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義妹を虐め、ろくに貴族の務めを果たさない、ただの引きこもり的な悪役令嬢という、謂れのない噂。その裏でまさかこんな事が起こっていたなんて……といった所だろう。自分の娘を静かに抱きしめる親も居た。
……確かに、私は魔法を使えなければ……そして、師匠と出会わなければ、死んでいた可能性は高い。私だからこそ今まで生きてこれたのだろう。これが他の貴族令嬢であれば……邸を抜け出す事も出来ず、自分でお金を稼ぐ事も出来ず、ただ寒さに凍え飢え死にしていくだけだ。
「どういう事ですか……」
エリックが震えながら、声を絞り出すように訊ねてきた。
……自分で考える事や、調べる事すらしなかった愚か者としか言いようがない。こんな醜聞になる者を会場に引き入れたのもエリックなのだから。
「疑問に思わなかったのか? だから調べもしなかったのか? それは自分が無能であるという事を公言しているだけだと理解しているか?」
今度は、王太子殿下が冷たい声でエリックを責めた。ポツリと、あんな愛らしいイルの、元とはいえ婚約者なんて許しがたいと言っていたのはスルーしよう。……まぁそれだけ近くに居たけれど、気が付かなかったという点も含めて怒りが湧くのは分かる。
「マーガレット嬢は社交界にも出してもらえず。そして社交界で率先して話していたのは、この二人だ。居候とは言わず、後妻と養女になった、とな。ティルトン伯爵からの言葉もなく、裏取りすらせず、そんな二人の言葉を信じた奴等が噂を流したところまでは調べているよ……無能な貴族は国の衰退を招くからね」
ギクリと、肩を上下させた人達が何人もいた。……身に覚えがあるのだろう。もう国の中枢に関わる仕事へ就く事はできないし、下手すれば一族もろとも王城への出入りがすら厳しく制限されるだろう。まぁ、見る限り下位貴族の人達ばかりのようだけれど。
「積極的に噂を流したりしていない人は大目に見よう。あれだけ噂が広まっていれば、様子見していた人達も居るだろう」
王太子殿下の情けとも言える言葉に、ホッと肩を下ろしたのは高位貴族達だ。……そこまで教育に差があるという事なのだろう。それでもまとめて貴族という地位になるわけだから、色々と人間の決まり事は面倒なのかもしれない。
「ま……まぁ良いわ。私には侯爵家のエリックが居るし」
顔を真っ青にして言葉を無くし、その場に呆然と立っている元義母とは違い、シェリーは開き直ったかのようにエリックの腕に手を絡めようとした時、その手は振り払われた。
「冗談じゃない!」
……確かに、私は魔法を使えなければ……そして、師匠と出会わなければ、死んでいた可能性は高い。私だからこそ今まで生きてこれたのだろう。これが他の貴族令嬢であれば……邸を抜け出す事も出来ず、自分でお金を稼ぐ事も出来ず、ただ寒さに凍え飢え死にしていくだけだ。
「どういう事ですか……」
エリックが震えながら、声を絞り出すように訊ねてきた。
……自分で考える事や、調べる事すらしなかった愚か者としか言いようがない。こんな醜聞になる者を会場に引き入れたのもエリックなのだから。
「疑問に思わなかったのか? だから調べもしなかったのか? それは自分が無能であるという事を公言しているだけだと理解しているか?」
今度は、王太子殿下が冷たい声でエリックを責めた。ポツリと、あんな愛らしいイルの、元とはいえ婚約者なんて許しがたいと言っていたのはスルーしよう。……まぁそれだけ近くに居たけれど、気が付かなかったという点も含めて怒りが湧くのは分かる。
「マーガレット嬢は社交界にも出してもらえず。そして社交界で率先して話していたのは、この二人だ。居候とは言わず、後妻と養女になった、とな。ティルトン伯爵からの言葉もなく、裏取りすらせず、そんな二人の言葉を信じた奴等が噂を流したところまでは調べているよ……無能な貴族は国の衰退を招くからね」
ギクリと、肩を上下させた人達が何人もいた。……身に覚えがあるのだろう。もう国の中枢に関わる仕事へ就く事はできないし、下手すれば一族もろとも王城への出入りがすら厳しく制限されるだろう。まぁ、見る限り下位貴族の人達ばかりのようだけれど。
「積極的に噂を流したりしていない人は大目に見よう。あれだけ噂が広まっていれば、様子見していた人達も居るだろう」
王太子殿下の情けとも言える言葉に、ホッと肩を下ろしたのは高位貴族達だ。……そこまで教育に差があるという事なのだろう。それでもまとめて貴族という地位になるわけだから、色々と人間の決まり事は面倒なのかもしれない。
「ま……まぁ良いわ。私には侯爵家のエリックが居るし」
顔を真っ青にして言葉を無くし、その場に呆然と立っている元義母とは違い、シェリーは開き直ったかのようにエリックの腕に手を絡めようとした時、その手は振り払われた。
「冗談じゃない!」
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