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81.こんなルート知りません

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舞うように軽やかに身体が動く度、的確に相手の急所を付いて意識を奪っていく。
破落戸の動きもそれなりなのに、カローラはそれ以上に美しく素早く身をこなす。あの柔らかに見える動きは侯爵令嬢としての教育から滲み出たものなのだろうか、とさえ考えてしまう程だ。
時間にして数秒なのかもしれないが、劇の一幕を見ていたかのような時間に思え、全員が地に伏した時でさえ誰も言葉を発せなかった。
ポピーも、私も…………そしてジルベールさえ。

「……えっ」

一息ついた後に私の存在に気がついたカローラは、一瞬だけ笑みを浮かべたが、私の隣に居る人に気が付くと、すぐその顔を強ばらせ、短く声をあげた。
ポピーもその声に反応するかのように、ジルベールへ視線を向けると、私の方へ心配そうに走り寄ってきた。
私達三人は全員がジルベールへ視線を向け、彼の動向を注意深く探った。本来のルートではヒロインが破落戸に囲まれて、ヒロインは果敢に挑んで行くのだが……ヒロインは腕力で叶わず、結局ジルベールが結果的に助けたという訳だが……今回は舞台が似ていても悪役令嬢だし、更にいうならばジルベールは助けていない。
言ってしまえば見ていただけだ。令嬢らしからぬカローラの行動を。
……何かセドリックが好きそうな場面だな、なんて思っていたら、ジルベールがカローラへ向けて一歩踏み出した。
その行動にカローラの肩が目に見えて分かる程に上下し、私とポピーは息を飲んだ。

「カローラ嬢」

ジルベールがそう口にすると、カローラの前に膝をついた。
その行動に私やポピーだけでなく、カローラも目を見開いて驚く。

「その身のこなし、身体能力。とても素晴らしい!惚れ込みました。将来王太子妃となる貴女を守れる事を誇りに思います」
「……はぁっ!?」

そもそも乱暴的な言葉使いのジルベールが丁寧な言葉で!?膝をついて!?カローラに忠誠を誓うかのように、手の甲に口づけをした瞬間、カローラの口から悲鳴にも似た叫び声が漏れた。

「こんなルート知らない……」
「……暴力で支配する者が暴力で支配されたの……?」

私の呟く言葉にポピーがそう返したが、カローラはジルベールに対し暴力をふるったわけではない。むしろ、あの舞うような身体能力だろうか……。舞うように美しい撃退方法。言い換えれば、そう受け取っても良いのかもしれない。
目を輝かせて視線を向けるジルベールに、パニックを起こしているだろうカローラがこちらへ救いを求めるかのように視線を向けたが、私とポピーは完全にシンクロした動作で諦めろという意味を込めて首を横に振った。
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