32 / 56
32.
しおりを挟む
気が付けば朝日が昇っており、徹夜をしたんだなと理解した。集中しすぎていて、気が付かなかった。
「……少し休みますか」
師匠が眩しそうにしながら、朝食の用意を始める。目の下には、おもいっきりクマが出来ているのを見て、私にもできていそうだな、なんて思う。
少し食べて、寝たら、また調べよう。
パンとスープという至って簡単な食事を終えれば、また書物へと向かう。どこかに呪いの詳しい文献がないか。あるいは、解呪への手がかりとなるヒントは得られないものかと。
「何をそんなに必死になっているんだ」
ノックもなしに扉が開いたかと思えば、不躾な言葉をかけられた。
ふんぞり返った俺様な立ち姿。翡翠色の短髪に青い瞳。顔は地味目だけれど、目つきがきついのは内面を表しているのかとさえ思える。鍛えてもいないだろう、ヒョロっとした体躯だけれど、身に着けているものは豪華で、装飾も派手だ。むしろ、重くないの?歩けるの?と心配になってしまう。
しかし、その豪華さと態度だけで理解する。それなりに地位の高い人だと。
「……出て行ってもらえますか」
師匠が軽蔑の眼差しを込めながら、感情を抑えた声で言い放った事に少し驚いた。そこまで感情を露わにした事など、見た事なかったからだ。
「はっ。くだらない死にかけの為に働く位なら僕の為に働く方が有意義だと、何故わからん」
侮蔑の表情を込めて吐き捨てられた言葉に、怒りで背筋が逆立つような感覚に襲われ、身体が震える。
失礼にも、程がある!
怒りを含ませた瞳で、そいつに視線を向ける。
……それなりに地位が高い事だけは理解しているのだ。ここで不敬だ何だのと言われて研究が出来なくなるのも困るから、文句も言えないけれど……。
本当に、人間というのは嫌になる。
師匠は構わず睨みつけているけれど、そんな私達の様子など気が付いていないのか、意に介していないのか。そいつは更に言葉を続けた。
「王太子が死ねば、継承権二位の僕が王太子となり、次期国王となるのだ! お前も弟として、より僕に仕えればいい」
――王弟の第一子。反王太子派の旗印。
発言により、こいつがリムド・ハーバー公爵令息だと気が付いた。王太子殿下の命を狙う者達が掲げる、次期国王。
確かに地位は高い……高いけれど……それよりも私には気になった言葉があった。
「……弟……?」
呆気にとられた表情で呟けば、ハーバー公爵令息が私の様子に気が付いた。
「……何だケイト。お前、自分の身分を言っていなかったのか?」
罰の悪そうに視線を反らせた師匠に、私はハーバー公爵令息の言った事が真実であると悟った。
「……少し休みますか」
師匠が眩しそうにしながら、朝食の用意を始める。目の下には、おもいっきりクマが出来ているのを見て、私にもできていそうだな、なんて思う。
少し食べて、寝たら、また調べよう。
パンとスープという至って簡単な食事を終えれば、また書物へと向かう。どこかに呪いの詳しい文献がないか。あるいは、解呪への手がかりとなるヒントは得られないものかと。
「何をそんなに必死になっているんだ」
ノックもなしに扉が開いたかと思えば、不躾な言葉をかけられた。
ふんぞり返った俺様な立ち姿。翡翠色の短髪に青い瞳。顔は地味目だけれど、目つきがきついのは内面を表しているのかとさえ思える。鍛えてもいないだろう、ヒョロっとした体躯だけれど、身に着けているものは豪華で、装飾も派手だ。むしろ、重くないの?歩けるの?と心配になってしまう。
しかし、その豪華さと態度だけで理解する。それなりに地位の高い人だと。
「……出て行ってもらえますか」
師匠が軽蔑の眼差しを込めながら、感情を抑えた声で言い放った事に少し驚いた。そこまで感情を露わにした事など、見た事なかったからだ。
「はっ。くだらない死にかけの為に働く位なら僕の為に働く方が有意義だと、何故わからん」
侮蔑の表情を込めて吐き捨てられた言葉に、怒りで背筋が逆立つような感覚に襲われ、身体が震える。
失礼にも、程がある!
怒りを含ませた瞳で、そいつに視線を向ける。
……それなりに地位が高い事だけは理解しているのだ。ここで不敬だ何だのと言われて研究が出来なくなるのも困るから、文句も言えないけれど……。
本当に、人間というのは嫌になる。
師匠は構わず睨みつけているけれど、そんな私達の様子など気が付いていないのか、意に介していないのか。そいつは更に言葉を続けた。
「王太子が死ねば、継承権二位の僕が王太子となり、次期国王となるのだ! お前も弟として、より僕に仕えればいい」
――王弟の第一子。反王太子派の旗印。
発言により、こいつがリムド・ハーバー公爵令息だと気が付いた。王太子殿下の命を狙う者達が掲げる、次期国王。
確かに地位は高い……高いけれど……それよりも私には気になった言葉があった。
「……弟……?」
呆気にとられた表情で呟けば、ハーバー公爵令息が私の様子に気が付いた。
「……何だケイト。お前、自分の身分を言っていなかったのか?」
罰の悪そうに視線を反らせた師匠に、私はハーバー公爵令息の言った事が真実であると悟った。
63
お気に入りに追加
1,549
あなたにおすすめの小説
真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています
綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」
公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。
「お前のような真面目くさった女はいらない!」
ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。
リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。
夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。
心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。
禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。
望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。
仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。
しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。
これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します
nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。
イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。
「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」
すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。
傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。
そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。
自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。
絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。
次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる