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 深夜には無作法な者達が襲来してくる事はあっても、昼間は人目がある為か、とても穏やかだ。たまに毒や痺れ薬に魔法具が反応する事はあるけれど……。あと、媚薬の反応もあった。それは襲来してくる令嬢達の仕業だろう。未だ空席となっている未来の王太子妃の座を目指していると思われる。
 ……なんて面倒くさい。

「イル~! お茶にしよう!」

 視察に出た所で誘拐されるわけでもなく、襲撃される事もなく、今日も王太子殿下は仕事の合間に猫を愛でるのだろう。
 呑気なものだとは思うけれど、気を張り巡らせるのは疲れるというもの。……護衛を信じているとも言えるのか。
 腕の中から視線を巡らせれば、中庭の東屋にお茶の用意がされている。勿論、私は飲みやすいように皿へとお茶が用意されているし、お菓子は一口大で、猫用クッションが机の上に用意されている。
 ……まさに、至れり尽くせりである。

「料理長が、イル専用にと腕をふるってくれたぞ」

 にこやかに王太子殿下は言いながら、私をソファの上におろした。
 私は護衛だ。気を緩める事なく、魔法を展開して怪しい気配がないか探し、特に危険がない事を確認して口をつける。
 といっても、これは私専用なので毒見にもならないけれど。

(! 美味しい!!)

 お菓子を一口食べれば、その美味しさに思わず尻尾を揺らした。猫用だから味がしないかもと思ったのに……これは人間が食べても美味しいと感じる事が出来る程だ。王城の料理長とは、素晴らしい腕を持っている!!
 パクパクと、一心不乱に食べる私を、王太子殿下は微笑ましく見守り、自分も自身のカップに指をかけ口に運ぶ。

「ぐっ!」

 苦しそうな王太子殿下の声に、素早く顔を上げる。
 カシャンッと、カップの落ちる音と共に、表情を歪めながら崩れ落ち、地面に倒れる王太子殿下。叫びながら駆け寄る、護衛や側近達。

(毒!?)

 カップに口をつけた後に起こった、尋常じゃない苦しみ方。私は素早く毒の魔法具を確認するけれど、それは全く反応していない。

(なら……他は!?)

 痺れや睡眠等は違うと理解していても、全ての魔法具が反応していないかを確認する。そう、物理攻撃や状態異常も含めて全てだ。
 だけれど、その全てに反応がない。つまり、王太子殿下はそれらの状態に陥っていないという事で……。

「賢者様!」
「王太子殿下が口にしたものは全て確認しろ!」

 どこかで見ていたのだろう、師匠も素早く駆けつけ、現場を見ていたであろう側近が声を荒げて命令を下す。

「回復魔法を!」

 師匠は、一緒に居た人へと言葉をかけ、その人は王太子殿下へ近づくと素早く回復魔法をかけ始めた。
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