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02.皇帝陛下への報告
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「こんな疲れる視察、報告書だけで充分ですわ」
「帰ったら報告に来るよう言っていたよ」
まだまだ続く仕事に私は項垂れた。
帰ったら気分が落ち着くハーブティでも飲んで、湯あみをして、マッサージをしてもらってから、ぐっすり寝て忘れようと思っていたのだ。
あんな現実を度外視した駄作品なんて、記憶に止めておくだけ勿体ない。記憶容量に入れたくもない程だ。
それこそ覚えるべき事は山ほどあるのだから、諸外国の特産品を1つでも頭に叩き込む方が有意義だと言うもの。
「気分を害すだけのものを、どうして報告しなくてはいけないの……」
口に出す事も嫌なのに、と盛大な溜息を吐く私を見て、お兄様は少し苦笑をしながらも頷いていた。
「舞台はどうだった?」
帰るなり私とお兄様はお父様の執務室へ案内され、入室した際にお父様から放たれた第一声がそれだった。
親子だからか小金色の瞳は同じだが、お父様の髪色は赤だ。
お父様は仕事をしているのかと思いきやソファに座って私達を待っており、既にお茶やお菓子がテーブルの上には用意されていた。
つまり、時間がかかるという事だろう。詳しく話す以外にも何かありそうだ。
素早く休みたかった私は、不機嫌さや疲れた表情を隠す事もなく無言でお父様の対面へと着席し、率直な意見を述べた。
「私は真実の愛に目覚めたのだ!……なーんて、とても陳腐な言葉ですこと」
「面前で、浮気をした有責者からの婚約破棄など、人道的にも問題あると思える」
お兄様もハッキリした意見を述べ、その言葉を聞いたお父様は頭を抱え出した。
「平民の娯楽には良いかと思いますが、これを楽しんでいる貴族はどれだけ低能なのでしょう」
「器が知れるというものだな。まぁ舞台そのものを楽しんでいると思うならば……いや、それでも趣味が悪い。反逆の意思がなければ良いが」
「難しく考えすぎですわ、お兄様。取捨選択ができるのではなくて?」
お兄様は何でも不安要素の先回りをしすぎだと思う。むしろあの舞台を楽しんでいる貴族は頭が悪いという事で近くに置かないという選択が出来ると思えば、楽ではないのか。
紅茶を飲んで疲れを少しだけ癒していると、お父様から長い長~~~~い溜息が聞こえた。
「…………」
「父上?」
あえて無言を貫き通す私と違い、声をかけるなんて、お兄様は本当に優しい。 それでも私は無視するかのように、お菓子へと手を伸ばす。
「……実は……あの舞台に振り回されるかのように、各国で婚約破棄が流行しておるのだ」
「……は?」
「…………だからここ最近、お父様は老け込んだのですね」
「まだハゲてはおらんぞ!?」
誰もハゲているとは言っていない。確かに頭髪は少し寂しくなっているとは思っていたけれど、髪がないとは言っていない。あえてそれを口に出しては言わないけれど。
「もう少し皇女らしく言葉には気を付けたらどうだい?……お疲れ気味でしたね、とか」
「皇女らしくと言われても、れっきとした皇女ですから」
お兄様が注意するも、事実は事実であり、どう足掻いても変えられないのである。私は私だと言う意味を込めて口を開けば、お父様とお兄様は呆れたように溜息をついた。今更だ。
そう、私リズ・ファ・ノルウェットは、このノルウェット帝国の皇女だ。
兄であるロータス・ファ・ノルウェットは立太子をすませ、皇太子として政務に励んでいる。そして、頭が寂しくなってきたお父様はギル・ファ・ノルウェットと言い、皇帝だ。
国政の半分はお兄様へ任し、早々に退位しても問題ないよう準備をしている筈だ。……それなのに、いきなり頭髪が寂しくなるとは、年齢を重ねた以外の理由は、先ほど述べていた各国の婚約破棄騒動だろうと予測した。
