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18.優秀な裏には

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「……」
「……お嬢様」
「別のお店を探しますか?」

 私は聞かなかった事として踵を返そうとした時、無情にもドアが私を出迎えるかのように開いた。

「あ、皇女様……?どうぞ」

 ガルムは私に気が付いて扉を開けたわけではなく、思わず逃げた先にたまたま居たのだろう。今気が付いたという感じで声を出した後、慌てて店内へと案内した。
 呆れて物が言えないというか、ため息をする気力さえもなく導かれるままに店内へと足を踏み入れれば、あれだけ大声で罵っていただろう従業員達も美しい笑顔と礼で私を迎え入れた。
 流石、有名なレストルズ商会だ。

「置いてあるものは、流石ですね」
「なかなか手に入らないとされているものまでありますね」

 ジェンとベルの声に、私も店内を見渡せば、各国の一流品ばかり取り揃えられていた。布や糸に関しても各国の物が揃っており、ノルウェット帝国やロドル王国だけではない国の衣装まで作る事も可能だろう。

「帝国風ドレスの制作と、それに合わせたアクセサリーとの事ですが、デザインはどうされますか」

 椅子を勧められ、女性に紅茶を出された後、別の女性がカタログのようなものを目の前で広げながら訊ねてくる。
 流石にガルムがここまでする事はないのね、と納得しながら私はパラパラとカタログをめくる。

「シンプルだけど質素に見えないものを」

 いくつかこんな形でと案を上げ、念押しのようにエメラルドグリーンや金の色を使わない事を伝えると、目の前に居る女性は少しだけ目を見開いた。
 ガルムの口から皇女だと発せられた上に、ロドル王国王太子の色を絶対に使うなと言われているのだ。

「かしこまりました」

 それでも、何故かと問う事はせず、少しだけ目を見開いた以外は何も変わらない様子の従業員に、教育が行き届いていると思う……けれど。

「ガルム……書類が、どうしたの?」

 ピシリ、と効果音が入ったかのように、ガルムの動きが止まった。
 個人的な事に立ち入ってはいけない事も理解しているけれど、ガルムの賢さは認めている。店としても十分教育が行き届いている。しかし以前、報告書で経理や書類が苦手と書かれていた事を思い出した。
 優秀で有能な者が変な所で足を引っ張られるのも正直ばかばかしい。国の経済や発展を考えれば、そんな所で躓かれるより、どんどん伸びて貢献して欲しいのだ。まぁ……ガルムがロドル王国で爵位を貰ってとどまっている事が何より悔しい気持ちもあるけれど。
 私が簡単にそういう気持ちでいる事を説明すれが、ガルムが言いにくそうに視線を反らす。

「皇女様にレストルズ商会、しいてはオーナーの事をそれだけ評価していただけるとは幸いです。僭越ながら私から説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「お願いできる?」

 必要なデザインだけ取り出して他のカタログを片付けた女性が申し出てくれる。
 その様子にガルムは更に視線を彷徨わせていたが、特に反論する様子もないのは話しても良いという事だろう。

「採寸しながらでも大丈夫でしょうか?ドレスはすぐにでも取り掛かりたいと思いますので」
「大丈夫よ」

 時間的にもあまり余裕がない事は理解している。我儘を言って無茶をさせる気もないので、それくらい大丈夫だ。むしろ失礼だとも思っていないと伝えると女性は安心したように息を吐いた。
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