上 下
16 / 88

16.前世で行っていたこと

しおりを挟む
「いや、危険だしダメだから!」
「危険?」
「シア。獣人は人間に敵意を持ってる」

 彼は私の申し出を断った。その理由をフィンが教えてくれた。確かに、私達人間が獣人に対して酷い扱いをしている以上、彼らにとって人間という括りで敵としてみなされていても当たり前だろう。理解できる、けど、私的にそれを無視する事は出来ない。

 前世の記憶が私の感情を支配する。
 私は、前世では猫や犬の保護活動をしていた。しかし仕事をしながらの保護活動は難しいものもあった。そこで私は動画を撮ってインターネットに流す事で収益を得ていたのだ。
 保護活動の宣伝にもなり、里親募集も出来、更に収入も得られる!たまに品物で寄付される事もあり、仕事をしなくても生活出来るようになったらなったで、私は更に活動範囲を広めていたくらいだ。
 一番可愛がっていたのは、最初に拾って飼ってきた白いアメリカネスキモードッグだ。真冬と名付けて、いつも一緒に行動していた。飼い主を喜ばせる事が大好きで、友好的だけれど警戒心が強く縄張り意識も強い為、大声でよく吠えると聞いたが、真冬は吠える事がなかった。それどころか、他の保護した犬猫に対して家族のような情を向けてくれていたのだ。
 だからこそ、私は保護活動が出来たのだ。そして、そんな私だからこそ……。

「それでも、放っておけない」
「シア……」

 ギュっと、フィンの手を掴んで言う。

「獣人のフィンが居たら警戒心も緩まないかな?せめて手当だけでも出来ないかな?」

 私の言葉に、獣人の彼は目を見開き、フィンはどこか寂しそうで懐かしげな表情をした。
 知った命を散らせたくない。というか、私は本当に動物が好きで。見て見ぬふりが出来なくて。新しい家族の元で幸せに暮らしているのを見ると安心出来て、人間と動物の心の絆というものを確信していたのだ。

「……森の奥深くに、隠れ里のようなものがあるんだ……」

 ポツリと、獣人の彼は言葉を紡いだ。
 この森は確かに広い。そして冒険者ですら奥深くにまでは足を踏み入れない。自分は逃げまどって、こんな所まで来てしまったけれど、と彼は言った。確かに、方向を1つ間違うだけで死んでしまう程に広い森ならば、隠れるのもありだろう。 獣人は人間よりも方向感覚や五感も良いから、人間には分からない何かで迷う事なく生活が出来るという事だろうか。

「案内して!」
「シア!さすがにダメだから!」
「俺も反対だ……恩人が死ぬ所を見たくない」
「シアは殺させないよ?」

 死ぬ事が確定する程、敵視されてるんですかと、思わず背中に汗が流れる。フィンが守ってくれるようだけれど、そうなるとフィンを危険に晒してしまう事になるわけで……それだけは絶対に避けたい私は、他に方法がないか考えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

らんか
恋愛
 あれ?    何で私が悪役令嬢に転生してるの?  えっ!   しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!  国外追放かぁ。  娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。  そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。  愛し子って、私が!?  普通はヒロインの役目じゃないの!?  

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。 全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。 言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。 食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。 アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。 その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。 幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

処理中です...