【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

文字の大きさ
上 下
11 / 56

11.

しおりを挟む
 仕事紹介してくれるんじゃなかったのか、師匠……私で遊んでいるのか。耳や尻尾が垂れ下がる私をきちんと抱けば、師匠は部屋の中を歩く。

「こっちがトイレですよ。こちらは洗面になります。あちらはバスルームですからね?」
「いや、何をやってるんだ?」

 うん、確かに。
 師匠は、もう決定事項だと言わんばかりに、私に部屋の間取りを教えてくれる。……当の王太子殿下本人の意思を確認する事なく。

「この子……イルは賢い猫ですから」
「なるほど?」
「食べ物は人間と同じで構わないですよ~紅茶やお菓子も大丈夫です」
「いや、でもチョコレートは……」
「大丈夫ですよ~! ネギ類やスパイス類、生のエビやイカ等も大丈夫です!」
「な……なるほど?」

 王太子殿下、ドン引きである。
 声を出せるものなら、そんな猫が居るか!と突っ込みたくなる。いや、その猫は私なんだけどね?
 というかトイレを教えてもらったのは有難い。猫用トイレだとか言って用意された箱とかで、人目がある中で排泄なんて、さすがに出来ない。街中でも、流石に草むらとか見えない所を選んでいたからね!

 ――というか、護衛するのは確定なんですかね?

 既に師匠の押しに対して、突っ込む事も忘れて、たじろいでいる王太子殿下は、猫が護衛である事に対する疑問をぶつける事すらしていない。
 むしろ飼い方の指南を受けているようだ。……あれ?私、護衛だよね?

「ではイル。護衛のお仕事頑張ってね」

 師匠は、そう言って私を下ろすと、そのまま部屋を出て行こうとする。

「……本気なのか……?」

 そんな王太子殿下の声は、完全無視なのか聞こえていないのか。無情にも扉が閉まる音だけが響いた。
 うん、師匠の王太子殿下への扱い、不敬にならないのかな?
 思いながら、とりあえずその場へ座ろうとし、絨毯の柔らかさに気が付く。
 ……うん。これ、めちゃくちゃふわふわしてる。確実に高価なやつ!え、私、野良生活のままお風呂にも入ってないから汚れているんですけど!?てか足拭いてないよね!?
 毛皮がなければ、真っ青になっているのが分かるだろう。下手に汚さないようにと、その場から動けなくなる。
 今まで気が付かなかった事実に、呆然自失となり、どうしたもんかと王太子殿下に目を向ければ……そこには鼻の下を伸ばしたような、きびしい顔つきが破綻し笑顔満載の王太子殿下が居た。
 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる王太子殿下に、これは誰だと思いつつも後ずさる勇気もない。だって絨毯を汚してしまう。
 逃げ場をなくした状態の私は、ただ王太子殿下が此方に向かってくるのを眺めるだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。 シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。 その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。 そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。 ざまぁ展開のハピエンです。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

処理中です...