【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

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「僕と婚約して欲しい」

 サラッと言われた言葉と共に、紙が掲げられる。
 は?
 え?
 どういうこと?
 ん??
 頭の中に疑問符が駆け巡る。お父様も同じなのか、怒っていたのが嘘のように口をあけ、呆気にとられている。

「……王太子殿下……それは?」

 お父様が掲げられた紙を訪ね、覗き込む。私も目には入っているのだけれど……その内容は現実とは思えない。

「ん? 王命だよ?」

 あれ?私、もしかして死んだ?
 実はこれ、死後の夢とか幻とか、そういう類じゃないの?……え?私、王太子殿下の事が好きだったのかな?だから、こんな夢見てるのかな。
 お父様も自分の頬を思いっきりつねって引っ張り出した。

「夢じゃないよ?現実だからね。生きているからね」

 どうして私の考えている事がわかったのだろうか。淑女として、感情を表情に出さないというものは習ったけれど、如何せん人と接する事がほとんどなかった私だ。実戦経験は皆無。

「……娘は幸せにしてくれる殿方の所へしか嫁がせません!」

 我に返っただろうお父様が叫んだ内容に、私は驚き目を見開いた。

「幸せにすると決まっているだろう! いや、むしろイルと一緒に居られるならば俺が幸せにしてもらってるのか……?」

 何かもう、情報が多すぎて頭が混乱している。お父様も同じような感じだけれど、とりあえず今は王太子殿下を目の敵にしているだけのようだ。……何故?私の事を大事に思っていて下さったの?

「イルは賢者と共に行動する程、勇ましく優秀だ! 作られた魔法具は他と一線を画す! ティルトン伯爵家と言われ納得もしたが、努力なくしてあそこまでなれないだろう。そして俺の呪いを解呪してくれるなど、優しさも伺える。それに何より! ふわふわした愛らしい毛並み! ぷにぷにの肉球! そんな状態でも繰り出される細かい魔法技術! 丸まって寝る姿は、もはや天使! 腕の中にすっぽり収まって大人しくしているのも可愛らしく、俺の膝でくつろいでいる姿なんて女神かとさえ思える!」

 おかしい。
 後半部分おかしい。
 しかもベタ褒めしているのが猫の事って、どういう事ですか。猫に対して、そんな歯が浮く言葉を淀みなく言えるなんて、流石猫馬鹿。

「え? ……肉球……?」

 私への愛を語っている筈なのに、どういう事だと、お父様は完全に思考回路が止まっている。帰ってきてからの情報が多すぎて、まとまりつかないのだろう。疑問符で埋め尽くされた思考は、既に働く事を放棄していた。

「それに、もう同衾もした事だし、俺としても責任を取らないとね」
「ど……どどど……同衾~~~~!!???」

 ……あ。
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