上 下
8 / 15

08

しおりを挟む
 精霊の祝福。その儀式が行われる今日、王都はお祭り状態だった。
 既にシャラが精霊の愛し子だと確定する日なのだと、民だけではなく協会や王族までもが信じている。
 それ程、ターナー公爵家の娘が九死に一生を得たという奇跡が強い。
 お祭りムードが占めている中、私は一人馬車に乗り協会へ向かう。
 父や義母は、シャラをめかし込ませた上、三人で共に協会へ向かったからだ。

『許せない』
『女神様だって自分の子どもだろう!』

 私の代わりに怒りを言葉にしてくれる精霊達。

『僕たちの姿が見えないのに、何が愛し子だ』
『性悪は所詮性悪なんだ』
『成長しても性悪なんだ』
『むしろ性悪も成長した』

 言いたい放題の精霊達は、今にも地面を揺らしそうだ。

「……まだよ……」

 そう、まだ――。

 止める私に、精霊達も意をくんだよう頷く。







 協会へ着けば、最後に儀式を受けるだろうと思っていたシャラが、最前列で殿下と並び座っている。
 どういう事かと思えば、そこは目立ちたがり屋のシャラ。自分が最初に儀式で確定させ、殿下は王太子となり民衆パレードを行うというのだ。
 ……どこから、そんな自信が現れるというのか。
 溜息をつきながらも、私は端の席へ座る。
 時間になり、いつもは神殿の奥へと隠されている女神像の前へ堂々と立つシャラ。
 愛し子であれば、女神像へ手をかざすとされている。そんな女神像に何かあってはいけないと、いつもならば奥深くで保管されており、この日だけ外へと出されるのだ。

「私が愛し子よ」

 そんな言葉を放ちながら、女神像へ手をかざすシャラ。
 しかし、女神像が光る事はない。

「え?あれ?」

 何度も手をかざすシャラだが、一向に何も起こらない。
 周囲からも、どういう事だと騒めきだす。

「……女神像の保管に問題があったのでは?」
「かもしれませんね」

 殿下がそんな事を言えば、周囲は頷く言葉を返す。
 ……心底、呆れかえる。
 私が守ってきたものは何だったのかと。

『もういいよね』

 ――ガラガラガラッ!!

『自分が信じたいものだけ信じるなんて』
『信じるべきは女神様だろう』

 怒った精霊達は、協会の屋根を吹き飛ばし、周囲の壁を崩していく。

 キャァアアアアアアッ!
 どういう事だ!?
 何が起こった!?

 ――まさか、女神様がお怒りなのでは!?

 誰が叫んだか分からないが、その言葉に皆ピタリと立ち尽くし、シャラの方を見る。

「そんな事ないわ!だって皆が私を精霊の愛し子だと!」
「……精霊を見た事は……?」

 疑問が疑問を呼ぶ中、そんな言葉が返される。
 そんな当然の事を、どうして今の今まで気が付かないのだろう。

「シャラは!九死に一生を得たではありませんか!」
「しかし!女神像が反応しないどころか、協会が崩れたんだぞ!」

 義母まで参戦して、言い争いが起こる中、シャラが現実を認めたくないと言わんばかりに叫んだ。

「私は!精霊の愛し子です!」
『トドメだ。もう知らない』
『女神像の前で、女神様を愚弄するな』
『所詮これは作り物』

 そう言った精霊達は、女神像を――壊した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

覚えてないけど婚約者に嫌われて首を吊ってたみたいです。

kieiku
恋愛
いやいやいやいや、死ぬ前に婚約破棄! 婚約破棄しよう!

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」 ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。 婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。 当然ながら、アリスはそれを拒否。 他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。 『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。 その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。 彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。 『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。 「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」 濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。 ······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。 復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。 ※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください) ※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。 ※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。 ※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

処理中です...