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 このままで良いなんて思った私を殴りたい。あぁ、あの時は心が凄く弱っていたと認めよう、潔く認める。だからこそ、前言撤回する。

「にゃぁあああ!!」
「何をしているんですか、王太子殿下」

 私が激しく抗議の声をあげれば、側近の人が呆れた声で王太子殿下に問いかけた。

「猫はこう愛でるんだと、本に書いてあった」
「……どう見ても嫌がっておりませんか?」

 従者の人にも分かる、私の抵抗。しかし王太子殿下は、本にあったから、と諦める事をしない。

 ――私のお腹に顔を埋めようとする事を。

 こっちは!淑女なんです!レディなんですよ!
 むしろお腹丸出しにされて上を向かされてる時点で恥ずかしい!!
 先ほどから、全力で腕から逃れて逃げたとしても、すぐに捕まり上を向かされる……を何度繰り返した事か。

「にゃぁあああ!!!!」

 絶対に埋めさせてなるものかと、私は渾身の力を振り絞って、王太子殿下の顔が近づかないように腕を伸ばす。
 不敬?不敬とか言っていられない!
 むしろレディにこんな事する方がおかしいでしょう!……いや、猫の姿だけどさ。

「ほぅ……これはこれで良い……」

 顔を埋めようとする力が弱まったと思ったら、王太子殿下は恍惚の表情をして言った。
 もはや側近や従者の人はため息も出ないらしく、視線を背けて、今ある現実に目を向ける事すら拒否している。

「肉球……」
(こっちかぁあああ!!!)

 腹部のふわふわより、肉球のぷにぷにが勝った!……のか?
 とりあえず、腹部に顔を埋められる事を考えたら、手のひらを触りまくられる方がマシ……恥ずかしいけど、マシだ……。
 王太子殿下の顔を肉球でぷにぷに踏みつけると、何とも言えない顔をしだしたので、見ないように視線を背けた……。見てはいけないものを見た気しかしない。





 そんな人でも、我が国の王太子殿下。
 王位継承権第一位だ。

(三人……か)

 師匠の言う通り、舞踏会シーズンに入ってから、日々の刺客は増えている。
 屋根裏に忍び込んだだろう刺客を眠らせ、外に居るだろう刺客は痺れさせ、王城に忍び込み部屋まで近づいてきた刺客は麻痺させ、魔法具の通信で師匠に伝える。そうしたら師匠が引き取りにきてくれるのだ。
 更に、念には念を入れ、1回だけ物理攻撃を無効化するブローチも眠る時につけてもらっている。他には、毒だけでなく、睡眠薬や痺れ薬も無効化するタイピンまでも完成したのだ。
 作ったのは私だし、こうやって近くで効果や反応を見る事ができるので、すぐに対応も出来るのは美点だ。修正点があれば、すぐに動けるし。
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