「帰ったら報告に来るよう言っていたよ」
まだまだ続く仕事に私は項垂れた。
帰ったら気分が落ち着くハーブティでも飲んで、湯あみをして、マッサージをしてもらってから、ぐっすり寝て忘れようと思っていたのだ。
あんな現実を度外視した駄作品なんて、記憶に止めておくだけ勿体ない。記憶容量に入れたくもない程だ。
それこそ覚えるべき事は山ほどあるのだから、諸外国の特産品を1つでも頭に叩き込む方が有意義だと言うもの。
「気分を害すだけのものを、どうして報告しなくてはいけないの……」
口に出す事も嫌なのに、と盛大な溜息を吐く私を見て、お兄様は少し苦笑をしながらも頷いていた。
「舞台はどうだった?」
帰るなり私とお兄様はお父様の執務室へ案内され、入室した際にお父様から放たれた第一声がそれだった。
親子だからか小金色の瞳は同じだが、お父様の髪色は赤だ。
お父様は仕事をしているのかと思いきやソファに座って私達を待っており、既にお茶やお菓子がテーブルの上には用意されていた。
つまり、時間がかかるという事だろう。詳しく話す以外にも何かありそうだ。
素早く休みたかった私は、不機嫌さや疲れた表情を隠す事もなく無言でお父様の対面へと着席し、率直な意見を述べた。
「私は真実の愛に目覚めたのだ!……なーんて、とても陳腐な言葉ですこと」
「面前で、浮気をした有責者からの婚約破棄など、人道的にも問題あると思える」
お兄様もハッキリした意見を述べ、その言葉を聞いたお父様は頭を抱え出した。
「平民の娯楽には良いかと思いますが、これを楽しんでいる貴族はどれだけ低能なのでしょう」
「器が知れるというものだな。まぁ舞台そのものを楽しんでいると思うならば……いや、それでも趣味が悪い。反逆の意思がなければ良いが」
「難しく考えすぎですわ、お兄様。取捨選択ができるのではなくて?」
お兄様は何でも不安要素の先回りをしすぎだと思う。むしろあの舞台を楽しんでいる貴族は頭が悪いという事で近くに置かないという選択が出来ると思えば、楽ではないのか。
紅茶を飲んで疲れを少しだけ癒していると、お父様から長い長~~~~い溜息が聞こえた。
「…………」
「父上?」
あえて無言を貫き通す私と違い、声をかけるなんて、お兄様は本当に優しい。 それでも私は無視するかのように、お菓子へと手を伸ばす。
「……実は……あの舞台に振り回されるかのように、各国で婚約破棄が流行しておるのだ」
「……は?」
「…………だからここ最近、お父様は老け込んだのですね」
「まだハゲてはおらんぞ!?」
誰もハゲているとは言っていない。確かに頭髪は少し寂しくなっているとは思っていたけれど、髪がないとは言っていない。あえてそれを口に出しては言わないけれど。
「もう少し皇女らしく言葉には気を付けたらどうだい?……お疲れ気味でしたね、とか」
「皇女らしくと言われても、れっきとした皇女ですから」
お兄様が注意するも、事実は事実であり、どう足掻いても変えられないのである。私は私だと言う意味を込めて口を開けば、お父様とお兄様は呆れたように溜息をついた。今更だ。
そう、私リズ・ファ・ノルウェットは、このノルウェット帝国の皇女だ。
兄であるロータス・ファ・ノルウェットは立太子をすませ、皇太子として政務に励んでいる。そして、頭が寂しくなってきたお父様はギル・ファ・ノルウェットと言い、皇帝だ。
国政の半分はお兄様へ任し、早々に退位しても問題ないよう準備をしている筈だ。……それなのに、いきなり頭髪が寂しくなるとは、年齢を重ねた以外の理由は、先ほど述べていた各国の婚約破棄騒動だろうと予測した。
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