【完結】目指すは婚約破棄からの悠々自適生活!

かずきりり

文字の大きさ
上 下
1 / 35

01.婚約破棄劇場

しおりを挟む
「私は真実の愛に目覚めたのだ!お前とは婚約を破棄し、この娘と結婚する!」

 衆人環視の中で、声高々に叫び宣言する男は、隣に居る女性の腰を引き寄せ、前に居る女性には鋭い視線を向ける。
 この男は高位貴族で、隣に居る女は平民だ。だけれど、男が送ったとされる煌びやかなドレスは、男の独占欲を示すかのように男の髪や瞳の色で染められていた。

「まぁ!嬉しいです!」
「なんて事を……っ!」

 男に引き寄せられている女性は、喜びを隠しきれない表情で男の腰に抱き着いているが、婚約破棄を言い渡された女性は悔しそうに唇を噛みしめて扇を握り締めている。
 これだけ騒ぎになっているのに、周囲は遠巻きに様子を見ているだけに留まっている。

「君が嫉妬でこの娘を虐めていた事は知っている……そんな君を愛する事はない!むしろ、そのおかげで真実の愛に気づかされたと言っても過言ではない!その部分は感謝しているよ」

 嫌味にしか取れない言葉。その言葉に女性の悔しそうな表情が怒りの表情に変わった。
 虐めのお陰で気が付けたのは真実の愛ではなく、婚約者女性に対する嫌悪感のみではないのか。
 そもそも虐め云々を追求する前に、自分達の教育はどうなのかと問いたい。
 未婚女性が、正式に婚約解消されていない男性にむやみやたらと触れるものではないし、男性側の行動は浮気としか取れないのだ。

「私は……真実の愛を貫くと、ここに宣言しよう!愛すべき者を妻に迎える事を誇りに思う!そして、より一層、民の為に尽くそうと誓う!」

 学がない女を嫁に貰ったとして、女主人としての仕事が出来るとでも?それなのに民の為に尽くすというのは、どういう事なのか。
 しかし、そんな私の思考とは正反対に、おぉおおおお!と、周囲から歓声が沸き上がる。
 それと同時に、婚約者であった女性は膝から崩れ落ち、照明が消えていき、拍手が巻き起こった。

 ――これは、過去にあった話を元にして作った台本です。

 最終を飾るように放たれた言葉と共に幕が下り、舞台は終了となった。





「陳腐ですわね。見ているだけで疲れました」

 私は赤みがかったオレンジの、お尻が隠れるくらいまで長いロングの少しウェーブがかった髪が乱れるのも気にせず、馬車へ深く腰掛ける。

「……不愉快でしかないが……」

 馬車の中、隣に座るお兄様は頭を抑えながら考えこんでいる。襟足まで伸びた赤みがかったオレンジの髪に、少し長めの前髪を左右に分けている為、少し俯けば顔が隠れてしまう。
 髪の間から見える小金色の瞳は疲れ切っているようだ。
 私の瞳も小金色で、傍目から見たらすぐ兄妹と分かる色だ。

「視察とは言え、苦痛ですわね」

 今日はお父様に言われ、お兄様と共に大人気の舞台へと身分を隠して視察へ来たのだ。
 この舞台は、今各国の民衆のみならず貴族にまで人気を博していて、過去に起こった話を元に上演されている。

「思わず眠りそうでした」
「俺は帰りたかった」

 溜息をつきながら率直な意見を漏らす。
 ……貴族が起こした真実の愛騒動。
 それは醜聞とされ、歴史と共に忘れ去られていくけれど、確かに語り継がれている内容ではある……が、元にしているだけだ。
 真実であれば、領地は直ぐに傾くし、高位貴族がそんな事をしでかしては国が傾く事になってもおかしくはない。あくまで、史実に乗っ取った都合良いとこ取りの舞台だ。
 それでも成り上がる系は人気を博すのか、それとも希望を見出すのか、その人気は留まる所を知らない。
 平民からしてみれば夢のようなシンデレラストーリーという事もあるだろう。まぁ、夢を見るのは勝手だが。
しおりを挟む
ツギクルバナー

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...