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24.出会いーフィン
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気が付いたら、この世界に居た。
温かい部屋が消え、ご主人様が連れてくる子達も居ない。いつもの賑やかな生活から一変して、とても静かで孤独だった。真っ先にご主人様を探したけれど、見つかる事はなく……帰る場所も見つからなかった。
今までいた世界とは違うと、頭のどこかで理解はしていたが、認めたくなかっただけだ。いつもの街並みとは違う風景。文明や化学なんてものがなく、ただただ広大な自然が広がる世界を、どうして今まで居た世界だと思えるだろう。いっそ世界は滅び、一から作り直されたと言われた方が納得するだろう。
この世界における自分の立ち位置も、何もかも理解はしていたけれど、心のどこかでご主人様を思う気持ちは消えない。外に出るべきではないのも理解していたけれど、どうしてもご主人様を懐かしく思ってしまい、人間と触れ合いたいと思う時もあった。前世の記憶があるせいで……とは思う時もあったが、ご主人様との温かい記憶は自分にとって心の支えでもあった。
そして……子犬の姿で出かけた時に出会ったのだ。レティシア・ミゼラに。
何となく人間に撫でて欲しくなった。無理だと理解していても、フラリと下りてしまったのだ。勿論そこで待っていたのは人間達の悪意だ。人の子ども達に石を投げつけられ、追いかけ回され、蹴られ、動けなくなった自分を嘲笑いながら去って行った。
結局、無駄なんだ。知ってた事じゃないか。そんな事を思っていると、人の気配が近づいてくるのが分かった。止めでもさしにきたのか。そう思ったが、小さな少女は違った。
「大丈夫?息は……あるのね!お父様!」
「やれやれ……シアは本当に……」
呆れたような大人の声も聞こえた。何だ?何かが違う。そう思って様子を見ていると、シアと呼ばれた少女は身を低くし、下の方から手を差し伸べる。自分が怖くないようにだろう。ソッと、優しくその手が自分に触れると、ゆっくりと撫でられる。驚き抵抗出来ないでいると、拒絶されていないと理解したのか、少女は自分を抱き上げ撫でてくれた。
「よ~しよし、痛かったわね。そこまで酷い怪我ではなさそうね?でも足をやられているから、しばらく動けないかしら」
そう言って撫でながら怪我の具合を確かめている。
「人目が付く。邸に連れていくぞ」
大人の男性がそう言うと、自分の着ていた上着を少女ごと自分に隠すよう被せた。
こんな人間には初めて出会った……そう思うと同時に、この少女とご主人様を重ね合わせていた。ご主人様の温かさ、優しさ。虐げられた動物を放っておく事が出来ず、自分の弟妹のような存在がどんどん増えていく、あの騒がしくも楽しい毎日。
人間が大好きだった。だけど触れ合う事が叶わなかった、この孤独な世界で、やっと得られた人間の温もりは、ご主人様のような優しさで……。気が緩んだのか、暖かな人肌、腕の中で、思わずそのまま寝てしまう程だった。
温かい部屋が消え、ご主人様が連れてくる子達も居ない。いつもの賑やかな生活から一変して、とても静かで孤独だった。真っ先にご主人様を探したけれど、見つかる事はなく……帰る場所も見つからなかった。
今までいた世界とは違うと、頭のどこかで理解はしていたが、認めたくなかっただけだ。いつもの街並みとは違う風景。文明や化学なんてものがなく、ただただ広大な自然が広がる世界を、どうして今まで居た世界だと思えるだろう。いっそ世界は滅び、一から作り直されたと言われた方が納得するだろう。
この世界における自分の立ち位置も、何もかも理解はしていたけれど、心のどこかでご主人様を思う気持ちは消えない。外に出るべきではないのも理解していたけれど、どうしてもご主人様を懐かしく思ってしまい、人間と触れ合いたいと思う時もあった。前世の記憶があるせいで……とは思う時もあったが、ご主人様との温かい記憶は自分にとって心の支えでもあった。
そして……子犬の姿で出かけた時に出会ったのだ。レティシア・ミゼラに。
何となく人間に撫でて欲しくなった。無理だと理解していても、フラリと下りてしまったのだ。勿論そこで待っていたのは人間達の悪意だ。人の子ども達に石を投げつけられ、追いかけ回され、蹴られ、動けなくなった自分を嘲笑いながら去って行った。
結局、無駄なんだ。知ってた事じゃないか。そんな事を思っていると、人の気配が近づいてくるのが分かった。止めでもさしにきたのか。そう思ったが、小さな少女は違った。
「大丈夫?息は……あるのね!お父様!」
「やれやれ……シアは本当に……」
呆れたような大人の声も聞こえた。何だ?何かが違う。そう思って様子を見ていると、シアと呼ばれた少女は身を低くし、下の方から手を差し伸べる。自分が怖くないようにだろう。ソッと、優しくその手が自分に触れると、ゆっくりと撫でられる。驚き抵抗出来ないでいると、拒絶されていないと理解したのか、少女は自分を抱き上げ撫でてくれた。
「よ~しよし、痛かったわね。そこまで酷い怪我ではなさそうね?でも足をやられているから、しばらく動けないかしら」
そう言って撫でながら怪我の具合を確かめている。
「人目が付く。邸に連れていくぞ」
大人の男性がそう言うと、自分の着ていた上着を少女ごと自分に隠すよう被せた。
こんな人間には初めて出会った……そう思うと同時に、この少女とご主人様を重ね合わせていた。ご主人様の温かさ、優しさ。虐げられた動物を放っておく事が出来ず、自分の弟妹のような存在がどんどん増えていく、あの騒がしくも楽しい毎日。
人間が大好きだった。だけど触れ合う事が叶わなかった、この孤独な世界で、やっと得られた人間の温もりは、ご主人様のような優しさで……。気が緩んだのか、暖かな人肌、腕の中で、思わずそのまま寝てしまう程だった。
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