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華麗なるラミア
第30話
しおりを挟む僕とピエタちゃんを取り囲む皆は、押し黙り緊張した様子で見守っています。
最後の希望を託されている。
僕はピエタちゃんの横に両膝を突き、屈み込みました。
あどけなく半開きになった唇に口をつけ、息を吹き込む。
鼻をつまんで、ふうっ、ふうっ。仮面が邪魔だ。
次にピエタちゃんの服を開いて小さな胸の真ん中に手の平を当てる。押す。
最適なリズムを思い出し、押す。
反応はありませんでした。
周りの人達が息を呑むのが分かる。
ピンと空気が張り詰めている。
僕は集中する。
もう一度人工呼吸。そして胸部の圧迫。
何度も繰り返しました。何度も。
諦めない。
何度でも何度でもやり続けてやる。
いきなりピエタちゃんの瞼がパチリと開きました。
何の前触れもなく、いきなりだったのでびっくりしました。
ピエタちゃんは不思議そうに数回まばたき。
「ピエタっ!!」
ダモンさんが叫びます。
「あれっ? お兄ちゃん」
けろりと上半身を起こすピエタちゃん。
「ぎゃあっ! 何でおっぱい出てんの?」
大声を出して、ピエタちゃんは目の前の僕の仮面をひっぱたきました。
「痛っ!」
と言ったのはピエタちゃんの方。
「ううおおおおおおおおおおおお!!!」
「鉄仮面よくやったぁ!!」
「すげえええ!!」
「あんた最高だぜえええ!!!!」
キメラ達が一斉に雄叫びを上げて僕を讃えてくれます。
ああ、とにかく、良かった。
本当に良かった。
ホッとして全身の力が抜けていきます。
蘇生成功だ。
学んだ医術の技が役に立ちました。
キョトンとした表情のピエタちゃんにしがみつき、オイオイ泣くダモンさん。
僕はフィンさん達に取り巻かれ、絶え間ないお礼の言葉を浴びて面映ゆい思いをしていました。
「キミ、ホントすごいねぇ。逸材が仲間になってくれてメチャクチャ嬉しいよ」と興奮気味のフィンさん。
いえ、だから、キメラには入りませんから。
「昨日はすまなかったな。ダチになろうぜ」と手を差し出す、満面の笑みも何だか怖いモズマさん。
うーん、まぁ、はい。それはそれでいいかなと握手。
「いつでも気軽に私の穴使ってねぇ。約束よ? ね?」とは目を潤ませ顔を紅潮させたトリアさん。
ちょっと何言ってるのか意味が分かりません。
「おかげでボスに八つ裂きにされずにすみそうだよぉ。ありがとう、ありがとう」細いつり目から滂沱の涙を流すブーマさん。
よ、よかったですね。
輪の中にラミアさんも加わってきました。
「驚いた。何をやったの?」
僕の目をまっすぐ見て言います。
「えっ、見ての通りですよ。医術の一つです。その、昔知り合いにお医者さんがいまして。見よう見まねみたいな」
「ふぅん……。あの技自体はもちろん見たことあるよ。でも、あんなに一瞬で元気に……。深刻な状態だったのに」
「ラミアさんの救出が早かったおかげです」
「あの回復の仕方は……。似ている。昔の……」
「えっ?」
「ん、いや……」
「ラミア! アレン!」
目を腫らしたダモンさんがピエタちゃんを抱きしめたまま声を掛けてきました。
「二人は恩人だ。心から礼を言う」
「とりあえず休戦ね」
答えるラミアさん。
「いや、俺達の負けでいい。降伏する」
「へえ……」
殊勝なダモンさんにラミアさんもちょっと驚いたようです。
側にいるモズマさんも降伏に異議を唱えないし、どうやらこれで何とか治まるみたい。
良かった。災い転じて福となるといったところでしょうか。
ズズドドドドドドド……!!
妙に象徴的なタイミングで燃え盛るキメラの根城は崩れ落ちていきました。
寂しそうに見つめるキメラ達。
「井戸から水汲んでこよう! 火を消すんだ」
フィンさんが皆に指示を出します。
僕とラミアさんの方へダモンさんが近づいてきました。
「治安隊に差し出すか? できれば俺以外の連中は勘弁してやってくれ」
ダモンさんの言葉にラミアさんは首を振ります。
「バカな。あんな外道に渡さないわ」
「じゃあ……」
「あたしの傘下に入るってことでいい?」
ラミアさんが尋ねると、ダモンさんはニヤリと笑いました。
「別にいいぜ」
「決まりね。兵力が欲しかったの」
「何かやらかすつもりか?」
「国の穀物庫を襲う。今までは小さな蔵ばかり狙ってきたけど、そろそろ大きなところを襲撃したい」
「ほう」
「庶民を狙うよりよっぽど楽しいわよ?」
微笑むラミアさん。
「ふっ。はははははは! そうかい! 腕が鳴るな!」
豪快に笑い出すダモンさん。
えと。
困りました。
もっとおおごとになりそうな企てが控えているようです……。
ああ、それにしてもひどく疲れてしまった。
とりあえず休みたい。
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