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06.言質は書類に
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「……一度その目で様子を見て釘を刺してくるのはどうだ?」
「えぇ……めんど……いえ、私も私で執務がありますので」
「今、面倒くさいって言いかけただろ」
お父様の提案に旨味があると思えず、思わず本音を言いそうになった所をごまかしたけれど、ごまかしきれなかったようだ。家族だからと、取り繕う気苦労を背負っていない分、今の私はよく口が回ると自覚はするも、反省する気はない。
「リズに丸投げするつもりですか?」
お兄様もジト目でお父様を見ている。確かにそう受け取れる。帝国皇帝の一言で黙らす事も出来ると思うのだけれど……でも……。
「相手を見極めて、リズ自身が決めれば良いと思っているのだ。出来れば矯正して欲しいが……」
「矯正は親の仕事でしょう。それで結婚したくないと判断した場合、私の悠々自適生活はどこで出来るのですか?」
「馬鹿に嫁ぎたくはないのだろう!?」
お父様も色んな疲弊が溜まっているのか、爆発したように声を荒げた。
「もし婚約破棄となったら死ぬまで面倒見てやる!辺境の方で邸と使用人達を用意して悠々自適生活を送れば良い!とりあえず、皇女として婚約者の行いを、その目でしっかり見て釘を刺してこい!」
「父上!?」
「言質を取りましたわ!今すぐに書面を!!」
疲労困憊となっているお父様は、私に婚約者の手綱を握れと言いたいのだろうし、その為に動いて欲しいと思っている事は理解している。でも、言って良い事と悪い事はある。
お父様は、優先順位を今まさに間違えた。それに気が付いたお兄様は驚き声をあげ、止めようとしたが、その前に私が宣言した。言質を取ったと。
――私に皇女としての務めをして欲しい。
そんなものを優先してはいけない。私に自分の婚約者を繋ぎ止めて欲しかっただけだろうが、もう遅い。
気が付いたお父様は、顔を青くさせたが、机の上にスッと書類を差し出した。
『ノルウェット帝国皇女、リズ・ファ・ノルウェットがロドル王国王太子、ロス・ロドルに婚約破棄を言い渡された場合、ノルウェット帝国皇族がリズ・ファ・ノルウェットに辺境の地へ邸と使用人達を用意し、死ぬまで生活の面倒を見る』
悠々自適等、余計な文言は入れず、必要最低限の内容を抑えた書類だ。
「……皇族が……?」
「止められなかったお兄様も連帯責任でよろしいですよね?私が死ぬまでと先ほどお父様がおっしゃいましたし」
ニッコリ微笑む私に、お兄様までも頭を抱えた。
お父様が退位し、お兄様が皇帝になった場合でも私の生活は保障されないと困る。
私は素早く自分のサインをした後、ニコニコと微笑みながら、お父様とお兄様を見つめる。とっととサインしろという無言の圧をかけて。
「……あ……」
「……諦めましょう、父上」
既に放たれた言葉は戻る事がない。いくら家族といえども、お父様はもう少し気を引き締めるべきだったのだ。王族は、その一言で他人の人生を歪める事が出来るのだから、言葉には重々気をつけろという王族ならではの学びは基本中の基本だ。
お兄様は覚悟を決めたようにサインをし、お父様に書類を渡した。
お父様も項垂れつつ、その書類にサインをしたのを確認し、宰相にしっかり保管するよう伝えてもらう。きっと、この書類を見た宰相は頭を抱えてお父様に嫌味爆発させるでしょうけど。
「ならば私は隣国へ向かいますわ。ただ、ロドル王国の貴族学園へ留学という形にした所で、十八の冬で卒業となりますので……あと少しとなりますね」
私とロス殿下は十八歳だ。
本来であればロス殿下の卒業を待ってからこちらでの花嫁修業の後、向こうで王妃教育を施し、二十歳を目途に入籍予定だった筈。
