【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

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 王太子殿下の元に私の情報が届いたのか分からぬまま、変わらぬ生活を続けていた。
 寒い季節が終わり、温かい気候に包まれ始めた今日この頃。貴族達は舞踏会シーズンへと入る。
 雪に街道が阻まれる寒い季節は、地方からの往来が難しい事もあり、春から秋にかけてが舞踏会シーズンになる。
 だからこそ、地方に居る貴族達も王都へ来るし、商人達も売る為に集まってくる。
 春から秋とは言っても、夏は暑いため水辺の多い所を避暑地として過ごす貴族も多いし、領地にそういう所がある貴族は人を招いたりもしている。だからこそ、人が多く集まるのは、春と秋だ。

 ――王太子殿下の命も狙われやすくなるから、気を引き締めてね。

 人の往来も多くなり、王城への出入りも増える。だからこそ、師匠は真剣な顔をして私に忠告はしたのだけれど……。

 ――そろそろお父様も戻る頃だ。

 私は深く息を吐いた。
 魔物の討伐で遠征に出ていた父も、やはり行動しやすいのは春から秋にかけてで……雪で阻まれていた行路が使えるようになったならば、報告の為に、急ぎ王都へ戻ってくるだろう。
 ……柔らかいご飯。自分で何もしなくとも出てくる温かいご飯。柔らかい寝具。お風呂に入って清潔に出来る事……。
 その全てが伯爵家では叶わない事だ。
 ……まぁ、仕事はしてますけれど。……仕事というか飼われているというか……分からなくなるけれども。

 ――ブゥンッ!

 私の憂鬱な思考回路を切断するかのように、不愉快な羽音が聞こえ、耳を立てる。
 ただの蜂なのか、それとも魔法具の類か……窓から室内へ侵入しようと、こちらへ飛んできた蜂に視線を投げかければ……。

「イル! 危ない!」

 スパッと、風を割く音が聞こえた変わりに、羽音は聞こえなくなった。そこに居るのは王太子殿下で、何故か手には短剣が握られている。
 思わずチベットスナギツネのような顔になった私は、王太子殿下の足元に目をやれば、そこには真っ二つに切られた蜂。

(いやいやいや、おかしくないですかね!?)

 心の中だけで突っ込みを入れる。
 何で猫に対して、そこまで過保護になるの!?てか蜂を短剣で切るって、どんな高度な剣術よ!?というか、護衛は私なんですけど!?そう言われてますよね!?

「よ~しイル、無事だな~」

 窓から入った途端に切られたのだ。蜂が私を刺す暇などないだろう。むしろ近づいてさえいない。
 だけれど王太子殿下は、私を抱き上げて確認をすれば、そのまま頬を摺り寄せる。
 ……これ、ただもふもふしたいだけ?
 呆れ果てて、為されるがままに身を委ねていれば、側近が入室してきて、書類の束を王太子殿下の机に置いた。

「例のご令嬢に関しての報告です」
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