【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

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09.

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「…………は?」

 私は呆気にとられ、思わず変な声を出したけれど、師匠は変わらず笑顔のままだ。むしろ、その笑顔が胡散臭いとしか思えない。
 猫のままで出来る仕事?え?ありえなくない?
 猫に仕事させる奴なんて居るの?え?それ正気?
 師匠の頭、いかれちゃった?

「仕事の依頼は私ですし、正気です。いかれてはいませんよ?」

 どうやら口に出して呟いていたらしく、師匠は黒いオーラを放ったように、怪しげな微笑みをしながらも、威圧感たっぷりに返してきた。
 思わずビクリと身を震わせるも、このまま簡単に受けるわけにはいかない。

「え……じゃあ、何の仕事を……」
「護衛です」
「は?」

 様子を伺いつつ訪ねてみれば、まさかの答えが返ってきて、思わず耳と尻尾を立てた。

「そもそもイルは最初から人とあまり関わりたくなさそうにしていましたが……私は別ですよね?」
「いや……まぁ、だって師匠だし」

 一体何の質問だと思いながらも、私は答える。
 そもそも関わりたくない人を師匠だなんて言わない。信用するに値すると思ったから師匠と言っているのだ。だいたい、身元が分からない人間を簡単に弟子にしようとする人だ。確かに最初は警戒していたが、賢者であるならば私を人身御供のような非人道的な事はしないだろう。

「その私からの依頼ですよ?」
「ぐっ」

 有無を言わさぬつもりなのか。
 思わず声につまり、逃げるように一歩後ずさる。

「護衛なんて、その魔法操作があれば猫のままで出来るでしょう。……それとも、人の姿で人と関わりたいのですか?」

 絶対嫌だ。
 まだ平民相手ならば良いけれど……貴族相手は絶対に嫌だ。あの裏表の激しさもそうだけれど、卑しい程の噂好き。相手を思いやる気持ちもなければ、簡単に他人を蹴落とす醜悪さ。

「まぁ、人の姿で出歩いていれば、伯爵家に連れ戻されるだけでしょうが……」
「受けさせて下さい、お願いします」

 猫の姿のまま、頭を下げる。下げた所で、土下座のようになっているが。巷で言う、ごめん寝、にも近いか。
 私にとっては断る理由もないどころか、むしろ好待遇好都合な仕事。これで食べる物が確保できるのであれば問題なし。しかも猫の姿で良いなら気楽でしかない。
 正直、この魔法操作は私にとって苦ではないのだ。これも血筋故なのかどうかは知らないけれど。
 まぁ猫は自由気ままと言うし、護衛と言いつつも離れた場所から見ていれば良いだろう。それこそ隙間に入り込んだりして。

「じゃあ、行きましょうか」

 そう言って私を抱っこした師匠は、魔法棟から出ると、街へ下りる方向ではなく、何故か城の方へ向かって行った。
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