私の言葉に、お父様とお兄様が安心したように息を吐く。
「えぇ……めんど……いえ、私も私で執務がありますので」
「今、面倒くさいって言いかけただろ」
お父様の提案に旨味があると思えず、思わず本音を言いそうになった所をごまかしたけれど、ごまかしきれなかったようだ。家族だからと、取り繕う気苦労を背負っていない分、今の私はよく口が回ると自覚はするも、反省する気はない。
「リズに丸投げするつもりですか?」
お兄様もジト目でお父様を見ている。確かにそう受け取れる。帝国皇帝の一言で黙らす事も出来ると思うのだけれど……でも……。
「相手を見極めて、リズ自身が決めれば良いと思っているのだ。出来れば矯正して欲しいが……」
「矯正は親の仕事でしょう。それで結婚したくないと判断した場合、私の悠々自適生活はどこで出来るのですか?」
「馬鹿に嫁ぎたくはないのだろう!?」
お父様も色んな疲弊が溜まっているのか、爆発したように声を荒げた。
「もし婚約破棄となったら死ぬまで面倒見てやる!辺境の方で邸と使用人達を用意して悠々自適生活を送れば良い!とりあえず、皇女として婚約者の行いを、その目でしっかり見て釘を刺してこい!」
「父上!?」
「言質を取りましたわ!今すぐに書面を!!」
疲労困憊となっているお父様は、私に婚約者の手綱を握れと言いたいのだろうし、その為に動いて欲しいと思っている事は理解している。でも、言って良い事と悪い事はある。
お父様は、優先順位を今まさに間違えた。それに気が付いたお兄様は驚き声をあげ、止めようとしたが、その前に私が宣言した。言質を取ったと。
――私に皇女としての務めをして欲しい。
そんなものを優先してはいけない。私に自分の婚約者を繋ぎ止めて欲しかっただけだろうが、もう遅い。
気が付いたお父様は、顔を青くさせたが、机の上にスッと書類を差し出した。
『ノルウェット帝国皇女、リズ・ファ・ノルウェットがロドル王国王太子、ロス・ロドルに婚約破棄を言い渡された場合、ノルウェット帝国皇族がリズ・ファ・ノルウェットに辺境の地へ邸と使用人達を用意し、死ぬまで生活の面倒を見る』
悠々自適等、余計な文言は入れず、必要最低限の内容を抑えた書類だ。
「……皇族が……?」
「止められなかったお兄様も連帯責任でよろしいですよね?私が死ぬまでと先ほどお父様がおっしゃいましたし」
ニッコリ微笑む私に、お兄様までも頭を抱えた。
お父様が退位し、お兄様が皇帝になった場合でも私の生活は保障されないと困る。
私は素早く自分のサインをした後、ニコニコと微笑みながら、お父様とお兄様を見つめる。とっととサインしろという無言の圧をかけて。
「……あ……」
「……諦めましょう、父上」
既に放たれた言葉は戻る事がない。いくら家族といえども、お父様はもう少し気を引き締めるべきだったのだ。王族は、その一言で他人の人生を歪める事が出来るのだから、言葉には重々気をつけろという王族ならではの学びは基本中の基本だ。
お兄様は覚悟を決めたようにサインをし、お父様に書類を渡した。
お父様も項垂れつつ、その書類にサインをしたのを確認し、宰相にしっかり保管するよう伝えてもらう。きっと、この書類を見た宰相は頭を抱えてお父様に嫌味爆発させるでしょうけど。
「ならば私は隣国へ向かいますわ。ただ、ロドル王国の貴族学園へ留学という形にした所で、十八の冬で卒業となりますので……あと少しとなりますね」
私とロス殿下は十八歳だ。
本来であればロス殿下の卒業を待ってからこちらでの花嫁修業の後、向こうで王妃教育を施し、二十歳を目途に入籍予定だった筈。
私の言葉に、お父様とお兄様が安心したように息を吐く。
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