上 下
2 / 15

02

しおりを挟む
 この土地が欲しいと近隣の国が攻め込んできたとしても、絶対に落とされる事はない。天候がミシェル王国の味方をするから、何故か攻め込んできた兵士達は土砂に巻き込まれたり、雨で流されたりなどするからだ。
 ミシェル王国に辿り着いた頃には兵力は半分以下、しかも皆疲弊している状態だったりする。
 その為、人々は皆、精霊に祈り感謝をし、日々暮らし生きている。

 そんなミシェル王国は、初代国王と女神との間に二子をもうけたとされている。
 第一子である男児は、次期国王として王族の血を繋ぎ、第二子である女児は、この国唯一の公爵の位を貰った。
 唯一の公爵家は、王家と共に代々続く女神の血筋。それが、我がターナー公爵家なのだ。
 そんな我が公爵家と王家との間で婚約が結ばれたのは、側室に王子が生まれた事に焦った正妻である王妃が、自分の子どもが立太子する基盤を固めようと無理に押し通して、第一王子であるアーロン・ミッチェルと私、リタ・ターナーとの婚約を私が五歳の時に決めた。
 ……私は、それでも良かった。
 政治の発言力とか、権力の傾きとか、そんなのはどうでも良い。
 ……ただ、愛する人と作った国の……愛すべき子孫達が、豊かに暮らしていけるのであれば……それだけで良かった筈なのに。

「あーもう最悪!雨が降ってくるなんて!」
「今度からは商人を邸に呼びましょう」

 買い物から帰ってきただろう二人の不愉快な声が聞こえる。

『ざまぁみろだ』
『女神様を蔑ろにするからだ』

 手のひらサイズの人型に羽が生えた姿をしている精霊達は、私の周りを楽しそうに飛んでいるが、人の目に見える事はない。
 私が精霊を認識する事が出来るのは……私が女神の生まれ変わりだからだ。

「二人共、大丈夫か?今日はゆっくり家族団らんで食事でもしよう」

 父の声が聞こえてくる。
 今日は早く仕事を終えたのだろうか。

「あなた、リタはまたシャラをいじめたのよ。罰として呼ばなくて良いわ」
「そうか」

 義母がそう言えば、父はそれ以上言う事もなく、私も呼ばれる事はない。

『腐ったな、ターナー公爵家も』
『女神様の血筋を何だと思ってるんだ』
『それでも女神様の家族だから大事にしていたのに』

 私以上に憤りを感じている精霊達が、更に雨を降らせ、雷を鳴らせる。

「……国を……民を困らせるような事はしないでね」

 私の言葉に、精霊達は返事をする事はないが、不満そうな顔をしながらも雨を弱らせていく。
 恩恵程度の雨ならば必要だけれど、それ以上は必要ないのだ。

『……昔は女神様の事も、ちゃんと大事にしてくれていたのに』
『……僕たちのせいだ……』

「そんな事ないわよ」

 落ち込む精霊達に、そう声をかける。
 ……そう、変わってしまった過去を思い出しながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。 理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。 あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。 逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。 しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。 それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。 アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

冷遇された王女は隣国で力を発揮する

高瀬ゆみ
恋愛
セシリアは王女でありながら離宮に隔離されている。 父以外の家族にはいないものとして扱われ、唯一顔を見せる妹には好き放題言われて馬鹿にされている。 そんな中、公爵家の子息から求婚され、幸せになれると思ったのも束の間――それを知った妹に相手を奪われてしまう。 今までの鬱憤が爆発したセシリアは、自国での幸せを諦めて、凶帝と恐れられる隣国の皇帝に嫁ぐことを決意する。 自分に正直に生きることを決めたセシリアは、思いがけず隣国で才能が開花する。 一方、セシリアがいなくなった国では様々な異変が起こり始めて……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

婚約破棄された悪役令嬢が実は本物の聖女でした。

ゆうゆう
恋愛
貴様とは婚約破棄だ! 追放され馬車で国外れの修道院に送られるはずが…

処理中です...