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「仕方ないだろう! 父上がまさかこの婚約に反対するなど思っていなかったんだ! それにティルトン伯は、あんな地味で貴族の責務を果たさないマーガレットなぞ、自分の娘と認めていないと言っていたのはシェリーじゃないか! ティルトン伯から父上に喜んで婚約破棄の申し出が来るとも言っていたくせに、全然こないじゃないか!」
ヒステリックに叫ぶシェリーに感化されたのか、険しい顔をして、エリックまで大きな声で怒鳴り始めた。声の大きさに驚き怯えた私は、身体を震わせ、その場から動けなくなった……。
「何を言ってるのよ! だいたいそういうのは格上の侯爵家から申し出るものじゃないの!?」
「だから父上が認めていないんだ! ティルトン伯の方からの申し出はまだなのか!?」
まさかコルダ侯爵が認めていないとは……なるほど、まだ婚約破棄されていない理由は、それか。
勝手に二人で決めて、私に宣言して……私が出て行って焦っているという所かな。当主同士が話し合う前に大事となってしまった、と。
いくら子どもと言え、貴族に名を連ねるのであれば当主の決定に従って、余計な事をしないと教えられたのだけれど。
「出来るわけないでしょう!? お義父様が帰って来た時に婚約破棄の書面があれば喜んでサインするだろうって言ったのよ!? 伯爵家から申し出るなんて言ってないわ!」
うん、その通りだ。私もそう思う。
お父様は、シェリーの方で良いと思うだろう。きっとコルダ侯爵の事も説得するはずだ。勝手に行った事とはいえ、結局その通りに進むのだ。
――私は愛されていない存在だし。
居ても、居なくても、同じ。
放置され、生きる事に必死で……食べる物にも苦労する。
自分に技術がなければ、とっくに飢えていたかもしれないのだ。……貴族の娘なのに。
ティルトン伯爵家で過ごしてきた日々が脳裏に蘇り、目に涙が浮かぶ。
「此処に居たのか、イル」
優しい……とても優しい声でかけられた言葉に、優しい手でゆっくりと持ち上げられ、温かい胸に抱きしめられる。
「……くだらんな」
王太子殿下は、二人の怒鳴りあう声が聞こえていたのか、軽蔑の眼差しを向けてポツリと言い放った後、背を向けて王城へと足を進めた。
私の背を、そっと撫でる手が優しくて……涙を隠すように、王太子殿下の胸に顔を埋めた。
――もぅ、このままで良い。
猫の姿を保てて、魔法も使える。
そんな現実逃避をしていたのと、王太子殿下が既に歩み初めていた為、私は二人が呟いていた声に気が付かなかった。
「お義姉様さえ……居なくなってしまえば……」
「それだな」
――と。
ヒステリックに叫ぶシェリーに感化されたのか、険しい顔をして、エリックまで大きな声で怒鳴り始めた。声の大きさに驚き怯えた私は、身体を震わせ、その場から動けなくなった……。
「何を言ってるのよ! だいたいそういうのは格上の侯爵家から申し出るものじゃないの!?」
「だから父上が認めていないんだ! ティルトン伯の方からの申し出はまだなのか!?」
まさかコルダ侯爵が認めていないとは……なるほど、まだ婚約破棄されていない理由は、それか。
勝手に二人で決めて、私に宣言して……私が出て行って焦っているという所かな。当主同士が話し合う前に大事となってしまった、と。
いくら子どもと言え、貴族に名を連ねるのであれば当主の決定に従って、余計な事をしないと教えられたのだけれど。
「出来るわけないでしょう!? お義父様が帰って来た時に婚約破棄の書面があれば喜んでサインするだろうって言ったのよ!? 伯爵家から申し出るなんて言ってないわ!」
うん、その通りだ。私もそう思う。
お父様は、シェリーの方で良いと思うだろう。きっとコルダ侯爵の事も説得するはずだ。勝手に行った事とはいえ、結局その通りに進むのだ。
――私は愛されていない存在だし。
居ても、居なくても、同じ。
放置され、生きる事に必死で……食べる物にも苦労する。
自分に技術がなければ、とっくに飢えていたかもしれないのだ。……貴族の娘なのに。
ティルトン伯爵家で過ごしてきた日々が脳裏に蘇り、目に涙が浮かぶ。
「此処に居たのか、イル」
優しい……とても優しい声でかけられた言葉に、優しい手でゆっくりと持ち上げられ、温かい胸に抱きしめられる。
「……くだらんな」
王太子殿下は、二人の怒鳴りあう声が聞こえていたのか、軽蔑の眼差しを向けてポツリと言い放った後、背を向けて王城へと足を進めた。
私の背を、そっと撫でる手が優しくて……涙を隠すように、王太子殿下の胸に顔を埋めた。
――もぅ、このままで良い。
猫の姿を保てて、魔法も使える。
そんな現実逃避をしていたのと、王太子殿下が既に歩み初めていた為、私は二人が呟いていた声に気が付かなかった。
「お義姉様さえ……居なくなってしまえば……」
「それだな」
――と。
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