上 下
6 / 15

06

しおりを挟む
 テオ・ローウィック。
 まだ家族仲良かった、4歳の頃に行き倒れていたテオを助けた事がきっかけだった。
 当時7歳のテオが何故行き倒れていたのかは分からないし、テオもそれに関しては口を閉ざしていた。
 それをきっかけとして遊ぶようになったとき知ったのは、剣を持たせてみれば、剣術に関しては大人顔負けという事だけだ。
 それならと当時の私は王国騎士団へ推薦する事にした。テオも面白そうだと受けて、見事に受かった。
 それが今では第一王子アーロンの護衛騎士にまでなっているのだが……それで婚約破棄も知ったのだろう。

「仕事は大丈夫なの?」
「そんな事はどうでも良い!」

 そんな事って……言いそうになりながらも、ここまで人に心配してもらえたのは、いつぶりだろうか。

「リタ。何があった?」

 テオの真剣な瞳に、私は口を開いて、そのまま言われた事を告げた。
 シャラが精霊の愛し子だから。
 所詮ただの政略結婚だから。
 第一王子が立太子する為の婚約だったから。
 私には何もないから。

「……ふざけるな……どういう事だ!?そのふざけた理由は!」
「もう、いいの」

 真剣に怒ってくれるテオには申し訳ないが、。国を守っていく支えを失った私には、本当にもうどうでも良い。
 ただ、この優しさが……少し心地いいと思えるのは、やはり人間として今を生きているんだなと思う。

「……アーロン殿下に怒鳴り込んでくる」
「やめて!」

 そうなったらテオがどうなるか。
 所詮ただの婚約破棄なのだ。
 婚約者がターナーの姉から妹に代わっただけなのだ。
 こんな事でテオの一生を棒に振るってしまうわけにはいかない。

「でも!」
「いいの!!」

 私の声に驚いたテオは、一瞬怯んだ。

「……もういいの……」
「……そうか……」

 本当にもう、何もかもどうでも良くなってきたの。
 そんな言葉が心に浮かんだ時、頭に軽く重みがかかる。それがテオに撫でられている事だと理解するのには少し時間がかかった。

「……大丈夫だから、ちゃんと仕事してね?ちゃんと護衛騎士として」
「おう、我慢する」

 顔を上げると、心配そうに微笑んでいるテオが目に入った。
 そんなテオに感謝の気持ちを持ちつつも自分の職務を全うするよう伝えると、眉間に少し皺を寄せて、嫌そうに言いながら口を尖らせた。
 ……もう18になるというのに。
 テオの幼さに思わず笑みがこぼれると、テオは少しだけ安心したように息を吐いた。

「冗談だって。またな」
「またね……」

 婚約者が出来て、疎遠になっていたテオの、またという言葉が胸に広がる。
 ほとんど会っていなかったのに……こうして来てくれるなんて……。
 
『女神様、良かったね』

 精霊達の声を聞きながら、またも私は笑みをこぼした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。 理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。 あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。 逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。 しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。 それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。 アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

冷遇された王女は隣国で力を発揮する

高瀬ゆみ
恋愛
セシリアは王女でありながら離宮に隔離されている。 父以外の家族にはいないものとして扱われ、唯一顔を見せる妹には好き放題言われて馬鹿にされている。 そんな中、公爵家の子息から求婚され、幸せになれると思ったのも束の間――それを知った妹に相手を奪われてしまう。 今までの鬱憤が爆発したセシリアは、自国での幸せを諦めて、凶帝と恐れられる隣国の皇帝に嫁ぐことを決意する。 自分に正直に生きることを決めたセシリアは、思いがけず隣国で才能が開花する。 一方、セシリアがいなくなった国では様々な異変が起こり始めて……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

婚約破棄された悪役令嬢が実は本物の聖女でした。

ゆうゆう
恋愛
貴様とは婚約破棄だ! 追放され馬車で国外れの修道院に送られるはずが…

処理中です...