上 下
18 / 35

18.優秀な裏には

しおりを挟む
「……」
「……お嬢様」
「別のお店を探しますか?」

 私は聞かなかった事として踵を返そうとした時、無情にもドアが私を出迎えるかのように開いた。

「あ、皇女様……?どうぞ」

 ガルムは私に気が付いて扉を開けたわけではなく、思わず逃げた先にたまたま居たのだろう。今気が付いたという感じで声を出した後、慌てて店内へと案内した。
 呆れて物が言えないというか、ため息をする気力さえもなく導かれるままに店内へと足を踏み入れれば、あれだけ大声で罵っていただろう従業員達も美しい笑顔と礼で私を迎え入れた。
 流石、有名なレストルズ商会だ。

「置いてあるものは、流石ですね」
「なかなか手に入らないとされているものまでありますね」

 ジェンとベルの声に、私も店内を見渡せば、各国の一流品ばかり取り揃えられていた。布や糸に関しても各国の物が揃っており、ノルウェット帝国やロドル王国だけではない国の衣装まで作る事も可能だろう。

「帝国風ドレスの制作と、それに合わせたアクセサリーとの事ですが、デザインはどうされますか」

 椅子を勧められ、女性に紅茶を出された後、別の女性がカタログのようなものを目の前で広げながら訊ねてくる。
 流石にガルムがここまでする事はないのね、と納得しながら私はパラパラとカタログをめくる。

「シンプルだけど質素に見えないものを」

 いくつかこんな形でと案を上げ、念押しのようにエメラルドグリーンや金の色を使わない事を伝えると、目の前に居る女性は少しだけ目を見開いた。
 ガルムの口から皇女だと発せられた上に、ロドル王国王太子の色を絶対に使うなと言われているのだ。

「かしこまりました」

 それでも、何故かと問う事はせず、少しだけ目を見開いた以外は何も変わらない様子の従業員に、教育が行き届いていると思う……けれど。

「ガルム……書類が、どうしたの?」

 ピシリ、と効果音が入ったかのように、ガルムの動きが止まった。
 個人的な事に立ち入ってはいけない事も理解しているけれど、ガルムの賢さは認めている。店としても十分教育が行き届いている。しかし以前、報告書で経理や書類が苦手と書かれていた事を思い出した。
 優秀で有能な者が変な所で足を引っ張られるのも正直ばかばかしい。国の経済や発展を考えれば、そんな所で躓かれるより、どんどん伸びて貢献して欲しいのだ。まぁ……ガルムがロドル王国で爵位を貰ってとどまっている事が何より悔しい気持ちもあるけれど。
 私が簡単にそういう気持ちでいる事を説明すれが、ガルムが言いにくそうに視線を反らす。

「皇女様にレストルズ商会、しいてはオーナーの事をそれだけ評価していただけるとは幸いです。僭越ながら私から説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「お願いできる?」

 必要なデザインだけ取り出して他のカタログを片付けた女性が申し出てくれる。
 その様子にガルムは更に視線を彷徨わせていたが、特に反論する様子もないのは話しても良いという事だろう。

「採寸しながらでも大丈夫でしょうか?ドレスはすぐにでも取り掛かりたいと思いますので」
「大丈夫よ」

 時間的にもあまり余裕がない事は理解している。我儘を言って無茶をさせる気もないので、それくらい大丈夫だ。むしろ失礼だとも思っていないと伝えると女性は安心したように息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

【完結】婚約者の好みにはなれなかったので身を引きます〜私の周囲がそれを許さないようです〜

葉桜鹿乃
恋愛
第二王子のアンドリュー・メルト殿下の婚約者であるリーン・ネルコム侯爵令嬢は、3年間の期間を己に課して努力した。 しかし、アンドリュー殿下の浮気性は直らない。これは、もうだめだ。結婚してもお互い幸せになれない。 婚約破棄を申し入れたところ、「やっとか」という言葉と共にアンドリュー殿下はニヤリと笑った。私からの婚約破棄の申し入れを待っていたらしい。そうすれば、申し入れた方が慰謝料を支払わなければならないからだ。 この先の人生をこの男に捧げるくらいなら安いものだと思ったが、果たしてそれは、周囲が許すはずもなく……? 調子に乗りすぎた婚約者は、どうやら私の周囲には嫌われていたようです。皆さまお手柔らかにお願いします……ね……? ※幾つか同じ感想を頂いていますが、リーンは『話を聞いてすら貰えないので』努力したのであって、リーンが無理に進言をして彼女に手をあげたら(リーンは自分に自信はなくとも実家に力があるのを知っているので)アンドリュー殿下が一発で廃嫡ルートとなります。リーンはそれは避けるべきだと向き合う為に3年間頑張っています。リーンなりの忠誠心ですので、その点ご理解の程よろしくお願いします。 ※HOT1位ありがとうございます!(01/10 21:00) ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載予定です。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...