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05.両親の反応
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「おかえりなさいませ、お嬢様」
早い帰宅に驚いたのか、執事の出迎えが少し遅れたが、そんな事は問題ではない。
「お父様はどこにいらっしゃるのかしら」
「旦那様でしたら、サロンで奥様とお茶をなさっております」
執務室で仕事をしているのかと思えば、両親共に休憩しているとあれば好都合とでも言うのだろうか。私はお礼を言うと、そのままサロンに向かった。
「どうしたシア。卒業パーティに行ったばかりじゃないか」
私がサロンへ声かけ、入室したと同時に驚いたお父様が声を上げる。お母様も驚き、淑女らしくない様子で口をポカンと開けてしまっている。
「実は、ディアス殿下に婚約破棄を言い渡されてしまいました」
勧められたソファに座らず、その場で頭を下げて事実のみを伝える。両親に愛されていたとは思う。しかし、貴族令嬢としての務めは、また別なのだ。貴族である以上、それが仕事であり、家族愛より貴族として生きる方が大事なのだ。それはプライドやメンツというだけでなく、領民を守るという意味でもある。
まぁ、とんでもない馬鹿一家の世襲制はたまったものじゃないとは思うけれど。
「……なんだと……?」
お父様が、低く怒りをにじませた声を出した事に、一瞬肩がビクリと震えた。
「……どういう事かしら?……フィン?」
お母様の冷たく感情のこもらない声に、頭を上げる事すら出来なかったのだが、問いかけは何故かフィンの方へかけられた事に安堵の息を漏らしてしまう。本当は私がきちんと受け答えをしなければいけないが、流石悪役令嬢、このまま追放になるのか。こんな両親の声を聞いたのは初めてで緊張と恐怖に震えてしまっている。
「卒業パーティの真っただ中、最後に入場した殿下は別の女性をエスコートし、その方の色を纏い、腰に手を回した状態でシア様に婚約破棄を言い渡していましたので、シア様は婚約撤回を受け入れておりました」
……事実だ。事実しか言っていない。だけれど、問題しかないどころか大問題でしかないと思えるのは、別視点からの意見をハッキリ口から出された言葉で聞いたからだろうか。
「何ですって!?節操なしが!」
「あのバカ王子が!人間性すらも学ばなかったのか!」
思わず自分が怒鳴られてしまったのかと思ってビクリと身体が揺れたが、その内容は第二王子であるディアス殿下への暴言である事だと理解するのに、一瞬脳が戸惑った。本人が不在とは言え、十分不敬とされる内容という事もそうだが、ここまで言ってくれる両親から追放や処刑が想像つかないと言うのもある。
「更には、その阿婆擦れ伯爵令嬢に嫌がらせをしたなどと冤罪もかけていましたね」
「なんだと?」
「なんですって?」
フィンの更なる一言で、部屋の温度が一気に下がったように寒気がした。
早い帰宅に驚いたのか、執事の出迎えが少し遅れたが、そんな事は問題ではない。
「お父様はどこにいらっしゃるのかしら」
「旦那様でしたら、サロンで奥様とお茶をなさっております」
執務室で仕事をしているのかと思えば、両親共に休憩しているとあれば好都合とでも言うのだろうか。私はお礼を言うと、そのままサロンに向かった。
「どうしたシア。卒業パーティに行ったばかりじゃないか」
私がサロンへ声かけ、入室したと同時に驚いたお父様が声を上げる。お母様も驚き、淑女らしくない様子で口をポカンと開けてしまっている。
「実は、ディアス殿下に婚約破棄を言い渡されてしまいました」
勧められたソファに座らず、その場で頭を下げて事実のみを伝える。両親に愛されていたとは思う。しかし、貴族令嬢としての務めは、また別なのだ。貴族である以上、それが仕事であり、家族愛より貴族として生きる方が大事なのだ。それはプライドやメンツというだけでなく、領民を守るという意味でもある。
まぁ、とんでもない馬鹿一家の世襲制はたまったものじゃないとは思うけれど。
「……なんだと……?」
お父様が、低く怒りをにじませた声を出した事に、一瞬肩がビクリと震えた。
「……どういう事かしら?……フィン?」
お母様の冷たく感情のこもらない声に、頭を上げる事すら出来なかったのだが、問いかけは何故かフィンの方へかけられた事に安堵の息を漏らしてしまう。本当は私がきちんと受け答えをしなければいけないが、流石悪役令嬢、このまま追放になるのか。こんな両親の声を聞いたのは初めてで緊張と恐怖に震えてしまっている。
「卒業パーティの真っただ中、最後に入場した殿下は別の女性をエスコートし、その方の色を纏い、腰に手を回した状態でシア様に婚約破棄を言い渡していましたので、シア様は婚約撤回を受け入れておりました」
……事実だ。事実しか言っていない。だけれど、問題しかないどころか大問題でしかないと思えるのは、別視点からの意見をハッキリ口から出された言葉で聞いたからだろうか。
「何ですって!?節操なしが!」
「あのバカ王子が!人間性すらも学ばなかったのか!」
思わず自分が怒鳴られてしまったのかと思ってビクリと身体が揺れたが、その内容は第二王子であるディアス殿下への暴言である事だと理解するのに、一瞬脳が戸惑った。本人が不在とは言え、十分不敬とされる内容という事もそうだが、ここまで言ってくれる両親から追放や処刑が想像つかないと言うのもある。
「更には、その阿婆擦れ伯爵令嬢に嫌がらせをしたなどと冤罪もかけていましたね」
「なんだと?」
「なんですって?」
フィンの更なる一言で、部屋の温度が一気に下がったように寒気がした。
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