70 / 88
70.魔物という存在
しおりを挟む
しかし、一体こんなところで何をすると言うのだろう。そんな疑問がリディアの脳裏をよぎったけれど、ディアスの正気を失った目を見ていたら、絶対に何かをするだろうと思えた。
「聖獣なんて居ない……獣人は人間より下なんだ……魔獣は討伐されるべき存在だ!」
ディアスは叫んだかと思ったら、何やら聞いた事のない言葉を紡ぐ。背後に迫っていた騎士達から、禁術!?と叫ぶ声が聞こえた。
勉強嫌いと言っても、禁術は使えるのかと思えてしまう。押し込み方式の勉強術……リディアは元居た世界を思い出してそんな事を思ってしまう。リディアも勉強なんて大嫌いだったけれど、自分の好きな事だけはのめりこむ事ができた。それが仕事になるのか……と言われれば、そうでもなかったけれど。この世界よりは多種多様な生き方があったように思える。まぁ、この世界ほど勝ち負けがハッキリしてるわけでもないけど。
所詮、ヒロインであるリディアは勝ち組であって、それ以外ないのだ。むしろ勝ち組でなければいけないと強く思う。
「うわぁあ!」
「逃げろ!」
「団長を呼べ!」
「陛下に報告だ!」
頭上に黒く大きな渦状の雲が集まり始める。それはどんどん広がり、周囲に太陽の光が届かなくなって薄暗い空間に呑まれたかのようだ。周囲に居た人達は、恐怖によって腰を抜かす人も居れば、上司の判断を仰ごうと走り去っていく者もいる。ほとんどが侍女や使用人達な為、ただただ震えて頭上を眺めているだけだ。
そんな中リディアも、ただ好奇心とこれから何が現れるだろうという楽しみから、目を輝かせてその雲を見入っている。
「来い!」
王都全体を飲み込むかのような渦を巻く黒い雲に向かい、そうディアスが叫ぶと、そこには大きな鳥のような影が見えた。その影を見た侍女や使用人達は、蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げながら逃げ去った。まだ残っているのは、騎士や兵士など腕に自信のある者だけだ。
「あ……あれは……」
雲が晴れていき、その姿がうっすら目視出来るようになってくると、誰かがその名前を口にした。
「ワイバーン!?」
「伝説上の生き物じゃなかったのか!?」
「魔物だ!」
魔獣は、魔物と獣を掛け合わせたものだと言われている。けれど魔物なんて書物の中に描かれているだけの存在だったから、聖獣と同じく伝説上の生き物とされていたのだが――。
「な……なんで……」
禁術を使って呼び出した当の本人であるディアスまでも腰を抜かして頭上に居る生物を眺めている。リディアも……まさか伝説上の生き物が登場すると思わず、呆けたままその姿を見ている事しかできなかった。
――伝説ではなく、実在する。
そう、目の前で実現させてしまったのだから。
「聖獣なんて居ない……獣人は人間より下なんだ……魔獣は討伐されるべき存在だ!」
ディアスは叫んだかと思ったら、何やら聞いた事のない言葉を紡ぐ。背後に迫っていた騎士達から、禁術!?と叫ぶ声が聞こえた。
勉強嫌いと言っても、禁術は使えるのかと思えてしまう。押し込み方式の勉強術……リディアは元居た世界を思い出してそんな事を思ってしまう。リディアも勉強なんて大嫌いだったけれど、自分の好きな事だけはのめりこむ事ができた。それが仕事になるのか……と言われれば、そうでもなかったけれど。この世界よりは多種多様な生き方があったように思える。まぁ、この世界ほど勝ち負けがハッキリしてるわけでもないけど。
所詮、ヒロインであるリディアは勝ち組であって、それ以外ないのだ。むしろ勝ち組でなければいけないと強く思う。
「うわぁあ!」
「逃げろ!」
「団長を呼べ!」
「陛下に報告だ!」
頭上に黒く大きな渦状の雲が集まり始める。それはどんどん広がり、周囲に太陽の光が届かなくなって薄暗い空間に呑まれたかのようだ。周囲に居た人達は、恐怖によって腰を抜かす人も居れば、上司の判断を仰ごうと走り去っていく者もいる。ほとんどが侍女や使用人達な為、ただただ震えて頭上を眺めているだけだ。
そんな中リディアも、ただ好奇心とこれから何が現れるだろうという楽しみから、目を輝かせてその雲を見入っている。
「来い!」
王都全体を飲み込むかのような渦を巻く黒い雲に向かい、そうディアスが叫ぶと、そこには大きな鳥のような影が見えた。その影を見た侍女や使用人達は、蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げながら逃げ去った。まだ残っているのは、騎士や兵士など腕に自信のある者だけだ。
「あ……あれは……」
雲が晴れていき、その姿がうっすら目視出来るようになってくると、誰かがその名前を口にした。
「ワイバーン!?」
「伝説上の生き物じゃなかったのか!?」
「魔物だ!」
魔獣は、魔物と獣を掛け合わせたものだと言われている。けれど魔物なんて書物の中に描かれているだけの存在だったから、聖獣と同じく伝説上の生き物とされていたのだが――。
「な……なんで……」
禁術を使って呼び出した当の本人であるディアスまでも腰を抜かして頭上に居る生物を眺めている。リディアも……まさか伝説上の生き物が登場すると思わず、呆けたままその姿を見ている事しかできなかった。
――伝説ではなく、実在する。
そう、目の前で実現させてしまったのだから。
13
お気に入りに追加
742
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる