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「何を…」
「そうなんですか?それは安心いたしました!」

シンス殿下のお言葉に被せたのは不敬だと思いますが、ラドリック殿下のお言葉がとても嬉しくて、感情の起伏を表面に出さないよう訓練されたのも忘れ、満面の笑顔を浮かべてしまう。
むしろ何があっても追放されないのであれば、もう少し自由にしていても良かったのかもしれないと思いつつ、私の何よりの癒しは『あの時間』なので、同じ事かもしれない。

「それでは私はこれで失礼いたしますわ。最低限の礼儀としてエスコートの問題などがあると思いまして出席いたしましたが、これですもの。これから登城したいと思っていますが…それはどうなるのでしょう?」
「そうだね、アーク嬢はその為だけに兄様と婚約したんだもんね」

ラドリック殿下が、僅かに吹き出しそう言うと、周囲にいる貴族達も微笑ましい表情をする。

「殿下を見てなくて、煌びやかな生活だけ見ていたってことですか!?」
「結局は権力か」

冷ややかな周囲の視線が二人に集まる。
もしかして、この二人はこの国の歴史を知らない…?仮にも片方は第一王子なわけですが…。

「大丈夫だよ、マーガレット。年齢的な問題もあり、王様の押しもあって第一王子が相手だっただけで、こうなったら第二殿下が婚約者になるだけだよ。マーガレットの立場が変わることはない」
「お父様!」
「アーク侯爵、この度は兄が大変失礼いたしました。マーガレット様との婚約をお許しいただきありがとうございます。」

お父様の登場に、ラドリック殿下の言葉で、周囲が少しだけザワついた。
私的には今まで通りに暮らせるのなら何も問題はない。
婚約者が誰だろうと正直興味はない。
生活に不便じゃない程度に歩み寄れて、お互い良きパートナーとして尊重できれば、そこに恋愛感情なんてなくても良いのだ。
私の愛は別に注がれているのだからーー。

「どういうことだ?マーガレットはたかが侯爵令嬢だろう!」
「あぁ、そうそう伝え忘れていました。国王は退位、第一王子は廃嫡が決定しております」
「なっ!」
「どういう事ですか!?」

お父様の言葉に目を見開いて驚く二人。特にココット嬢の食いつきは凄まじい。
あれ?私の立場ってそんな大層なものでしたかしら?

「聖獣様の決定です」

シレっと言うお父様だけど、多分今までの反応からして、市井の子ども達ですら知っている『聖獣』に関して二人は知らないと思いますよ?
そしてそんな二人を置いた状態で、周囲は歓喜の声と拍手の渦に震えた。

「おめでとうございます!」
「マーガレット様が追放なんてありえません!」
「さすが聖獣様!わかってらっしゃる!」
「国が守られたー!」
「義務と権利を履き違えるなー!」

狼狽えるシンス様は、自分や父親がバカにされた言葉が入っていたことに気がついてはいなさそうですね。

「…聖獣様のお世話係って、そんな大したことないと思うんですけどね…」

ポツリと呟いた私の言葉に、シンス殿下とココット嬢は凄い勢いでこちらに視線を向けてきた。
いや、だってただのお世話係ですよ?
代わりがいるようなものですよ?
それでも、私の『最大の癒し』は聖獣様と会う時間で、聖獣様は王城の地下にある聖なる泉が湧く周囲にしか居ることができないので、追放は何がなんでも避けたかった。
それにそもそも婚約も「王子と婚約しちゃえば王城の出入りフリーパス!お世話時間以外も登城できて、もっと聖獣様と一緒にいられるぜ!」なんて言葉に乗っただけである。
重要な事なので再度言います、そこに愛情なんて一欠片もない。
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