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26.覚悟ーフィン
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「……どうしてシアにこだわる?自分の身はどうでも良いのか?シアにも危険が及ぶ可能性もあるのだぞ」
俺の言葉に、公爵が疑問を投げかける。そりゃそうだろう。バレたら自分の身が危ういだけではない。隷属の契約を施すならまだしも、契約しないという選択をしたのであれば、きっと大変と言うだけでは済まされない事になる。
「俺は人の温もりに飢えていました……」
ごまかした所で通用しないと思った俺は正直に話した。獣人は人間を敵視していると言うけれど、俺はそんな事もない。敵意というより諦めに近かったが、諦めきれてもいなかった。
だから温もりをくれたシアを、その心を……優しさを……側で見守りたい。
その言葉を黙って聞いていた公爵はため息を吐き出した。
「まさか、シアのような考えを持つ者が獣人にも居たとは……」
お互いを知らなくても、そう学び教わるからこそ、凝り固まった固定観念を洗脳のように思いこみ、自然と差別を起こしている。それは悪気もなく、ただの正義だと言わんばかりに。
「シアに対する忠誠心は完璧か……」
親馬鹿。そんな言葉が脳裏をよぎる程、公爵も結局は人の親なのだという事が理解できる。俺の人となりというよりは、どれだけシアの利になるかを考えているし、不利になる事も念頭にいれている。当たり前と言えば当たり前の事なんだけれど……。
「分かった。ならば怪我は治ったものとして、野に放ったとする。お前は人の姿をしたまま、人間の事を学べ。あと護身術もだ。それが習得出来なければ雇わない。諦めて出ていけ」
「はい!」
それからは必死に勉強した。子犬は怪我が治ったから野に返したと言われたシアが、最後のお別れをしたかったと悲しんでいる姿を影ながら見た事も頑張る気力に繋がった。
――シアの為に。
――何より自分の為に。
そうして頑張った結果、1か月後には武術、学力共に問題なしと公爵に判断された。いくら何でも早すぎないか?天才か?ならシアの安全はかなり保障される?それこそ忠誠心からか?犬だからこそ!なんて呟いていたけれどスルーした。シアの為ってところは合っているし。
そしてシアの専属従者という座を与えられ、やっと再開出来るという顔合わせの時……。
「あ!あの時のわんちゃん!?」
一瞬にして見抜かれた。公爵様も溜息をついている。
正直、獣人である事が隠せるのならばシアには隠しておこうという話だったのだけれど……どうやら、髪の色からすぐに思い当たったようで、更には。
「この優しくて、でも悲しい瞳もそっくりだったもの」
そう優しく触れてくれたシア。心の奥深くにある孤独に気が付いていてくれた。
「ずっとお傍に」
「いや、程ほどにしてくれ。オスだろう」
膝をつき、忠誠の証をシアに見せた俺に対して、公爵は一言だけ突っ込みを入れた。確かに学んだ事の中には身分という事もあったからこそ、理解はしている。だからこそ、側に居られる限りは、ずっと見守り続けるんだ――。
俺の言葉に、公爵が疑問を投げかける。そりゃそうだろう。バレたら自分の身が危ういだけではない。隷属の契約を施すならまだしも、契約しないという選択をしたのであれば、きっと大変と言うだけでは済まされない事になる。
「俺は人の温もりに飢えていました……」
ごまかした所で通用しないと思った俺は正直に話した。獣人は人間を敵視していると言うけれど、俺はそんな事もない。敵意というより諦めに近かったが、諦めきれてもいなかった。
だから温もりをくれたシアを、その心を……優しさを……側で見守りたい。
その言葉を黙って聞いていた公爵はため息を吐き出した。
「まさか、シアのような考えを持つ者が獣人にも居たとは……」
お互いを知らなくても、そう学び教わるからこそ、凝り固まった固定観念を洗脳のように思いこみ、自然と差別を起こしている。それは悪気もなく、ただの正義だと言わんばかりに。
「シアに対する忠誠心は完璧か……」
親馬鹿。そんな言葉が脳裏をよぎる程、公爵も結局は人の親なのだという事が理解できる。俺の人となりというよりは、どれだけシアの利になるかを考えているし、不利になる事も念頭にいれている。当たり前と言えば当たり前の事なんだけれど……。
「分かった。ならば怪我は治ったものとして、野に放ったとする。お前は人の姿をしたまま、人間の事を学べ。あと護身術もだ。それが習得出来なければ雇わない。諦めて出ていけ」
「はい!」
それからは必死に勉強した。子犬は怪我が治ったから野に返したと言われたシアが、最後のお別れをしたかったと悲しんでいる姿を影ながら見た事も頑張る気力に繋がった。
――シアの為に。
――何より自分の為に。
そうして頑張った結果、1か月後には武術、学力共に問題なしと公爵に判断された。いくら何でも早すぎないか?天才か?ならシアの安全はかなり保障される?それこそ忠誠心からか?犬だからこそ!なんて呟いていたけれどスルーした。シアの為ってところは合っているし。
そしてシアの専属従者という座を与えられ、やっと再開出来るという顔合わせの時……。
「あ!あの時のわんちゃん!?」
一瞬にして見抜かれた。公爵様も溜息をついている。
正直、獣人である事が隠せるのならばシアには隠しておこうという話だったのだけれど……どうやら、髪の色からすぐに思い当たったようで、更には。
「この優しくて、でも悲しい瞳もそっくりだったもの」
そう優しく触れてくれたシア。心の奥深くにある孤独に気が付いていてくれた。
「ずっとお傍に」
「いや、程ほどにしてくれ。オスだろう」
膝をつき、忠誠の証をシアに見せた俺に対して、公爵は一言だけ突っ込みを入れた。確かに学んだ事の中には身分という事もあったからこそ、理解はしている。だからこそ、側に居られる限りは、ずっと見守り続けるんだ――。
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