【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

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「いやいやいや!? どこへ行くんですか!? 師匠!」
「まぁ~良いから、気にしない~」

 思わず声をかければ、のほほんと返す師匠。
 魔法棟は王城の隣にある。というか城内にあるのだ。賢者は国に仕えているようなものだから当然だろう。
 周囲に止められる事なく、さも当然のように城内へ入る師匠に、私は思わず口を開いた。

「っ!」
「猫が話せるという非現実的な事を見せつけても良いのですか?」

 私の耳にだけ届くような声で、でも少し厳しくしかりつけるような声色で、師匠は私の声を遮るように言った。おかげで、言葉を発する事なく正気に戻れたのだけれど……本当にどこへ行くつもりだと言うのか。不安しかない。
 そんな私の気持ちなど、おかまいなしに師匠は進み、王城の奥……明らかに王族の住居だと思われる建物へ入り、とある扉の前に立つとノックをした。

「私です。護衛を連れてきましたよ」
「入れ」

 私です。で、伝わるって何!?
 驚き、思わず師匠の方へ視線を向けるけれど、師匠は何でもないという感じで扉を開けて中へ入れば……そこに居るのは、淑女教育で習った際、絵で見た事のある顔。

 ――ショーン・マーティン王太子殿下。

 少し首にかかる位の長さで、ホワイトブロンドの髪を遊ばせ、瞳はサファイアのように輝いている。多少きつめの顔立ちとも言えるが、これ以上ないと言うくらいに左右対称で整っている。日常的に剣を扱っているのだろうか、185cm位の身長に、しっかりした体躯。
 まさに王族らしい美しさだ。
 て言うか師匠。何で王太子の部屋へ、そう簡単に入れるんだ!?
 ベッドまで置いてあり、明らかに王太子殿下の私室と言わんばかりの部屋。しかも今は少し服を着崩している当たり、完全にプライベートな時間!

「……どこに護衛が?」

 王太子殿下の声に、思わず背筋が伸びる。まぁ、それでも猫なので若干曲がってはいるだろうけれど。

「この子ですよ」

 師匠は私の腕に手を通し、王太子殿下の目にうつるよう抱き上げた。
 いやいやいや、え!?私が王太子殿下の護衛!?
 無意識に毛は逆立ち、尻尾があがる。うん、もう猫の動作は完璧だね!私!と、眉間に皺を寄せて、疑わしい目で師匠へ視線を向ける王太子殿下という現実から逃避する。

「なんの冗談だ?」

 そうですよね。そうなりますよね。当たり前ですよね。だって猫だもん。

「猫はネズミや虫を狩ってくれるんですよ?」

 いや無理!そんな事できるか!と、思わず左右に首を振る。
 否、魔法を使えば倒せますけれど……猫のように口で捕まえるとか無理ですからね!捕食したくない!!
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