【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

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「見まして? あの二人」
「適切な距離感をわきまえずに……はしたない」
「噂はどこまで本当なのでしょう……しかし、シェリー様は本当に淑女なのかしら」

 二人が居なくなった後、堂々と非難の声を上げる。そいつらの顔を見ようと視線を向ければ……いやらしく口角を上げて、馬鹿にしたような、見下したような……悪意のこもった醜い顔で笑っている。

 ――気持ち悪い。

 人により広められる、悪意ある噂話。裏に潜んだ負の感情。表情と内面の違い。腹の探り合い。

「お久しぶりですね、王太子殿下」

 義妹達に気を取られている間に、王太子殿下へと近づき声をかけてくる貴族達。その中には、反王太子派もいるわけで……。
 表面上はとても良い笑顔で、実情を知らなければ穏やかな人間関係なのだろうと思える。
 ……そんな全てに、鳥肌が立った。

 気持ち悪い。
 気持ち悪い。
 気持ち悪い。

 良好な人間関係の為に……というレベルではない。
 むしろ人を引きずり落とす為の行為に笑顔をいう仮面をつけ、気が付かれないように裏で暗躍する。しかも、それは生きる為というよりも、自分の欲望を満たす為で……そんな事をするのなんて人間だけだ。

「あっ! おい!?」

 思わず王太子殿下の腕から逃げ出した。
 護衛の仕事があるのは頭の片隅で理解している……理解しているけれど、限界だ。
 気持ち悪さからゾワゾワと背筋に寒気が走る。胃から何かが込み上げてきそうだ。頭がクラクラして、眩暈すら覚える。

 ――私に、こういう場所は向いていない。

 猫の姿なのに……否、猫の姿だからこそ、問答無用で人の裏を垣間見てしまう。
 師匠に申し訳ないという気持ちがありつつも、私は王太子殿下の声を無視して、ただひたすら外へと出る扉に向かって全力疾走をした。





(情けない……)

 一人、王城の中庭を歩きながら、落ち込む。
 耐えろとか、我慢しろとか……言う事は簡単だけれど、実際どうやっているのだろう。
 人気のない所へ向かい、トボトボと歩いて行けば、またも聞き覚えのある声を耳にした。

「お義父様がもうすぐ帰ってきてしまうのよ! どうするの!?」
「どうすると言われても……」
(何でこんな所に!?)

 シェリーとエリックが口論している様子に、思わず木陰へと隠れる。いくら猫の姿でも見つかりたくないし、出来るものならば、この場から気が付かれないよう立ち去りたいのだけれど……。

「どうして未だにお義姉様との婚約も破棄されていないのよ!」

 焦ったように怒鳴るシェリーの言葉に、足を止め、耳を動かしてしまう。
 確かに、何故まだ婚約破棄がされていないのか……自身に関わる事だから……と、無作法ながらも、その場で聞き耳をたてた。
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