまいを覚えました。
「どうせ元々地位目当ての結婚だろ。夫への愛情なんかこれっぽっちもねぇさ」
 本当に? 本当に?

「不倫の相手は身分の低い下衆な奴だ。クズだが美男で、女を喜ばせるすべに長けている。さっきの元下女とも関係持っててな」
「つまり、その愛人の件も元下女さんに聞いたんですね?」
「ああ、そうだ。そのクズは元下女と寝屋を共にした時、酔って自慢げに話したらしい。王兄夫人、つまり今の女王の性癖とかな!」
「でも、全部元下女さんの虚言の可能性も……」
「でもでもうるせぇな。やけに食い下がるが、俺は女の嘘は分かる男だ。分かって許す男だ」
 何を言ってるんですか。そんな変な自信を根拠に……。

「あとな、俺はその愛人を見たことがあるんだ」
「えっ!」
「そのクズは赤ん坊を攫って闇市で売るような真似してやがってな。ピエタも攫われかけて、俺ぁ見つけて半殺しにしてやった」
「……そんなことが」
 この人はそんな闇を見ながら育ってきたんだ。僕とは真逆。
「そん時な、元下女が地面に転がるそいつに『お久し振りね』と声を掛けたんだぜ。で、後であれが例の王兄夫人の愛人だよって教えてくれた」
 僕はそれでも半信半疑でした。どこまで聞いても僕の知らない元下女さんが話の鍵になっている。

「あの、その元下女さんは今どこにおられるのでしょう?」
「死んだぜ。女王が即位する少し前かな、変な死に方したな」
「死んだ……。では、愛人の方は……」
「今の騎士団長がそいつだ」
「なっ!!」
「それで充分だろ。あとな、王女は先の王兄様に顔がちっとも似てねぇ。髪の色も、何から何までな」
 それは確かにそうなのです。
「女王にもそれほど似てねぇだろ? でも騎士団長にはそっくりだぜ?」

 耳鳴りがする程の凄い衝撃を受けました。
 騎士団長とジュスティーヌが似ている?
 そうだったかな? 言われてみれば? でも、記憶が既に曖昧。
 親衛隊としての重要な職責を担う伝統騎士団の長には、前団長の変死の後に無名の男が抜擢されて就任したのです。
 
「奴は髭を生やして以前とは風貌が変わったがな、良く見りゃ分かるはずさ。大祭の式典か何かで出てきた時に二人を見比べてみな」
 もう本当のような気がしてきました。
 ジュスティーヌには正統王家の血がまったく流れていないという、僕にとって極めて恐ろしいこの話が。

「宮廷じゃ誰も気付かなかったのかねぇ。気付いても言えねぇか? ははははは!!」
 その通りです。嫌女王派と言えども証拠もなくそんなことは口にできないでしょう。下手をすれば自分の首が飛びます。

 それにしても、ダモンさんの話が真実なら……。
 正統な王家の血は僕を最後に消えてしまうことになります。
 例え仮に僕が運よく子を得ることができても、子孫はもう王宮とは無関係。
 つまり、王家による領民の為のロイヤル・タッチの力は永遠に失われてしまうのです。
 ロイヤル・タッチこそが王の証であり、また義務なのに。


 ダモンさんは立ち去って行きました。
 僕はというと、その場に立ち尽くして放心状態。
 余りにもショックが大きく、しばらくは名を呼ばれていることにも気がつかないほどでした。

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